2011年6月1日水曜日

世界で5番目に裕福だったアルゼンチン


僕は昔船の修理をしていた事がある。船と言っても大きな船だ。タンカーとかコンテナーとか自動車運搬船とかLNG船とかだ。

ある時ペトロブラス(ブラジル)のタンカーの修理が完工して相模湾で試運転をした。主機(メインエンジン)の修理だったので速度計測が必要だったのだ。

今みたいに正確なGPSも無いので、速度計測には木片を使う。VLCC(Very Large Crude Carrier)だったから全長は300m近い。船首から木片を投げてストップ・ウォッチで通過時間を測り計算するというシンプルなものだった。ブリッジでトランシーバーを持って「ティ!」と声を掛けると船首の人員が木片を投げ着水したら旗を上げる。そして船尾の人員は木片が通過した時に旗を上げると言う寸法だ。ブリッジで旗を見てストップ・ウォッチを押す。信じられないかもしれないが20年前までは船の速度とはこうして測るものだった。今では精度の高い舶用GPSの画面に速度が出る。

暑い盛りに帰りは夜になるスケジュールだったし造船所からは15名ほど乗り込んだので、缶ビールを2ケースほど積みこんでおいた。そしてギャレー(厨房)の冷蔵庫に造船所の人員用のビールだと断って入れておいた。マジックで目立つように書いておいたのだ。冷たくないと美味しくないからね。

そして仕事が一段落してビールを飲むかと冷蔵庫に行くと1ケースしか残っていない。本来もう1ケースのビールのあるべきその場所には大量のオレンジを入れたカゴがおいてあり「For Shipyard」と書いたメモが貼ってあった。つまりビールとオレンジを交換したよというのだった。僕らにすればビールは安く、当時のオレンジは高価だった。彼らにすればオレンジは安く、ビールは高価だったのだ。まあもともと彼らにもビールを配ろうかとも思っていたので良かったのだけれども。お金という意味では日本人は随分とお金持ちだった。フルーツや牛肉ではひどく貧しかったけれど。

ご飯は船で食べさせてもらった。フェジョアーダ(豆の料理)にビーフステーキ。大皿に馬鹿みたいにステーキが積み上げてあった。「日本人はステーキ好きでしょ」と船の事務長が言っていた。彼らにとってステーキにはビールほどの値打ちも無かったようだ。日本じゃ見られない大きなステーキが食べ放題だ。造船所の人員はうれしそうにガツガツと食べていた。もちろん僕も食べれるだけ詰め込んだ。多分彼らにとってビールは配給では無く自腹だったんだろうと思った。そしていくら免税でも自腹で買うには日本のビールは高過ぎたのだろう。

「ブラジルは未来の国だと言う。いつも将来を嘱望されている。但し100年前もそうだった」

これが当時のブラジルや南米諸国への評価だったと思う。
今では随分と変わってしまったけれども。

20世紀の初め、アルゼンチンは世界で5番目に裕福な国だった。略奪の海カリブ―もうひとつのラテン・アメリカ史 (岩波新書)増田義郎にはそう書いてある。

俄には信じがたいが、最近ちょっと南米を調べていたのでデータが手元にある。最近はこうしたデータは簡単に取得できる。クローニンゲン大学のアンガス・マディゾン教授のデータである。因みに教授は昨年お亡くなりになられた。このデータ・ベースの中で1900年から毎年連続して一人当たりGDPのデータが取得できる国は32カ国ある。そしてここには日本もアルゼンチンも入っている。

一人あたりGDP 1900~2008 32カ国

確かにアルゼンチンは20世紀初頭には上位にいるようだ。日本なんかは目じゃない。しかしちょっと見にくいのでこれを順位関数を使って解りやすくしてみよう。スポーツ新聞でよくあるプロ野球のシーズンを通しての順位の変遷と同じものだ。

一人あたりGDP 32カ国 順位移動

これで見るとアルゼンチンの最高位は1909年の7位である。しかしこの32カ国うち大英帝国コモンウェルスのニュージーランド、オーストラリアが上位に入っている。従ってこれらを大英帝国とすればアルゼンチンは5位になる。確かにアルゼンチンは世界で5番目に裕福な国だったのだ。因みに1909年の一人当たりGDPの順位は上からアメリカ、イギリス、スイス、ベルギー、アルゼンチンの順である。日本は22位でウルグアイ、チリ、メキシコよりも低い。

このデータを1990年からに期間を狭めると164カ国のデータが取れる。これをグラフ化すると、日本が随分と落ち込んでいるのが一目瞭然だ。
一人あたりGDP 164カ国 1990~2008


さらにこれを順位にすると、中国の躍進がよく解る。しかしながら中国も順位と言う意味では伸び悩んでいるのも確かだ。他の国も伸びているのだ。ちなみにこの20年間で急激に上昇している青い線は赤道ギニアである。1992年に油田が生産され始めた。もうすぐ日本に追いつくだろう。

一人あたりGDP 164カ国 順位移動

もう少し日本の位置について考えてみよう。今度はOECDのデータである。1960年から取得できる。これはセントルイス連銀のHPから簡単に取得できる。アンガス・マディソン教授との違いはマディソンは1990年のPPP基準であるが、OECDは2009年のUSドル基準という点である。従ってシンガポールとアメリカの位置関係とかは少し違ってくる。

一人あたりGDP OECD 8カ国

ここでは日本人が気になる(と思う)8カ国を私が独断と偏見で選んでおいた。中国はかなり低い数値なのではずしてある。日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、シンガポールに韓国である。
この中では最近よく話題になるシンガポールの伸びが目をひくだろう。このデータでは既にアメリカをも追い抜いている。そして目を引くのは日本の凋落と韓国の追い上げである。

一人あたりGDP 8カ国 順位移動

これも順位に直すとバブルを挟んだ日本の位置関係がよくわかる、要するに日本はバブルの時に追い上げただけだとも言えそうだ。そしてドイツの凋落は「ベルリンの壁」で東西が一緒になり希釈されたことを忘れてはいけない。


そして7位日本と8位韓国の差である。赤い線(右軸)は日本の一人当たりGDP÷韓国である。60年代末には5倍も裕福だったのが今では1.2倍程度。個人個人では殆ど差は無いと言える。


データの取り方によって色々と見え方、見せ方はあるのだけれども、こうした順位表から見ると日本は頑張らなければいけないポイントにある事は確かなようで、その割には国家国民として緊張感が足りないような気がする。もちろん一人あたりGDPなどどうでも良いと言うような価値観の人もいるだろう。しかし普通に考えれば出来ることはどんどんやらなければいけないと言う極々普通の結論になってしまうのではないだろうか。では、何をすべきなのか?

「アタリはもうイイや」と言う人も多いかもしれないが、僕は彼の国家債務危機――ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?は良い本だと思う。ロゴフ・ラインハートの国家は破綻する――金融危機の800年のデータを駆使して前半は破綻の歴史になっている。纏めてくれている分ロゴフより読みやすいだろう。

その中でサルコジの依頼によって作られた「フランスの経済成長を促すための委員会:Commission Atari」の第1次提言はかなりの部分そのまま日本にもあてはまるように思う。
「市町村合併、大學の統廃合、電子政府の設置、公務員の自然減などによる歳出減、定年制の廃止、大店法の緩和、薬剤師・美容院・タクシーなどの市場参入障壁の高い分野の規制緩和などである」「こうした処置の主眼は、純粋・完全競争下にあるべき市場経済において、経済活動以外の理由で超過利潤を得ている組織や個人を、フランスの経済システムから取り除き、知識経済に移行させることにある」

因みに菅首相は今年の1月18日にジャック・アタリの表敬を受けている。

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