2009年10月22日木曜日

デビット・アインホーンの賭け


長さ300メートルの船でも使用されている鋼板の厚さは30ミリ程度です。
この船の10cmの模型を作成すると、板厚は10ミクロン程度。 市販のアルミ箔の厚さが11ミクロンなのでアルミ箔で10cmの船を作ったと考えればイメージに丁度あうかと思います。 ちょっとでも床に落としたり強く握ったりすれば直ぐに歪んでしまうほど脆いものです。

応用力学等を使って鋼板に必要な肉厚と張力、構造等を計算して船は設計されますが、実際には鋼板の厚さは経験によるところが多いと船のエンジニアから聞きました。船体が折れるような海難事故が発生すると鋼板の厚さは厚くされます。これは航空機でも同じで現実の設計ではやってみなければ分からないところが多く経験の積み重ねが様々な仕様を決定します。

これは経済においても同じだと思います。 ですから暴落は繰り返し、その都度対策を打つ事を繰り返します。例えば銀行と証券を分けたり。 何故かまた一緒にしたり。

Twitterを見ている方はご存知かもしれませんが、昨日クルーグマンの日本国債についてのブログが話題になりました。


これは同日のNYTの記事 Rising Debt a Threat to Japanese Economy 日本経済を脅かす増大する財政赤字 by Hiroko Tabuchiに対しての反論の形を取っています。


左のグラフを見ての通り、後者は対GDP政府債務が突出しているが、大丈夫か?と言う記事です。


NYT「日本の債務はGDPの200%にも達している。そしてさらに50兆円ほどの新規国債を売ろうとしているがいつか破綻してしまうのではないか?」

クルーグマン「もし投資家が破綻すると考えているならばこんな低金利な訳はない。 インフレリンク国債を見ても投資家は今後5年のデフレを予測している。CDSはドイツと比べて少々高いがどうみても財政危機には無い。」

それだけであればこれまでもよくあった話で、日本の財政危機などずっと続いている話です。いつもなら「ああそうですか」で済んでいましたが、今回はすこし違う要素が絡んできました。実は僕はこの記事はクルーグマンの日本に対する皮肉なのかなと最初は思っていたぐらいです。

その要素とは米国のヘッジ・ファンド・マネージャー デビット・アインホーンです。 参考:広瀬さんのブログ
彼は去年リーマンの崩壊に賭けてて大もうけしています。 そして今回は月曜日のコンファレンスで日本国債の崩壊つまり金利の上昇、円安のデス・スパイラルが発生するとして、4~5年のJGBプット・オプションを購入したと発表したのです。

Twitter上では池尾先生はクルーグマンはJGBの購入者が最終投資家では無く機関であると知っているのか? つまり特殊な状況下で成立している需給であると言いました。
また池田先生は郵貯の社長に不自然に(日銀総裁承認時に武藤さんを財務省OBという理由だけで拒否した)大蔵省OBを指名した事で郵貯の資金を国債に振り向ける腹だと懸念を示しています。(もっとも郵貯の資産327兆円のうち既に8割は国債ですが。)

確かに1ヵ月後、半年後に国債を消化できない事態が発生するかと言えばそうは言えないでしょう。各エコノミストの意見もそうはなっていません。

95%を国内でファィナンスしている→誰も外人が買わない。

国民金融資産は1400兆ある→全部国債にする訳にはいかない。

かなり荒っぽいですが9月末の全銀協総貸出し残高は426兆円、銀行だって国債だけ買っている訳ではありません。それに少ないながら10%程度は株式や投信にもおいておきましょう。 600兆ぐらいは国債になれないのです。

仮に国債残高が800兆になればさすがに国内で国債をファィナンスできるとは誰も思わないでしょう。 つまり現時点の発行残高554兆円と800兆円の間のどこかに崩壊するポイントがある訳です。

10年度予算概算要求では国債費は21兆円、内利払いは9兆4000億円と見積もられてました。外人からファィナンスする段階になって魅力を増す為に1%金利を上げると、金利負担だけで追加で6兆円余分にかかります。一方で日本の歳入は45兆円(今年は40兆円を切りそうです)しかありません。 家族内でやってる間はまあ良いかと言う強引なロジックでも、一旦海外に資金を求めると、金利は上昇し、通貨は下落します。さらに輸入物価の上昇からデフレ期待は後退し、インフレリスクも考えられる、さらに必要調達額が増え、デフォルト・リスクは高まると言う風に、デス・スパイラルが発生するイベントなのです。

デビット・アインホーンはこのイベントを4,5年内で見ていると言う事です。 この件ではノーベル賞経済学者クルーグマン先生も役には立たないでしょう。 勿論後から懇切丁寧に説明はしてくれることだと思いますが。

バブル崩壊、財政支出、国家債務の増大、高齢化、と先進国の最先端を走ってきてしまった感のある日本は、他国に先駆けて「一体GDPの何%であったら国家債務は耐えられるのか?」と言う壮大な実験に入っているようにしか思えません。 そしてその時にきっと鋼板に必要な板厚が決定されるのかもしれません。


追記:
このNYTの女性記者はあまり評判が芳しく無いとの事。
himaginaryの日記でディーン・ベーカーがこの記事に対して攻撃した事をブログ記事にしています。
参考まで。 

She's a killer Queen


2 件のコメント:

我話 さんのコメント...

ご無沙汰しております。
相変わらず、鋭い視点ですね。
JGBは当面は問題ないと思うのですが、いずれ危機がくるのではと、その道筋を思い巡らす今日この頃です。
ゆで蛙状態なのでしょうか?

Porco さんのコメント...

ご無沙汰してます。
歳入が無いのが一番悪い要因ですよね。
40兆円の収入で10兆円が金利支払いで、1%上昇する度に6兆円かかりますから。動き出したらあっと言う間かもしれません。すると増税で景気悪化。デス・スパイラル。悪戯に煽る必要はありませんがかなり具体的な危機だと思います。