2012年5月28日月曜日

原発の2次系冷却水について



匿名さんから当ブログ「原発危機の経済学」に対してコメントを頂戴しました。コメント欄でお返事しようと思ったのですが長くなってしまったのでブログのエントリーとします。幸い匿名さんなので特定の個人攻撃にはならないと思います。


>なんと百キロワット出力の原子炉一基につき毎秒海水20トンだそうである(2次系冷却水)。

 初めまして。インフレ連動債のエントリを拝読した流れで、この記事も読ませていただきました。原発の構造をかなり誤解されているようでしたので、失礼を顧みずコメントさせていただきます。
原発で必要な水の量を教えて下さい
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/6497169.html
 上記Q&Aに粗方書かれていますが、原発に使われている一次冷却水系(沸騰水型)、一次及び二次冷却水系(加圧水型)ともに系統内部を繰り返し循環しています。自動車のラジエータ水のうようなものとお考えください。ですので、流量が何トンあろうとも、外部から新たな給水は必要ありません。
 紹介本を書いた経済学者は、科学技術はおろか現実社会にも相当疎いのではないでしょうか。そんなに大量の熱水を海岸付近に放出すれば、沿岸漁業者が黙っているはずはないと思いますので。以上です。 

匿名さん、

最近書籍を整理しなおした為に「原発危機の経済学」がどこかへいって見つからなかったので返事が遅れました。

おっしゃるとおり、1次系冷却水(ここでは混乱を避けるため沸騰型で話をします)はあたかも車のラジエーターのクーラント液のように閉鎖系の中で循環しています。そして車の場合は外の空気と熱交換することによってクーラント液を冷却し、エンジンを冷却します。これが液冷エンジンです。

小型オートバイや昔のビートルのようにラジエーターを持っていないものは空冷エンジンであってエンジンが外気と直接熱交換することによって冷却されます。ちなみにゼロ戦は空冷、ムスタング、メッサーシュミット、スピットファィヤーなどは液冷エンジンです。液冷であればエンジンむき出しの空冷に比べて正面からの断面積を小さくし、流線型の機体設計が可能ですから速度を出すのには有利になりますが、WW2期の日本は液冷エンジンをうまく作ることができませんでした。陸軍三式戦闘機「飛燕」は空冷エンジンに換装し五式戦になりましたし、海軍艦上爆撃機「彗星」も結局液冷から空冷に換装しています。

原子力発電所(沸騰水型)の場合、炉心を冷却するのは1次系冷却水であって閉鎖系の中で循環されます。おっしゃるとおり外部からの給水は必要ありません。復水器の事故でこの冷却水が2次系冷却水と混じると放射能が漏出してしまいます。
http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/date/plant/index-j.htmlより


稼動していた頃の福島第1原発の1次系冷却水の流量は、冷却材再循環ポンプの流量計ベースで以下のようになります、
1号炉(出力毎時46.0万KW)毎時5600トン
2号炉(出力毎時78.4万KW)毎時7570トン
3号炉(出力毎時78.4万KW) 毎時7570トン

こうして炉心を冷却してきた上記1次系の冷却水を復水器(ヒート・エクスチェンジャー、ラジエーター)を使って、2次系である放射能汚染されていない海水によって冷却しなければなりません。自動車のラジエーターでは空気がこの役割をしますが原子炉では海水です。従って1次系に対する給水は必要ありませんが、2次系では大量の海水が要求されます。

>なんと百キロワット出力の原子炉一基につき毎秒海水20トンだそうである(2次系冷却水)。


ご紹介いただいたQ&Aには
外部との熱交換があるのはご想像の通り海水です。国内の発電所であれば電力会社がデータを公開していますので季節ごとの取水/放水量くらいは調べればすぐに分かるでしょう。
と取水/排水量に関しては記述されています。
このアドバイス通りに電力会社のサイトを調べましたが残念ながら私にはなかなかわかりません。発電所は様々なデータを公開していますが、何故か取排水の量に関するデータはみつけられませんでした。

斉藤教授の「原発経済学の危機」p26では上記の毎秒20トンとは別に、2011年4月2日日経夕刊から「毎秒80トンの2次系冷却海水」というデータを引っ張ってきています。

また原発の温排水を隠したりせずにむしろ積極的に利用しようという資料「原子力発電所からの温排水の利用」では,

原子力発電の熱効率は33~35%程度であり、電気に変換されなかったエネルギーの殆どが温排水として排出される。火力発電の場合は、タービンに送られる蒸気温度が原子力発電より高いので、最新鋭の発電所では熱効率が42%にも達する(ガスタービンを利用する複合サイクルシステムでは50%近くなる)。また、廃熱の一部はボイラーから直接大気に放出されるので、原子力発電に比べて温排水の量は少ない。
 タービンの効率を高めるため、復水器に送られる蒸気は真空に近い低圧となっており、その温度は30~40℃である。この蒸気を水に戻すための海水は、20℃程度で取水したものが7℃程度昇温して排出される。しかし、その量は多く、発電容量100万kWに対し火力発電で毎秒40立方メートル程度、原子力発電(BWR)で70立方メートル程度である

ここでは復水器(=熱交換器)に送られる2次系冷却水の量を毎秒70立方メートル程度、つまり70トン程度としています。

こうしたデータの取得が何故難しいかについて想像するに、取排水する海水の量は取得した海水自体の温度(水温の低い深層水を取水したりもするそうです)、周囲との温度差を何度にして海に排水するかで異なってくるためだと思います。

排水の温度差を少なくしようと思えば必要とする2次系冷却水の量は増える。したがっていずれにせよ曖昧なデータになりがちなので斉藤教授は上記資料の毎秒70トンではなく、出所は明記していませんが、控え目なデータである毎秒20トンを使ったのではないかと想像しています。

(追記)斉藤教授よりTwitterで「入手出来たデータの下限である20トンを使用した」との連絡を頂戴しました。想像どおりでした。

>原発の構造をかなり誤解されているようでしたので
私は若い頃に原発を製造している会社に勤めていました。製造中のPWRに直接触れたこともありますし、独身寮では日々原子力のエンジニアに囲まれて生活していましたので、詳しいとまでは申しませんが、門前の小僧程度に原発の知識を持ち合わせております。

>失礼を顧みずコメントさせていただきます。
この一文はとても大事だと思います。場の雰囲気を和らげます。

>紹介本を書いた経済学者は、科学技術はおろか現実社会にも相当疎いのではないでしょうか。
斉藤教授とは「富本銭」の話で何度かTwitterでやり取りしたこともありますが、とてもまともな人だと思います。おっしゃるとおり最近はアカデミックなバックグラウンドなしでアカデミックに語る経済学者も増えていますので匿名さんの懸念は当然です。しかし斉藤教授は経済学者として既にかなりの評価を得ていますから、私には「清原って、バッティングを知らないだけじゃなくて野球も知らないんじゃないか」とか、「布袋ってギターが下手なだけじゃなくて、音楽もわかってないな」とかと同じように聞こえてしまいますよ。そういう酔っ払いのオッサンって時たま居酒屋なんかでみかけますけれどね。もし匿名さんにアドバイスできるとしたら取り合えず斉藤教授の本を立ち読みぐらいはしてみたらどうでしょうか。としか言いようがありません。もしくは池上さんとの対談もありますしね。

>沿岸漁業者が黙っているはずはないと思いますので。
黙っているわけないじゃないですか。
福島第一原子力発電所7・8号機および広野火力発電所5・6号機の増設に係わる漁業補償協定の締結について

匿名さん、コメントありがとうございました。


2012年5月23日水曜日

【ビジネスアイコラム】「グリグジット」と「ドラクマゲドン」


今朝のビジネスアイのコラムです。

【ビジネスアイコラム】「グリグジット」と「ドラクマゲドン」


ユーロ危機、ギリシャ問題をめぐって新しい造語が話題になっている。

ひとつは「ドラクマゲドン」。ギリシャがユーロに加盟したときに宇宙の果てに去ったギリシャ通貨「ドラクマ」が、再び戻ってきて災難を振りまくという、映画「アルマゲドン」のパロディだ。迫り来るドラクマを破壊しに決死行におもむく勇者はいるのだろうか。

もうひとつはGreeceとExitの組み合わせ「グリグジット」だ。芸のない造語である。しかしどちらも、ギリシャのユーロ離脱、ドラクマの復活が現実味を帯び始めたことを示唆している。

ギリシャは総選挙後の組閣に失敗し、6月17日の再選挙にその将来を委ねられることになった。前回選挙で勢力を伸ばし、再選挙の原因となった急進左翼連合SYRIZAのツィプラス党首は、国民に厳しい負担を強いるギリシャ救済策の合意内容を破棄したいと考えている。一方、救済策を主導するドイツは、ギリシャのユーロ離脱がユーロ経済圏に重大な影響を及ぼすとの脅しに屈して、救済策を書き換えるつもりはない。

こうした中で開催された主要国首脳会議(G8サミット)の首脳宣言には、「甘い言葉を挿入すればギリシャがつけあがる」とのドイツの警戒感をにじませながらも、「緊縮一本やりではなく成長戦略」との文言も入った。もちろんここでいう成長戦略には相応の原資が必要である。

フランスのオランド新大統領は、具体的な提案とともに存在感を示す必要がある。そこで、23日のEU首脳会議でユーロ圏共同債の発行提案を行うと見込まれているが、今後のユーロ問題の見通しを占う上で、実現可能性が極めて薄いと思われている共同債提案に対するドイツの反応がひとつの焦点となるだろう。

ユーロ加盟諸国による債務相互化は、現時点ではドイツ国民党の合意を得にくい。メルケル独首相に軽く一蹴されるようであれば、議論は「救うべきか、救わざるべきか」との二元論にまで進んでしまうだろう。

ギリシャの離脱は再選挙次第との見方もあるが、たぶん事態はそれほど我慢強く待ってはくれない。ギリシャの銀行からの預金引き出しが漏れ伝わり始めたのとともに、この週末にはスイスの名門紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング日曜版がUBSの主要取引先の話として、スイスの金融市場で過去1週間に、最大で通常の4倍に上る資金流入が見られた日もあったと伝えた。

再選挙までギリシャの国民が銀行取り付け騒ぎに巻き込まれずに済むのか、あるいは同時に懸念されている銀行システムの脆弱(ぜいじゃく)なスペインなどで同様の問題が発生しないのか。「ドラクマゲドン」の地中海落下、つまり「グリグジット」まで、それほど時間が残されているとは思えないのである

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もうかなりお馴染みの言葉なのかな?と思っていたら、そうでもなかったのであえて書かせてもらいました。

今読んでいる、歴史ジャンルのベスト・セラー、ウィリアム・マクニールの「世界史 上 (中公文庫 マ 10-3) 」。その後に書かれた世界システムのウォーラースティン:知の教科書 ウォーラーステイン (講談社選書メチエ) 。文字に残された歴史は地中海を中心に展開していきます。

Porco

2012年5月17日木曜日

Sayonara Game


大リーグ、タンパベイ・レイズとマイナー契約をした松井秀樹が現在プレーしているチームは、ノース・カロライナにある3Aのダーラム・ブルズだ。

このダーラム・ブルズは映画ファンなら憶えている人も多いと思うが、ケビン・コスナーの「さよならゲーム」(原題:Bull Durham:SAYONARA Game、1988)の舞台となったチームである。今観ても面白い(野球好きならなおさら)この映画はヒロインがスーザン・サランドン、新人の投手役がティム・ロビンス、彼はこの映画で見出され、後に「ショーシャンクの空」、「デッドマン・ウォーキング」、「ミスティック・リバー」と大ブレークすることになる。おまけにこの映画の撮影で知り合ったスーザン・サランドンとはその後約20年間も夫婦だった。

僕は今になって初めて知ったのだけれども、このチームは映画が撮影された当時はカロライナ・リーグにいて、映画の設定の3AではなくシングルA、特に"High -A"と呼ばれるクラスだったのだそうだ。この映画で全国区の知名度を得て、タンパベイ・レイズが結成される1998年に3Aになった。

もっともこんな事を知っていたところで何の役にも立たないけれども。
NYTより

ケビン・コスナーこと映画の主役クラッシュ・デービスは3Aのホームラン記録を持つベテラン・キャッチャー。3Aで記録を持つということはいつまで経ってもメジャーでプレーできないということでもある。そんな彼が流れ流れてダーラム・ブルズにやってくる。

彼が呼ばれた理由は明確だ。活躍してメジャーに上がって欲しいなんて球団関係者の誰も思ってやしない。期待されることはドラフト1位のアホな新人快速球投手を育てることだけ。

だけど、クラッシュだっていつか大リーグでプレーしたいと思っている。街を歩いていてショーウインドウに自分の姿が映ると思わずバッティング・フォームを構えてしまう。根っからの野球好きなんだ。そしてアホを相手に一仕事。また次の土地へと流れていく。

当時中間管理職なりたてで草野球に凝っていた僕には深く突き刺さった映画だった。マイナー・リーグとフランチャイズの関係とか、アメリカ人のベースボール・ライフとか、色々なことを考えさせられる映画だ。今観ても面白いと思う。


因みに、今夜はプータケット・レッドソックス戦、マイナー調整中の松坂と松井の対決となるそうだ。



2012年5月16日水曜日

現実味を帯びるギリシャのデフォルト



ギリシャでは総選挙後の連立政権樹立に向けた協議が物別れに終わり、来月の早ければ6月10日には再選挙が実施されることになった。言い換えれば現行のユーロによる融資条件を拒否し、受け入れられるか否かにかかわらず新たに条件緩和の交渉に入る可能性を追求することになった。

これを受けてギリシャのデフォルト懸念から各国金融市場ではいわゆる「リスクオフ」の状態が加速し、株やコモディティなどから安全資産に資金シフトする動きが見られた。また米企業の社債保証コストが上昇するなど、問題はギリシャのみにとどまらず、欧州ソブリン危機として他の脆弱な国々の動向も含めて今後の財政破綻懸念が再燃することとなった。

ギリシャは債権者の「自主的」という名の下に既に債務の減免を受けている。また10年債は20%を超える利回りで取引されているとはいえ、このままではいくら表面的な利回りが高くとも新たなギリシャの募債に応じる投資家はどこにもいないだろう。デフォルト認定の基準に依存するとはいえ特別融資がなければ支払いに応じられない、実際には既にデフォルト状態なのである。

ギリシャでは今回の総選挙を通じてユーロ(主にドイツ)から突きつけられた財政再建計画に対して「NO」と答えたが、ユーロ通貨圏にとどまるか?との質問に対しては3分の2が「YES」と答えている。この両者が同時には成り立たないトレード・オフの関係にあることを無視し、良いとこ取りを狙う姿勢は何もギリシャに限ったことではない。しかしギリシャ人はぎりぎりの段階では何とかするだろうというような性善説的な楽観的姿勢をよりどころに金融市場の将来を占う局面はもはや既に過ぎたといえるだろう。

政府が現行ユーロにこだわれば、年金も公務員給与も充分な原資がない、そこでは新たに減価した独自通貨を発行しなければならない。

現実のデフォルトが発生すれば、ギリシャ国内では外国人が保有する既存のユーロと仮称新ドラクマが平行して使用される事態になるだろう。銀行預金は自動的に1ユーロ=1ドラクマと書き換えれば済むが、既発紙幣にはスタンプを押すなどして持ち込まれたユーロ紙幣と区別できるようにする作業が必要になるだろう。

資産家の多くは既に海外に逃避しているだろうと考えられる。ギリシャの銀行預金は既にピーク時から30%減少し、この動きは未だ大きくはないものの現在も続いている。通貨変更の直前には預金の外国銀行への移動が封鎖され、国境の検問を強化し現金の持ち出しも管理しなければならない。言うまでもなくこれは銀行取付けを引き起こす。実務的には大変な騒動となることは間違いない。

ギリシャの一般の預金者としては今のうちに資産防衛のために格付けの高い国の債権やコモディティを買うか、あるいはユーロを外国の口座に移管しなくてはならないのだ。我々はギリシャに関して総選挙を待たずに大きなイベントが発生する可能性を考えておいた方が良いだろう。


2012年5月14日月曜日

ダウンロード FRED



前回はFREDの機能を使って名目GDPとニューヨーク・ダウを同じグラフの中に特に何らの工夫をすることも無くそのまま描いてみた。

こうしたデータは最初の1947年と最後の方では数字の桁が大きく違う。ちょうど複利のチャートのようになっている。そこで前回原油価格で試したように、チャートの縦軸を普通の数字から対数に変えてみる。




こうすれば非常に大雑把で尚且つ途中に紆余曲折こそありそうだが、GDPの規模の増加に沿って株式市場も一緒に拡大してきた事がわかるのではないだろうか。株式の投資家は一般にGDPデータ発表の時はいつも緊張して見つめているものだ。何故なら景気が拡大することは株式にとっても良いことだからだ。

しかしこれではGDP、ダウ指数とも右肩上がり以上には何もわからない。どうしようも無いので、ここでエクセルのアド・インを使って上記グラフのデータを自分のエクセル・シートにダウン・ロードしてみよう。この手の2つのデータの関係を調べる場合は相関係数を出すか回帰分析でもしてみるものなのだ。
各項目のIDはグラフの上に()で書かれている。名目GDPは"GDP"で、ダウ・ジョーンズ指数は"DJIA"である。

ここでエクセルを起動してFREDのアドインに入る。


アドインのダウンロードの仕方はFRED Add-In for Microsoft® Excel®を参照して欲しい。あるいは金融市場Watch Weblog Tech Laboでは日本語で説明してくれている。(FREDについて書かれたものはあまりないと前回書いたけれど、@gion_mktのこのサイトは優れている)

先ず、単純にGDPのデータをダウンロードしてみよう。


このようにデータが自動的にダウンロードされる。このデータは名目GDPの値である。


2つ以上のデータを一度に取得するときには、まとめて書いてもかまわない。

ちゃんと以下のようにダウンロードしてくれる。


ここで、グラフ作成機能を使ってみる。Build Graphの小さい三角をクリックするとポップ・アップ・ウインドウが出てきて複数データ系列のグラフ作成をしてくれる。

その結果が下の画面、

今回は縦軸を対数軸にする代わりに、GDPの数字やダウ指数そのものをLN関数を使って自然対数化してみる。つまり軸のかわりに数字そのもを変えてしまう。
下のグラフでは左がFREDのグラフ作成機能で作成したもの、右がLN関数で自然対数化されたものをグラフ化したものである。

他のデータで色々と試してみれば直ぐに慣れると思う。



2012年5月12日土曜日

対数チャート FRED


このエントリーは前回の「FREDについて」の続きだ。

前回はCPI(消費者物価指数)のデータ対して、あっさりと対数グラフ(Log scale)を使ってしまったけれど、対数グラフとは一体何なのか?、それを使う意味は何なのだろうか?という問題を簡単にスルーしてしまった。実に悪いクセだ。

この問題は単純なようで、すごく大事なポイントである。ベテランのプロの株屋さんが作ったものでも、よく勘違いをしている資料を見かけることがある。特に分析期間の短い間はそう影響は無いのだけれど、長期の分析や予測をするときにはこの縦軸をどうするかは大きな問題になる。

この問題は金利の単利と複利について考えるとわかりやすいだろうと思う。

ある人が10万円を年利率20%で借りたとして、単利の場合と複利の場合を考えてみよう。

単利の場合は毎年元利の20%である2万円ずつ元利合計は増加する。
元利合計=10万円+2万円x年数 ・・・同額増加

複利の場合には、毎年、前年の元利合計に対して20%ずつ増加する。
元利合計=10万円x(1+20%)^年数・・・同率増加 「^2」は2乗の意味。



これは5年だからどうにか見れるものの、例えば20年になるとどうだろうか?


同額では無く、同率で増加する複利、つまり複利の場合にはグラフは立ち上がってくる。従って年率5%のGDP成長といった場合や長期の株価の場合にも、何年も累積するとグラフの最後は真上に向かって立ち上がってしまうことになる。

そこで、縦軸を対数軸にすると、


上のグラフの縦軸は、最初の目盛りが10、次が10の2乗の100、その次が10の3乗の1000.これが対数軸であり、対数グラフだ。複利が直線になって現れる。年率20%の角度だ。

では、実際何に使えるのか?
FREDに戻ってみよう。

グラフはWest Texas IntermediateのOil価格だ。データは1946年からある。
上は縦軸が普通のグラフだけれど。最近の価格変動が大きく出過ぎて見づらいだろうと思う。


これを縦軸を対数軸にすると、どのくらいの変化率で推移しているかがわかりやすいだろう。例えば40ドル抜けでターゲットを倍の80ドルとしたところで、対数チャートで見れば大したターゲットでは無かったことがわかるだろう。(勿論、そういった事は事前に言って欲しいところだが)

さて、下のグラフは青がアメリカの名目GDP(10億ドル)。それに加えて赤のダウ30(指数値)を何の工夫もなく同じグラフにプロットしたものだ。



残念ながらここからは何もわからないだろう。ただ両者とも右肩上がりで上昇しているだけだ。1987年のブラック・マンデーなんか大騒ぎしないで欲しい、たいした事ないじゃないか。GDPが増加すれば株も上がる?だけど大きく売られてしまうこともあるじゃないか。今の株式の水準は名目GDPに対して高いのか低いのか?さっぱりわからない。

次回はこのグラフの扱いについて考えてみる。



2012年5月11日金曜日

FREDについて


実を言うと、これまでずっとWindows XPを使ってきた。

現在のPCの導入時にも既にVISTAはあったのだが、金融機関に長く勤務したこともあって、その信頼性や、適応するアプリケーションの問題から常に最新バージョンのひとつ古いものを使う習性がついていたのだと思う。しかしその後も特段、不自由を感じなかったこともあり、そのままにしておいたのだが、今回はセントルイス連銀の提供している経済・金融データ・サービスFRED(Federal Reserve Bank Economic Data:ST.LOUIS FED)がエクセル用アドインをリリースしたことから、エクセルのバージョンを変える必要が出てきたのだ。つまりWINDOWS XP用のエクセル2003から、現行WINDOWS 7のエクセル2010にである(アドインはエクセル2007用に出来ている。2003用も確かに提供されているが使い勝手が良くない)。

ここまでで一体何の話だか理解できない読者もいると思うので、先ずFREDの紹介からしておこう。

Googleで検索してみるとFREDを説明した日本語サイトやブログはあまり無い。多分本邦での米国経済指標に対する分析ニーズがそれほど無いというのが現実なのだろうけれど、その割にはブログやTwitterではアメリカの失業給付申請がどうしたとか、CPIがどうだとか、最近ではマネーの量がどうしたとか賑やかしい。こういった分析はベンダーやマスコミからの垂れ流し情報だけではなく一度自分でデータを取得して分析してみるという経験を積めば、さらに理解が深まるというのは自明のことだろう。もちろんこれを経験したからディーリングで儲かるというお話ではないけれども。どんなことでも真実を理解したいという好奇心は大切だと思う。

拙著にも書いておいたが、米国の中央銀行設立は先進国としては随分と遅く1913年になってからである。詳しくは連邦準備制度のwikiを見てもらう事としてここで登場するセントルイス連銀はこの時に設立された12の準備銀行のうちのひとつである。こんな事を書いていると無性に連銀について書きたくなってしまうのだが、ここは本題とは違うので別の機会に委ねることにしよう。ともかくセントルイス連銀は経済データの整理、公開に一番熱心に取り組んできたのだ。

セントルイス連銀 エコノミック・リサーチ


これがFREDのページである。40のデータ・ソースから45000種の経済データが収集され、ダウンロードできるし、グラフ化もできる、また注目しているデータが更新されればメールを送ってくれるサービスもある。一昔前ならこれだけのサービスがあれば間違いなく年間数百万円は取られていただろう。しかし今はこれが何とタダなのである。是非登録してある程度は使いこなせるようになっておこう。金融にかかわる者であればFREDの存在と簡単な使い方ぐらいはマスターしておいて損は無いだろう。

とりあえず、あまり深く考えずに少し試してみよう。
上の画像で矢印で囲ったCPIのところをクリックしてみる。



すると上の画面が出てくる、これが米国消費者物価指数(何でも込み)である。データは1947年から直近まで月次で揃っている。

これを見て「70年代までインフレ率は低かったのにその後はインフレ率が高くなっていますね」と話していた人がいたが、これはもちろん大間違いである。グラフの下のLog Scale:Leftのところクリックしてみよう。


グラフの軸をログ・スケール(対数目盛り)にしたのだ。伸び幅でなく、伸び率の変化はこのグラフの傾斜で決まる。伸び幅は消費者物価指数の指数値増加分、伸び率はインフレ率である。つまりアメリカは50~70年まで穏やかなインフレ、70年代の厳しいインフレ、80年代以降の再び穏やかなインフレ期にとりあえず今のところ3分できるのだ。80年代半ばから2000年半ばまでを特にThe Great Moderationと呼んで、この期間にアメリカのインフレ調整後の資産価格は大きく上昇することになった。

さて、消費者物価指数にも種類があるだろう。コアとかコアコアとかである。上の図で丸でかこったAdd Data Seriesをクリックしてみよう。

さらに出てきた画面の丸で囲ったBrowseをクリック, これで消費者物価指数に限らずほかの経済指標をグラフの中に取り込むことができる。例えばケース・シラー指数とかS&P500なんかでもだ。


ここでは消費者物価指数のなかで短期の変動の大きい食料品とエネルギーを除いたコアコアCPIと呼ばれるものをグラフに加えて一般の消費者物価指数と比較してみよう。

さらに丸で囲ったConsumer Price Indexes(CPI)をクリック


さらにSpecial Indexes(64)をクリック


ここで一番上にあるアイテム、Consumer Price Index for All Urban Consumers : All Items Less Food & Energyが目標のコアコアCPIである。FREDではこうしたデータを使用頻度順に並べてあるので上のほうにあるアイテムを使えばへんなことにはなりにくい。但しここで注意しなくてならないのは一般のCPIは1947年からのデータであるが、コアコアは1957年からであることだ。
ともかく一番上のアイテムをクリックしてみる。



当初のCPIのグラフにCPIコアコアがライン2として追加された。しかしデータの開始時期がずれてしまっている、これは上図で①Observation Quick Rangeの5yrをクリックして、その後で②丸で囲ったCopy to All Linesをクリックし、③下にあるRedraw Graphをクリックすればここ5年間のCPIとCPIコアコアの動きをグラフ化できる。(順番を間違えないように)


上図が結果である。リーマンショック前後に原油価格が大荒れしたことが見事に反映されているだろう。インフレを考える時に使いわけが必要であることがわかると思う。但し長期だとこの違いも時間の大きな流れに埋もれてしまうのも事実なのだ。

慣れるとこうした作業も15秒ぐらいで出来るようになる。後は感覚で色々と試してみることだ。しかしFREDの真骨頂はこうした見事なアプリだけではない。データをエクセルに落とせることが醍醐味なのだ、僕がWindowsを新しくしたのはまさにそちらのニーズからなのだ。

今後しばらくこうしたデータを使ったエントリーを書いてみようと思う。

Porco