2012年5月28日月曜日

原発の2次系冷却水について



匿名さんから当ブログ「原発危機の経済学」に対してコメントを頂戴しました。コメント欄でお返事しようと思ったのですが長くなってしまったのでブログのエントリーとします。幸い匿名さんなので特定の個人攻撃にはならないと思います。


>なんと百キロワット出力の原子炉一基につき毎秒海水20トンだそうである(2次系冷却水)。

 初めまして。インフレ連動債のエントリを拝読した流れで、この記事も読ませていただきました。原発の構造をかなり誤解されているようでしたので、失礼を顧みずコメントさせていただきます。
原発で必要な水の量を教えて下さい
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/6497169.html
 上記Q&Aに粗方書かれていますが、原発に使われている一次冷却水系(沸騰水型)、一次及び二次冷却水系(加圧水型)ともに系統内部を繰り返し循環しています。自動車のラジエータ水のうようなものとお考えください。ですので、流量が何トンあろうとも、外部から新たな給水は必要ありません。
 紹介本を書いた経済学者は、科学技術はおろか現実社会にも相当疎いのではないでしょうか。そんなに大量の熱水を海岸付近に放出すれば、沿岸漁業者が黙っているはずはないと思いますので。以上です。 

匿名さん、

最近書籍を整理しなおした為に「原発危機の経済学」がどこかへいって見つからなかったので返事が遅れました。

おっしゃるとおり、1次系冷却水(ここでは混乱を避けるため沸騰型で話をします)はあたかも車のラジエーターのクーラント液のように閉鎖系の中で循環しています。そして車の場合は外の空気と熱交換することによってクーラント液を冷却し、エンジンを冷却します。これが液冷エンジンです。

小型オートバイや昔のビートルのようにラジエーターを持っていないものは空冷エンジンであってエンジンが外気と直接熱交換することによって冷却されます。ちなみにゼロ戦は空冷、ムスタング、メッサーシュミット、スピットファィヤーなどは液冷エンジンです。液冷であればエンジンむき出しの空冷に比べて正面からの断面積を小さくし、流線型の機体設計が可能ですから速度を出すのには有利になりますが、WW2期の日本は液冷エンジンをうまく作ることができませんでした。陸軍三式戦闘機「飛燕」は空冷エンジンに換装し五式戦になりましたし、海軍艦上爆撃機「彗星」も結局液冷から空冷に換装しています。

原子力発電所(沸騰水型)の場合、炉心を冷却するのは1次系冷却水であって閉鎖系の中で循環されます。おっしゃるとおり外部からの給水は必要ありません。復水器の事故でこの冷却水が2次系冷却水と混じると放射能が漏出してしまいます。
http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/date/plant/index-j.htmlより


稼動していた頃の福島第1原発の1次系冷却水の流量は、冷却材再循環ポンプの流量計ベースで以下のようになります、
1号炉(出力毎時46.0万KW)毎時5600トン
2号炉(出力毎時78.4万KW)毎時7570トン
3号炉(出力毎時78.4万KW) 毎時7570トン

こうして炉心を冷却してきた上記1次系の冷却水を復水器(ヒート・エクスチェンジャー、ラジエーター)を使って、2次系である放射能汚染されていない海水によって冷却しなければなりません。自動車のラジエーターでは空気がこの役割をしますが原子炉では海水です。従って1次系に対する給水は必要ありませんが、2次系では大量の海水が要求されます。

>なんと百キロワット出力の原子炉一基につき毎秒海水20トンだそうである(2次系冷却水)。


ご紹介いただいたQ&Aには
外部との熱交換があるのはご想像の通り海水です。国内の発電所であれば電力会社がデータを公開していますので季節ごとの取水/放水量くらいは調べればすぐに分かるでしょう。
と取水/排水量に関しては記述されています。
このアドバイス通りに電力会社のサイトを調べましたが残念ながら私にはなかなかわかりません。発電所は様々なデータを公開していますが、何故か取排水の量に関するデータはみつけられませんでした。

斉藤教授の「原発経済学の危機」p26では上記の毎秒20トンとは別に、2011年4月2日日経夕刊から「毎秒80トンの2次系冷却海水」というデータを引っ張ってきています。

また原発の温排水を隠したりせずにむしろ積極的に利用しようという資料「原子力発電所からの温排水の利用」では,

原子力発電の熱効率は33~35%程度であり、電気に変換されなかったエネルギーの殆どが温排水として排出される。火力発電の場合は、タービンに送られる蒸気温度が原子力発電より高いので、最新鋭の発電所では熱効率が42%にも達する(ガスタービンを利用する複合サイクルシステムでは50%近くなる)。また、廃熱の一部はボイラーから直接大気に放出されるので、原子力発電に比べて温排水の量は少ない。
 タービンの効率を高めるため、復水器に送られる蒸気は真空に近い低圧となっており、その温度は30~40℃である。この蒸気を水に戻すための海水は、20℃程度で取水したものが7℃程度昇温して排出される。しかし、その量は多く、発電容量100万kWに対し火力発電で毎秒40立方メートル程度、原子力発電(BWR)で70立方メートル程度である

ここでは復水器(=熱交換器)に送られる2次系冷却水の量を毎秒70立方メートル程度、つまり70トン程度としています。

こうしたデータの取得が何故難しいかについて想像するに、取排水する海水の量は取得した海水自体の温度(水温の低い深層水を取水したりもするそうです)、周囲との温度差を何度にして海に排水するかで異なってくるためだと思います。

排水の温度差を少なくしようと思えば必要とする2次系冷却水の量は増える。したがっていずれにせよ曖昧なデータになりがちなので斉藤教授は上記資料の毎秒70トンではなく、出所は明記していませんが、控え目なデータである毎秒20トンを使ったのではないかと想像しています。

(追記)斉藤教授よりTwitterで「入手出来たデータの下限である20トンを使用した」との連絡を頂戴しました。想像どおりでした。

>原発の構造をかなり誤解されているようでしたので
私は若い頃に原発を製造している会社に勤めていました。製造中のPWRに直接触れたこともありますし、独身寮では日々原子力のエンジニアに囲まれて生活していましたので、詳しいとまでは申しませんが、門前の小僧程度に原発の知識を持ち合わせております。

>失礼を顧みずコメントさせていただきます。
この一文はとても大事だと思います。場の雰囲気を和らげます。

>紹介本を書いた経済学者は、科学技術はおろか現実社会にも相当疎いのではないでしょうか。
斉藤教授とは「富本銭」の話で何度かTwitterでやり取りしたこともありますが、とてもまともな人だと思います。おっしゃるとおり最近はアカデミックなバックグラウンドなしでアカデミックに語る経済学者も増えていますので匿名さんの懸念は当然です。しかし斉藤教授は経済学者として既にかなりの評価を得ていますから、私には「清原って、バッティングを知らないだけじゃなくて野球も知らないんじゃないか」とか、「布袋ってギターが下手なだけじゃなくて、音楽もわかってないな」とかと同じように聞こえてしまいますよ。そういう酔っ払いのオッサンって時たま居酒屋なんかでみかけますけれどね。もし匿名さんにアドバイスできるとしたら取り合えず斉藤教授の本を立ち読みぐらいはしてみたらどうでしょうか。としか言いようがありません。もしくは池上さんとの対談もありますしね。

>沿岸漁業者が黙っているはずはないと思いますので。
黙っているわけないじゃないですか。
福島第一原子力発電所7・8号機および広野火力発電所5・6号機の増設に係わる漁業補償協定の締結について

匿名さん、コメントありがとうございました。


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