2009年6月24日水曜日

エクィティ・デカップリング


ダイヤモンド・オンライン プリズム+one で辻広氏がエクィティ・デカップリングについて論説を書かれている。

参考文献として商事法務No.1840に掲載された「ヘッジファンド・アクティビズムの新潮流(上)」が示されており、題材には昨年のTCI(電源開発で有名)とCSX(米国鉄道会社)のプロキシー・ファイトが取り上げられている。

要点はTCIがブラジルのファンド3Gと組みCSXの株式を買い上げつつ、一方で投資銀行との間でエクィティ・スワップ契約を結び、自身の名義を隠しつつ、事実上大量の株式議決権を支配していたと言うものだ。 TCIの直接の目的はTCIの指名する5名の取締役(全体で12名)の選任。 エクィティスワップの目的は現経営陣に買い付け量を過小に見積もらせ対抗策の出動を遅らせると言うもの。

これらは論説にあるとおり、6月11日「NYの連邦地方裁判所はトータル・リターン・スワップ(エクィティ・スワップ)によるエクィティ・ポジッションは事実上HFの保有であり、大量保有義務違反だと判決を下した。」  が、「ただ判事は、裁判所にはTCIと3GをCSXの株主投票から排除することはできないとも述べ、違反に対する罰則は証券取引委員会(SEC)もしくは司法省が決定すべきとの考えを示した。」

で、結果として6月25日の株主総会にはTCIの提示した取締役候補5名のうち4名が選任されている。 つまりTCIによるウルフパック戦術(待ち伏せ攻撃)はこの側面だけ(チャート参照)では成功している。

論説では誤解を招きそうだ。

トータル・リターン・スワップ自体はシンプル極まりない。契約書のフォームなんかはきっとまともな証券会社なら社内DBに転がってる。

TCI 「ちょっと僕がCSX買っちゃうとまずいからさ、替わりに買っといてくれない?」
IB 「買ってもよいけどさ、株が下がって損したらどうしてくれるの?」
TCI 「それは全部(トータルに)こっちで見るよ。 それにそちらの資本コスト+α(ポジション使用料)つけるからさ。」「何なら現金かトレジャリーを担保に入れるよ。」

業者から見るとデリバティブも複雑なものよりはシンプルで量がはけるものの方がおいしい。 見た目のリスクもポジション使用料をLIBORリンクで金利リスクを消しておけばカウンター・パーティー・リスク(TCIが潰れて払えませんと言うリスク)だけになる。 IBもレバかけて資本調達するだけだ。 あるいは現金は出してくれるかもしれない。 高度なデリバティブなんかでは無い。

また「英米の動きは、ウルフパックを含むエクイティ・デカップリングが、各国の法制度とのコンフリクトを増大させている証左であろう。日本はデリバテイブ市場が未熟なため、国内においてトータル・リターン・スワップ取引はほとんど行われていない。一方で、欧米ではもはや通常取引である。日本も早晩、同じコンフリクトに直面し、議論が高まるのは必至である。」とあるが、これは国内外関係が無い。

日本はディバティブ市場が未熟」とあるが、TCIが海外のIBと日本株でのトータル・リターン・スワップを契約すれば話しは終わりだ。ISDAマスターが英国法基準であるから、CSXの件でも取引はTCIと投資銀行英国法人との間で行なわれている可能性が高い。高度な作業は権利関係の整理に関するドキュメンテーションだ。

それに昨年のアーバンコーポレーションのCB発行さわぎでもBNPパリバとの間でエクィティ・スワップが結ばれていた事は有名であるし、デリバティブ市場自体は未熟かどうかしらないが、EB債や為替リンク債など日本にはデリバティブ商品は溢れかえっているのが現状だ。

高度な金融技術、デリバテイブ取引を組み合わせた複雑なもの」と言うワ-ディングは、一昔前の「ノウハウ」みたいに中身の説明のつかない不確かなものが多く論説自体の説得力を低減しかねない。

でも辻広さんの論説は参考になる事が多くいつも読ませていただいています。

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