2010年1月8日金曜日

ブレーク・イーブン・インフレ率(TIPS)

米国財務省が来週の100億ドルのインフレ連動債の入札を発表しました

インフレ連動債はTIPS(Treasury Inflation-Protected Securities)の略です。にわかに注目を集め始めましたが、今後相場解説ではお馴染みになるかもしれませんので予備知識として少し見ておきましょう。
これは読んで字の通り、インフレに連動して元本が調整される国債です。
つまり TIPS元本 = 額面 x インフレ変化率
ここではクーポン利率は固定されていますので、TIPS元本が上昇すればその分支払われるクーポン分の金額も上昇します。

額面 10000円、クーポン5%の場合、
インフレ率が0%であれば、
10000 x ( 1+0%) = 10000 5%のクーポンは 500円となります。

インフレ率が10%上昇したとすると、
10000 x ( 1+ 10%) = 11000 ですからクーポンは、これの5%= 550円となります。
もちろん償還時の元本は11000円に上昇しています。

つまりインフレ分をヘッジできるようになっているわけで、
一般の国債利回り→名目国債利回り
TIPSの利回り→実質国債利回り
であると考えれば良いわけです。

さらに国債との間に以下の関係が成り立ちます。
名目国債利回り = 実質利回り(TIPS) + 期待インフレ率 + (リスクプレミアム)
ここでリスクプレミアムは測定しにくいので、利用上
名目国債利回り = 実質利回り(TIPS) + 期待インフレ率

名目国債利回りとインフレ率を直接織り込んだ実質利回りの差が期待インフレ率。名目、実質の両者がブレーク・イーブンになるインフレ率なので、
期待インフレ率 = ブレーク・イーブン・インフレ率となります。

どうでも良いリスクプレミアムを書いたことで、かえってややこしくなってしまいましたが簡潔にいうと、
10年債利回り―10年TIPS利回り=今後10年の期待インフレ率

これが、米国国債10年利回り(青)とTIPS10年利回り(赤)




クラッシュの時に国債利回りが下落し、TIPS利回りが上昇しています。
TIPSの利回りが上昇すると言う事は→TIPS価格の下落=インフレ期待がマイナス=デフレ懸念、が大きく存在していた。と言う事になります。


インフレ率には約3ヶ月前の消費者物価指数が使われます。 これは消費者物価指数の確定値を待つと言う意味でラグを持っている事になります。しかしながらTIPSは市場で価格形成がなされる為に発表に先行してインフレ懸念を推し量るツールとなる訳です。

(米国の場合 Consumer Price Index For All Urban Consumers、日本では 消費者物価指数(除く生鮮食品)が使用されます。)

実際に市況解説で使用される場合には、国債とTIPSが併記される訳では無く、ブレーク・イーブン・インフレ率が使用される事になります。
下の表がブレーク・イーブン・インフレ率(青:左軸)、参考までにCPI前年同期比%(赤:右軸)、CPI前月比%(黒:右軸)も書いておきました。


ブルーンバーグでも見る事ができます。 注:3Yにしてあります。

どうして米国の事ばかり話すのと思われるかもしれませんが、日本にもTIPS、物価連動債はあります。あるのですが個人投資家は投信の形態でしか購入できません。長期投資であるとかハイパーインフレを予測するならともかく、短中期では手数料と信託報酬であまり良い投資とは思えません。

それよりも、米国は先のFOMCで未だ緩和策が必要との見解が語られています。 一方で未だ小さくはありますがインフレの心配も出てきているのです。

インフレ懸念は、今回の緩和策の出口政策とも相まって金利上昇懸念に結びつきやすくドルの上昇要因になります。 日本はどうしようも無いデフレですから常に米国金利上昇懸念が先行、ドル高の要因となり易いからです。インフレ懸念が出てもFEDは容易には金利を上げられませんから、ぐずぐずとドル高期待を引きずるのでは無いかと見ています。

はっきり言って今回日本株が上昇できるのは為替要因のみ。ですからインフレ懸念を表現してくれるTIPS、つまりブレーク・イーブン・インフレ率は日本株にとって重要な指標となりうる訳なのです。

グラフ作成に使用した セントルイス連銀のHP

2 件のコメント:

宗敬 さんのコメント...

はじめまして、いつも勉強させて頂いております。私はメタルのトレーダーをやっておりますが、インフレ気配になるとインフレヘッジの非需要家による買いが結構入ってくる為、相場の予想を立てる上では期待インフレ率は非常に重要なファクターになっておりますので、今回のエントリーは非常に興味深いものでした。
さて、一点質問があるのですが、今回勉強させて頂いたブレークイーブンインフレの概念ですが、こちらの値が上昇してくるには①インフレ期待率が高まる②リスクプレミアムが高まる。の2パターンがあるかと思います。
この2要因のうち果たしてどちらがブレークイーブンインフレを押し上げたかを見分けるのに、何かサポーティブな指標、テクニック等はありますのでしょうか。差支えない範囲内で御教授頂けますと幸甚です。

Porco さんのコメント...

宗敬さん、
コメント有難う御座います。
私も純粋な株屋で債券市場は詳しくありませんが調べた範囲でお答えすると、ここでのリスク・プレミアムは、名目国債利回りが要求する将来のインフレの不確定さに対するプレミアム(インフレ・リスク・プレミアム)とTIPSの流動性の少なさに起因する流動性プレミアムの2つかと思います。前者は現状ではいくつかの研究から小さいものである事、また事後的に期待インフレ率が指標として充分であってもそこまで正確で無い事。後者は米国では充分な流動性から無視出来る事。等からリスク・プレミアムが高まり期待インフレ率に影響を及ぼすレベルでは無いと考えた方がよいかと思います。