2010年5月16日日曜日

ミンスキー・モーメント FIH vs EMH


この週末、PIMCOのHPにポール・マカリーのGlobal Central Bank Focus 5月号がアップしました。今回の記事は先月15日から3日間にわたって開催された第19回ハイマン・ミンスキー・コンファレンスにおける晩餐会のスピーチをまとめたものになっています。 

今回のコンファレンスのテーマは「危機後の金融のあり方」で金融規制がテーマになっており、スピーカーの一人であったクルーグマンも既にニューヨーク・タイムスのOpinionにこのことを書いています。

ポール・マカリーはスピーチの中でハリー・マーコビッツとのエピソードを挿んでいます。彼はEMH(効率的市場仮説)をベースにした「ポートフォリオ選択理論」で有名です。EMHの権化とも言えます。

「ポール君、ミンスキーで何か1冊読むとすれば、一体どれが良いだろうか?」

「ハリー、それは今迄ミンスキーを読んだ事が無いって意味? お願いだよ、少なくとも一冊ぐらいは読んだって言ってくれよ。」

「いや、本当に読んだことがなんいんだよ。でも今は読みたいと考えているよ。思うに、多分僕は、もう古すぎんるんだよ。



ポールのスピーチ全体はもう少ししたら邦訳されるでしょうから、簡単にしておきます。彼の金融規制に対する考え方は、スピーチの最後の方の彼の家庭における親子のやり取りに集約されています。

18歳になった息子が、もう大人なんだから好きにやらせてくれと言います。好きにやるのは良いが、経済的に”Bank of Dad”(親のお金、カードを作る時の信用とか)を使い続けている間はルールを守ってもらう。親は子供のイノベーションの邪魔をしたい訳ではありません、是非大きく育って欲しい。 

だけれどもBank of Dadを利用し続ける限りは規制が必要だというのです。何故ならBank of Dadが潰れたら終わりでしょ。影の銀行もFED(国民の資産)を使用するならば規制に従うべきであると言う考え方です。


話しを戻してハイマン・ミンスキー(FIH)とハリー・マーコビッツ(EMH)の関係に戻ります。ここで言うFIHとEMHは、

The Financial Instability Hypothesis FIH 金融不安定性仮説
The Efficient Market Hypothesis EMH 効率的市場仮説

と言う風に、最近(2007年以降)は対抗軸として並べて書いてある記事や文献が増えました。

EMHはご存知のとおり全ての情報は価格に織り込まれている。 裁定が働いて市場は均衡状態にあると言う考え方でファィナンス理論はこの考え方をベースに構築されていますし、モデル化するのに都合が良い。

FIHは今回の恐慌で広く知られるようになりましたが、それでもまだ一般的では無いと思います。 私は経済評論家でも学者でも無いし、ミンスキーの原典を読んだ事もありませんが、私なりに説明してみようと思います。 これからの市場の大勢を考える上で大切です。 ポール・マカリーの2007年3月の記事を参考にしています。

ミンスキーは経済活動において以下の3種類のユニットがあると考えます。ユニットとは経済主体あるいは市場参加者と考えても結構です。

ヘッジ金融ユニット:
キャシュフローで債務の支払が元本金利分とも可能なユニットです。 つまり収入から必要経費を支払った残りで元本分+金利を充分に支払えるユニットです。会社で言えば金利の支払い義務の無いエクィティ部分が多ければこの金融ユニットである可能性が高くなります。家庭で言えば給料に見合ったローンを持っている状態。

投機的金融ユニット:
ここでは元本は返せないが、金利だけは支払っていける状態のユニット。 住宅ローンで元本はしばらく結構ですから金利分だけ支払って下さい。と言う状態。 街金で言えばジャンプしている状態です。
EMHではこの状態で退場してしまうはずです。

ポンツィユニット:
ここではもう通常の営業キャシュフローでは金利分すら支払えない状態。資産を売却するか、さらに借り入れを増やして利子の支払いの為に借金をする状態です。多重債務者。そう言えば我が国もあやしいですね。ポンツィ国家なんでしょうか。ポンツィはマドフ事件で有名になりましたがねずみ講の意味です。

このユニットは一度決まってしまえば永久にそのユニットのままと言う訳では無く、ヘッジ⇒投機的⇒ポンツィへと移行しやすい。 逆は何か強制的な動きが無いと起こりにくい。例えば借金棒引きとか借金で買っている資産を売却するとか考えられます。資産価格が上昇しても良いのですが、大概上昇分を担保にしてさらに借金したりします。

ファィナンスに問題のあったリートを思い出せばわかり易い。(2010年当時)
最初はヘッジ金融ユニットで事業計画しますが、拡大を目論む段階で資産価格の上昇をアテにしてレバレッジを上げると投機的ユニットに近づきます。 そして新しい建物を獲得した頃になってみたら、想定された入居者がいなかったという事態。景気の波があるから次回の上昇期を待つかと考え始めるとポンツィユニット化します。債務の借換の頃に銀行がやってきて、B「もう貸せません」、R「金利は少々高くても結構です、ここをしのげば大丈夫です」、B「金利の問題では無くて、あなたの信用の問題なんですよ」と言うストーリーで崩壊しました。

第1定理
ヘッジ金融が多数を占める場合は安定した経済システムといえるが、投機的金融やポンツィが増えてくると不安定な経済システムとなる。

第2定理
長期にわたり安定が続くと不安定化する状態に移行する。 

土地神話など永遠に資産価格は上昇すると市場参加者の多くが考え始めるとレバレッジを高くする者が増える、ヘッジ金融から投機的金融、ポンツィへと移行するものが増えると言う考えてみれば分かりやすい話です。

大事なのはここからで、ポンツィ・ユニットが我慢の限界にきて資産を投げ売りし始めるとそれまで投機的ユニットであったものも資産価格が急落してポンツィ化する。 スパイラル的に資産価格が下落する。 そしてこれはあるポイントから急激に起こる。 

この臨界点をミンスキー・モーメントと呼びます。 例によってポール・マカリーが1998年のロシア債務危機の際に名付けました。

今回のミンスキー・モーメントはBNPパリバがオフ・バランス・ビーイクルのひとつを凍結した2007年8月9日としています、


参考エントリー EMHは終わったか?

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