2017年11月8日水曜日

【高論卓説】常備軍削減がもたらす“皮肉な”経済成長  北朝鮮


【高論卓説】困難極める核廃棄交渉 北朝鮮、常備軍削減がもたらす“皮肉な”経済成長 2017.11.8

テルアビブ大学のアザー・ガット教授は、戦争の歴史を分析した著書『文明と戦争』(中央公論新社)の中で、国家が持続可能な常備軍の規模を人口の1%までであると指摘した。国家と軍備の規模を比較する場合、通常は軍事費の対国内総生産比率や国家予算比率で比較するものだが、このやり方であれば、国民経済計算が開発される以前の昔の国々についても比較することができる。国民経済計算が登場するのは1929年の大恐慌以降のことで、歴史上の比較分析にはあまり向いていない指標なのだ。

 原則上、全員に兵役義務があった紀元前2000年のエジプトでも300万人の人口に対して2万人(0.67%)の兵がいたにすぎない。また、ローマ帝国の人口は、ピークといわれた紀元前200年でも4600万人、1%ならば46万人だが、ディオクレティアス帝(在位284~305年)のときには60万人の兵をそろえた。しかし、これは財政を圧迫する持続不可能な数字だったのだ。フランスの太陽王、ルイ14世(1643~1715年)は戦争ばかりしていたが、常備軍が人口の2%にまで達すると、深刻な財政問題を抱えることになった。

 1894年の日清戦争のときの日本の人口は4200万人、常備軍は7個師団を中心としたもので、約24万人で戦った。これは人口の0.57%である。また1904年の日露戦争では常備軍約15万人、これに補充兵や徴兵対象者の拡大などを通じて、最終的には109万人を動員した。当時の人口4700万人に対して総動員で2.3%しかないが、それでも当時の日本は財政的にも国力の限りを尽くしたと考えていた。

 高価な最新装備を誇る現代のわが国の防衛費においても、その45%は人件費と糧食費である。大きな常備軍をつくると人件費にコストがかかる。また、働き盛りの貴重な労働人口を生産活動から遠ざけてしまう。この結果、大きな常備軍は経済成長を阻害する要因となり、経済力が重要な要素となる戦争に対してはマイナスの要因にもなりかねないのだ。
 さて、これを現代のデータ(世銀、2015年)で見てみよう。米国は常備兵力135万人で人口比0.42%、軍事国家の印象が強いロシアは149万人で同1.03%、石油の産出がなければ維持困難だろう。南北緊張下にある韓国は63万人で同1.24%、英国とドイツが同0.3%で、日本は自衛隊26万人で同0.2%となる。中国は近年かなり削減したものの、まだ284万人もいるが、同時に人口が14億人もいるので比率は意外にも日本と同じで同0.2%でしかない。

 北朝鮮の場合は常備兵力137万人で人口比5.44%、アザー・ガット教授流にいけば経済が破綻して政権が壊滅するレベルのはずであるが、現在に至ってもそうなっていない。

 かつて、われわれは北朝鮮では都市部のエリートたちだけが飽食をむさぼり、地方では飢饉(ききん)にあえいでいると信じていた。だが最近の経済は意外に好調なようだ。核兵器の保有は通常兵力の削減を可能にする。人口2500万人規模のこうした主権国家にとって常備兵力の削減は、労働人口の増加を可能にして経済成長をもたらす。皮肉なことに、常備軍の削減が経済的なサバイバルの条件なのである。そのためには核兵器が必要である。従って、この経済的な側面からも核廃棄の交渉は困難を極めるだろう。

作家 板谷敏彦

2017年10月24日火曜日

早稲田大学社会人講座


平日の午後なので難しいとは思いますが、まだ数席空きがあるそうです。
私が講師をやります。

早稲田大学エクステンション・センター 秋期講座 中野校
『日本人のための第一次世界大戦史』前半
毎週木曜日、15:00~16:30 10月26日から全6回

目標
・19世紀後半のグローバリゼーションについて学ぶ。
・この時代における日本の状況を知る。
・第一次世界大戦の開戦原因を探る。

講義概要
とくに日本との関係や日本からの視点をもって第一次大戦を分析し、2学期12回に分けて解説する講座の前半の6回で、開戦までを扱います。
蒸気機関や大砲の進化から始まる近代的戦艦の成立。ドイツ統一戦争を経て徴兵制度、識字率、メディア、普通選挙整備による民主主義の進展。そしてそれにともなうナショナリズムの隆盛。石油産業の勃興と内燃機関の発達と近代兵器の誕生。地政学的見地から開戦までの各種事件を分析します。


【第一回:ドイツ統一戦争】10/26
蒸気機関の発達による鉄道や軍艦の発達、また金属加工技術の発達による大砲や銃器の革新を追いながら、初めて鉄道を効果的に使用したドイツ統一戦争を追う。この戦争は独仏の確執を生み、世界大戦への原因を残すことになった。

【第二回:徴兵制度、識字率、メディア】11/02
徴兵制が確立、軍隊が近代化し教育制度が整えられる。文字を読めるようになった大衆は新聞を中心に世論を形成し、折からの普通選挙の普及によって政治に参画するようになる。戦争は指導者が誘うものではなかった。

【第三回:グローバリゼーション】11/09
19世紀後半のコブデン=シュバリエ条約、蒸気船の普及、金本位制の採用など、当時のヨーロッパで発達したグローバリゼーションについて現代のそれと比較しながら考える。グローバリゼーションは戦争を回避できたのか。あるいは原因となったのか。

【第四回:マハンと日露戦争】11/16
マハンの『海上権力史論』、マッキンダーの『歴史の地理学的回転軸』などを参考に、当時のヨーロッパ世界は何故帝国主義を信奉し建艦競争に入ったのかを考える。またその論点からの日露戦争を考える。

【第五回:石油と内燃機関】11/30
石油産業の勃興から、自動車、航空機、潜水艦などの新兵器の登場を知る。ロイヤル・ネイビーの石炭から石油への燃料転換は何をもたらしたのか。

【第六回:東方問題とサラエボ事件】12/07
現代も紛争が絶えない中東、その原因のいくつかは第一次世界大戦に発する。オスマン帝国衰退の過程は当時のヨーロッパから「東方問題」と呼ばれた。中東の歴史とそこから派生した大戦前のバルカン半島での紛争、必然として現れたサラエボの暗殺者。大戦開始までの状況を最新の知見で追う。


2017年10月19日木曜日

『日本人のための第1次世界大戦史』発売開始


私の三冊目となる『日本人のための第一次世界大戦史』が毎日新聞出版社から発売になりました。これは75週間にわたって週刊エコノミストに連載していた同題のコンテンツを書籍化したものです。

第一次世界大戦を知らない人はいないでしょうが、説明できるかと言えばかなり怪しいのではないでしょうか。日本人の戦死者はわずか415人、第二次世界大戦では軍人軍属だけでも230万人が戦死していますから、民族に対するインパクトがさほど大きくないのは仕方が無いことです。

しかし、フランスは139万人(第二次20万人)が戦死し、イギリスでは70万人(38万人)と英仏にとって世界大戦とは第一次世界大戦の方なのです。ドイツとロシアがそれぞれ170万人、戦争末期に参戦したアメリカですら12万人が死に20万人が負傷しています。この戦争は世界史の中ではひときわ大きなインパクトを持っているにもかかわらず日本人はあまり知らないというのが現実なのです。この本はそうした西洋社会との歴史リテラシーのギャップを埋めるために書きました。

目次は以下,

第1章 戦争技術の発達
1 グローバリゼーション 
80日間世界1周/100年前のツキュディデスの罠
        2 蒸気軍艦の脅威
アヘン戦争/「悪魔の船」
3 蒸気機関と炸裂弾
 帆船の戦い/民間の蒸気船/炸裂弾
4 スクリューと装甲軍艦
 外輪とスクリュー/シノップの海戦/幕府軍艦開陽丸
5 鉄道の発達
 鉄道の始まり/戦争と鉄道
6 電信の発明
 旗振り通信と腕木信号/モールス信号/金融市場への応用
7 ドイツ統一と鉄道
 ウィーン体制下のドイツ/ドイツ参謀本部/ドイツ統一戦争
                   /普仏戦争/動員システム/普仏戦争のその後

第2章 国民国家意識の醸成
8 徴兵制度
 国民皆兵/徴兵制度の財政制約/国民の軍隊
  9 識字率
 識字率と軍隊/日本の非識字率
10 メディア
 新聞の役割/購読者数の増加/日露戦争と新聞

第3章 兵器産業の国際化と戦艦
11 19世紀のグローバリゼーション
 穀物法廃止/コブデン=シュヴァリエ条約/
 金本位制/格差拡大
  12 兵器産業の国際化
 銃の大量生産/兵器の自由貿易
13 イギリス海軍の危機
 ジューヌ・エコール/フィッシャー大佐とメディア
14 近代的戦艦の登場
 ロイヤル・ソヴリン級戦艦/近代的戦艦と日本
 
第4章 世界からみた日露戦争
15 マハンの『海上権力史論』
ヴィルヘルム二世の即位/シーパワー
16 パクス・ブリタニカの黄昏
 イギリスの優位性/マッキンダーの講演会
  17 日露戦争と鉄道
 第0次世界大戦/改軌問題
18 無線の発明と日本海軍
 マルコーニ/タービンの誕生/36式無線機
19 戦艦ドレッドノート
 フィッシャー改革/弩級戦艦
20 高騰する各国海軍予算
 ドイツ海軍/アメリカ海軍/日本海軍/イギリス海軍
21 英仏の接近
ファショダ事件/タンジール事件
22 シュリーフェン・プラン
 ドイツの宿命/仏露撃破の青写真 

第5章 二〇世紀の新しい産業
23 石油産業
 ロックフェラー/バクー油田/石油王サミュエル
24 イギリス海軍の燃料転換
 石炭から石油へ/ブリティシュ・ペトロリアム
25 自動車
 内燃機関/アメリカの自動車産業
26 潜水艦
 ディーゼル・エンジン/電動機(電気モーター)
27 航空機の登場
 ライト兄弟/長岡外史

第6章 第一次世界大戦勃発
28 開戦への助走
 アガディール事件/アインクライズンク/ドイツ陸軍大増強
29 東方問題と世界大戦
 オスマン帝国/欧州外交の調整弁/東方問題
30 宣戦布告
 サラエボ事件/総動員令発令
31 1914年の幻想
 誰も戦争を望まない
32 西部戦線攻撃開始
 シュリーフェン・プラン/第17計画
33 東部戦線タンネンベルク
 40万対15万/ロシア軍敗走
34 マルヌの奇跡
 パリ侵攻/タクシーの活躍/塹壕戦
35 ルーヴァン図書館炎上
 図書館炎上/プロパガンダ合戦/ドイツの悪魔化

第7章 日本参戦
36 親しい国ドイツ
 日露戦争の爪痕/宣戦布告/ドイツ在留邦人
37 ドイツへの攻撃
 青島要塞攻略/南洋群島攻略
38 清から中国へ
 瓜分の危機/辛亥革命
39 対華二十一カ条要求
 第5号の誤算/対日世論の形成

第8章 戦線膠着
40 ガリポリの戦い
 オスマン帝国参戦/アンザック軍の活躍/アルメニア人虐殺
41 Uボート
 期待以上の戦果/ルシタニア号撃沈
42 ファルケンハインの決断
 西部戦線/ハプスブルグ帝国/東方大攻勢
43 イタリア参戦
 リソルジメント/神聖エゴイズム

第9章 戦争の経済
44 銃後の体制
 神聖なる団結/城内平和/文民による総力戦体制
  45 金本位制と資金調達
 金本位制/イギリスの国債小口化/通貨価値
46 ユダヤ人金融家達
 ロスチャイルド/ウォーバーグ
47 ウォール街
 モルガン商会/クーン・ローブ商会
 
第10章 消耗戦の中で
48 1916年の消耗戦
 ヴェルダンの戦い/ブルシーロフ攻勢/ソンムの大虐殺
49 ユトランド沖海戦
 海軍省40号室/戦略的敗北
50 ヒンデンブルクとルーデンドルフ
 カブラの冬/ルーデンドルフ独裁/無制限潜水艦作戦
  51 ツィンメルマン事件
 浅間座礁事件/ツィンメルマン電報
52 日本海軍地中海艦隊派遣
 連合国からの派兵要請/地中海遠征記
53 ロシア革命
 圧政への不満/レーニンの封印列車
54 アメリカ参戦
 ウィルソン大統領再選/徴兵と自由公債
    55 大正の天佑
 空前の輸出ブーム/ご大典のご祝儀相場
        56 中国参戦と日米外交戦
 寺内正毅と西原借款/中国の参戦

第11章 新兵器の登場
        57 底なしの泥の中
 ニヴェル攻勢/パッシェンデールの戦い/毒ガス
        58 戦車の登場
 ランドシップ委員会/カンブレーの戦い
        59 航空戦と撃墜王
 リヒトホーフェン/大量生産時代/
 大型爆撃機/フランスの空で戦った日本人
        60 第2次無制限潜水艦作戦
 充実するUボート戦隊/護送船団方式
 
第12章 終戦へ
        61 ウィルソンの14か条
 秘密外交/共同交戦国/ブレスト・リトフスク条約
        62 中東の領土分割
 フサイン・マクマホン/サイクス・ピコ・サゾノフ/
 バルフォア宣言
        63 瓦解する同盟国
 内部崩壊/ドイツ国内情勢悪化
        64 ドイツ軍春季攻勢
 新戦術と新兵器/空腹の軍隊
        65 ドイツ陸軍暗黒の日
 援軍来着/同盟軍崩壊/反撃のための休戦
        66 ドイツ降伏
 独裁の終焉/背後からのナイフ

第13章 戦後に残されたもの
       67 パリ講和会議
 各国代表参集/人種差別撤廃規約/山東省権益問題
       68 ベルサイユ条約
 分断されたドイツ/ベルサイユ宮殿鏡の間/ドイツ艦隊の自沈
       69 五四運動
 「強権」と「公理」/象徴化される運動
       70 シベリア出兵
   チェコ軍救済/シベリア出兵の本質/大義なき出兵
       71 オスマン帝国の終焉
 遅れた終戦/切り刻まれる帝国 
       72 スペイン風邪
「運び屋」/関東大震災を上回る死者
       73 ドイツの賠償問題
 ケインズの賠償案/ハイパー・インフレ
あとがき
 総力戦/シーレーン/周回遅れの帝国主義


主な参考図書
『「八月の砲声」を聞いた日本人』奈良岡聰智著、千倉書房、2013年
『21世紀の資本』トマ・ピケティ、みすず書房、2014年
『アジアの海の大英帝国‐19世紀海洋支配の構図』横井勝彦、講談社学術文庫、2004年
『アラブとイスラエル パレスチナ問題の構図』高橋和夫、講談社現代新書、1992年
『イスラームから見た「世界史」』タミム・アンサーリー、紀伊國屋書店、2011年
『イングランド銀行』R.S.セイヤーズ、東洋経済新報社、1979年
『インフォメーション‐情報技術の人類史』ジェイムズ・グリッグ、新潮社、2013年
『ヴィジュアル歴史図鑑 世界の飛行機』リッカルド・ニッコリ、河出書房新社、2014年
『ヴェルサイユ条約 マックス・ウェバーとドイツの講和』牧野雅彦、中公新書、2009年
『ウォーバーグ‐ユダヤ財閥の興亡』ロン・チャーナウ、日本経済新聞社、1998年
『エーデルワイスのパイロット』ヤン原作、ロマン・ユゴー作画・彩色、イカロス出版、2014年
『オレンジ計画』エドワード・ミラー、新潮社、1994年
『クリミア戦争』オーランド・ファィジズ、白水社
『クルップの歴史 1587~1968』ウィリアム・マンチェスター、フジ出版社、1982年
『ケンブリッジ版世界各国史 イタリアの歴史』クリストファー・ダガン、創土社、2005年 
『ゴールド』ピーター・バーンスタイン、日本経済新聞社、2001年
『シーパワーの世界史2』青木栄一、出版共同社、1983年
『シベリア出兵』麻田雅文、中公新書、2016年
『シリーズ中国近現代史②近代国家への模索1894-1925』川島真、岩波新書
『ドイツ海軍の熱い夏 水兵たちと海軍将校団 1917年』三宅立、山川出版社、2001年
『ドイツ艦隊大自沈』ダン・ファンデルバット、原書房、1984年
『ドイツ参謀本部』バリー・リーチ、原書房、1973年
『ドイツ史と戦争「軍事史」と「戦争史」』三宅正樹他編、彩流社、2011年
『ドイツ帝国主義財政史論』鈴木純義、法政大学出版局、1994年
『ピースメイカーズ 1919年パリ講和会議の群像』マーガレット・マクミラン、芙蓉書房出版、原書2001年
『マッキンダーの地政学-デモクラシーの理想と現実』ハルフォード・ジョン・マッキンダー、原書房、2008年
『マハン海上権力史論(新装版)』アルフレッド・T・マハン、北村健一訳、2008年
『マルヌの会戦 第一次世界大戦の序曲 1914年秋』アンリ・イスラン、中央公論新社、2014年
『モルガン家 金融帝国の盛衰』ロン・チャーナウ、日経ビジネス人文庫、
『ウォール街の歴史』チャールズ・R・ガイスト、フォレスト出版
『ヨーロッパ史における戦争』マイケル・ハワード、中公文庫、2009年新版
『ロイヤル・ネイヴィーとパクス・ブリタニカ』田所昌幸編、有斐閣、2006年
『ロスチャイルド 富と権力の物語』D.ウィルソン、新潮文庫
『われらの仲間 世界経済を支配するユダヤ金融財閥』スティーブン・バーミンガム、早川書房、1968年
『欧米・自動車メーカー興亡史』桂木洋二、グランプリ出版、2004年
『化学・生物兵器の歴史』エドワード・M・スピアーズ、東洋書林、2012年
『餓死した英霊たち』藤原彰、青木書店、2001年
『回想の潜水艦戦 Uボートから回天特攻まで』鳥巣建之助、光人社、2006年
『海軍創設史-イギリス軍事顧問団の影』篠原宏、リブロポート、1986年
『外務省革新派 世界新秩序の幻影』戸部良一、中公新書
『概説世界経済史Ⅱ』ロンド・キャメロン、東洋経済新報社、2013年
『学歴社会 新しい文明病』R.P.ドーア、岩波書店同時代ライブラリー37、1990年
『旗ふり山』柴田昭彦、ナカニシヤ出版、2006年
『逆説の軍隊』戸部良一、中央公論新社、1998年
『近代中国史』岡本隆司、ちくま新書
『軍艦開陽丸-江差への航跡』柏倉清、教育書籍、1990年
『撃墜王リヒトホーフェン』S・M・ウラノフ編、朝日ソノラマ航空戦史シリーズ、1985年
『決定的瞬間 暗号が世界を変えた』バーバラ・W・タックマン、ちくま学芸文庫、1968年(みすず書房)
『現代の起点 第一次世界大戦 4遺産』「10アメリカの世紀の始動」中野耕太郎、岩波書店、2014年
『現代メディア史』佐藤卓己、岩波書店、1998年
『五四運動の残響』ラナ・ミッター、岩波書店、2012年
『国債の歴史』富田俊基、東洋経済新報社、2006年
『国際紛争 理論と歴史(原書第9版)』ジョセフ・S・ナイ・ジュニア/デイヴィッド・A・ウェルチ、有斐閣、2015年
『坂の上の雲』司馬遼太郎、文春文庫版
『史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック』A・W・クロスビー、みすず書房、2004年
『私家版戦車入門1 無限軌道の発明と英国タンク』モリナガ・ヨウ、大日本絵画、2016年
『時代の目撃者 リップマンとアメリカの世紀』ロナルド・スティール、TBSブリタニカ、1982年
『自動車の世界史』エリック・エッカーマン、グランプリ出版、1996年
『図書館炎上-二つの世界大戦とルーヴァン図書館』ヴォルフガング・シヴェルブシュ、法政大学出版局、1992年
『世界の艦船』No.785、「世界の潜水艦発達史」、2013年
『世界海運史』黒田英雄、成山堂書店、1972年
『世界戦艦物語』福井静夫、光人社福井静夫著作集第六巻
『石油の世紀』ダニエル・ヤーギン、日本放送出版協会、1991年
『石油の歴史』エティエンヌ・ダルモン/ジャン・カリエ、白水社、原書1993
『戦争の世界史』ウィリアム・H・マクニール、中公文庫、1982年
『戦争の日本近現代史』加藤陽子、講談社現代新書、2002年
『戦闘機と空中戦の100年史』関賢太郎、潮書房光人社、2016年
『増補満鉄』原田勝正、日本経済評論社、2007年
『憎悪の世紀 なぜ20世紀は世界的殺戮の場となったのか』ニーアル・ファーガソン、早川書房、2007年
『対華二十一ヵ条要求とは何だったのか――第一次世界大戦と日中対立の原点』奈良岡 聰智、名古屋大学出版会、2015年
『第1次世界大戦 20世紀の歴史13』J.M.ウィンター、平凡社、1990年
『第1次世界大戦 上巻』リデル・ハート、中央公論新社
『第1次世界大戦の起源 改訂新版』ジェームズ・ジョル、みすず書房、1997年
『第一次世界大戦 平和に終止符を打った戦争』マーガレット・マクミラン、えにし書房、2016年
『第一次世界大戦』マイケル・ハワード、法政大学出版局、2014年
『第一次世界大戦とその影響』軍事史学会編、2015年
『第一次世界大戦と日本海軍 外交と軍事との連接』平間洋一、慶應義塾大学出版会、1998年
『第一次世界大戦の終焉 ルーデンドルフ攻勢の栄光と破綻』アンリ・イスラン、中央公論新社
『第一次世界大戦の歴史 大図鑑』H・P・ウィルモット、創元社、2014年
『第一次世界大戦開戦原因の再検討』小野塚知二編、岩波書店、2014年
『徴兵制と近代日本 1868-1945』加藤陽子、吉川弘文館、1996年
『通貨の日本史』高木久史、中公新書、2016年
『帝国の落日』ジャン・モリス、講談社、2010年
『鉄道と戦争の世界史』クリスティアン・ウォルマー、中央公論社、2013年
『鉄道の地理学』青木栄一、WAVE出版、2008年
『徳富蘇峰』早川喜代治、大空社、1968年
『読み書きの社会史‐文盲から文明へ』カルロM・チポラ、御茶ノ水書房、1983年
『日本の近代9逆説の軍隊』戸部良一、中央公論社、1998年
『日本の空のパイオニアたち』荒山彰久、早稲田大学出版部、2013年
『日本を襲ったインフルエンザ』速水融、藤原書店、2006年
『日本海軍地中海遠征記 若き海軍主計中尉の見た第一次世界大戦』片岡覚太郎著、C.W.ニコル編、河出書房新社、2001年。
『日露戦争、資金調達の戦い』板谷敏彦、新潮社、2012年
『日露戦争と新聞』片山慶隆、講談社選書メチエ、2009年
『年収は「住むところ」で決まる』エンリコ・モレッティ、プレジデント社、2014年
『八月の砲声』バーバラ・タックマン、ちくま学芸文庫、1980年
『反脆弱性―不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』ナシーム・ニコラス・タレブ、ダイヤモンド社、2017年
『飛行機技術の歴史』ジョン・D・アンダーソン、京都大学学術出版会、2013年
『普仏戦争‐籠城の132日』松井道昭、横浜市立大学新叢書、春風社、2013年
『複合戦争と総力戦の断層 日本にとっての第一次世界大戦』山室信一、人文書院、2011年
『仏独共同通史 第一次世界大戦』ジャン=ジャック・ベッケール、ゲルト・クルマイヒ、岩波書店、2012年
『文明と戦争』アザー・ガット、中央公論新社、2012年
『平和を破滅させた和平』デイヴィット・フロムキン、紀伊国屋書店、原版1989年
『別段風説書が語る19世紀‐翻訳と研究』松方冬子編、東京大学出版会、2012年
『補給戦‐何が勝敗を決定するのか』マーチン・ファン・クレフェルト、中公文庫、2004年
『未完のファシズム 「持たざる国」日本の運命』片山杜秀、新潮選書、2012年
『夢遊病者たち』クリストファー・クラーク、みすず書房、2107年
『無線百話‐マルコーニから携帯電話まで』無線百話出版委員会編、クリエイト・クルーズ
『名作・迷作エンジン図鑑』鈴木孝、グランプリ出版、2013年
『目で見る戦史 第一次世界大戦』A.J.P.テイラー、新評論、1980年
『理念なき外交「パリ講和会議」』NHK取材班編、角川文庫、1995年、「Ⅲサイレント・パートナー」
『歴史のなかの江戸時代』速水融編、藤原書店、2011年
『ケインズ全集2平和の経済的帰結』ケインズ、東洋経済新報社
『ケインズ全集3条約の改正』ケインズ、東洋経済新報社
『レクチャー第一次世界大戦を考える カブラの冬 第一次世界大戦期ドイツの飢餓と民衆』藤原辰史、人文書院、2011年

洋書
“DESTINED FOR WAR – CAN AMERICA AND CHINA ESCAPE THUCYDIDES”S TRAP?”Graham Allison,HOUGHTON MIFFLIN HARCORT,2017
“Exchange rates and Casualties During the First War”, George Hall, Journal of Monetary Economics, 2002
“GUNS AT SEA” Peter Padfield,Evelyn,1973年
“Jane's Fighting Ships 1914” David & Charles; Facsimile版,1968
“Kiel & Jutland A German view of war at sea”, Georg Von Hase, Leonaur, 2011
“Narrative of the voyages and services of the Nemesis, from 1840 to 1843”, Bernard, W. D., London, H. Colburn,1844,p262
“The Economics of World War 1”, Stephen Broadberry and Mark Harrison, Cambridge University Press, 2005, p323
“The Longman Companion to The First World War Europe 1914-1918”,Colin Nicolson,Routlege,2001
“U-Boats of The Kaiser’s Navy, Gordon Williamson, Osprey Publishing, 2012

論文・雑誌寄稿
「『シュリーフェン計画』論争をめぐる問題点」石津朋之、防衛研究所、戦史研究年報 (9), 89-117, 2006-03
「オスマン帝国の解体とヨーロッパ」藤波伸嘉、アステイオン2014-080
「ノスタルジーとテクノロジー:ドイツ第二帝国における陸軍改革と急進右翼運動」長尾唯、人文学論集 28, 27-34, 2010-03-31 、大阪府立大学人文学会
「現代イギリス農業の形成と展開―イギリス農業の復活の軌跡とその課題―」道重一郎、共済総合研究第53号(2008年)、JA共済総合研究所
「旗振り通信に見る相場情報の伝達-米飛脚・旗振り通信」高槻泰郎、郵政資料館 紀要第2号、2011年
『3フィート6インチ・ゲージ採用についてのノート』青木栄一、文化情報学:駿河台大学文化情報学部紀要、第9巻第1号(2002年6月)
『両大戦間期日本の貿易構造』山本義彦、靜岡大学法経研究. 36(1),
「識字能力・識字率の歴史的推移―日本の経験」斎藤泰雄、広島大学, 教育開発国際協力研究センター『国際教育協力論集』第 15 巻 第 1 号(2012)
『パブリック・ヒストリー第10号、「ネメシスの世界史」』吉澤誠一郎、大阪大学西洋史学会、2013年
『英国サミュエル商会のグローバル展開と日本』、山内昌斗、広島経済大学経済研究論集第29巻 第 4号、2007年


以上、その他にも参考にした図書多数です。宜しくお願いします。

2017年9月21日木曜日

【高論卓説】「トゥキュディデスの罠」、「キンドルバーガーの罠」


【高論卓説】「トゥキュディデスの罠」2017.9.21

 紀元前5世紀、古代ギリシャの歴史家トゥキュディデスは『戦史(ペロポネソス戦争の歴史)』を著した。ペロポネソス戦争とは当時の覇権国スパルタに対して勃興するアテネが挑戦した戦争である。これについて、米ハーバード大学のグレアム・アリソン教授(政治学)は「台頭する国家は自国の権利を強く意識し、より大きな影響力(利益)と敬意(名誉)を求めるようになる。チャレンジャーに直面した既存の大国は状況を恐れ、不安になり、守りを固める」とし、覇権国に対する勃興国の挑戦を「トゥキュディデスの罠」と呼び仮説を立てた。彼の近著によると過去500年間のうちでこうしたケースは16回あり、そのうち12回で大きな戦争になっているという。

 その中で現代に近い事例では、ちょうど100年前に起きた第一次世界大戦がこれにあたる。当時はパクス・ブリタニカ(イギリスによる平和)と呼ばれた大英帝国の覇権に対して、急成長してきたドイツが挑戦し、国際社会に対して影響力と敬意を求めた。イギリスはこれを恐れ、戦争になったという見立てである。

 この「トゥキュディデスの罠」が最近注目を浴びている。アメリカが覇権を握り、曲がりなりにもパクス・アメリカーナとして世界平和を実現しているところに、勃興国である中国がより大きな影響力(利益)と敬意(名誉)を求め始めたからである。習近平国家主席は「中国の夢」として「中華民族の偉大なる復興」を掲げて、これは中国共産党の統治理念ともなっているから、正面から堂々と「トゥキュディデスの罠」を設定し、チャレンジを宣言しているようなものだ。

 しかし、過去の歴史もそうであったように現実は分かりやすいモデルに集約できるほど単純ではない。ここで北朝鮮というワイルドカードが登場してきた。もし中国がパクス・シニカ(中国による平和)の覇権国(地域覇権としてもだ)として、影響力と敬意を求めるのであれば、地域の平和を保障しなければならない。
その際には、今まで衛星国のように扱ってきた北朝鮮が今では核保有国である。今の状況が続けば、アメリカから見た以上に中国にとって目障りな国になるはずだ。

 第一次世界大戦後、新興国アメリカが台頭したために、イギリスもドイツもどちらも覇権を持てなかった。ところが、アメリカは当時覇権国の立場にありながら国際連盟に参加せず、世界平和を保つための公共財(平和)の提供をしなかった。これが第二次世界大戦を引き起こす原因となったという仮説も最近話題になっている。これを国際政治学者のジョセフ・ナイが有名な経済学者の名前をとって「キンドルバーガーの罠」と呼んだ。

 もしも中国が十分に強力であれば、アメリカに覇権喪失の恐怖を呼び「トゥキュディデスの罠」に陥るが、もし中国が弱いまま覇権の責務を顧みず中途半端に夢を追えば「キンドルバーガーの罠」を呼び起こす。

 中国は果たして北朝鮮をコントロールできるのか。北朝鮮は38度線の緩衝国としての存在意義から、今では目の上のたんこぶへと代わりつつある。これこそが、今現在の中国の「偉大なる復興」への一番大きな課題である。

作家 板谷敏彦

2017年9月11日月曜日

映画『ダンケルク』


注目のクリストファー・ノーラン作品「ダンケルク」見てきました。金返せとは決して言わないし、もう一度見るかもしれないくらい良い作品だけれど、前評判が高すぎて、ちょっとがっかり。

がっかり1。 実写にこだわったのは理解できるが、30万人を撤退させた作戦規模がうまく描けていなかった。兵士からの視点にこだわったからだとは理解できるが、驚くぐらいの海を埋め尽くす小舟とそれにむかう兵士、沖の輸送船や駆逐艦の画像が欲しかった。実際には撤退兵の80%が輸送船と駆逐艦で運ばれてる。

がっかり2。座礁した小舟の再浮上待ちのシーンでは、射撃で船体に空いた穴を埋めろと指示する。射撃でできた穴は位置が集中しているから穴埋め作業をする者は被弾するのは確実。こうした合理性を欠くシーンはたとえ実話でもストーリー全体の信憑性を失いかねない。この後も水が流入してきて、船長に「浮くかね?」と聞くのはほとんど馬鹿げている。浮くためには流入量以上の排水が必要だからだ。おみかけしたところバケツぐらいじゃもう無理だった。僕の個人的な問題でもあるけれど、こういうシーンを続けられるともう「たまらん」。

反対に凄いと思ったのは。

凄い1。撮影、特に戦闘機のコクピット内。

凄い2。音響。特に前半はエンジン音へのこだわりが凄い。病院船と掃海艇の蒸気レシプロ・エンジン、小型舶用ディーゼル、メッサーシュミットのダイムラー・ベンツDB601、スピットファイアのロールスロイス・マーリンエンジン。こうした音をあたかも人間の心臓の心拍音のように効果的に使っている。

「いや、凄いこだわりだな」

と思ったら、マーク・ライランスに「ロールス・ロイスの音は最高だ」と語らせているのは、作者の「見落とさないでね、苦労したんだから」というメッセージか?

というわけでアカデミー作品賞はないと思う。音響効果とか撮影賞じゃないかなと思う

それとコレを見たあとのお薦めは『空軍大戦略:バトル オブ ブリテン』(1969年)まさにダンケルクの後から始まります。実写がどうだこうだというなら、こちらはハインケルの編隊も含めて全部本物。スペイン空軍のメッサーとハインケルが引退した時に廃棄前に撮影したもの。




https://youtu.be/kvDxVFU5Vi4


2017年8月4日金曜日

【高論卓説】迫られる自動車燃料転換 脱・石油の時代 世界でEV化加速


【高論卓説】迫られる自動車燃料転換 脱・石油の時代 世界でEV化加速

19世紀は大英帝国の時代だった。ブリテン島で豊富に採れた良質な石炭を背景に、鉄を造り、外燃機関である蒸気機関で推進する高性能な戦艦が建造された。

 ところが19世紀末に産業化された石油には、同じ体積に積み込める石炭の約2倍のカロリーがあった。戦艦の航続距離は倍になり、船員は石炭積み込みの重労働から解放されて、燃料補給はパイプをつなぐだけの簡単なものになった。

 英国海軍としては戦艦群の燃料を石炭から石油へと変換しなければならないが、1つ大きな問題があった。当時、油田は米国とロシアにしかなく、広大な大英帝国内でも石油は産出されなかったことだ。

 戦艦群の燃料転換の決断を下したのは、当時の海軍卿、チャーチルだった。第一次世界大戦の直前である。英国は開発されつつあった中東油田を確保しなければならなかった。世にいうオスマン・トルコ帝国の不条理な分割、英仏による「サイクス=ピコ条約」はほぼ現代の中東の国境線を定めたが、これには英国海軍による燃料確保の目的があったのだ。この頃、同時に発達したのが、ガソリンを燃料とする内燃機関(エンジン)を積む自動車である。現在、石油消費量の約7割が自動車である。

 環境汚染と限りある資源の消費抑制のために、自動車は燃料消費について対策を迫られている。日本はエンジンとモーターを併用するハイブリッド車(HV)で当面を乗り切り、水素を燃料とした燃料電池自動車(FCV)や電気自動車(EV)へと移行する作戦だ。

 一方、欧州では燃料効率の良いディーゼル車に注目し、現在、乗用車販売の50%を超えている。ところが一昨年のドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車排ガス不正計測以降、流れが変わった。昨年9月のパリ・モーターショー以降は欧州主力メーカーの間でEV普及に向け脱内燃機関の動きが顕著になった。

 7月初旬、フランスのユロ・エコロジー大臣(環境連帯移行大臣)は2040年までに二酸化炭素(CO2)の排出削減のため、国内におけるガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止すると発表し、英国もそれに続いた。スウェーデンの高級自動車メーカー、ボルボは2年間でEVとHV以外の製造をやめると宣言した。

 中国では環境汚染対策に加え、産業として参入障壁の高い内燃機関を使用した自動車よりも、水平分業が可能で参入しやすいEVを推進するインセンティブが強い。現実に各種の優遇措置によりEVは中国で一番売れている。最新予測ではEVは40年に54%のシェアになるとされているが、技術革新のテンポが速いため、シェア予測は年々増加している。当面は内燃機関との経済性の競争になるだろうが、今後、世界のEV化の動きが加速することは間違いない。

 21世紀は石油の時代が終わり、この分野でも新しい地政学上の変動が見え始めているのかもしれない。そういう意味では、トランプ米政権による地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」離脱は、米国が栄華を誇った石油全盛時代への単なる懐古趣味なのかもしれない。わが国においては、主力輸出品である自動車産業の対応が今後の国家の浮沈を握る可能性が高い。今こそ資源を持たざる国の本領発揮を願いたい。


板谷敏彦

2017年6月27日火曜日

【高論卓説】米国株、長期的には強気


高論卓説】米国株、長期的には強気 地政学リスク抱えながらも上昇 2007.6.27 フジサンケイ・ビジネスアイ

 世界各国の株式市場が高値を更新している。原油価格の低下とインフレなき金利低下。楽観的な企業収益拡大が伝えられる一方で、デフレに対する懸念に加え、トランプ政権の継続性や欧州連合の先行き、あるいはシリアや北朝鮮問題など地政学上の不安を抱えながらの高値更新である。昔から「株式は不安の坂を駆け登る」ということわざもある。

 先週までの10週間、筆者は早稲田大学の社会人講座で週1回の金融史の授業を持った。授業では将来の株価を予想するようなことはしないが現在のわれわれの立ち位置を最後に確認した。今回はその話をしたい。

 筆者の推計では、最近の日本の株式市場の水準は米国市場とドル円相場によって約90%の説明がついてしまう。そこで日本市場の先行きを考えるには米国株式市場水準の現状の立ち位置が最重要のポイントとなる。




 グラフは1920年からの米国の代表的な株式指数であるS&P500種である。第二次世界大戦を挟み、まともに株価チャートを描けるのは世界でも米市場しかない。大きな特徴として、株価に対して消費者物価指数を使用しインフレ分を減額してある。例えば(3)の70年代の米国市場は、普通の株価チャートでは横ばいに描かれるが、インフレを加味すると、実は株式投資家の実質資産は半分になっていた。また縦軸には対数を使用してグラフの傾斜がそのまま変化率を表すようにしてある。過去の相場の上昇率との比較ができるからだ。

 (1)は大恐慌から第二次世界大戦後の混乱収束までの弱気相場である。(2)はその後の世界経済の回復期、旧ソ連との冷戦時代だが、ばかでかい「アメ車」に大量消費の黄金時代でもあった。(3)はベトナム戦争とドルの下落で疲弊した米国の没落期、日本や西ドイツが米国の覇権に迫った時期でもある。
そして(4)はレーガン大統領とボルカー連銀総裁が米国のインフレを退治して再び米国が輝き出した時期である。日本のバブル時代を経て、ベルリンの壁が壊されて冷戦が終結した。パソコンと通信技術が発達して米国は2000年のハイテクバブルでピークを迎えた。

 こうしてグラフを見てみると、米株式市場は(5)の終わりのリーマン・ショックでピークを打ったわけではなく、むしろリーマン・ショックはハイテクバブルからの(5)の局面の調整の大底であったのだ。であるならば長期的な観点から、現在の米株式市場の位置は(6)という新しい上昇相場の中にあることが分かるだろう。今は何かを整理しているのではなく、何かが始まっていると考えるのだ。

 過去の(2)の上昇相場では413%、(4)では660%の上昇があったが、現在の(6)ではまだ179%の位置でしかない。一方で上昇率は(2)が年率8.7%、(4)が12.1%、現在は13.3%である。株式市場はインフレ率を加味しても、ずっと成長を続けてきたことが分かるだろう。




 このグラフの持つ将来の株式市場の水準に対する予見性は、過去と比較して多いか少ないかであって、残念ながらせいぜい星占い程度のものでしかない。しかし、少なくともこの長い期間にわたるグラフは、株式市場に対して悲観的な者は、得るものが少なかったことを示している。

板谷敏彦