2012年4月17日火曜日

原発危機の経済学


政府は閣僚会議において関西電力大飯原子力発電所の再稼働を地元自治体に要請することを決めた。

一方で14,15日実施の朝日新聞世論調査では野田内閣大飯原発再稼働妥当の判断に対し賛成28%、反対55%と国民の支持は得られていない。その理由として同調査では「政府が決めた暫定的な安全基準を」信頼するが17%、信頼しない70%という調査も行なっている。こうした状況下で、民主党の仙谷由人政調会長代行は16日の名古屋市内での講演で、原発の再稼働をめぐり「原発を一切動かさないということであれば、ある意味、日本が集団自殺をするようなものになる」と述べ、この発言が問題化している。

何が問題なのか?原発停止が日本の集団自殺を意味するという合理的な理由が充分に説明されていないからだろう。「原発を一切動かさないということであれば」を「民主党が政権を持ち続けるのであれば」に入れ替えた方が残念ながら昨今はよほどに説得力があるのだ。

「原子力は火力や水力よりもはるかに安全である。原発で死んだ人はいないが、中国の炭鉱では毎年数千人が死ぬ」。確かにこの論のように年間何名死亡というリスクを数字に一元化すればそうかもしれないが、避難地域に指定されて、現実に居住地を追われた人の映像をテレビなどで見る度に、そうは単純に納得できるものではないだろうと思うのである。成田空港建設の時の三里塚闘争を思い出しても先祖代々の土地の立ち退きなんてそれほど簡単なものでは無いだろうに、彼らには果たして立派な代替地が提供されるのだろうか?とか思ってしまうのだ。

「戦争はあまりにも重大な問題であり、軍隊に任せられるような問題ではない」はフランスの政治家ジョージ・クレマンソーの言葉である。同様に政治家は原子力工学の専門家ではなくとも、現在と未来の国民のために原子力発電の将来に関して意思決定をしなければならない。それにも拘らず、国民は政府から開示される情報を信頼していないというのが朝日新聞の世論調査の結果であった。つまり肝心の政治家のクレディビリティが低すぎるのである。

さて、原子力問題は一体どうなっているのだ?と悩んでいたのはもちろん貴方や僕だけではない、経済学者の斎藤誠氏もそうだった。そこで氏が社会学者の立場として、つまり意思決定しなければならない政治家になり代わって、原子力工学の専門家でも無いのに今回の原発危機を整理しなおしたのが「原発危機の経済学 」である。僕は優秀な社会科学者が技術的な問題に立ち入るのは当然だと考える。

氏がTVでヘリコプターから事故のあった原子炉格納容器に放水しているのを見ながら疑問におもった事、これは僕も疑問に思ったことだ。一体どれくらいの量の水が原子炉の冷却に必要なのか?僕と違って彼は突き詰めていった。なんと百キロワット出力の原子炉一基につき毎秒海水20トンだそうである(2次系冷却水)。これは実に荒川や多摩川の水量に匹敵する。

こうして原発の耐用年数や使用済み燃料の問題など疑問なアイテムをひとつひとつ明確にし、今後の原子力発電所の問題を考察したのが本書である。確かに建屋の崩壊した原子炉の上部に使用済み燃料棒の貯蔵プールが存在したのは記憶に新しい。何故そのような危険なものが建屋の上部のプールという不安定な場所に設置されていたのか。そしてそれが何を示唆しているのか、そもそも原子力発電のコストはいくらなのか? この本はあなたの目や耳の代わりとなって探っていってくれるのである。 

原子力は放棄を決めてもこれまでのサンクコストだけでは無く、これからも数十年単位で手間とコストがかかる。これほど危険な物の運営が経済的インセンティブを失ってしまってメインテナンスの品質は保証されるのだろうか。同書は経済学の立場から原子力政策がどうあるべきかが冷静に考察されている。折しも、本日からこの本のコンテンツについて斎藤誠氏と池上氏との対談が始まった。

池上彰の「学問のススメ」 エコノミストは工学的に「福島原発」を究明する

日々のニュースのヘッド・ラインに憤慨するだけでは無く、この本は日本の原子力政策のあり方を考える上で是非押さえておきたい良書である。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

>なんと百キロワット出力の原子炉一基につき毎秒海水20トンだそうである(2次系冷却水)。

 初めまして。インフレ連動債のエントリを拝読した流れで、この記事も読ませていただきました。原発の構造をかなり誤解されているようでしたので、失礼を顧みずコメントさせていただきます。

原発で必要な水の量を教えて下さい
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/6497169.html

 上記Q&Aに粗方書かれていますが、原発に使われている一次冷却水系(沸騰水型)、一次及び二次冷却水系(加圧水型)ともに系統内部を繰り返し循環しています。自動車のラジエータ水のうようなものとお考えください。ですので、流量が何トンあろうとも、外部から新たな給水は必要ありません。
 紹介本を書いた経済学者は、科学技術はおろか現実社会にも相当疎いのではないでしょうか。そんなに大量の熱水を海岸付近に放出すれば、沿岸漁業者が黙っているはずはないと思いますので。以上です。