2011年7月31日日曜日

海江田経産相の答弁中の泣きについて


男が簡単に泣くもんじゃなか!

フーテンの寅さんで和尚役をやっていた笠智衆は映画の中でも泣く演技を断った。彼は「明治の男は泣かない」の信念のもと、大監督である小津安二郎のお願いでも断ったという。そして決して泣かない笠智衆の極度に感情を抑えた演技は日本人の父親の原点とまで言われるようになったのである。僕も男は泣かないものだと思っていた。

安岡正篤の永年のベストセラー論語の活学―人間学講話では「感激を失った民族は衰退する」と説いている。彼は「明治天皇詔勅謹解」の出版に際して、詔勅にかかわる明治の一流人の行動を細かく点検する機会があったが、調べれば調べるほど明治の人間は実によく泣いていたのである。

高橋是清に日露戦争の資金調達を命じる時、桂太郎首相始め当時の政府首脳は皆抱き合って泣いたそうだ。よっぽど無理な戦争だったのだろう。また高橋は自身の「高橋是清自伝」には書かなかったが、同行した深井英五によると出発間際の日銀の壮行会において、やはり感激症の井上馨が挨拶の途中で泣き出したそうである。その際出席の大蔵日銀関係者も皆つられて泣いたそうだ。NHKでお馴染みの正岡子規といい明治の男はもう皆泣きまくっていたのである。

1980年に大ヒットした東映映画「二百三高地」では、仲代達矢演じる乃木大将が満州から凱旋後明治天皇にご報告するシーンがあるのだが、ここでは仲代達矢がヨヨと泣き崩れてしまう。本当は乃木は泣かずに淡々とご報告し明治天皇は冷たい顔でそれを聞いたそうだが、時の東映岡田社長は「お前、最後の最後にそれじゃあ、客入らへんぞ。報告する乃木も報告を聞く明治天皇も皇后も滂沱(ぼうだ:涙がとめどもなく流れ出るさま)と盛大に泣かしてくれや」と脚本を変えさせたそうなのだ。泣かない明治人もいたのである。そう言えば笠智衆も東宝映画「日本海大海戦」では乃木大将役をやっていて、僕のイメージの乃木大将は笠智衆である。

銀メダルの北島康介の試合後のインタビューは半泣きだった。彼の強固な目標への意志と決死の覚悟が彼を泣かせた。彼の泣きたいくらいの悔しさが伝わってきた。ネガティブなものなんかじゃない。一方で「なでしこ」は泣かなかった。彼女達は世界一になっても未だ途上であるとの自覚があるからだろう。少なくとも日本語の「女々しい」はそろそろ返上しなくてはいけない。

前置きが長くなったが、大臣が泣いたからと言って「情緒不安定、閣僚不適格」と決め付けるのは早計である。崩壊寸前の現内閣において次から次へとくる難問に正面から対処しているのは海江田氏だけだ。大臣の椅子を捨てるのは簡単である。しかし彼がここで職務を放棄することは彼の責任感においてできないのだろう。代わりに誰がやるのか。時間をかけて総選挙をして質問者である野党議員がやるというのか。彼は今空白を作ることは無責任であると信念を持っているに違いない。しかも多くの問題は自民長期政権由来のものばかりだ。

僕は海江田氏が今回の涙で「おとこ」を下げたとは考えてはいないのである。真摯であるからこそ泣いたと解釈するものである。

フーテンの寅さんついでに言っておくと、民主党安住淳国会対策委員長が被災地自治体の長に投げつけた「自分たちは立派なことを言うが、泥はかぶらない」と言う発言は寅さんならこういうだろう。

「それを言っちゃあオシマイよ」

それに、財源も決めないで、自分だって泥なんかちっとも被ちゃいない。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

テンポ良く読ませていただきました。寅さんの決め台詞で締め。素晴らしい

匿名 さんのコメント...

御意!