2012年4月12日木曜日

エクイタブル事件 cut5

拙著からカットされた部分の5回目、最終回である。

第五章、ポーツマス会議の直前の「珍客万来、米国の紳商」ページ349の中に本来は入るはずだった一文である。ハリマンという人間は財界ではどうもゴロツキのような扱いも受けていたようで、スキャンダラスなことをたくさんしている。米国エクイタブル事件は投資銀行傘下の銀行や保険会社の資産(お客から集めたもの)を自分の都合で様々な有価証券を買い取らせ、お財布替わりに使っていたという、これ以降、いつの時代にもありそうな事件である。金融史的にはエクイタブル保険と言えば、世界の生命保険の走りである英国のエクィタブル、所謂オールド・エクィタブルを指すが、これはアメリカである。


シフの盟友である鉄道王エドワード・ハリマンは八月三十一日にシベリア号で横浜に到着した。こちらは九月三日の國民新聞が、「米国紳商の来遊」と伝えている。
「米国ユニオン太平洋鉄道会社及太平洋郵船会社の大株主にして社長たるイー・エッチ・ハリマン氏は、家族及社員数名を伴い、東西両洋汽船会社支配人ジューエン氏と共に八月三十一日横浜入港のサイベリア号にて来着し、二日午後五時二〇分新橋着特別列車にて入京したり・・・」

以下カットした。

本来はハリマンは七月に出発の予定であったが「エクイタブル事件」に巻き込まれ出発が一ヶ月遅れてしまった。エクイタブル生命はもともとクーン・ローブ金融グループの保険会社だったが、ハーバード大学卒業の跡継ぎ息子であるジェームス・ハーゼン・ハイドが派手なパーティーに耽り世間から無能の烙印を押されたことに事件が始まった。

彼はノーザン・パシフィック事件でシフと敵対したジェームス・ヒルに率いられた金融業者達に会長の座を追われ、1000株の発行済み株式のうち502株をトーマス・ライアンに売却してしまった。そこをハリマンが「お前は不正に入手したのではないか」とライアンを脅しその半分を取得したというスキャンダラスな事件だった。まるでヤクザと代わり映えがない。

これを嗅ぎつけたニューヨーク・ワールド紙は、これは前出のオー・ヘンリが週に一回短編を書いていた新聞であるが、昔そこで働いたことのあるライアンに同情的でハリマン一派の不正取引をしつこく追求した。ハリマンがウォール街で評判の悪い人間であった事がよくわかるだろう。ハリマンと仲が良かったクーン・ローブ商会のオットー・カーンが企業情報の開示を求めていたのとは全く対照的なのである。やがてこの問題は、何故ハリマン達が生命保険会社の支配に固執するのかと追求され、ニューヨーク州ではアームストロング委員会が設立され保険業界全体の問題へと進展していった。

この委員会はJPモルガンやクーン・ローブ商会などの金融グループは買収や証券引受で本来保険加入者のものである保険会社の資産をお財布がわりに使っているのではないかという問題提起を行った。つまり保険加入者の資金をバンカー達が自分達に都合よく利用しているだけではないかという疑惑である。この時期のアメリカの強気市場の背景に機関投資家による市場参入があったが、その裏にはこのような問題もあったのである。

これはハリマンだけに限らず、モルガンもシフも調べを受けることになる。実際こうした保険会社は投資銀行に資産をいいように使われて皆業績が低迷していたのである。

以上をカットした。


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