2011年7月25日月曜日

合百とバケツ・ショップ 2


バケツ・ショップというのはBucket Shopのことである。
一般的にはバケット・ショップと言った方がとおりが良いだろう。

1870年代から1920年代の終わりの大暴落の頃までアメリカに存在した株の「呑み屋」のことだ。「呑み屋」あるいは「呑む」とは、顧客から株式の注文を受けた際に、市場に取り次がず、自分で後の支払いをすべて引き受けてしまう行為のことだ。競馬の「呑み屋」と同じである。競馬の呑み屋はJRAから馬券を買わないことでJRAの取り分25%を節約することが出来る。その代わりに「呑み屋」が10%もテラ銭を取れば馬券の買い手も配当が多く貰えるという仕組みである。もちろんこれは違法行為なので事業者の多くはその手の方達ということになる。アメリカの株の「呑み屋」も多くはマフィアによって運営されていたようで、とかく金銭の問題が絡み法律の外にあるビジネスは洋の東西を問わずアンダーグランドのビジネスになる。

アメリカは州によって法律が様々であったり、警察による取締も袖の下次第というような時代もあったので、バケット・ショップは結構派手にビジネスを展開していたようである。客から買い注文をもらっても市場には繋がず基本的にバケット・ショップが呑み込んでいた。但しあまりにも注文が一方向に傾き過ぎた時には市場でヘッジもしていたようである。

バケット・ショップは伝説の相場師「ジェシー・リバモア」の伝記に登場することで日本でも相場好きの間では有名である。

こうしたリバモアの伝記ではBucket Shopを「合百」と訳している本もあり、これはなかなか名訳(皮肉ではなく)だと思うが、バケツ・ショップは「合百」とは少々規模が違うビジネスだった。確かにアイリッシュ・バーの片隅で夜な夜なご開帳しているような株を使った博打もあったのだろうが、ここでいうバケット・ショップはその手合いではない。取引所での出来値を伝える当時としては高価なティッカー・マシーンも装備していたし、バケツ・ショップの入り口は普通の証券会社と見分けがつかないほど立派だったそうで、なかには支店網を展開しているものもあった。しかしたいがいはマフィアによって運営されていたようで、要するにカジノと同じだったのである。
ちなみにページ左上にあるPorcobutaと書かれたアイコンはティッカー・マシーンである。これはトーマス・エジソンの発明で、紙テープにピンで文字の形に穴が開けられる。NY取引所で発信されたデータがアメリカ全土に同時に配信されたのである。このマシーンの発明によって遠隔地取引所間でのアービトラージは出来なくなってしまった。

因みに現在でも取引高の少ないことを"Slow Market"と表現するが、これはティッカー・テープの文字を打ち出す速度が遅い状態を指すことからきている。またニューヨーク名物紙吹雪の舞う「ティカー・テープ・パレード」もこのテープを細かく切り刻んだものである。

話が少し横道に逸れてしまったが、バケット・ショップの場合には株式を扱うといっても普通の証券会社とは異なる特徴を持っていた。

1.少ない金額から株式投資(投機)ができる。
2.レバレッジがかけられる。
3.口座開設が必要ないかあるいは簡単である。
4.約定が早い。
5.手数料が安い。

1.少ない金額から株式投資(投機)ができる。
証券会社は近年そのイメージを払拭すべく努力をしているところだが、昔から洋の東西を問わず証券会社は貧乏人には用がない。お金を扱うビジネスだから当然といえば当然である。しかし射幸性の強い株式に対するニーズは何も投資家だけではない。株で一山という人間は昔からひきも切らないのである。バケット・ショップにはそういった小規模な投機家からのニーズがあった。あるいは投機家ではなく博打打ちといってもよいかもしれない。

2.レバレッジがかけられる。
まともな証券会社で信用取引をするにはそれなりの資産やそれこそ信用が必要だった。しかしバケット・ショップでは1%から10%の証拠金で売買をすることが出来た。但し、顧客に対する追加証拠金の支払い能力は当初から期待されず、追証が発生する水準、あるいは損が証拠金を上回った時点で取引は終了だった。したがって1%の証拠金では株が1%下がると問答無用でバーストつまり取引終了となったのである。これは言い換えればオプションを販売しているようなものだった。現代のオプション取引との違いはコールにせよプットにせよ「売り」が無かったということだ。顧客の損は賭け金に限定されていたのである。

3.口座開設が簡単。
店とお客の間に信用取引による貸し借りが発生しない、特に店が顧客に与信することはないので顧客が別にどこの誰だろうと構わない。宝くじを一枚買うようなものである。住所は聞く必要もない。証拠金取引をしているから一見店がお客に資金を貸しているようにも見えるが、「呑み屋」は市場に繋ぐわけではないので現実のお金は動かない。顧客はオプションを買っているだけなのである。

4.約定が早い
何しろ市場に注文を出さないのだから、その時の時価で売り買いさせてくれる。ビッドもオファーも関係がない。

5.手数料が安い。
市場に出さないから各種コストがかからない。闇の分だけ見た目の手数料を安くして顧客にアピールすることができる。

ジェシー・リバモアはここで勝ちすぎたために最後は店から出入り禁止にされてしまう。勝ちすぎる奴は出入り禁止になるのである。何故ならそれはカジノだからだ。

「おい、おれの上司はな、おれみたいに我慢強くはないんだ。もう2度とこの店にはこないでくれ」


続く

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