2011年8月12日金曜日

窮乏化は政府・日銀の責任なのか?「高橋洋一氏の俗論を撃つ」

「高橋洋一の俗論を撃つ
米債務問題が解決してもなぜ円は強いのか
円高・株安の責任は政府・日銀の怠慢にあり ダイヤモンド オン ライン」


前半の「何故円は強いのか」に関しては、高橋氏のマネタリ-ベース説明も俗論のひとつであるのであえてここでは言及しない。「そうでしたか、インフレ格差もありますかね」ぐらいでいいだろう。

問題は後の方である。
仮に円ドルレートが1ドル100円で維持されていたらと仮定して、どの程度の株価になっていたかを推計したものが図5(後述)だ。今でも1万1000円程度であっただろう。世界同時株安はたしかに大変なことであるが、円高の要因を海外要因だけだと決めつけ、日本だけが渋い金融政策だと、日本だけが自国窮乏化してしまう

しかしこれは奇妙なロジックだ。(説明では8月8日の引値が使われている)

Q.もし今為替が100円なら日経はいくらでしょう?
A.ドル建ての8日の日経平均は117.04ドル(為替77.73円)。従って117.04ドル x 100円だから答えは11,704円である。なんと高橋氏の推計値よりも高いのである。彼は一体何を表現したかったのか?疑問はつきないがこれは後でみてみよう。

図3ーPは、高橋氏のチャートに合わせて2009年4月3日~2011年8月8日までの円建て日経平均とドル建てダウ平均の比較である。まずこのグラフをもって金融リテラシーの低い読者を対象に日本株がいかに酷いかをアピールしている。
図3-Pは高橋氏の図3に対応している。PはPorcoのPである。
しかし下の図Aはドル建て日経平均とダウ平均の両指数を2009/4/3を100として指数化したグラフである。震災時の大幅下落の影響を考慮すれば日本株は復興需要期待で足元なかなか健闘しているのである。因みにダウ平均は単独の要因でドル建て日経平均の水準の86%を説明している。

日経平均は今回の暴落の前に3月の震災での影響をかなり取り戻していたことがわかるだろう。そして8月8日にはドル建ての日経平均(133.68ポイント)とダウ平均(134.83ポイント)はとうとうほぼ同じ値になっていたのである。つまり高橋氏の選定したこの期間の株式だけを見ると日本は「政府・日銀のド下手な金融政策」のせいで自国窮乏化などはしていない。

2国間で窮乏化しているかどうかを比較するのであれば同じ通貨建てが基本だろう。従って「株安の責任は政府・日銀にあり」は勇ましくてとても結構だし、確かに僕もそうした面を完全に否定しないがこの件に関しては「お門違い(おかどちがい)」である。関係のない人の家の門先(かどさき)で「出て来い、このやろー」と言っているようなものなのである。

さて、この時点で氏の主張はすでに破綻しているのであるが、折角なので氏のモデルを見てみよう。グラフに違和感がある。

日米の株価指数の動きを見ると、かなり連関していることがわかる(図3ーP参照)
これは普通の投資家なら皆知っている事だ。だから投資家は毎朝昨日のNYダウはどうだったか気にするのである。因みに「水準」ではなく「動き」というのであれば変化率を比較しなくてはいけない。この場合日々の比較になるが、注意しなければならないのはたいていの場合ダウ平均が日経平均の影響を受けるのではなく、日経平均がダウ平均から影響を受けるので1日のラグが出るという点だろう。同じ日付の比較ではダメなのである。因みに同じ日でやるとダウ平均の日経平均の「動き」に対する説明力は26%、1日日経平均をずらすと52%の「動き」の説明力がある。

そこで、米国の株価指数、円ドルレート、大震災のショックの3要因をとると、日々の日本の株価指数の動きを80%程度説明できる(図4参照)

ダイヤモンド・オンライン
80%の説明力があるというこの図4の推計式を求めてみよう。
Step1:先ずダウ指数と円ドルレートの2つのファクターでの日経平均の水準(動きでは無い)の推計式は、
日経平均推計値=-7949.56 + 0.726191 x NYDow + 117.2695 x JPYとなりグラフ化したものが下である。残念ながら説明力は68.5%しかない。
Step2:さて、高橋氏はダウ平均と円ドルの2つの要因に大震災のショックという要因を加えて3つの要因としている。「大震災で800円程度株価は下落しているが、円高の影響もかなり大きい
ここで氏は大震災の影響を800円と推定し、3つめのファクターとしてカウントする。僕としてはもしこの800円分の影響を考慮するのであれば、3月15日の日経平均が-1015.34だったのでこれに800円足して-215.34に入れ替えることによって震災のショックを排除することにする。原データを修正するのである。これで相関係数は氏のおっしゃるとおり81%まで上昇する。但しこの場合推計式は変わってくる。 
日経平均推計値=-7495.51 + 0.607969 x NYDow + 124.8102 x JPY.
これをグラフ化すると図Cになる。

さてこれでは高橋氏の図4とは大分違うのである。

Step4:68%の説明力の2つのファクターを使ったモデルで推計値を計算した事後に、3月15日以降の日経平均から800円を震災の影響としてさし引いてみると図4-Pになる。
つまり式で言えば、
2009/4/3~2011/3/14:推計値=7949.56 + 0.726191 x NYDow + 117.2695 x JPY
2011/3/15~2011/08/08:推計値=7949.56 + 0.726191 x NYDow + 117.2695 x JPY-800

これで高橋氏の図4に近づいたのではないだろうか。しかしこれは随分と変則的なモデルである。投資銀行の調査部門なら営業部門に栄転させてくれるだろう。

Step5:上記式の円ドルを通期100円で固定すると図5ーPになる。


さてこれでめでたく日経平均は「今でも1万1000円程度であっただろう(正確には10827.40)」とあいなったわけである。氏の図5も見ておく。

ダイヤモンド・オンライン
ほぼ同じチャートだろう。

さて、氏の(多分)主張する10827.40を円ドル100円で割ると108ドル27セントになる。これは現在の117ドル4セントよりも7.5%も日本は窮乏化していることを意味する。もし日銀が彼の主張を入れて頑張って円安にしていれば日本はもっと貧乏になるって主張なのだろうか?


判断は読者にお任せすることにしましょう。

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