2010年3月31日水曜日

三浦按針の生きた時代




幕末関連書籍を検索しておりましたら、ペリーやハリスのように日本の鎖国を開いた人達と同様に、入り口と出口のようなものですが日本が鎖国に至る時代も少し読んでおきたくなりました。

この時代に西洋に向け扉の開かれていたのはご存知のように長くはありませんでした。 ポルトガル人が種子島に漂着したのが「鉄炮記」によると1543年、欧州の記録ではフェルナン・メンドス・ピントの「遍歴記」の1544年頃、いずれにしろこの頃から長崎に出島の作られた1634年迄の約80年間しかなかった事になります。

ポルトガル人ルイス・フロイス関連ヨーロッパ文化と日本文化 (岩波文庫)や白石一郎による当時の長崎関連の小説は読んでいたのですが、映画「SYOGUN」のモデルにもなっている三浦按針に関して今回面白い本を見つけて読みました。 按針関連では白石一郎の小説「航海者」がありますが、本書「さむらい ウィリアム」は細かい考証を経たドキュメンタリーとも言えるでしょう。 

参考図書は英語圏の資料が中心となっています。 その中でもアンソニー・ファリントンの「The English Factory in Japan:1991」を筆頭に上げていますから、この資料があったから書けた本とも言えるのでしょう。この本Book Finderで検索すると17万円してますね。

按針は英国人ながらオランダの商船隊に航海士として乗り込みます。出発は1598年、英国がスペインの無敵艦隊を破ったのが1588年ですからその10年後になりますが、当時は未だスペイン・ポルトガルが世界の海を制覇していましたので、寄港地を選びながらアフリカ西岸を下り南アメリカに向かって大西洋を横断します。  

南アフリカ経由でインド洋に出るだけでも大変なのに、彼らは寄港地がスペインに抑えられている関係で南アメリカのマゼラン海峡経由で日本を目指す事になります。 今から思えば全く無謀としか思えません。
その航海の過程で驚く程簡単に船員達が死んで行くのは、今更ながら彼らのアニマルスピリッツには脱帽すると共に何が彼らをそうまでさせたのか? 「自爆する若者たち」の本を思い起こさせます。 彼らは跡を継ぐべき資産のない次男、三男なのです。

この本にはそれ以前に北極海経由でアジアを目指した船乗りの話や、キャプテン・クックよりも前に按針の船団から脱走した水夫達がハワイで平和に暮らした話しなど興味はつきません。 按針はエンジニア然としていてイギリス商館長コックスなどの政治屋や、布教に熱心なポルトガル人に比較して超然としていますし、またそれが家康のお気に入りになれた理由なのでしょう。 こうした本では按針が日本で造船を手がけた部分などは簡単に記述されていますが、果たして資料が無かったのか(英文では無いでしょうね)とか未だまだ興味は尽きないところです。  

中古で安く手に入りますから是非お奨めの一冊です。 

3月は歴史の本ばかり読んでしまいましたが、いつまでもこの手の本ばかり読んでもいられませ。 歴史物は取り敢えずこの当たりで打ち止めにしておこうかと思います。


2010年3月30日火曜日

中国の不動産価格の上昇


今日は珍しく長電話をしました。 先週中国を訪問してきたベテランのファンド・マネージャーからの電話で中国の為替政策と不動産各の上昇についての話しで色々と聞かせて頂きました。彼は政策実務のレベルとミーティングを持ったようでした。

掻い摘んで言いますと、今米国で為替操作として避難を浴びている中国元に関しては、日本の轍を踏まないと言う事。 この場合の日本はもちろんプラザ合意以降の円高をさしているのでしょう。 以前翻訳したロゴフの話しのままでした。 米国の要求どおりにはせず暫時ゆっくりと調整して行くつもりなのでしょう。


3月31日(ブルームバーグ):中国は人民元の変動幅を4月に拡大する措置を検討中だ。中国誌の財経(オンライン版)が最新号で情報源を明示せずに報じた。それによれば、中国人民銀行での会議で一部の当局者が適切な時期に変動幅を拡大すべきだと指摘した。元のドルに対する変動幅は2007年3月に基準値の上下0.3%から同0.5%に変更されている。


一方で近年の中国の世界経済寄与率の高まりから対中国投資家だけで無く、グローバル投資家全般から懸念されているのが中国の不動産バブルでしょう。 

彼の話しはこうでした。 日本の過去と比較した場合現在の中国の足取りは丁度列島改造論から地価が高騰した1970年代前半の状況によく似ていると言う事です。
何が似ているのかと言うと、1人当たりのGDP、第1次産業名目GDP比率、そして都市人口比率や都市人口増加率と行った都市化の進展度です。

日銀レビューより、


確かに上海、北京では、一般庶民に買えないような価格の高級マンションが投機目的で売り買いされていると言う記事がバブル懸念を煽りますが、一方で日本で報道される貧富の格差からみればバブルと言うもののグリップ感が得られないのも事実です。  彼が言うには不動産バブル懸念は懸念に過ぎないと言う結論でした。


夕方に日銀が偶然、日銀レビュー、「最近における中国不動産の上昇について」と言う記事をリリースしました。

内容は電話してきた彼と取材元が同じではないかと思う程同じ内容でした。  7ページ程度で読みやすいレポートです、上のグラフもレポートにあったものです。まあ普通と言ってしまえばそうなのでしょうが、コンパクトにまとまっています。

上記にも上げましたように、中国は経済の成長段階が違う。 日本も70年代に調整をしているが、依然高い成長率を保持していた為に調整は軽微ですんだ。 それが80年代後半には都市化の進展、産業構造高度化が一段落していた事の際が大きいと指摘しています。 さらに中国では企業、家計によるレバレッジが高く無い事にも注目しています。

結論として調整は入っても潜在成長率が高い限りは大きなものにはならないが振幅の大きさには注意が必要との事でした。

日本はいつも対比に出されるのですね。 日本は未だ出口が見つかってませんが、日銀もこちらのレポートが待たれますかね。


ペリー艦隊日本遠征記




また幕末ネタかと言われてしまいそうですが、幕末期の貨幣問題を調べているうちに次から次へと読み進んでしまい3月は関係図書ばかり読んでいました。
開国関係では、米国サイドの貴重な一次資料、ペリー艦隊日本遠征記です。 今年は横浜開港一五〇年にあたりますので、それを記念して本来は百科事典一冊をさらに一回り大きくしたおおよそ電子出版に真っ向から抵抗しそうな重たい本なのですが、コンパクトなサイズで再刊されています。

私は重い方を図書館で借りて雨の中担いで帰るハメになったのですが、内容は苦行に報いて余りあるものでした。
ペリー提督の日誌と公式書簡の他随行者の報告書および日記をフランシス・ホークスと言う学者が編纂した合衆国の公式文書になっていますが、翻訳は現代文で平易な文章で書かれており非常に読みやすいものです。 

序論の部分で訪問前の日本に対する予備知識が纏められていますが、オランダや鎖国前のポルトガル、イギリス公館資料、それに漂流民からの聞き取りがあったのだとでしょう、かなりの程度に日本の事を理解していた様子が伺われます。



一方で日本側の最初の応対役、浦賀奉行香川三左衛門に船内蒸気機関、大砲などを見学させた折に、未開の地の人間のように驚いたりせずに、かなり正確に蒸気機関の仕組み、あるいは大砲に関しては「パクサンズ砲」と種類まで言い当てるなど幕府役人の知識には驚かされています。 特に科学の一般原理や世界地理の諸事実にも通じており建設中のパナマ鉄道に関しても知っていたとペリー一行は驚かされています。 黒船を見て腰を抜かしているばかりでは無かったのですね。  ここで浦賀奉行はご馳走になるのですが、ウィスキーとブランデー、それに何らかのリキュールが気に入っていたようだと記録が残っています。

以前紹介した、定本洋酒伝来:藤本義一ではこの時に桜実酒(マラスキーノ)で味付けたオランダ・ジンが初めて日本に紹介されたとあります。 またペリーは沖縄に訪問した際の記録にウィスキーはスコットランドとアメリカの物と列挙していますので、多分バーボンもこの時に日本初上陸だったのでは無いでしょうか?

この本にはリトグラフや木版による図版がたくさんついており当時の米国人の目を通じて江戸末期の風景や人物、事物を見る事できます。ゆっくり時間を掛けて読みたい物です。

と言う訳で買うのはどうか思いますが、是非図書館で重たいヤツを借りて担いでみるのも一興では無いでしょうか。


2010年3月28日日曜日

日本大変 三野村利左衛門伝


金が大流出してしまった幕末日本ですが、直接の引き金は1859年の5カ国条約(英、米、仏、露、オランダとの修好通商条約)による横浜開港です。前回参照

この時より、本格的な貿易が始まる事になり、洋銀を日本の一分銀に交換し、さらに小判(金)に交換すると言うアービトラージが始まります。

どのくらいの金が流出したのか、最近の研究では820万両~860万両(藤野正三郎:国際通貨体制の動態と日本経済)とも言われています。天保小判で計算すると重量11.3g品位57%ですから、 11.3 x 0.57 x 8,600,000 = 55,392,600g = 55.4トン。

1859年から3年間ロンドン市場で銀安の長期傾向がおさまったと言う記述もありますが、この当時は世界的なゴールドラッシュの時期でもありますので、何とも言えないものがあります。 一方で当時の米(コメ)を除く幕府の歳出規模が年間120万両、シニョリッジで財政赤字の3分の1を埋めてきた政体へのインパクトは致命的であったのだろうと思います。

下は1987年に発売されたThe Wall Street Waltz: 90 Visual Perspectives : Illustrated Lessons from Financial Cycles and Trendsと言う古いチャート集から、金価格です。 1861年から始まった南北戦争による金価格高騰が目立っています。


幕府がこの金流出、言い方を変えれば内外の金銀交換比率の是正(本当は貨幣価値は銀の重量で決まらないので日本の比率が変であったわけでは無いのですが)の為に行ったのは、金価格を上げる事、つまり1両に対する金の重量を減らす事。 つまり改鋳です。  1859年(安政7年)に天保小判をそれまでの1両から3両1分2朱に突然値上げをしました。 3倍強への値上げです。 その結果何が起こったかと言うと強烈なインフレーションです。

もうひとつ、この改鋳の情報を時の勘定奉行小栗忠順から知って事前に天保小判を買い集めて、大儲けした商人がいました。今で言えばインサイダートレーディングですが、 それが後三井に中途入社し、三井財閥の中興の祖となった三野村利左衛門です。


小説「日本大変―三野村利左衛門伝」高橋義夫 にはこのあたり経緯が書かれております。 やはり緻密な時代考証が特色です。

財団法人 三井文庫では財閥関連の資料をまとめてあり、大きめの図書館であればこれらは閲覧可能です。面白いですよ。 この小説では幕末この時期の記録、横浜開港時の横浜店設立までの経緯等々から、国立第一銀行から三井銀行設立まで、幕臣小栗忠順との経緯も含めて三井財閥の当時の様子がカバーされていますので、とても参考になるかと思います。



「NHKテレビ龍馬伝」で吉田東洋が武市の登用を願う龍馬に対して「武市は能力が無いから使わない」と言っていましたが、東洋暗殺は1862年。 土佐出身ジョン万次郎が河田小龍の取調べを受けたのが、その10年前の1852年、東洋は日本を取り巻く状況を把握していたと思います。 横浜も開港し、為替問題も一段落し貿易が活発化していた時期、確かにインフレが亢進し、人民の不満は高まってはいたのでしょうが、国際情勢も知らず攘夷を叫ぶような若者には興味を示せなかったのかもしれません。

幕府はこの時のインフレーションと財政難で、もはや維持不能の状況に陥ってその崩壊を早めていったのだと言えるでしょう。


2010年3月27日土曜日

大君の通貨



江戸幕府の通貨制度は3貨と言って、金、銀、銭の3種でした。(複数本位制度) このうち我々に馴染みのある金製の小判は定位貨幣であり、1両と定められていますので、江戸幕府は金本位制度であるとも言えます。 一方で銀は当初貨幣が無く、重量で価値の決まる秤量平価でした。つまり必要に応じて切り分けして使ったりしていたそうです。
また「江戸の金遣い、上方の銀遣い」と言って江戸と大阪では本位とする通貨が異なっていたそうで、何が違うのかと言うと江戸では金1両に対して銀が何匁(1匁=3.75g)と言う銀相場になりますが、大阪では金相場が立つと言う具合に江戸、上方間の旅行では途中で両替が必要な時期もあったそうです。



1609年に幕府は金1両=銀50匁=銭4貫と公定比率を定めますが、金銀相場は小判の改鋳等もありなかなか定まりませんでした。

そうした経緯の中、1765年に明和5匁銀が発行され12枚つまり60匁で1両と定めると言う銀貨の定位貨幣が発行されました。 これはつまり金本位の中で金銀交換比率が決められてしまうと言う事になります。 次いで明和2朱銀が発行され明確に2朱と言う定額なものになります。

1両=4分=16朱と言う風に以前の米国株式市場の呼値のように4進法になっていますので、明和2朱銀は8分の1両と定められたのでした。これには大きな意味があります。

切り売りしていた銀が貨幣となる事によって銀の価値そのままでは無く、金の代用通貨となった事を意味します。 もう少し言えばこれが紙幣であっても木片であっても幕府の刻印さえあれば通貨として通用するようになったと言う事です。 ここでは銀地銀を銀相場で売却せずとも明和2朱銀8枚あれば金1両と取り替えて貰える金兌換通貨となったと言えます。


こうなると銀貨は銀地銀の価値と無関係になりますから、幕府としては流通する銀貨の量目を低下させて行けばその分財源が潤う事になります。 そして実際にそうして行ったのです。 「幕末外交文書」によると1818年から40年間の間に合計1797万両、年平均45万両の益金を銀の量を減らすことによって(出目)稼ぎ出していたそうです。当時の幕府の歳入は120万両程度であったので益金は歳入の約37%に達していたと言う事です。(幕末ニッポンより) 

天保小判(1837年)は重量11.3g 品位57% 銀も混じっていますが、金は6.44g
天保1分銀(1837年)は重量8.6g 品位99%、4分で1両ですから4を掛けると34.4g
金と銀の交換比率は 6.44:34.4 = 1 :5.34となります。
しかしこれは金銀地金の交換比率では無いのです。幕府によるシニョリッジの為にそうなってしまっただけなのでした。


この当時世界の金銀交換比率は約1:15でしたので重量による交換比率だけに着目すると日本は金の非常に安い国である事になります。 教科書でも日銀HPでも日本の金銀交換比率がおかしかったように記述されていますが正確な記述ではありません。 こうした日本の特殊な国内事情の中、ペリーは黒船にメキシコドル銀貨を抱えて日本にやってくる事になります。

何度も言いますが日本の銀貨は銀の重量に合わせた価値で決まっている訳では無く、あくまで1分銀が4枚あれば金貨と交換できると言う金本位制度下における紙幣と同じものでたまたま銀で出来ていただけの物でした。

ここで不幸にも開国を迎えるわけですが、外人から見れば銀貨と銀貨を同重量で交換できれば日本の金は世界相場の3分1と言う事になり大儲けが出来ると言う訳です。
で、実際にそれを実行しました。 これが幕末の金大流出と言う訳です。 金の国ジパングと言う訳ですね。


長くなりましたが、今の経緯を前提にこの金大流出が何故どのようにして起こったか?丁寧な時代考証を交えながら小説化したのが 佐藤雅美の「大君の通貨」です。教科書では習わなかった日本史があります。

あとがきから少し引用、

週刊誌の特集記事を毎週請け負い、合間合間に人様の代わりに本を書いてさしあげる(つまりゴースト・ライター)という身過ぎをしていた時代がおよそ10年。 そろそろ浮き草稼業から足を洗おう。 しかしその前にせめて一冊、自分の名前が表紙に刷られた本を本屋さんの店頭に並べてから。。。。と安直な気持ちで取り組んで泥沼にはまり、足掛け五年、悪戦苦闘して書き上げたのが本書「大君の通貨」である。運のいいことに第四回新田次郎文学賞をいただくことができた。

書評でありながら本の内容は書きませんが、小説は著者の怨念と言いますか鬼気迫る迫力がある作品でした。既に読まれている方も多いと思いますが、、当時の幕府の無策さは財政難から国債発行と安易に傾斜する現代の政治に相通じるものがあると読後感を持たれる事でしょう。

著者の作品は直木賞受賞作で現代の司法書士と弁護士の役割の公事宿を書いた「恵比寿屋喜兵衛手控え」、小栗上野介忠順の伝記「覚悟の人 」と続けて読みましたがどちらも非常に骨太な作品でした。


小判・銀貨はBOJ HPより、

2010年3月24日水曜日

ファイナンシャル・エンジン Financial Engines



ノーベル賞受賞シャープ氏の投資顧問会社、取引初日は44%上昇

3月16日(ブルームバーグ):ノーベル経済学賞受賞者のウィリアム・シャープ氏が共同創業者の1人である投資顧問会社、米ファイナンシャル・エンジンズは16日、ナスダック市場で株取引が開始され、初日終値は新規株式公開(IPO)価格比で44%上昇した。同社のIPO価格は今年の米企業のIPOで初めて仮条件を上回っていた。


この会社に関しては当ブログ The Intelligent Portfolio で既に紹介してあります。

Twitterにおいても米国IPO関係のタグでは年初あたりから頻繁に投稿されておりました。

実はこの会社は個人投資家相手の証券ビジネスにおいては既存ビジネス・モデルの破壊者でもあります。 証券界にとってGoogleやAmazonのようなインパクトがあると言ってもきっと過言では無いでしょう

この会社を特徴づけるポイントを2つ上げるとすれば、

1。投資工学に沿って合理的に投資家を誘導する
2。投信会社、証券会社など投資家と利益相反する可能性のある企業とは全く無関係で中立である。

上記2つは不可分の関係にあります。

銀行にしろ証券会社にしろ、顧客に投資信託など金融商品を勧める場合、自社商品を一番にお奨めするバイアスがかかる事は言うまでもありません。
いくら商品選択に中立であると謳っても、同期入社がFMをしていたり、販社の商品部門から投信会社に移籍したりと人脈が出来、良い意味で内容が良く分かるから顧客にも奨められると言うような事もあるでしょう。 また販社はボランティアではありません、店舗を構え販売スタッフを維持しなければなりませんから当然販売手数料や信託報酬からコストを回収しなければなりません。従って販売される商品にはそのコスト+利益が上乗せされるのが自明なのです。 ネットを駆使して運用会社や市場情報を収集できる人達ばかりではありませんし、もっと言えばネット証券すら使えない人はお年寄りに限らず大勢います。 それは既存の対面型証券なり、銀行の窓販が一定の勢力を維持している事からも明らかです。

一方でアカデミックに明らかにされてきた事(もちろん反論は多くあります。)、
例えば市場は程度の差こそあれランダム・ウォークである事。
効率的市場仮説では現状のアセット・ミックスと全体市場代表をするインデックス・ファンドが効率的である事。それは、
市場平均を継続して上回れるアクティブファンドは数少ない事。そしてアクティブ・ファンドは市場平均に近いパッシブ・ファンド(インデックス・ファンド)に比較してどうしても運用コストがかさむ事。

もしもこうした理論に従って合理的に投資するのであれば、投資家全体のアセット・ミックスに沿って各アセット・クラスを代表するインデックス・ファンドに投資する事が一番合理的なのです。 そしてそれは既存の余分なコスト、手数料の高い販売会社等は省かれなければなりません。 だからこそ投資アドバイザーは投信会社や販売会社に対して中立でなければならないのです。

フィナンシャル・エンジン社はそれを追求します。 したがって簡単に言えば無駄に手数料の高い投資信託は相手にされません。

この会社は米国401Kと共に成長してきましたが、その過程で安価な投資信託商品を普及を促してきました。 そしてそれは401Kに限らずに勤務先の自社株購入の分析やプラン以外での株式購入の管理にも使用できるように変化を遂げています。 

FPに高い手数料を支払いたく無い人はこの会社と契約すればコールセンターでサービスを受ける事ができます。 その際もこの会社の提供するウェブ・サービスからポートフォリオのリスク等を見ながら保有資産に関するアドバイスを受ける事ができます。 これで知識が中途半端でコストばかりかかるようなFPは相当淘汰されているのではないかと思います。

日本市場に上陸するには未だ機が熟していないように思いますが、いずれ時間の問題でしょう。 この会社の成長段階である2003年以降の株式市場は好調であった為に既存証券への影響は軽微に見えがちですが、市場の低迷期には却ってその存在意義が大きくクローズ・アップされる事は間違いありません。

インパクトは相当大きいと思います。商品企画関係者は早めに研究される事をお奨めします。


PS The Intelligent Portfolioを購入すると1年間ウェブ・サービスを無料で受けられるオマケが付いています。私も半年程使用していますが、これが日本に入ってくると相当な驚異になると同時に投資信託商品の価格革命が始まるかもしれません。




2010年3月22日月曜日

日本開国


しばらくブログの更新が滞ってしまいました。

前々回に書いた「谷のもの ドルの起源」に関して関係書籍を漁っているうちに、どうにも深みに嵌ってしまったようで、この3連休も関係図書を読み続けています。
昨日日本橋丸善で見つけた本、「日本開国 (アメリカがペリー艦隊を派遣した本当の理由)」渡辺惣樹 2009・12 は大変面白い本であったので、紹介しておきます。

本の帯には、米側資料を本格的に取り上げ、アメリカの東アジア戦略(対日・体中)の原型を示した「新・開国史」!とあり、さらに「捕鯨」はたんなる口実だったと印刷されています。 


つまり、米国は我々が、少なくとも私が、学校で習ったように、単純に捕鯨の補給基地を目的として日本に開国を迫った訳では無いようです。1803年のルイジアナ購入や1845年のテキサス併合、48年のカルフォルニア獲得等大西洋側から太平洋に至る当時の米国の国土拡張と英国覇権との競合などの過程で、既に市場となっていた中国、アジア地域への太平洋を通じたルートの確保が大きな目的であったと解説します。

当時未だ確立していなかった太平洋航路を日本と言う空白を埋める事によって安全なものにする事。 これを本文から引用させて貰えば「日本の海がハイウェイとなり、大動脈となった時アメリカの捕鯨船や商船だけでなく他の国も平和的な商業的な繁栄を享受できる。」という太平洋ハイウェイ構想が主目的であったとあります。 因みに括弧で囲まれた言葉はアメリカのロビイスト、アーロン・パーマーが文書中に使用した実際の言葉です。

米国の捕鯨は石油製品の発達で米国が日本に開国を迫った頃がピークであった事、それは鯨の売上内訳の約7割が鯨油であった事など米国サイドの細かい資料を用いて説明されています。 また米国も英国に劣らず中国でのアヘン貿易によって巨利を得た事から「中国には借りが、日本には開国の貸しが」あると言う米国指導者層の底流にある意識を文末で取り上げている点が私の読後感に余韻をもたらしました。 筆者はカナダ在住で、米国での歴史的な資料を細部に渡って調べ、さらに日本での出版物も相当丁寧に読みこなしているようですから、巻末の注および出典だけでも30ページも費やるなど、関連文書の検索には非常に役に立つことも本書のメリットでしょう。 幕末時代の解説書としては1級品だと思います。

また構成もあたかもブログ記事のように1章分を短くとり、200ページ程度の本文で33章を使用するなど工夫がなされ解説書とも小説とも言えるような非常に読みやすい文体となっています。細かい薀蓄が満載ですから飽きずに一気に読める事請け合いです。


2010年3月13日土曜日

日本株は上がるのか?⑪ 日経法人税の記事



今日の日経新聞3面は「法人税下げ、カギは財源」、首相、企業競争力強化に前向き と言う記事があります。

ネットで検索しても出てこない記事だですが、日経電子版が始まればばカバーされるのでしょう。

昨日は自民舛添前厚労省と鳩山首相の間で法人税についてのやり取りがあったようで、これを伝える記事はネットにも沢山出ています。(文末参照)

今日はこの記事を部分的に紹介しておきましょう。

経済開発機構(OECD)加盟30カ国の法人実行税率は26.3%。アジア太平洋諸国では27.49%。 日本の税率は突出して高い。ただ、法人税率を下げるには単純計算で2兆円の財源が要る。

日本の法人実行税率が高い事は、日本株は上がるのか?③実行税率 で紹介しました。 実効税率の低下は経団連や輸出企業関連企業の間では長い間の祈願でしたが、市場関係者の間ではあまり注目されていなかったのが実情です。EPSやROEは税引き後なので、実効税率を下げると簡単にこれらの指標は改善します。 また、単純計算で2兆円と言うのは法人税収入のベースを20兆円と考えていると言う事でもあります。

政府は昨年末まとめた成長戦略の基本方針で「20年度までの平均で名目3%、実質2%を上回る成長」を掲げた。高い成長目標には企業の国際競争力の向上や海外からの投資の積極化が欠かせない。

税金は再分配機能を意味しますから、あえて極端に言えば高い法人税率は「弱い企業は日本にきて下さい援助しますよ。」と言う政府からのメッセージでもあります。 結果、競争力の無い企業が日本に取り残され一部競争力の強い企業が海外への本社機能移転を視野に入れると言うような話しになってしまいます。そしてそれが今の日本の現状でしょう。


この記事には図(参照)が添付されており、サムスン電子がシャープ並に課税されたら、と、アルセロール・ミタルが新日鉄並に課税されたらと言う2つを例示してあります。

アジア勢の税率は韓国24.2%、中国は25%、欧州も30%前後と日本より10%ほど低い。ドイツは08年に38%から29%に下げた。

以前の記事でも紹介しましたが、米国は日本と同じ40%の税率ですが、これらは制度上の税率であり、企業が実際にいくら支払ったかが実行税率です。

米国ではLLCなどパス・スルーの発達で、国内に事情主体のあるウォルマートで33.5%、グーグルの実行税率は23%でしかありません。(日本株は上がるのか?③実行税率

法人税下げは必ずしも「企業優遇」と言う視点だけで語るものでは無い。

私は日本を貧しくしてきたのは高すぎた法人税だったと思います。法人税下げの議論は国内投資家よりも海外投資家に大きな影響を及ぼすと思います。なにしろROEやEPSが一気に改善しますから。 さらに企業価値での計算は複利であった事を思い起こせば株価に対するインパクトはかなり強いものがあります。  実は日本株は上がるのかシリーズの最後の結論は法人税の下げを実行すれば日本株は上がるだろうと言うものだったのですが、是非実現して欲しいものです。

EU税率下げ税収は減らず。 森信茂樹・中央大学法科大学院教授
欧州連合(EU)はこの10年間で法人税を約10%下げたが、税収は落ちていない。
が小コラムで紹介されております。



官房長官、法人税下げ「次回税制改正で議論」
反執行部2氏、政策アピール 自民、遠い結束
首相、法人税下げに意欲 「減税に導くのが筋」参院委で答弁
首相と舛添氏、税制論議で意気投合 菅氏はピリピリ


2010年3月11日木曜日

谷のもの  ドルの起源


チェコは銀山の多い国ですが、ドイツとの国境近く、ボヘミア地方にあるエルツ山脈(これ自体が鉱石山脈と言う意味なんですが)のふもと聖ヨヒアムタール(Sankt.Joachimstal:現ヤーヒモフ)で16世紀に銀山が発見された事にドルの起源は始まります。 この地名、ドイツ語読みでは「谷」を意味するタールとも呼ばれていました。 ここの地主のシュテフェン・シュリックは、1517年からその産出銀を用いて当時ヨーロッパ社会で国際通貨として流通していたフローリン金貨と等価で通用する大型で品位の良い銀貨を鋳造させました。 (当時の金銀交換比率は1:12) 通貨不足もあり、たちまち欧州全体に流通し、その他の銀貨の基準的存在になります。

この銀貨のことをドイツ読みで「谷のもの」 Thaler(ターラー)と呼ばれるようになり、スペインに渡りDolera(ドレラ)、イギリスではDoller(ダラー)と呼ばれるようになりました。 因みに日本に到達した時には通詞がドルラルと読み、その後省略されてドルと呼ばれるようになったそうです。




このチェコの谷の銀は17世紀半ばには寂れてしまいますが、1789年になるとドイツ人化学者Martin Klaprothが鉱山跡からウランを発見します。当時のウランはオレンジや黄色の色を出す為の釉薬として使用されていましたが19世紀末になるとこのウラン廃鉱をトン単位で取寄せラジウムを抽出した人がいます。 それがキュリー夫人だったそうです。色々なものの発祥の地なんですね。

さて本題に戻りましょう。スペインではこの銀貨を手本にスペイン・ペソ銀貨を鋳造します。因みにペソとは1日分の仕事の意味だそうですが、イギリスではこの銀貨をスペイン・ドルと呼んだのでした。

コロンブス以降中南米植民地化を推進したスペインでは1520年頃のメキシコ、1530年頃のペルー等銀鉱山が開発され、さらに精錬技術である「水銀アマルガム法」が開発された事もあり、一気に大量の金銀が欧州に流入しました。 この時の金銀の流入で貨幣価値が一挙に3分の1に下がった事を、欧州の「価格革命」と呼んでいます。また同時に金銀交換比率は1:15~16になったそうです。 この時植民地ではスペイン王カルロス1世の命により本国の造幣規則によって銀貨は鋳造される事になります。

特にメキシコ・ドルは1535年から1903年迄に35億5000万ドルの鋳造高を誇りますがその間も品位を保った為に、貿易用の国際通貨として太平洋エリアでおおいに流通します。

一方でスペイン無敵艦隊を打ち破った英国は重商主義に走り金銀貨の海外流出を激しく制限しますので、当時の植民地米国ではポンド通貨量の量的な不足になやまされる事になり、このメキシコドルが広く使われる事になりました。 米国は独立時に英国に反旗を翻した事もありますが、スペイン系の銀貨が流通していた事もあり1776年の独立時には通貨の単位にポンドよりもドルを選ぶ事となったようです。本当はペソなのに銀貨を英語でドルと呼んだからなんですね。

米国での証券取引はカーブと言って取引所が出来る以前にも取引は行われていました。NY証券取引所の走りと言われるブローカー同士の決め事のBottonwood Agreementは1792年にウォール街68番地で締結され取引が円滑に行われるようになります。 ちなみに現在のNYSEの建物は1903年の建設です。 
少し前まで米国株の呼値は八分の1単位だったのを憶えていますでしょうか? 16-1/8ドルはSixteen one eighth(ワンエース)と呼んでいました。 これはこのメキシコ1ドル銀貨をペンチやタガネで切る時に半分ずつ切っていくからなんですね。1/2→1/4→1/8。10等分に切るのは難しかったから半分また半分と切っていったのだと聞きました。因みにカーブは歩道とか道端ですが、アメリカン取引所の事をカーブと呼んだりします。

考えてみればこうした金銀の価値を基準にした本位通貨では為替レートは必要ありませんよね。 基軸通貨と言う概念はありませんが、貿易と言う意味では共通通貨であった訳です。 

ユーロ統合以前に、統合を否定的に分析した米国経済学者が多かったのですが、米国の通貨統合に150年も要したので、ユーロもそう簡単には行かないと言う論文が数多く出されたそうです。 此処で言う米国における通貨統合とは「独立から1913年に設立された連銀が機能し始める1930年代の間」を指すようですが、私は上記の理由で少しストーリーに違和感を感じました。 まあ、それが原因でこんな事調べている訳ですけれど。

日本に話しを向けると、幕府は長崎の出島でオランダとのみ貿易を行っていましたが、当時のオランダの通貨はデュカットです。これはベネチアのデュカット金貨(金3.5g)を由来としていまして最初に登場したフローリン金貨の仲間です。 

1853年ペリーが浦賀に現れた時も決済通貨にメキシコ・ドルラル(洋銀)を持ってきました。実は、日米和親条約締結以前に停泊中のペリー艦隊から飲料水、鶏、家鴨、卵、野菜と言った生鮮食品、燃料の依頼があって幕府としては人道的意味かどうかは分かりませんが黒船にこれらを供給しています。これに米国もタダでと言う訳にもいきませんから金銀銅貨混ぜて350ドル程支払いをしています。値段はアメリカの言い値のようですが、幕府ではさっそくこれらの硬貨を持ち帰って成分分析をしていますが、後ほどわかった事では、米国側ではこの時悪貨を選んで支払いにあてたようで、含有量が基準より低いものばかりであったそうです。

さて、メキシコ・ドルは中国に渡り、中国では硬貨が円(まる)かったからでしょうか、これを「銀圓」と呼びました。中華民国が成立した時にメキシコドルと同質の銀貨を発行し貨幣単位を「圓」(yuan)としたのですが、画数が多い為に書きにくいのでYUANと同じ発音の「元」がこの時使われるようになり、今に至っているそうです。 また「圓」は韓国語でウォン。「円」の字は日本のオリジナルだそうです。 

こうして見ると結局各国通貨どれもこれも「谷のもの」の親戚だったのですね。   

どうして日本は円になったかはまた次回にでもしましょう。


ではまた、

参考文献;
ウォールストリートの歴史 チャールズ・R・ガイスト
江戸の貨幣物語 三上隆三
コインの散歩道 しらかわ ただひこ氏

+wiki


ユーロで起こっている事


ギリシャ問題に代表されるPIIGSの問題をどうとらえれば良いだろうか。

昨日はポルガル国債の入札が順調に推移した事から、ギリシャ債務危機の波及に対する投資家の懸念後退が示唆されユーロは一時的に安定しています。
一方でユーロ加盟国がユーロ参加条件を順守できずに、例えば今回のギリシャのように財政規律を保てないような場合にどう対処すべきか?と言うような根本的な問題は解決への緒すら未だ見つかっていないと言うのが現状でしょう。

ドイツでは放漫財政によって勝手に苦境に陥っている国を何故ドイツ国民が尻拭いせねばならないのかと言う論調が高まっていますし、それに応じてユーロのプライドとして参加国がIMFの支援を受けて欲しくないとの考えから欧州通貨基金(EMF)の設立等の案が出されています。しかしこれにも独仏の対立が絡み一筋縄ではいかないようで、根本の問題は金融政策は共通であるのに再分配機能である財政政策が個別に採られている点にあるようです。

もしもユーロと言うユーロ圏単一の通貨では無く、ユーロがドイツの通貨であり、その他の国はこのユーロにペッグしているだけと仮定してみましょう。
ギリシャは旧通貨ドラクマ。 財政赤字が拡大しドラクマの信用が維持できなくなると通貨の切り下げをしなくてはなりません。 従って例えば公務員の給与が一定であれば、ユーロ建てである物価は上昇する事になり購買力は下がる事になります。 しかし通貨側が一定であれば、逆に給料を下げてつじつまをあわせる事になります。
今回のギリシャの財政赤字削減策の中に公務員給与の削減、ボーナス・カット等で、都合30%の削減となるようですが、民間にも波及して全体の購買力の調整と言う形になるでしょう。 要するに形を変えたインフレが起こりギリシャ国民は倹約生活を強いられる事になります。

もしこれが財政政策も共にする一国の中で起こっているのであれば、再分配機能が働き、ギリシャの赤字を埋めて上げられるのでしょうが、事はそうは簡単に行かない訳です。 特にドイツ国民から見れば節度のある財政、見の丈に合わせた消費活動を行って行っているのに、放漫な怠け者の連中の面倒を何故俺たちが見なければならないんだ、と言う雰囲気が充満し救済に関して国内のコンセンサスを得るのは簡単では無いようです。 倹約を強いられるギリシャはWW2時のドイツのやった事を持ち出し賠償を仄めかしたり庶民レベルではハーケンクロイツを持ち出したりもしているようです。

同じ問題は経済の弱い順に発生して行く訳で、日本で見る映画そのまま、いい加減な(規律に対して順応しにくい)順に問題が発生していくと言う話しになっています。従ってこの問題は簡単に終わる事のできない問題ですから中長期においていずれにせよユーロは対ドルで弱含んでいくと考えられるでしょう。



しかしこの問題も今回の危機の原因となった民間と家計の過大な債務を政府部門が肩代わりした事がきっかけで露呈した問題ですから本質は、世界中共有の政府債務解消の問題と同一です。 日本がどの順番に入るのかは定かではありませんが、英国、米国も決してよそ事では無いと思います。

今は政府部門が肩代わりした流動性によって株式部門も堅調ですし、上方修正される企業収益予想、昨日の日本の機械受注と目先はお天気が続きそうですから何も腰を引かなくても良いと思いますが、根底にくすぶる問題は着実に肥大化するのでは無いでしょうか。 チャートのトレンド・ラインの切れる頃には注意ではないかと思います。



映画でドイツとギリシャと言えばケファロニア島虐殺事件を取り扱った「コレリ大尉のマンドリン」でしょうか。

2010年3月10日水曜日

消費税 日経経済教室から


現在の国債増発に関する議論はともかく、来年も数十兆円の増発は不可避な状況です。
ここでインフレが想起され国債金利の上昇が招来されるのかしないのか議論はわれていますが、結局のところそうした臨界点はいずれはきそうだが何時かは分からないと言うのがこうした議論の途中経過では無いでしょうか。

日本の財政赤字がマネージできると言う論拠になっているのは、日本国債は95%が国内投資家によってファィナンスされ対外債務では無い事。 ましてや日本の外貨準備は巨額であるから国としてのデフォルトは無いと言うところにあります。 しかしこれもGPIF(年金)の資産がここから減少過程に入る為に国債が売却される事等足元から不安な要素がたくさんあるのも現実です。  そうした中で「何とかなる論」の根拠としては、国債の償還原資となるべき国による徴税権に余裕がある。 つまり欧州各国と比較した場合の付加価値税(消費税)率が低い事にあります。

現政権が4年間の消費税増税凍結をマニュフェストに盛り込んだが為に、国債暴落に対する懸念が増大している訳です。 従って財政赤字削減の為に歳入増(増税)を含む処置さえ指呼の間に見えて気さえすれば国民の将来に対する不安も緩和され、海外投機筋による日本国債ショート・ポジションの成功確率も低下していく事になります。

おりしも前回紹介したケネス・ロゴフによる日本だけでは無く世界中の財政赤字のもたらす歴史的、統計的なその後の害悪が大きく喧伝されている中、合理的で毅然とした政策を提示できれば赤字の規模に関わらずこうした今は漠然とした財政破綻、国債暴落懸念は後退する事になります。 

そうした中、昨日3月9日の「日経 経済教室 消費税を考える」 吉川洋 東京大学教授 の記事が日本の財政赤字に関する議論の整理に役に立つのではないかと思います。

記事のポイント
  • 経済成長だけで財政再建は達成できない。
プライマリーバランスを黒字化するには歳出を削減する必要があるが、2000年代の歳出の主役は公共事業では無く社会保障関係費である。

  • 消費税で日常の消費が社会保障へシフト
結局増税分は社会保障費関係費になるので社会保障目的税化するのが望ましい。

  • 制度の将来象明示した時が引き上げ時期
国民にとって社会保障制度がわかりにくい事がネックになる。明確なビジョンを立て意味を国民に理解してもらえれば日常の消費から国民全体でプールした社会保障サービス購入への消費パターンの変更と言う事で景気への影響は小さくなる。


細かい議論をする前に消費税増税がファースト・プライオリティであり、当たり前の基本的になさねば成らない事だと思うと同時にこの記事は頭の整理になると思います。











2010年3月8日月曜日

Japan’s Slow-Motion Crisis ケネス・ロゴフ


3月5日にマンキューブログが紹介した、ロゴフのProject Syndicateに掲載されていた記事を意訳しておきました。

気軽に始めたのですが私には結構難しかった、この人は読むのは難しく無いのだけれど、日本語化は簡単では無いように思います。 間違いは指摘していただけると勉強になります。

Japan’s Slow-Motion Crisis
Kenneth Rogoff  2010-03-02


TOKYO – If you listen to American, European, or even Chinese leaders, Japan is the economic future no one wants. In selling massive stimulus packages and bank bailouts, Western leaders told their people, “We must do this or we will end up like Japan, mired in recession and deflation for a decade or more.”

もし米国、欧州や中国の指導者達に聴くならば、日本こそが誰も望まない将来の経済的な姿だろう。大型の景気刺激策や銀行救済を納得させる過程で欧米の指導者は国民にこう言う、「我々はこれをしなければならない、さもなくば、リセッションと10年以上もデフレーションから抜け出せない日本みたいになってしまうぞ。」

Chinese leaders love pointing to Japan as the prime reason not to allow any significant appreciation of their conspicuously undervalued currency. “Western leaders forced Japan to let its currency rise in the second half of the 1980’s, and look at the disaster that followed.”

中国の指導者は彼らの極端に過小評価された通貨に対するいかなる上昇をも許容しない理由の一番として日本を指摘する事を好む。「1980年代後半に欧米諸国は日本に対して通貨の切り上げをさせた、その後のひどい有様を見てみろ。」

Yes, nobody wants to be Japan, the fallen angel that went from one of the fastest growing economies in the world for more than three decades to one that has slowed to a crawl for the past 18 years. No one wants to live with the trauma of the deflation (falling prices) that Japan has repeatedly experienced. No one wants to navigate the precarious government-debt dynamic that Japan faces, with debt levels far above 100% of GDP (even if one factors in the Japanese government’s vast holdings of foreign-exchange reserves.) No one wants to go from being a world-beater to a poster child for economic stagnation.

そう、誰も日本にはなりたくは無いのだ、堕天使は30年以上に渡って世界で最も急成長していた経済からここ18年間の這いずり回るような速度に落ちてしまった。 誰も日本が繰り返し経験したデフレーション(価格下落)のトラウマと一緒に暮らしたいとは思わない。誰も日本が直面する対GDP負債比率が100%を越える不安定な財政赤字の動きをやり繰りしたいとは思わない。(例え日本政府が巨額の外貨準備高を持つことを考慮してもだ。) そして誰も世界の第一人者から、停滞のイメージ・キャラクターに成り下がりたいとは思わないのだ。


And yet, visitors to Tokyo today see prosperity everywhere. The shops and office buildings are bustling with activity. Restaurants are packed with people, dressed in better clothing that one typically sees in New York or Paris. After all, even after nearly two decades of “recession,” per-capita income in Japan is more than $40,000 (at market exchange rates). Japan is still the third-largest economy in the world after the United States and China. Its unemployment rate remained low during most of its “lost decade,” and, although it has shot up more recently, it is still only 5%.

それでも、最近東京を訪れた人はここかしこに繁栄を見るだろう。店舗やオフィスは活気に満ちている。レストランはニューヨークやパリで一般に見かけるよりも良いものを着てる人達で埋まっている。 結局のところ、20年に及ぶ「リセッション」の後でも一人当たりの収入は4万ドルを越えているのだ。(今の為替で) 日本は米国、中国に次ぐ3番目の経済大国である。失業率は「失われた10年」のほとんどの期間で低く推移したし、最近急上昇したがそれでも未だ5%でしか無い。

So what gives? First, things look a lot grimmer when one gets two hours outside of Tokyo to places like Hokkaido. These poorer outlying regions are hugely dependent on public-works projects for employment. As the government’s fiscal position has steadily weakened, the jobs have become far scarcer. True, there are beautifully paved roads all around, but they go nowhere. Old people have retreated to villages, many growing their own food, their children having long abandoned them for the cities.

一体どうなってるんだ? 第一に東京から2時間程で行ける北海道のような所に行けば物事はもっと暗い。こうした中心部から離れた地域では雇用を公共事業に大きく依存している。 政府の財政状態が徐々に弱るにつれて、仕事はますます乏しくなっていく。そう、綺麗に舗装された道路がそこかしこに在るのだが無駄になっている。老人達は村に引篭もり、食べ物は自給している、子供達は都会にいて長い間彼らを見捨てている。

Even in Tokyo, the air of normalcy is misleading. Two decades ago, Japanese workers could expect to receive massive year-end bonuses, typically amounting to one-third of their salary or more. Now these have gradually shrunk to nothing. True, thanks to falling prices, the purchasing power of workers’ remaining income has held up, but it is still down by more than 10%. There is far more job insecurity than ever before as firms increasingly offer temporary jobs in place of once-treasured “lifetime employment.”

東京でさえ本当の状況は誤解されやすい。 20年前、日本の労働者は年間給与の3分の1もしくはそれ以上の巨額な年末ボーナスを期待できた。 今では段々ゼロに近づいている。 実際には物価の下落のおかげで可処分所得の購買力は維持されているが、それでも未だ10%以上は減っているのだ。 一時は宝物とされた「生涯雇用」に代わって企業が非正規雇用者を増やしている為に以前よりもずっと多くの雇用が不安定になっている。

Although hardly in crisis (yet), Japan’s fiscal situation grows more alarming by the day. Until now, the government has been able to finance its vast debts locally, despite paying paltry interest rates even on longer-term borrowings. Remarkably, Japanese savers soak up some 95% of their government’s debt. Perhaps burned by the way stock prices and real estate collapsed when the 1980’s bubble burst, savers would rather go for what they view as safe bonds, especially as gently falling prices make the returns go farther than would be the case in a more normal inflation environment.

まだ危機とまでは言えないが、日本の財政状況は日々危険の度合いを深めている。長期債務においてさえ微々たる利子率にも関わらず、政府は今までのところ巨額の負債を自国で賄えている。 特筆すべき事に日本の一般の投資家は政府債務の95%を引き受けている。 多分1980年代バブルの破裂時に株式や不動産でひどい目に合わされ、投資家は彼らの考えるところの安全な、特に穏やかに下落する物価がより通常のインフレ環境の場合よりもリターンを押し上げるであろう債券に向かわせているのだろう。


Unfortunately, as well as Japan has held up until now, it still faces profound challenges. First and foremost, there is its ever-falling labor supply, owing to extraordinarily low birth rates and deep-seated resistance to foreign immigration. The country also needs to find ways to enhance the productivity of those workers it does have.

日本はこれまで何とか持ち堪えて来たが、不幸な事にまだ深刻な挑戦に直面もしている。 何よりも先ず、極端に低い出生率と深く根ざす海外からの移民への抵抗により低下を続ける労働供給力。また日本は既存の労働力の生産性をテコ入れする方法を模索しなければならない。

Inefficiency in agriculture, retail, and government are legendary. Even at Japan’s world-beating export firms, reluctance to confront the ingrained interests of the old-boy network has made it difficult to prune less profitable product lines – and the workers who make them.

農業、小売に政府部門の非効率性は伝説的だ。 日本の世界を席巻する輸出企業でさえ深く根差した老人ネットワークの利権に対峙したがらない事が利益率の低い製造ラインとそれを製造する労働者の削減を困難にしている。

As the population ages and shrinks, more people will retire and start selling those government bonds that they are now lapping up. At some point, Japan will face its own Greek tragedy as the market charges sharply higher interest rates.

人口が高齢化し減少するにつれ、多くの人達が引退し、現在保有している国債を売り始める。 いつかの時点で、日本は市場が極端に高い利子率を要求すると言うギリシャ悲劇にまみえる事になるだろう。


The government will be forced to consider raising revenues sharply. The best guess is that Japan will raise its value-added tax, now only 5%, far below European levels. But is it plausible to raise taxes in the face of such sustained low growth?

政府は急速に歳入を増加させねばならない。 最も考えられるのは、消費税の増税だろう、現在5%で欧州各国より遥かに低い水準だ。
しかしながら、低迷する経済成長下での増税に説得力はあるのだろうか?

Investors who have bet against Japan in the past have been badly burned, grossly underestimating the Japanese people’s remarkable flexibility and resilience. But the fiscal road ahead looks increasingly perilous, with political consensus fraying badly in recent years.

過去日本に刃向かった投資家はひどくやけどを負った。 日本人の特筆すべき柔軟性と回復力に対しておおきく過小評価していたからだ。
しかしこの先の財政問題は、近年の政治的なコンセンサスの悪化するほつれと相まって、危険が増しているように思はれる。

In the end, are foreign leaders right to scare their people with tales of Japan? Certainly, the hyperbole is overblown; the Chinese, especially, should be so lucky. But nor should apologists for deficits point to Japan as reason to be calm about outsized stimulus packages. Japan’s ability to trudge on in the face of huge adversity is admirable, but the risks of crisis ahead are surely greater than bond markets seem to recognize.

最後に、日本以外の指導者達に日本の物語をもってその国民達を怖がらせる資格があるのだろうか? 確かに誇張は度が過ぎる、特に中国は単にとても運が良いだけなんだろう。また、財政赤字の弁明者は巨額の財政支出問題を静める理由で日本を引き合いに出すべきでは無い。 日本の酷い逆境に直面した時の持久力は賞賛に値する一方で、目前にある危機のリスクは債券市場が認識しているよりも間違い無く大きい。

以上



それから これに関連して、



himaginaryの日記



ロゴフとラインハートと共著の”This Time Is Different: Eight Centuries of Financial Folly"は最近の各国財政赤字問題では欠かせない書籍でしょう。










未だ読み終えていませんが。。。

2010年3月7日日曜日

シミュレーション ⑦ バッフェット


今朝届いた日経ヴェリタス 3月7日~13日号は「バフェット80歳 新境地」と題してバークシャーの特集記事が1面を飾っています。有名な「バフェットからの手紙」の読みどころなど、結構良く出来た記事なので、バフェットファンは見逃せないところでしょう。レオス・キャピタルの藤野さんもコメントを寄せております。

当ブログでは、シュミレーションで使用した幾何収益率などデータ面からバークシャーを見てみましょう。

データはYahoo USAから、比較対象のトータル・リターン・インデックスとしてMSCI USAのスタンダードコア指数を選びました。配当再投資の大型中型株指数です。

バークシャーにはBRK-Aと個人投資家用に単価を落としたBRK-Bがありますが、ここでは90年からデータの取れるA株を対象に分析します。有り難い事にバフェット本人は配当の無い株は嫌いですが、バークシャーは無配当ですからこれがそっくりトータル・リターンとなります。


先ず取得した2銘柄のデータの数値をバークシャーの方に揃えて視覚的に見やすくしておきます。
1990年1月からのスケールを揃えたグラフです。この時点で凄いですね。


かなりアウトパーフォームしているのが簡単に分かります。

ここで仮定として90年代後半のバッフェット・ブームですっかり熱くなって思わず高値に飛びついた投資家がいるとしてその後彼はどうなったのか? 98年6月を起点とする両者の比較が次のグラフです。

ご存知のように理解できない物は投資しないとITブームに背を向け2000年までは厳しい状況下にいましたから、98年に飛び乗った投資家は辛い思いをしたはずですが、ブームの終焉と共に追いつき今ではその差を拡大中です。 時に今回の暴落時にはキチンと仕込んだようで、戻しの速度には大きな差が見られますね。

ここで幾何収益率を計算して期待収益率を考えてみましょう。
バークシャーとMSCIUSAの1990年を起点とする幾何収益率の時系列のグラフです。
グリーンの線が両者のスプレッドですが、5%前後で安定してきています。
バークシャーは株価そのものですから、運用報酬とかその他の経費とか一切込です。株式委託売買手数料がコストですね。さらに日々流動性を持つ上に途中での配当課税がありませんから、スペックとしては申し分が無い。


ここで得られた期待収益率を5年先まで延ばすと。
バークシャー 14.83%
MSCI USA  8.68%

対数グラフで見ると。
全くもってランダムウォーク理論を虚しくしてしまう継続的なパーフォーマンスですね。

最後に1万回シミュレーターに入力してて5年後の分布を見てみましょう



確率的に上からも下からも半分の位置にある中央値はバークシャーは5年後に倍。 MSCIは1.5倍
バークシャーは最頻値でさえ59%の収益となっています。

もちろんこれらは「今までの傾向が続くならば。」の話しですけれど。

バフェット氏の凄さがわかりますね。


最後のシミュレーターはファィルサイズが大きすぎてグーグル・ドキュメンツにはアップできませんでした。今後工夫してみます。

続く、



2010年3月6日土曜日

シミュレーション ⑥


前回まではMSCI KOKUSAIの時系列データを使用して対数収益率と対数値の差分の標準偏差を計算する事で、対数値を入力し正規分布を作成、それを対数正規分布化して実数に変換しました。

これまでやってきた事は、
対数収益率の平均、標準偏差が既知である時。
つまり正規分布の平均、標準偏差が既知である時。
μ:正規分布の平均値
σ:正規分布の標準偏差
とすると、

対数正規分布の平均μ'、標準偏差σ'は、
平均 μ'=exp(μ+(σ^2)/2)
標準偏差 σ'=sqrt(exp(2μ+σ^2) x (exp(σ^2)-1))

ここで、

平均収益率(期待収益率)が5%、標準偏差20%の証券があるとします。
一般にこれらの計測値は、実数値での計測だと推察されます。

実数値では収益率は対数正規分布していますから、正規分布に戻してシミュレーションにかける必要があります。

ここでは上記の式と逆方向の変換になります。

対数正規分布の平均μ'、標準偏差σ'が与えられれば、
平均 μ=LN(μ')-LN((σ'^2)/2+1)/2
標準偏差 σ=Sqrt(LN((σ'/μ')^2 + 1))

したがってシミュレーションに入力すべき正規分布の値は、
期待収益率 3.1%
標準偏差 18.9% になります。



数学的にこれで正しいと思います。

試しにスプレッドシートのコラムC19、つまり、対数正規分布の標準偏差に40%を入れてみましょう。仕手株やテクノロジー株の一部でありえる数字です。

すると正規分布の期待収益率は-1.9%になります。  数学的に正しいのですが、違和感が少しのこります。 当ブログのEGRPなんかもこの問題をついてはいるのですが。



しかしアナリストが成長率を予測したり、GPIFなどがブロック・ビルディング方式や過去収益率で期待収益率を計算する時に収益率の平均値を意識しているでしょうか?

アナリストの予測する成長率は(1+r)^Nですし、5年後を見据えた期待成長率はやはり平均値では無く(1+r)^5 で実務的には予測します。

つまり通常期待成長率は中央値をさしている事が多いと言えます。 もちろん何も断りはありませんし、額面通り受けとれば平均値と受け取るのが正しいでしょう。ましてや標準偏差は対数正規分布の実測値ですから上記式で正規分布に変換する必要があります。

一方でヘッジファンドも含めたファンドでは、ベンチマークとの勝ち負けが気になりますから月次収益率の一覧表のような形式が多く、それらの平均値を求めがちです。
月次平均収益率を12倍されたらたまりません。 シミュレーション④のKOKUSAIインデックスの平均値以上になってしまうでしょう。

したがって期待収益率の扱いには注意が必要だと言う事です。
もしそれが中央値を意味しているなら、つまり(1+r)^N なら、期待収益率は
μ=LN(μ')だと言う事です。μ'は1+数値です。

一方で標準偏差20%で5年だから、20% x √5 = 44% だと計算する人がいますが、これも小さい数字であれば問題ないのですが、実際には期待収益率の影響を受けますのでリスクを過小評価してしまう可能性があります。

また、デリバティブスを業務としていると普通に収益率やボラティリティ(標準偏差)に対数を使用しています。 ボラティリティと言う表記があればLN(N期の価格/N-1期の価格)だと考えると思います。


2010年3月5日金曜日

シミュレーション ⑤


時間がまだあるようですので、一気に片付けましょう。

前回のシミュレーション④では、MSCI KOKUSAI円換算の期待収益率と対数標準偏差を過去データから計算によって入手する事ができました。

期待収益率 6.1083%
標準偏差  20.9326%

これをシュミレーション②で作成したシートに入力してみましょう。

シートがこれです。 できればもう一面WEBプラウザを立ち上げて見て下さい。


先ず上のシートですがセルE15のマイナス1標準偏差を見ていただくと、3年目をボトムに徐々に収益率が回復して行く傾向が見えますね。



そして下のシートではマイナス2標準偏差では半分やられたところでほぼ低下傾向は打ち止めになっています。

2標準偏差は95.44%ですから半分以上やられる人は2.45%ぐらいしかいないと言う計算になります。
また確率的に真ん中の人、100人いたら50番目の人は10年後に84.2%の収益を上げている事になります。

ナイトの不確実性やブラック・スワンはどうしたとかは別の問題ですのでここではやめておきましょうね。


ここで一つ大事な点ですが、シミュレーションは対数収益率が正規分布する。そしてその結果収益率は対数正規分布すると言う事です。
従って、下の表でのコラムH33からH43までの対数分布の標準偏差は対数収益率が正規分布した結果であって、この数字が大きいからと言って調整されるべきものではありません。 また平均値=期待値ですが、平均値も対数値を実数に戻した結果であって、投資家の知りたい確率分布の中央値では無いと言う事です。

1世帯当たりの貯蓄額等の統計を取ると、平均値は庶民の実感よりも多めの数字がでます。  これは少数のお金持ちが多く貯蓄しているために平均値が上がるのであって中央値は低くなる事と同じだと思います。 したがって期待収益率6.1083%のKOKUSAIは10年後にくらになるのか? と質問されれば対数関数を実数化した平均値では無く、中央値で答えるべきで10年後の中央値は84.2%だと私は答えます。 そしてその数値は、実数に戻した収益率exp(6.1083%)-1=6.30%、( 1+6.30%)^ 10 - 1= 84.2%に一致するのです。

もうひとつグラフを作っておきましょう。
KOKUSAIのヒストリカルのグラフに予想を重ねてみます。


過去の幾何収益率のトレンド線が直線で将来に伸びていき、それを中心に確率分布が拡がって行く。
整合性が高いと思いませんか?

これのシートはここですが、Google Docsに対数グラフの機能が未だ備わっていませんので、数字だけです。



シミュレーション ④



期待収益率と標準偏差

日本株は上がるのか? シリーズが中途半端になっていますが、終わった訳ではありません。 このシミュレーション・シリーズは日本株を考える上で重要な役割をする事になります。

さて、前回シミュレーション③でMSCIのJAPANとKOKUSAIのデータを取得しましたが、ここではKOKUSAIのデータを使用してシミュレーションに入力すべきデータについて考えてみましょう。

期待収益率

期待収益率は、あなた自身でも良いし誰かプロの予測する予想収益率でも構いませんが、シミュレーションではその確率分布と言う意味になります。 つまり予想されるインデックスのピンポイントでは無く、そのピンポイントを中心にどのくらいの確率で分散した範囲を取ると予想されるか?と言う意味あいです。 ここでは予想収益率には誰かの予測した収益率では無く、過去から連綿と続く収益率トレンドの延長線上で考えてみましょう。 株式のリスク・プレミアム等を考える時にもヒストリカル・アプローチとして通常使用されるやり方です。

収益率の計算をする時にはどのように計算するでしょうか?
今期の資産価格 ÷ 前期の資産価格 - 1=収益率 ですよね。

以前にも説明しましたがここでは算術平均と幾何平均でMSCI KOKUSAI円換算を計算してみましょう。

1。算術平均
以下の収益率の平均値 
収益率(リターン)=今期の価格 ÷ 前期の価格 - 1

2。幾何平均収益率
以下の収益率の平均値を exp関数で対数関数から実数に戻す。
LN(価格変動率)=LN(今期の価格 ÷ 前期の価格)
=LN(今期の価格)-LN(前期の価格)

上記2つの方法で計算します。

スプレッド・シートはここですが、エクスプロラーでもグーグル・クロームでも良いですからWEBプラウザをもうひとつ開いておくと分かりやすいと思います。
Google Docsに入ると上のメニューにViewがあります。ここのShow formula barをクリックして戴くとセルの式を見る事ができます。

まずコラムAには年度、BにはKOKUSAIの円換算指数が入っています。
コラムCとDは後回しにして、コラムFを見て下さい。

コラムF は収益率(リターン)=今期の価格 ÷ 前期の価格 - 1
コラムG はLN(価格変動率)=LN(今期の価格 ÷ 前期の価格)

最後のロウにaverage関数で平均値を計算してあります。

コラムCはFの最後のロウにある平均値つまり算術平均、8.5%を (1+r)^年数 で計算してあります。
コラムDはGの最後のロウにある平均値つまり対数収益率をexp関数で実数に変換して、
exp( 0.061) - 1= 0.063  6.3%を(1+r)^年数 で計算してあります。

そしてそれをグラフ化したのがこれです。 Y軸は対数化してあります。
KOKUSAIの2009年末の円換算値は4,144.06、1969年末が360。
360 x ( 1 + 0.0629873) ^ 40年 = 4,144.056

このグラフのトレンドを継続したいのであれば、幾何平均、年率6.3%の期待収益率が相応しい事がわかると思います。そしてそれに対応するのが対数収益率であるセルG46の6.1%です。



標準偏差

セルF3は 1。の収益率の標準偏差をstdev関数で計算してあります。通常この方法でリスク計算するように教科書等では書いてあると思います。
セルG3は 2。のやり方で計算された対数収益率の標準偏差をstdev関数で計算してあります。 さらにコラムHはコラムBのKOKUSAIの数字をLN関数で対数化したものの差分を計算してあります。 単純にLN(今期KOKUSAI) -LN(前期KOKUSAI)です。 I3はこの差分をstdevで計算した標準偏差です。 これは対数収益率の標準偏差と一致します。

シミュレーションは対数収益率が正規分布を取る時、収益率は対数正規分布となる事を前提で考えます。 その時将来のKOKUSAIインデックスも対数正規分布に従います。従ってシミュレーションに入力する期待収益率は対数収益率、標準偏差は対数収益率の標準偏差です。

シミュレーションに入力すべき期待収益率はセルG46の対数収益率6.1%、グラフで使用した6.3%からでもLN(1+6.3%)で戻せます。

標準偏差(リスク)はセルG3の対数収益率の20.93%である事は自明です。

下のグラフはY軸を対数化していないグラフです。(実はGoogle Docsのグラフ機能では出きない)
右肩上がりのグラフから収益率が対数であり、インデックスが対数で分析した方が良い事が分かりやすいかと思います。





シミュレーション ③


MSCI Japan と KOKUSAI ex JAPAN

シミュレーション ②では都合よく、連続複利収益の期待収益率が5%、標準偏差20%とデータがあった訳ですが、現実の世界や金融の営業の世界でそんな数字はありませんよね。  銀行の窓口で「お利息は3%です」と言われて、「すみません、それは連続複利収益率でしょうか?」などと聴く人はいないでしょう。 金融業界にいてもたぶん就業人口の99%以上の人には関係の無い話しだと思います。 ですからこのブログを読んでもこの手の知識が使えるのはシミュレーションかマニアックにBSモデルを勉強するかぐらいなのかもしれません。

私も金融は長く働いていますが、所謂クォンツの研究者ではありません。 関係する仕事をしてきましたし、モデルの結果をプレゼンするような事をしてきましたが、こうして自力で探索していると色々と分からない不明瞭な事に遭遇します。 シミュレーションはそういった意味で私にとって様々な問題が浮かび上がってくると共に良い意味での知識の整理になります。従って「こうである」と断言している訳では無く、こう考えると言う意見表明でしかありませんから違う見解があってしかるべきです。指摘して戴くと勉強になります。

それとできるだけ注意はしていますが、仕事でやっている訳では無いので、チェックしてくれる人もいませんから、計算等は良く間違えてます。 そのあたりは考慮しておいて下さい。


では本題に、

ある投資家が、期待収益率が5%で、標準偏差が20%のポートフォリオを持っているとします。
ここでの期待収益率とは何でしょうか?またここでの標準偏差とはどう言う数字でしょうか?

算術平均収益率と幾何平均収益率は以前のブログ日本株は上がるのか?⑤幾何平均収益率で書きました。ここではグーグル・ドキュメンツと言う便利なツールがあるのでもう一度整理しておきましょう。

しかし折角面倒な計算をする訳ですから、抽象的なサンプルでは無く、少し実の有る実際のデータを使用しましょう。

ここではインデックス投資家の皆さんにはお馴染みかと思いますが、世界でインデックス投資のツールとして標準的に使用されデータも充実しているMSCIのトータル・リターン・インデックスを使用してみましょう。 MSCIはMorgan Stanley Capital International 、スイスにあったCI社をモルガン・スタンレーが資産運用が投資銀行ビジネスの柱になると睨んで買収してできた会社です。

データはMSCIのHPからダウンロードできます。 またここではUSD建てのインデックスになりますので、ドル円の為替レートはセントルイス連銀のHPから取得します。何故セントルイス連銀かと言うと使いやすいからです。

使用するインデックスは、MSCI JAPANとKOKUSAI ex Japanの年次データ。 つまり日本株と日本以外の株式で、特にStandard Coreと言う分類を使用しますので、大型+中型株の指数です。 トータル・リターン・インデックスですから配当も再投資されており、税金、取引コストは考慮されておりません。

ドル建ての指数に円を掛け合わせて円換算してます。さらにインデックスのスタートが100ですから為替360を掛け合わせると36,000と数字が大きくなりすぎるので100で割ってあります。従ってインデックスのスタートは360となります。

またデータは1969年12月から用意されていますが、1969年当時為替は未だ1ドル=360円の固定相場でした。 その後1971年12月スミソニアン協定でドルの切り下げが決められ、1ドル=308円、さらに1973年2月に変動相場制に移行して現在に至っています。

グラフは以下の通り、
スプレッド・シートはGoogle Documentsで見る事ができます。



日本の投資家から見ると、日本株が先に走って、それ以外の国の株式が追いかけてきて、今丁度追いついたところと見る事もできますね。 これらのデータを使って今後色々と計算してみましょう。
Google Documentsのデータはそのままスプレッド・シート上でも使えますし、ダウンロードしてエクセル等に取り込む事もできますよ。

2010年3月3日水曜日

シミュレーション ②


シミュレーション

年次対数収益率5%、標準偏差20%の証券が10年間でどう言う収益率をとるか?
ここでは対数収益率は正規分布すると言う仮定で、表にしてみましょう。

正規分布ですので、平均値、中央値は同じ値を取ります。
N年後の平均値は、期待収益率 x N
5年後であれば、5% x 5 = 25%

またN年後の標準編差は、標準偏差に√Nを掛けた数値になります。
5年後の標準偏差2の値は、5%(収益率) x 5年 + 44.7%(20% x √5) x 2 (2偏差分)=114%


上記の正規分布をexp( )関数で実数に変換したのが下の表です。
対数正規分布になります。




正規分布では中央値と平均値が同じ値になりますが、対数正規分布では平均値は高い数字に引張り上げられて中央値よりも高い数字を取る事に注意が必要です。

ここで正規分布の平均値、標準偏差を以下とすると、

μ:正規分布の平均値
σ:正規分布の標準偏差

対数正規分布の平均μ'、標準偏差σ'の2乗である分散は次式となる、

平均 μ'=exp(μ+(σ^2)/2)
分散 σ'^2=exp(2μ+σ^2) x (exp(σ^2)-1)


つまり対数値が正規分布する時には、実数値の平均は高い値を取る事になります。
ここで言う実数値とは、実際のインデックス等を掛け合わす数字の事です。

また標準偏差も高い値を取る事になります。

よく、リスク20%だから、10年で、 20% x √10 = 63.2456% と言う計算をしますが、 これは収益率(対数収益率では無く)が正規分布すると言う前提の話しなのです。 実際には標準偏差は上記式から141%になっている事に注意が必要だと思います。

連続複利(対数)収益率の正規分布があってそれを換算したものが対数正規分布である事が重要です。逆ではありません。


尚、上記スプレッド・シートはGoogle documents で見る事が出きます。
期待収益率を0%にして正規分布の状態を体感して下さい。


シミュレーション ①


シミュレーションについて考え方を整理しておきたいと思います。

これまでにGPIFのシミュレーション等をブログで紹介してきましたが、私は途中で手法を変えています。
Twitter等で手法の変更等は紹介してきましたが、Twitterで見ていない方もいると思います。 当ブログの古い方のシミュレーターは訂正せずにそのまま残してありますが、それが正しいと考えている訳ではありません。 

正規分布と対数正規分布

証券関係のテキストの多くでは、収益率が正規分布すると言う前提で説明される事が一般的です。
これは正規確率分布の理解を促す為であることと、実務上これでも困らない事が理由であると思います。

ツヴィ・ボディの「証券投資」第4章基礎概念と問題点。 Part 1イントロダクション。井手正介の「ビジネスゼミナール 証券分析入門 」第3章、等々

しかし短い期間(演算が少ないと言う意味で)の確率分布による予想等では問題が少ないのですが、複利効果をみる為の長い期間のシミュレーション等では無視できない誤差になってしまいます。

そこでシミュレーションの場合には対数収益率は正規分布すると言う仮定で組み立てて行く事になります。
対数収益率は正規分布する=収益率は対数正規分布すると言う事です。

金融の場合には特に自然対数を使用します。
自然対数で表現される利率を連続複利と呼びます。

ここで対数正規分布とは、
変数xの対数をとったものが正規分布する時、xは対数正規分布に従うとする。

つまり実数値は対数に変換して正規確率分布の計算、、後に戻してやれば対数正規性を持つと言う事です。
対数正規分布の定義が対数の正規分布であると言う事が大事になります。
エクセルではLN( )関数が対数への変換、exp( )関数がその反対の機能を持っています。
幾何平均収益率の計算等でも活躍しますので、こちらの記事も参照下さい。




期待収益率(リターン)は実数なのか対数なのか?

期待収益率5%の場合を考えてみましょう。
ここで問題になるのは、この期待収益と標準偏差はどのような数字なのか?
つまり対数(連続複利)の数字なのか?それとも実数なのか?

10年複利で考えた場合、

実数であれば、
(1 + 5%) ^ 10 - 1 =62.89% 1.05 x 1.05 x 1.05 x 1.05 x .........)

対数であれば、積算が和算になるので、
5% x 10 = 50% (5% + 5% +5% +........)
これを実数に戻すと、
exp( 50% ) -1 =64.87%

大した差では無いと言えば大した差では無いのですが、長くなると差は大きく広がりますし、シミュレーションに耐えるものではありません。

実数を連続複利に変換して計算すれば、
LN( 1 + 5% )= 4.879%

exp( 4.879% x 10) -1 = 62.89% = (1 + 5%) ^ 10

と言う関係です。
従って与えられた期待収益率が実数であった場合には、連続複利に変換する必要があります。
演習問題などでは、そのままかもしれませんが、殆の場合変換する必要があります。


2010年3月2日火曜日

生命保険のカラクリ




ライフネット生命の岩瀬さんが、自著「生命保険のカラクリ」を4月15日まで、フリーでダウンロード可能にしています。

こちら、

ベスト・セラー「フリー」のフリーミアムを地で行く本人企画。
公開した事によって販売が増加すると良いですね。

ちなみに私もダウンロードして読ませて頂きました。
PDFファィルは意外と言っては何ですが、画面は読みやすく125%設定ぐらいでページめくりもスムーズ、結局読みやすさもあって、いつもの新書本よりは早く読めました。
内容は私のブログを読んでいる金融関係者には既知の事が多いと思いますが、文章の巧みさもあってストレス・フリーに読めます。

内容でオヤッと思ったおは、生保の外資への開放部分。 生保契約高の30%が侵食されているのは、生保が外資に一番先に開放されたからだと言う下り。
私の解釈では、一番先が損保の部分開放、AIGグループは進出が早かった。次が証券。リテールは手数料自由化と相まってあまり儲からないから進出した会社は少なかったが投資銀行部分は美味しいところは席巻された。 次に銀行で、最後が生保だったように認識しています。 おばちゃん達の票があって政治力があるからと説明されておりました。 外資系の生保では変額保険の窓販等でシェアを伸ばしたのでは無いでしょうか。 私の認識が古いのかもしれません。

余計なお節介ですが、社長の出口さんの「生命保険入門」の宣伝をもう少し増やしておけば、こちらの本の販売が増えたかもしれないな。 と思った次第。 「生命保険入門」は2004年発売当時「こんな事書いて大丈夫なのかな? この人」と私が思った1冊です。 最近生命保険入門 新版も出ました。


何はともはれ、死亡保険、医療保険、貯蓄性保険等、シンプルに解説がなされていますので、未だの方は4月15日迄にどうぞ。