2009年9月27日日曜日

禁断の市場 マンデルブロ


ベノワ・マンデルブロ 禁断の市場 フラクタルでみるリスクとリターンを読んで。

2004年に原版が出版された時から読もう読もうと思って読んでいなかった本です。 昨年6月に日本語版が出た時期は忙しくて時間が取れず結局今になってやっと読めたと言うわけです。 

他のブログにも指摘がありますが、僕もこの本の際物的邦題はどうかと思います。 この本は全く常識的で、マルチフラクタルの説明とそれに加うるにむしろ金融工学の歴史本といっても良い性格を持っているからです。 

そう言った意味で金融工学とまではいかずとも、ベータやアルファやシャープ・レシオなど普段少しでも実務で使われる人は是非読んでおいた方が良い本だと言えると思います。 本文では数式は一切使用せずに理解できるようになっています。 勿論マンデブロの研究はタレブのブラック・スワンのさきがけとなるものです。

この本のメッセージは、

1.証券の市場価格は独立事象とはいえない事。 サイコロを単純に振るのとは違う。
2.価格の変化率は正規分布では無い事。これは古くから認識されてきたが、正規分布は便利さゆえに使用されてきた。
3.従って上記を前提とした現在使用されているモデルは危機管理としては非常に危険である事。
4.マルチフラクタル・モデルは発展途上であり、価格の予想は出来ないが頻度は低いが発生すると大きな影響を与える事象へのリスク管理には適切であると言う事。
5.経済学は流行の激しい学問であり、正しい事が正しく扱われるとは限らない事。

こんなところでしょうか。

それよりもこの本の真骨頂はマンデルブロによる金融工学の流れ、歴史の解説です。
バシェリエ、マーコヴィツ、シャープ、ブラック、ショールズなどのプロフィールを細かく取り扱っています。
例えば、ブラック・ショールズ・モデルの発表の時には数学面で協力したマートンも出席するはずであったのに寝坊で欠席したなどのエピソードです。

またマンデルブロがそのユニークさから経済学会で論文の掲載先が見つからなかった時に教え子であったファマが手助けをしてくれたなど、間違いなくマンデブロは金融工学の歴史の中において響き続ける重低音を担当しているかの様な印象をも持ちました。ちょと変わった芸風の師匠みたいなものかもしれません。

また1960年代半ばに一旦著者の研究は注目を集める事となりますが、1972年にモダン・ファィナンスの波が押し寄せて再び注目されなくなってしまうのは歴史の皮肉でもあります。 

モダン・ファィナンスはガウス分布(正規分布)、価格の連続性などをベースにした、CAPMであり、BSモデルなど今日我々が使用しているツール群ですが、2004年の時点でこの本を著し、2009年の今まさに予想を越えた大惨劇を目の前にしている事は感慨深いものです。

彼の研究は綿花価格から始まっています。 データの取得に苦労した様子がよく書かれています。本当に苦労無く(無料で)データの取得ができるようになったのは2000年に入ってからと言っても過言ではないのです。多くのデータが1985年頃からと言うのは偶然ではありません。PCの発達と密接に関係しているのです。

80年代の終わりごろでもデータは電話回線を使用し、モデムはヘイズ社の独壇場で通信速度も2400bps程度でした。インフォメーション・テクノロジーと言う言葉も未だなく、ITといえばインベストメント・テクノロジーと呼ばれていたものです。 

ウィリアム・シャープのバーラ・モデルが一般に製品化されるのはIBM PCの普及が大きく影響しています。バーラ・モデルでさえデータ取得は電話回線による1対1の接続によってなされていたのです。

SP500インデックスのエクスキューションの送信には30分程度かかり、それも不安定な国際回線ではよく切断したものです。 こうなるともう一度最初からやり直しになったものですが手書きFAXやテレックスでは不可能な業務でした。

またブルンバーグもPCをベースに設計され、ブルンバーグのデータベースも当時から蓄積されてきたもので、金融工学の加速度的発展もPCの進化と共にあったと断言できるでしょう。  そう言った意味では昨今問題化しているMBSなどはサンマイクロのriskチップと共にトレーディングルームに進出してきた金融商品です。

話がそれてしまいましたが、この本は前半だけ独立させて「金融工学の歴史」と邦題をつけても、これまでで最も充実した本となるかと思います。

是非邦題に臆する事なく一読をお勧めしたいと思います。


追記:
マンデルブロ、タレブやジャック・アタリでもトポロジーや不確定性原理のところはどうしても一度通過する必要があると思うのですが、私も含めて文系の人はブライアン・グリーンの「宇宙を織り成すもの」を一度読んでおくと何かと楽になると思いますよ。

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