2010年9月2日木曜日

旗本と石高


先日映画「ちょんまげプリン」のエントリーで「石高百石の直参旗本小普請組」は考証ミスでは無いか?旗本は二百石以上を旗本と言うのでは無いか?とのご指摘を受けた。実はこの問題は僕も以前から気になっていたのだが、どうにも結論が出せないまま放ったらかしにしていた経緯があった。今回ちょうど良い機会なので調べて見る事にした。調べると言っても以前から気になっていた本があったので読んでみただけではあるが、一度調べておけば自分のブログを備忘録として使えるので便利だろうと考えたわけだ。


一般に旗本の定義は以下が通説となっている。
1。家禄が二百俵以上の家
2。旗本は軍事用語で、幕府の小姓組・書院番・新番・大番・小十人の五番士を指す。(番方とも言う)
3。御目見(おめみえ)以上の家

さて、ここで先ず第一の疑問が出てくる。何故二百石では無く二百俵なのか。石と俵の関係はどうなっているのか?
二百石は知行地の収穫量であって、米二百石そのものが旗本の収入になる訳では無い。四公六民として40%が領主の取り分となるのだが、不作の年などもあるので平均して取り分は35%と考えるのだそうだ(三ッ半取り)。したがって知行二百石の旗本は実収七十石となる。百俵=35石なので、二百石(知行地)=二百俵となり、どちらも表現が違うだけで実収は同じと言う事になる。一石=一俵と憶えておけば良い。ところが旗本としては米(玄米である事に注意、白米にすると80%になる)で貰うよりも、知行地として与えられる方を好んだし実際に石高表示の方が格式は高かったようだ。

格式の順番を示すと、
知行取り(石高表示:知行地がある)→蔵米取り(俵表示:蔵前の札差から蔵米を受け取る)→現米取り(現米石表示:現物を受け取る)→扶持取り(人扶持表示)となり、格式で言うと、三百石>二百石+百俵取りと言う関係になる。つまり1。の二百石と二百俵は経済的には同じ価値だが格式は違ったと言う事だ。鬼平犯科帳に登場する「忠吾:うさぎ」は確か三十俵二人扶持だったと思うが、二人扶持=十俵なので石高に換算すると四十石と言う事になる。もちろん彼は旗本では無く御家人だし、自分の事を四十石のサムライとは言えない。あくまで蔵米取りの士分なのだ。

寄り道したが旗本の石高分布を見ておこう。ここでは蔵米取りも石高に換算してある。
綺麗な対数正規分布になっているが、ここでは統計処理はしない。実際には二百石以上五百石未満が2261家で一番多く、百石未満の旗本も344家存在したと言う事だ。因みに合計は5158家となっている。 つまり通説1は都市伝説ならぬ「江戸伝説」だと言える。

通説2についても五番士は役職であって、役につけない旗本が存在したのでこれも無理がある。三千石以上で無役の者は「寄合」、三千石以下の者は「小普請組」に入れられたそうだ。従って「ちょんまげプリン」の旗本は無役(無職)で小普請組に入れられた末端の旗本と言う設定になる。わざわざ直参旗本と名乗っているのは「百石しかないけどちゃんと直参なんですよ」と主張しているのだろう。

通説3はこれが一番穏当な定義ではあるが、御家人から旗本に昇進した場合に「永々御目見以上」つまり「代々御目見ですよ」と言う認定が無いと子孫は再び御家人に逆戻りしてしまうケースもあった。ちなみに御家人でも二百石以上の家もあったそうだ。

以上は以前から気になっていて、いつか読まねばと思っていた本、「江戸の旗本事典 (講談社文庫)」:小川恭一著を参考にしている。もちろんこの他にも旗本の相続や拝領屋敷の話、暮らしぶりなど今まで読んだ「旗本関係の本」の中では網羅的で一番充実してる本である。と言うかこれしか無いと思う。少々読みにくいところもあるが、時代小説ファンは手元に一冊おいておきたい本だ。モヤモヤが少しだけ晴れた。気がする。

7 件のコメント:

学生さん さんのコメント...

為替のエントリー、とても面白かったです。ありがとうございました。経済産業省の「円高の影響に関する緊急ヒアリング」が発表されてましたけど、メーカーだとかの業績は為替に線形に推移するのではなくって、『商品が購入されるか、購入されないか』だと思うので、競合通貨(ウォン?)との関係性が重要なのかな、というように思うのですが、どう思われますか?

Porco さんのコメント...

学生さん、それは難しい質問ですね。1)韓国の産業構成は日本ほど多様では無く競合する商品は意外に限られているのではないか? 2)韓国自体が他のアジア途上国に追いかけられているのでは無いか?と私は考えてしまいますから実務家とすれば、やはり実効為替レートで全体感をつかめば良いのでは無いかと思います。自動車輸出台数を移動平均で平準化して両国の為替レートで回帰分析とかしても面白いかもしれませんが、手間ほどの結果は出ないと思いますので僕は遠慮しておきます。コメント有難う。

学生さん さんのコメント...

返信ありがとうございます。為替のエントリーを読ませていただいて『今現在の為替水準はそれほど円高でもない』のだろうと考えたのですが、経済産業省ヒアリングの『1ドル85円が継続の場合、製造業の4割が移転』というのを読んで、そういう結果を出すようにヒアリングしている部分もあるのだろうとは思うのですが、差異を考えてみた所、競合通貨との関係性なのかな、と思いましたので質問させていただきました。経済産業省のヒアリングについては、どのように考えてらっしゃいますか?

Porco さんのコメント...

学生さん
長くなりそうなのでエントリーを立てておきました。

フラウボウ さんのコメント...

いつもおもしろいエントリーありがとうございます。暴れん坊将軍を見ていて「旗本ってなんだろう」と思っていました。すっきりしました。

ところで、古地図を見ていると広大な土地の藩邸や屋敷がありますが、最後はどうなったのでしょうか?どこかに売却したのでしょうか?それとも明治政府に没収されたのでしょうか?もしご存知なら教えていただけると幸いです。
すみません、突然こんな質問で・・・

Porco さんのコメント...

フラウボウさん、
基本は幕府からの拝領地(屋敷)であったので私有不動産ではありませんでした。官舎みたいなものです。徳川家は1868年に駿府70万石に転封されますから多くの旗本が屋敷を明治政府に明け渡し静岡に向かいます。大名屋敷は個々に様々な経緯があるようですがエントリーを立てるほど詳しくはありません。

フラウボウ さんのコメント...

そうだったんですね。貴重な知識ありがとうございます。

僕たちは今の東京を知っているから「すごい不動産だな」と思いますが当時は江戸城の周り以外は田畑が多く今ほど不動産に執着が無かったのかもしれませんね。

とにかくありがとうございました。