2012年2月23日木曜日

日露戦争、資金調達の戦い―解説



本日、いよいよ拙著「日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち」が店頭に並び、アマゾンの表示も「予約可」から「在庫あり」に変わりました。

ここで、この本がどんな本であるのか解説しておきたいと思います。

この本は題名どおりに日露戦争時の軍資金調達の話です。ロシアと事を構えた日本政府は、先ず軍資金はさほど必要では無いだろうと考えてました。さらにある程度の金額、たとえば2億円(2千万ポンド)程度であれば同盟国である英国がなんとかしてくれるのではないか?と甘い考えを持っていました。そうした状態で見切り発車で開戦してしまうのですが、開戦後すぐに、当初考えていたよりもよほど軍事費がかかる事がわかってきます。兵員の死傷率、砲弾の消費量などが日清戦争時と比べ物にならなかったのです。これはロシアも同様です。そして開戦早々に日本は金本位制維持のための正貨(金)がいきなり底をつきそうになってしまうのです。日本はどうしても金と同じ価値を持つポンド建てで資金を都合しなければなりませんでした。

さて、では何故国内投資家からの円での借入ではいけなかったのでしょうか?拙著ではこうした部分をはしょらずに金本位制や国債の誕生や発達などから書き起こしています。20世紀初頭は先進各国が金本位制を採用していましたので、為替は金価格を媒介として固定化し、貿易には為替リスクはありませんでした。その為に当時は現代から見ても驚くほどに国際金融市場が発達していたのです。各国政府や企業は国際金融市場であるロンドン市場でポンド建てで資金を調達しました。これは日本もロシアも同様で両国の国債はロンドン取引所に上場され日々トレードされていたのです。日露戦争中も毎日価格がついていました。

ということは、どういうことか? 私のような証券マンとしては戦争の進行とともに両国国債の価格がどう動いたのかは気になるところです。日本人やロシア人、ロンドン市場のバンカー達はどのあたりから日本は勝ったと認識し始めたのか?あるいは、本当に日本は勝ったのか?も含めて確認しておきたかったのです。こうして金融市場参加者の目、あるいは資金調達に奔走する高橋是清の目から日露戦争を追いかけると、「坂の上の雲」にすっかり馴れてしまった我々の歴史観からは少し違った日露戦争像が見えてきます。



さて私が著者ではなく、読者として「この手」の本を選ぶ時、あるいは評価する時には先ず「目次」、と各種データや史実の出典元、書籍のリストを見ることにしています。

従って、しのごの御託を並べるよりも、以下に目次を提示しておきます。

その前にこの本は原稿用紙で650枚を越えています。普通の新書が200枚ですから新書3冊分のボリュームがあると考えて良いでしょう。目次を見ていただくとわかりますが実際にこの本は3冊程度に分けて発刊することも可能でした。しかし日露戦争を理解するには、これらのテーマはやはり一つの本で語られるべきだと考えたのです。その為にあやうく新潮選書史上一番分厚い本になるところでしたけれど。(多分2番目にページ数の多い本だと思います)

第一章 高橋是清と深井英五
高橋是清
深井英五

第二章 二〇世紀初頭の金融環境
列強世界のGDP
「承認の印章」金本位制度
ロンドン・ロンバート街
マーチャント・バンク全盛の時代
魅力的な投資先だった新興国・日本
勃興するインベストメント・バンク
ノーザン・パシフィック事件

第三章 日露開戦
シベリア鉄道とロシア南下策
一九〇四年の兜町の大暴落
金子堅太郎と伊藤博文
逡巡するベアリング商会
抱き合って泣いた元老達
ニューヨークのユダヤ人商人会で
ロシアの財政事情、ペテルスブルグの悩み
戦費と公債発行、日本とロシアの国力差

第四章 高橋の手帳から見る外債募集談
暗涙を催す人々  
鐚一文の信用もなし 
絶望的な公債発行  
マカロフに追悼の意を表す日本人  
トレジャリー・ビルかボンドか    
新しい訪問者、カッセル配下ビートンの来訪
鴨緑江(ヤールー)の戦い   
クーン・ローブ商会のシフ  
厳しい公債発行条件     
一転して人気急上昇の日本公債
「日本を開国したのはアメリカ」だから    
オー・ヘンリが描いた日露戦争
日本国内での評価  
公債募集談の真相

第五章 戦況と証券価格
松尾日銀総裁の見積もり
黄海海戦・遼陽会戦     
旅順陥落を待つべし
北海海上で起きた「ハル事件」        
第二回公債発行
半年以上も遅れた旅順要塞陥落    
ようやくなされた一時帰国     
血の日曜日事件  
ウィルヘルム二世の密書
奉天会戦での分かれ目
好転した第三回公債発行
ドイツとフランスの思惑
勝つと売られる日本公債
バルチック艦隊の東航      
日本海海戦の衝撃  
シフとの関係で乗り切った第四回公債発行   
珍客萬来、米国の紳商
翻弄されるポーツマス会議 
日比谷焼打事件、「ハリマン博士一行の災難」

第六章 戦後と満州鉄道
桂ハリマン覚書     
満洲版「東インド会社」
モルガン商会からの提案
ロスチャイルドが参加した借り換債  
ハリマンの豪華パーティー   
外国人投資家を締め出した鉄道国有法案   
満州鉄道、IPOの開始     
最後の資金調達   

エピローグ
日露戦争のその後  

年表


脚注はオリジナル原稿で290ほどありましたが、ページ数の都合で随分減らしました。合計で218項目です。減らしたためにちょっと不親切になっているかもしれません。

以下、直接出典とした書籍です。

"Our Crowd" Stephen Birmingham 
 “Far Eastern Plans” George Kennan
 “Jacob H. Schiff :His Life and Letters Part1”Cyrus Adler
 “The London Stock Exchange” Ronald Michie Oxford
「O・ヘンリ短篇集」大久保康雄訳
「アメリカ金融資本成立史」呉天降 有斐閣
「アルゼンチン観戦武官の記録」社団法人日本アルゼンチン協会出版
「ウィッテ伯回想記」原書房
「ウォール街二百年」ロバート・ソーベル 東洋経済新報社
「お雇い外国人」梅渓昇 講談社学術文庫
「タイムズ日露戦争批評」森晋太郎 時事新報社
「ツシマ」ノビコフ・プリボイ 原書房
「バルチック艦隊」大江志乃 中公新書
「ベルツの日記」トク・ベルツ編 岩波文庫
「マーチャント・バンキングの興隆」 スタンリイ・チャップマン
「もうひとつの日露戦争」サルキノフ 朝日選書
「モルガン家」ロン・チャーナウ 日経ビジネス文庫
「ロンバート街」バジョット 岩波文庫
「黄昏の詩人:堀口大學とその父のこと」工藤美代子 マガジンハウス社
「回顧七十年」深井英五 岩波書店
「外交五十年」幣原喜重郎 中公文庫
「外債募集英文日記」藤村欣市朗 福武書店
「兜町盛衰記 第一巻」長谷川光太郎 図書出版
「興銀五〇年史」
「近代日本外交史」信夫清三郎 中央公論社
「近代日本経済史要覧」安藤良雄編 東京大学出版会
「後藤新平 第2巻」鶴見 祐輔 勁草書房 1965年
「江戸明治東京重ね地図」明治40年前後復元地図
「高橋是清 日本のケインズ-その生涯と思想」スメサースト 東洋経済新報社
「高橋是清自伝 上下巻」高橋是清 中公文庫
「国債の歴史」富田俊基 東洋経済新報社
「坂の上の雲 第七巻」司馬遼太郎 文春文庫
「産業革命と企業経営:関説 第一次世界大戦前のロンドン金融市場と日本企業」鈴木俊夫 ミネルヴァ書房
「小村外交史」外務省編 原書房
「証券市場の真実」エルロイ・ディムソン 東洋経済
「人物と思想」深井英五 日本評論社
「随想録」高橋是清 本の森
「相場師奇聞」鍋島高明 河出書房
「増補 満鉄」原田勝正 日本経済評論社
「大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清」松本崇 中央公論新社 
「大陸に渡った円の興亡 下」多田井喜生 東洋経済
「第2次世界大戦 第1巻」W・S・チャーチル 河出文庫
「帝政ロシアと外国資本」中山弘正 岩波書店
「徳富蘇峰」 早川喜代次 徳富蘇峰伝記編纂会
「内田良平伝」黒龍倶楽部 原書房
「日米外交秘録」金子堅太郎談
「日本銀行沿革史」第三巻 
「日本銀行百年史 第二巻」
「日本策士伝」小島直記 中公文庫
「日露戦争と国庫費額」ゲ・デ・デメンチェフ 
「日露戦争に投資した男」田畑則重、新潮新書
「日露戦争研究の新視点:日露戦争公債発行とロンドン金融市場」鈴木俊夫 成文社 
「日露戦争史」横手慎二 中公新書
「百年前の日本国債」 富田俊基 知的資産創造 2005年4月号
「米国経済事情と日本興行銀行」金子堅太郎述 1899年
「満州に於ける露国の利権外交史」ベ・ア・ロマーノフ 原書房
「明治経済政策史の研究」神山恒夫 
「日露講和ニ関シー米国ニ於ケル余ノ活動ニ就テ」外務省記録綴り金子堅太郎伯爵述 外務省編纂
「金融事項参考書 第八冊」大蔵省理財局
三笠保存会資料
三田商学研究 14(6)玉置紀夫 1972
「日本外交文書」第37巻 外務省
「日本外交文書 第38巻別冊日露戦争Ⅳ」外務省
「論語の活学」安岡正篤 プレジデント社

その他直接の参照は無いが参考にした図書多数

ロンドン市場の日本、ロシアの国債価格は日々のタイムズから鉛筆で書き写しPCに手入力してDBを作りました。兜町の株価も同様に東京朝日新聞からです。その為に私は日・英(+米)両国の日々の新聞を約3年分もろに読むことになりました。タイムズに自動車の宣伝が増えたり、英国王室が1905年のモーター・ショーで自動車をすっかり気に入ってしまったり。ロシアの潜水艦が訓練で潜航したら2度と浮かび上がってこなかったり。朝日新聞は途中から手書きの挿絵から写真に変わりましたし、早稲田の野球部は戦争中に初のアメリカ西海岸遠征をしてスタンフォード大と試合をしていました。などなど、それはそれで面白い冒険でした。


これを読まずに日露戦争を語ってはいけません。
是非読んでみて下さい。  

Porcoこと板谷敏彦


保坂正康氏による書評
新潮社HPから

6 件のコメント:

LaTour さんのコメント...

ゲットしました。
分厚いですねー、シリーズ最長あと一歩と言うのもうなずけます。
田舎の小書店には、新潮のB6は通常新刊配本がありません。
取次の営業さんにお願いして配本を付けてもらいました。
読み応えがありそうで、いつ読了できるか解りませんが、楽しみです。
先のヤップ島の記事、リクエストにお応え頂き有り難うございました、お忙しいのにお手数をおかけしました。
自分が最近読んで面白かったのは、
「本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド」
出版社: 書籍情報社 (2011/06)
ISBN-13: 978-4915999178
であります。
戦後日本は米国の企業舎弟だったのだろうかと、割り切れなく感じておりましたが、この本で日米関係の理解が進みすっきりしました。
店頭にこの本が在ったらすごい本屋だと思うくらい、レアだと思いますが、自分には目から鱗の傑作でした。
田中宇の国際ニュース解説で、紹介されていました。
http://tanakanews.com/120125SOPA.htm

Porco さんのコメント...

LaTourさん、お買い上げありがとう。長いけれど、意外に読み易いですよ。

Ozzy さんのコメント...

はじめまして。

Amazonで購入しました。分厚い本でしたが、あまりにも面白くて、2日で読み終わりました!

日本・ロシアの公債の利回りのグラフが、わかりやすくてよかったです。金融は、人間臭いんですね。

Porco さんのコメント...

Ozzyさん。
早いですね。楽しめたでしょうか。

LaTour さんのコメント...

「日露戦争、資金調達の戦い」読ませて頂きました。
 先ずはこの大部を著された、才能とご苦労に敬意と感謝を申し述べます。
 実に爽快な1冊であります。
 明治の偉大な先人や金融界の巨人への著者の思いと、現状への憂いが伝わる警世の書であります。
 国家の与信は無限大かと、錯乱の如き規律無き有様を前にして。
 「借りた金は返さなければならない」という単純な道理と、辛い選択苦難の道のりを、臆せず世に問う著者の心意気。
 シフの協調陰徳の生き様に、学ばせて頂きました、金融人はグリードな自己中という、W.stで表出した十把一絡げの 偏狭な見方にも、再考を促すきっかけとなればと思います。
 国民新聞襲撃の背景描写でのポピュリズムや拝金メディアは、時は移れど変わらぬ人の世、戦後民主主義高度情報化の現在、更に洗練されて根を張っております。
 先人の努力と知恵を学び直し、国の姿と行く末を見直す、端緒一助となりますこと祈念致します。

Porco さんのコメント...

LaTourさん。読了ありがとうございます。