2009年7月23日木曜日

実践 行動経済学  Nudge


実践 行動経済学   原題:Nudge Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness by Richard H. Thaler and Cass R. Sunstein

Nudge(ナッジ)とは「注意や合図のために人の横腹を特にひじでやさしく押したり、軽く突いたりすること」と裏表紙で説明がなされている。
邦題を「実践行動経済学」としたのは、本書を取り組み易くしているし、非常に適切な選択だったと思わせる。

本書は3部16章+金融危機に関する後書の構成となっており、1部は行動経済学の復習あるいは簡易な入門となっている。私のような一般的な読者には行動経済学のキーワードが限定されており、非常に理解しやすい構成となっている。

本書が2部以降で提唱する実践的な「選択アーキテクチャー」の基本をリバタリアン・パターナリストと置く。 リバタリアンは「自由を行使でき、選択の自由を持つ」であり、パターナリズムは「父権的な意味で卓越した人間が指図する」と理解できる。 人間は人に指図される事を嫌悪するが、自由を確保できている状態であれば肘でつっつかれる的なサジェスチョンなら有効だろうと言う事だ。 「自由放任」でもなく「押し付け」でもなくと説明されている。

経済学の想定している完璧な選択能力を持つ「エコノ」の選択と、二日酔いで調子が悪かったり、ちょっとした別の誘惑に負けてしまう現実の人間「ヒューマン」の持つ思慮を欠いた選択の差異が行動経済学の基点となるわけだが、我々は常に錯覚や現状維持バイアス等によって数多い選択肢の中から合理的なものを選択できるとは限らない。つまりヒューマンな訳だ。 

米国の退職貯蓄口座における資産選択でも、MPT:効率的フロンティアの創始者であるマコービッツ自身、その理論を実用する事なく株式に50、債券に50と言う資産配分を行なっていたそうだ。 現状維持バイアスと経験則が原因だ。 

実験では株式型(株式100)とバランス型ファンド(株式50:債券50)の2種類を提示されても、組み入れ比率は50:50、つまり今度は意図せずに株75:債券25の比率になってしまうそうだ。 事ほど左様に細かいところまでは注意が廻らない。 半分ずつなら中庸でよいであろうとの判断だ。 しかし20年もあればその差異はとても大きなものになってしまう。

ナッジはこの場合、判断の時点で過去のリターンを何種類か実際に例示すれば判断の仕方が変わってくるだろうというもの。 年齢に応じて適当な組み入れ比率をデファックトとしてあらかじめ提示できれば思考停止から来る不合理な判断から救えると考えるものだ。  しかしながら、適切な組み入れ比率が今回のような暴落発生時点あるいは発生直前では異なるように何が適切かを決定するのは容易では無い。 ナッジにはその危険性をも孕んでいるので、デファクト選択における情報開示も大切であると言う話である。

若い頃、会社の事務所に堂々と侵入し、セールスをする生保のおばさんに、皆入っているわよと言うデファクトを押し付けられ、肘でやさしく突かれたりして何の疑問も持たず(一体セールスコストがどれくらいであるのか?)非常に高価な保険商品を購入してしまった事を思いだす人も多いかと思う。 ナッジは使い方次第。 そう言った意味で本書は読者の仕事の上で、さらに身の回りで実に応用可能だ。  若いバリバリの人(思い込みでも結構)は是非読むべき一冊だろう。 アマゾンではアカロフ・シラーのアニマル・スピリットと一緒に注文している人が多いようだ。

「実践 行動経済学」と言うネーミングは本書を適切に表現していると思う。

PS この本から面白かったジョークを1つ
自動システム(直感的な意思決定システム)と熟慮システム(よく考えた上での意思決定システム)

慌てて銃を買いに来た客が、銃の購入時には5日間の待機期間(買うと意思表示してから受け取れるまでの期間)を設ける事が義務づけられていると銃販売店の店員に説明されて、こう応じている。

「5日だと? オレは今頭にきてんだ!」


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