2009年12月13日日曜日

財政支出では無く減税


12日のニューヨーク・タイムズのEconomic Viewにグレッグ・マンキュー教授が下記タイトルで寄稿しています。 今後の政策の転機となる可能性の高い記事なので、筋トレ的な意味も兼ねて意訳しておきました。 誤訳等の責任は負いかねますが、それでもよければ参考にして下さい。

By N. GREGORY MANKIW
Published: December 12, 2009



財政支出で成せなかった事を減税ならばできるだろう

あなたは医者で、原因不明の病気に苛まれている患者があなたの診療所を訪ねて来たと想像してみよう。
いくつかの症状はよく診るものだが、それ以外は分からない。これまでにこういった問題点の組み合わせを持った患者は扱った事が無い。

これまでの知見を基にパーフェクトとは思わないが処方薬は考えついた。
患者は処方箋を手に帰り、あなたは処方が効くように願いそして祈った。

しかしながら1週間程して患者は再診に訪れ色々な意味で症状は悪化していると言う。

さてどうしましょうか?
あなたには3つの選択肢があります。

1. 継続。 多分患者はあなたが思うより、重症だったので、薬が効き始めるまでもう少し時間が必要だ。

2. 投薬量を増量する。多分処方は正しかったのだが、量を間違えた。患者はもっと投薬量が必要だった。

3. 処方を再考する。 きっと処方が正しく無かったのだ。多分他の組み合わせが上手くいくのかもしれない。

これらのもっともらしい3つの対処方からの選択は容易では無い。色々な意味で現在のオバマ政権は類似した立場にある。

オバマ大統領が選出された時、経済は病んでいたし、さらに悪化しそうであった。 1月に執務室に入る以前から彼の経済担当チームは問題点をレポートしていた。

レポートによると、もし何もしないのであれば、失業率は上昇し続け2010年初頭には9%に達するだろう。しかしもし国が政府支出を増大する形で7750億ドルの財政刺激策を遂行するならば失業率は8%以下にとどまるだろうと予測されていた。

そして現実にこの大型財政刺激策は議会を通過した。 しかし事態はホワイト・ハウスが考えていたよりも悪化してしまった。 失業率は現在10%であり、政権のエコノミスト達が何もしない場合に到達すると予測した失業率より丸々1%高い水準だ。

確かにいくつか良い兆候もある、信用スプレッドの縮小、GDP成長や失業者数の減少などだ。しかし景気回復は大統領とその経済チームが当初期待していた程には未だに力強くは無い。

それではどうすれば良いのだろうか? 大統領は火曜日のスピーチで投入量の増大に興味のある事を示しはしたが、政権は現状維持を意図している。しかしながら、ここでは多分処方を考え直す方が良い選択だろう。

今回の財政支出案を考え付いた時、オバマ政権はケインズのアイデアの一部をベースとした伝統的な経済モデルを拠り所としていた。 ケインズ理論では失速した景気に活を入れるには税務政策(減税)よりも政府支出の方が有効であるとする。

1月のレポートではこの結論を数値化、 1ドルの政府支出はGDPを1,57ドル引き上げ、一方で1ドルの減税は99セントの効果でしか無いとしている。 

減税よりさらに支出した方が良いと言う事は、成長と雇用促進の為に財政赤字を増加させることも意味する。

しかし最新の様々な研究はこの伝統的な見識は後退気味であると示唆している

ひとつの論拠は大統領経済諮問委員会副議長のクリスティーナ・ローマーから発されている。彼女の夫ディビット・ローマーとの共同研究の下、彼女が現職に就く一月前にUCバークレーにおいて書かれた論文で税務政策は経済活動に強力な影響力を持つ事を結論付けている。

ローマーによると1ドルの減税は歴史的にGDPを約3ドル押し上げる、つまり前出の政権によるレポートにあった数字の3倍であり、これは政府支出効果よりもはるかに大きい。

その他の最新の研究もローマーの研究成果を支持している。ロンドン大学のアンドリュー・マウントホールドとシカゴ大学のハロルド・ユーリックの2008年12月のワーキング・ぺーパーでは、最新の統計解析ツールを米国のデータに適用し、財政赤字による支出、財政赤字による減税、増税による支出、の3つを比較している。彼らはこの3つのシナリオの中でGDP改善には財政赤字による減税がもっとも効果的であると報告している。

私のハーバードでの仲間であるAlberto AlesinaとSilvia Ardagnaはこの件に関して総合的解析を実施した。 10月の研究では彼らはOECD21カ国の財政政策の大きな変化に注目した。 先ず彼らは1970年からの景気刺激政策に関する91の事例を抽出し、政策介入の中から成功したもの、つまり実際に力強い成長を伴ったものと失敗したものを比較した。

結果は衝撃的であった。 成功した刺激策の殆どすべては法人税と所得税の減税であり、
失敗した政策は政府支出の増大に依存したものであったのだ。

これらの研究成果の意味するところは伝統的なモデルはどこか欠陥があると言う事だ。
それは何であるか?と言う手がかりはIMFチーフ・エコノミストのブランチャード氏とミラノ大学のペロッティ氏の2002年の研究成果に伺える。彼らは「増税と政府支出の双方とも民間投資支出に強力なマイナスの効果を持ち、この効果がケインズ理論と相容れ合う事は困難である。」と報告している。

これらの研究成果は税務政策、特に投資減税のように投資にインセンティブを与えるような税制変更がリセッションとの戦いにもっとも適した財政政策であると指摘している。
2008年春に行った一時払いリベートの送付は、消費と生産に僅かにしか弾みをつけられなかったように効果が疑わしい。

我々の医者が謎の病気に立ち向かうように、病んでいる経済をいかに回復させるかを考える時、エコノミストは謙虚で且つオープンな心を持ち続けなければならない。積み上がる証拠は伝統的なケインズ的処方箋がベストな薬では無い事を示唆している。


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