2010年9月24日金曜日

ザ・クオンツ


Amir E. Khandaniy and Andrew W. Lo

Abstract
During the week of August 6, 2007, a number of high-profile and highly successful quantitative long/short equity hedge funds experienced unprecedented losses. Based on empirical results from TASS hedge-fund data as well as the simulated performance of a specific long/short equity strategy, we hypothesize that the losses were initiated by the rapid unwinding of one or more sizable quantitative equity market-neutral portfolios.

2007年の8月6日の週に、多くの有名でまた非常に成功したクオンツ系のロング・ショート株式ヘッジ・ファンドが空前の損失を出した。TASSのヘッジ・ファンド・データ・ベースや特定の株式ロング・ショート戦略のシュミレーション分析から、我々はその損失はひとつ以上の規模の大きいクオンツ株式ニュートラル・ポートフォリオによる急速な解消売りが原因であると仮説を立てた。

Given the speed and price impact with which this occurred, it was likely the result of a sudden liqudation by a multi-strategy fund or proprietary-trading desk, possibly due to margin calls or a risk reduction. These initial losses then put pressure on a broader set of long/short and long-only equity portfolios, causing further losses on August 9th by triggering stop-loss and de-leveraging policies. A significant rebound of these strategies occurred on August 10th,which is also consistent with the sudden liquidation hypothesis.

この解消売りの速度とプライス・インパクトは、マルチ・ストラテジー・ファンドやプロップ・デスクによるマージン・コールやリスク値削減の為の突然の現金化の結果であると考えられる。初期の損失が広範なロング・ショート戦略やロング株式ポートフォリオに影響を及ぼし、それがさらにストップ・ロスやレバレッジ抑制方針の発動を促す事になり9日のさらなる損失の原因となった。10日に発生したこうした戦略を採るファンドの大幅なリバウンドもまた、この突然の現金化仮説( the sudden liquidation hypothesis)を支持している。

This hypothesis suggests that the quantitative nature of the losing strategies was incidental, and the main driver of the losses in August 2007 was the resale liquidation of similar portfolios that happened to be quantitatively constructed.
The fact that the source of dislocation in long/short equity portfolios seems to lie elsewhere-apparently in a completely unrelated set of markets and instruments-suggests that systemic risk in the hedge-fund industry may have increased in recent years.

この仮説は戦略崩壊のクオンツ的な性質は偶発的なものである事を示唆している。2007年8月の損失の主な要因は偶然にクオンツ的手法で作成された類似したポートフォリオの解消売りである。株式ロング・ショート・ポートフォリオ混乱の原因が全く無関係な市場や商品など全く別のところにあると云う事実はヘッジフアンド業界のシステミックリスクが近年増加している事を示唆している。(拙訳)


ファマ・フレンチのレポート"The Cross-Section of Expected Stock Returns"が1992年に発表されて、βが実際に株のリターンに及ぼす影響力は0であると証明するとともに1963年以降のどの時期においてもバリュー株はつねにグロース株よりもパーフォーマンスの良い事がわかりました。 当然クォンツによるマーケット・ニュートラル・ファンドはこの手法を採る者が増えました。そうしたファンドが増えている間は類似したバリュー株を買い続け、類似したグロース株を売り続ける事になりますから株式ロング・ショート戦略のパーフォーマンスは良くなります。ところが一旦他の要因、つまり株式LS戦略が組み込まれているマルチ・ストラテジー・ファンドやFOFの他の戦略、例えばCDOのBBショート、AAAロングのようなもののパーフォーマンスが悪化してファンド全体のレバレッジを落とさなければならないような場合に直面しますと、どうしても売りやすい株式LS戦略が最初に処分されやすくなります。ところが株式LSは大勢のファンドが似たような戦略を取っているので処分によってさらにLSファンドのパーフォマンスが悪化して、それ自体がストップ・ロスやレバレッジ低下のターゲットとなってしまうのです。


ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たちを読みました。大変面白い本です。翻訳も大変読みやすい。
CBアービトラージャーであるエド・ソープの書いたブラック・ジャック必勝法「ディーラーをやっつけろ! 」に始まり、ファマ・フレンチを経て、文頭にあるアンドリュー・ローの"What Happened To The Quants"に至り再びブラック・ジャックに帰っていきます。市場収益率はコイン・トスやカード・ゲームの確率分布とは異質なものなのだと主張する一方で、最後の場面からクオンツ的なアプローチの重要性を少しも否定してはいないと読みました。

モルガン・スタンレー・PDTファンドのPeter Muller, CitadelのKen Griffin、AQRのCliff Asness、ドィチェのBoaz Weinstein、Runeaissance TechnologiesのJim Simonsなどのヘッジフアンド・プレーヤーを中心に彼等のプライベートも交えながらリーマンショックによる市場崩壊の過程を描いていますが、ナシーム・タレブやPIMCOのビル・グロースなども友情出演?しており読み物として大変面白いエピソードが数多く挿入されています。

「AQRに講演にきたタレブはまばらな聴衆に向かって自説を唱え続けた。ファット・テールや、不確実性、ランダムについても話した。しかし聴く方はげんなりしていることに彼も気づいていた。彼等は、ブラック・スワンについての講釈など聴く必要がなかった。ついこのあいだ実際に体験し、そして本当に恐ろしい思いをしたばかりなのだから。」

たしかに仲間内ではタレブの”まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか”の評価は高かったのですが”ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質”はいまいちだったのが納得できました。

関連エントリー: バリュー株とグロース株の相克 2010/01/25
ジェレミー・シーゲルで説明しています。

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