2010年7月27日火曜日

帰納の問題 哲学の基礎



哲学の基礎 ナイジェル・ウォーバートン 栗原泉=訳
科学においては、あるいは相場においてはと置き換えても良いかもしれない。科学者はまず、世界のある特定の側面において多くの観察をする事から始める。観察はできる限り客観的に行われなければならない。データの記録に偏見や予断があってはならない。
観察にもとずく膨大なデータが集まると、次に結果のパターンを説明する理論が作られる。もしこの理論が優れた理論であるならば、今起こっている事を説明できると同時に将来起こるであろう事を予測できる。

朝の天気予報は膨大な量の観察をもとに推定されている。気圧の配置、風の向きから帰納的推論が導きだされるが的中率は100%にはならない。しかし雨に打たれれば濡れる。従って「低気圧が近づいているので雨になる」の予報であれば傘を持つ。これも我々の経験に基づく帰納的推論であって実際には生活の役にたっている。

我々は積み上げた経験をもとに判断をする。むしろ我々の生活は帰納的結論によって成り立っていると言ってもかまわないだろう。

しかし帰納的結論には明らかに間違いがある。被毛のある動物についての観察をすべて正しく行い、対象となった動物が総て胎生(卵を産まない)であると言う結論に至ったとしても、そこから導きだされる帰納的結論「被毛動物はすべて胎生である」は正しいようでいてあるいは間違っているかもしれない。 実際にはカモノハシには被毛があるが卵生なのだ。

鶏舎のニワトリは毎朝エサを期待して目をさます。エサを期待しているのは帰納的推論からだ。それでもある朝突然に首を締められフライド・チキンとなってしまう。これらは総て過去にもとずいて将来を予測する事の正当性についての問題だ。

ここまでくれば金融に興味のある方ならば「ブラック・スワン」の話が思い起こされるはずだ。

「帰納は科学的手法の基礎では無い」と考えれば問題は解決されてしまう。
タレブの心酔するカール・ポパーのこうした「反証主義」は科学哲学のひとつだ。

一般論としての「すべてのハクチョウは白い」
この帰納的推論を反証するにはたった一羽の「黒いハクチョウ」を見つければ事は済む。
一般論は証明するよりも反証する方がはるかに簡単なのだ。

しかしポパーはそれほど単純な事を主張している訳では無い。もちろんタレブもそうだ。ニュートンが引力の法則を発表して間もなく行われた月の軌道の観測はニュートンの説を反証する結果だったがニュートンは法則を破棄しなかった。この観測が誤解を招きやすいものだった事はかなり後になってわかったのだ。

科学者(相場師)は常に懐疑的な立場をとり、ミスの原因となるあらゆる可能性を探らなければならないと考えるべきだろう。

3 件のコメント:

こくぴと さんのコメント...

こんばんは。毎度楽しく拝読しています。

偏見や予断を持たず、データを客観的に分析して、堅牢なシステムを作ったつもりでいても、ある日突然損失が始まり、一揆に最大ドローダウンを更新してしまう。。。

そんなケースを、ここ2年ぐらいで立て続けに経験して、帰納的推論がいとも簡単に反証されてしまうことを思い知らされてます。

でも、演繹的にトレードシステムを作れる人っているのでしょうか?

Porco さんのコメント...

こくぴとさん、コメント有難う御座います。
私も「基礎」を読んでいるようなレベルなので偉そうな事は言えませんが、

演繹による推論とは、ある前提から始まり、その前提から論理的に導かれる結論にたどりつきます。
たとえば「すべての鳥は動物である」、「ハクチョウは鳥である」の2つの前提から「ハクチョウは動物である」と言う結論を得れば演繹的な論証となります。

単純な現先のインデックス・アービトラージの場合、SQで値が一致しますから演繹的と言えるのでしょうね。
「先物理論価格=現在のインデックス値+満期までの金利-満期までの配当収入である」
「先物は満期時に、先物価格=先物理論価格=現物で収斂する」
「先物価格-先物理論価格=収益機会である」

国債の場合にはデフォルトが喧伝されていますので前提として設定するには無理が出てきましたが、株式インデックスの決済システムの方がよりリスクは少ないと思います。
でもこうした裁定機会は殆ど残っていないと言うのがコンセンサスですよね。

こくぴと さんのコメント...

ご解説ありがとうございました。

なるほど。SQで必ず一致する現先のアビトラは演繹的といえるのですね。

無学ゆえ、難しいことはよくわからないのですが、いろいろ痛い目に合いながら、徐々に自分のトレードシステムも鞘とり的なものが中心になりつつあります。

鞘とり=演繹的とは必ずしもならないと思いますけど、どうやったらシステムが堅牢になるのだろうと考え続けて、そうなりました。

朝起きてエサがもらえると思っていたらフライドチキンにされてしまった、という例えは、順調に利益だしてたのに、ある日突然大損失を出して呆然としている自分のことのようで、笑ってしまいます。。。