2012年1月16日月曜日

「日露戦争、資金調達の戦い」新潮選書 アマゾン予約受け付け開始


拙著「日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち」(新潮選書)が新潮社から2月24日に出版されることになりました。本当はもう少し色々な準備が出来てから発表しようかと思っていたのですが、今日FaceBookで昔の同僚から「本予約しました」というメッセージが入って驚いてアマゾンをチェックしたら既に予約できるようになっていました。それで今日ご報告しておこうと思いました。

昨年末まで放映されたNHKドラマ「坂の上の雲」の影響もあってか、大きめの書店にいけば「日露戦争コーナー」が設置されていることも珍しくはありません。そこには数多くの日露戦争に関して書かれた書籍が置かれています。1次資料の数よりも本の方が多いような気がしますが、不思議なことに戦費調達、つまり戦争をするためのファィナンスについて書かれたものは全くありません。せめて当時戦費調達を担当した高橋是清の「高橋是清自伝」でも並べておいてあれば結構なことなのですが、そうした本屋は見たこともありません。太平洋戦争もそうですがどうやら日本人はロジスティックスや戦費みたいなことが苦手なのかもしれません。

資金調達に関してはかろうじて高橋是清の逸話が伝えられています。山川のMook本なんかでもそうです。資金調達に困っていた是清の前にたまたまパーティーで隣り合ったユダヤ人金融家であるシフという人が金を貸してくれたというような話になっているのです。ユダヤ人はロシアに迫害されていたから日本に協力したと。さすがに司馬遼太郎や児島譲はそうは単純に捉えてはいませんけれど。

しかしちょっと想像してみてください。当時の日本国家の年間歳入は2億5千万円ほどです。日本が海外から借りたお金はたった1年半しかない戦中に約8億2千万円、戦後では4億8千万円にものぼります。パーティーで隣り合った資産家が「ひょい」と出すような金額ではないのです。同盟国のイギリスがアレンジしてくれたかって?そうでもないのです。お金の流れから見ると英米に限らずドイツやフランスの動きなど日露戦争も別の側面が発見できるでしょう。また少し歯車が狂っていれば日本は開戦直後、本格的に戦う前に早々と負けていたかもしれないのです。

当初これは小説の形態で一気に書きました。友人の金融の専門家には評判が良かったのですが、そうではない人からは「前提となる当時の金融制度や国際的な仕組み自体がよくわからない」と言われてしまいました。それはそうですよね。当時のロンドン市場やニューヨーク市場、金本位制度、発行市場などの金融制度、JPモルガンやロスチャイルドなど欧米の金融機関。これらの説明がどうしても必要だったのです。したがって小説はあきらめてノン・フィクションの形態になりました。またこうした予備知識が要求されることが「日露戦争コーナー」に軍資金調達の本が一冊もない状況をつくりだしていたのだと思います。でも私の本に難しいことは何も書いていません。読んでいるうちに国債の歴史や金本位制度が理解できるように工夫したつもりです。

ご存知の読者もいらっしゃると思いますが、一時別立てで「日露戦争と金融市場」というブログを書いていました。随分加筆訂正しましたがこの本はその時のブログがベースになっています。量的には290ページが462ページにまで増えています。

当時のロンドン市場には日本とロシア両国の国債が上場され日々取引されていました。旅順要塞陥落でどれだけ価格が動いたと思いますか?日本の勝利を決定づけたのは奉天会戦でしょうか?それとも日本海海戦でしょうか?東京兜町の株価はどうだったのでしょう。日々連戦連勝気分だったのでしょうか?兜町の株屋さん達は日本がロシアと戦うことをどう考えていたのでしょうか?ご祝儀相場ですか?色々な疑問が湧いて来ませんか?

また日露戦争を金融の側面で追いかけると、ポーツマス会議で終戦とはならないのです。坂の上の雲には手が届きません、坂道は続きます。必然的に南満洲鉄道設立にまで触れなければ終わりません。では「満鉄」のIPO(新規株式公開)はどうだったのでしょうか。人気はあったのでしょうか?国際関係にどう影響したのでしょうか?

以上のような内容が基礎になっている本です。

今後も発売日に向けてこの本についてはブログに書いていきます。

新潮選書は厳しい校閲が売りだそうです。本を作ることの大変さも勉強になりました。実はまだ原稿を直しているところなのですが、2月24日には必ず間に合いますので是非ご注文下さい。

アマゾン:「日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち」(新潮選書)

Porco Rossoこと板谷敏彦

【ビジネスアイコラム】ギリシャ危機が再燃している

私がフジサンケイ・ビジジネスアイに書いているコラムです。 (本日分)

S&Pがユーロ圏9カ国を一斉に格下げし、フランスもトリプルAを失ってしまった。欧州中央銀行(ECB)による長期資金供給オペによる流動性対策を評価しながらも、財政再建策だけではユーロの弱い経済成長見通しに対して不十分であると指摘した。これはユーロ圏の経済統合強化策が不十分であるという意味でもある。

一方で、一時ほど報道されなくなったギリシャ問題も、解決したわけではまったくない。現状をいえば、昨年10月の首脳会議で暫定合意された、ギリシャに対する1300億ユーロの第2次支援の条件としての「ギリシャ債務の民間による自主的な債権放棄(PSI)」にかんする協議が、中断に追い込まれている。PSIとは、民間が保有する2050億ユーロ分の債券につき、1000億ユーロ分を債務放棄するという内容である。

ギリシャは3月20日に145億ユーロの国債償還を迎える。PSIが合意に至ったとしても、最低6週間の時間が必要であるからデッドラインは目前に迫っている。合意がなければ第2次支援の資金は供給されず、ギリシャはデフォルトとなる。

では、何が合意の妨げになっているのであろうか。

まず、PSIはあくまで自主的な債務免除であるから、中央銀行であるECBは自行の持つギリシャ国債を対象から外し、損失(200億~250億ユーロと予想されている)を負担することを考慮に入れていない。民間債権者からすれば大いに不満である。

次に、より深刻なのは、格付け会社フィッチ・レーティングスはPSIによる合意をデフォルト事由と見るが、国際スワップデリバティブ協会(ISDA)はクレジット・デフォルト・スワップ(CDS:倒産保険の一種)の決済は起こらないとの見解を持っていることである。

CDSを所有する投資家から見れば、合意が成立して中途半端にしか債務が返済されないよりは、デフォルトしてくれて保険金が入るほうがありがたいから、PSIには反対に回る。ギリシャにとっては、たいへんな事態である。そこで、少数の債権者の反対によって合意形成が妨げられることを防ぐために、ギリシャによって考えられていると伝えられているのが、同国債券に対する「集団行動条項(CAC)」の付与である。債権者の3分の2程度の賛成があれば、少数者の反対にかかわらず合意に持ち込むことができるというものだ。

これを、投資家サイドからみればどうなるか。デフォルト認定されないためにCDSという保険が機能せず、談合めいたPSIという方法で債券の償還額が決まるような危険な債券を保有し続ける理由はない、ということになる。

つまり、ユーロ問題は依然として、世界の金融市場に重くのしかかり続けると考えざるを得ないのである。



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12.26 自然利子率の低下に見舞われた世界

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