2012年6月30日土曜日

「銀行同盟」発足に向けて動き始めた


28、29日に開催されたEU首脳会議においてユーロが「銀行同盟」発足に向けて動き始めた。

前回コラムで指摘したとおりこれまでの問題点は、スペインやイタリアの銀行救済のための資本注入の資金が欧州中央銀行(ECB)から直接問題行に注入されずに、一旦各政府の債務となって後に銀行に資本注入されることにあった。この為に政府債務が比較的少ないはずのスペイン政府が財政危機に陥るという問題をはらんでいたのだ。

ここでの「銀行同盟」とはユーロ各国がひとつの政府となり同じ予算を使う「財政統合」まではいかずとも、(財政統合は各国主権放棄の意味合いがあり簡単ではないのだ)、とりあえず金融機関対策に絞ってユーロ各国は同じ財布を使えるようにしようという金融政策である。これは今まで望まれていたものだが優等生のドイツの利害、つまり一方的な持ち出しになるとのドイツの懸念から実現が危ぶまれていたものだ。

今回ユーロは、
1)来年から救済基金を通じて銀行に直接資本を注入することを認める
2)救済基金による国債買い入れでも合意
3)欧州中央銀行(ECB)を中心に域内銀行監督制度を統一することを決定
4)ESMの優先債権者待遇の廃止

5)景気刺激策

上記項目を決めたわけだが、評価されるべき事前の予想とのギャップは、個々の具体策ではなく大枠におけるドイツの譲歩であった。

ニューヨーク市場は既にこのドイツの譲歩と最悪の事態を逃れたユーロシステムに相当の評価を与えているが、その後のドイツ国会の対応は注目されるべきだろう。ドイツ連邦議会(下院)ではESMは賛成493対反対106で、新財政協定は賛成491対111で、それぞれ可決され。棄権はESMが5、新財政協定が6だったのである。

独議会がESMと新財政協定を可決、批准に向け憲法裁判所が判断へ
2012年 06月 30日 09:01 JST ロイター

ドイツの批准が7月9日のESMの発足に間に合わない恐れはあるが、ドイツ国会が圧倒的多数で承認している以上、スペイン、イタリアをめぐる最悪の事態は予想からはずしておく必要があるだろう。

今回の決定はギリシャ問題には直接の関係がないが、ギリシャ問題の持っていた連鎖的破綻シナリオはなくなったと考えてよいだろう。ユーロ統合理念を棚上げして、金融市場からだけみるならばギリシャがユーロに残ろうが、出ていこうがそれほど大きな問題ではなくなったと思う。

但しパニックがなくなった分のショートカバーは入るだろうが、株式市場は世界景気の動向に目がむくことになるだろう。


2012年6月20日水曜日

【ビジネスアイコラム】「2つの危機の根っこにあるもの」



世界中の金融市場から注目されていたギリシャの選挙は財政緊縮派の新民主主義党(ND)が第一党となった。市場はなぜか「ユーロ残留か否か」の命題に単純化していたが、対立政党である急進左派連合(SYRIZA)もユーロ離脱を主張していたわけではない。しかしとりあえず、世界は「ギリシャはユーロへの残留を選択した」と受け取った。

しかし選挙が終わってみれば、もっとも重要な反応はギリシャではなく、銀行危機に揺れるスペインの国債利回りが7%を越えたことだった。ギリシャ問題とスペイン問題は現象面では異なるが、本質は同根である。

ギリシャの選挙では確かに新民主主義党が第一党となったが、得票数だけでいえば、緊縮反対派の方が多数であったことは見逃せない。第二党である急進左派連合は早々と連立を拒否し、反対勢力として活動することを声明している。彼らとしては、今回の選挙で勝たなくてよかったとの見方さえあるのだ。

このままでは政府は資金ショートし、7月の公務員給与の支払いさえ困難になる可能性がある。それを回避するためには金主であるEU、IMFを相手にさらなる緊縮財政、経済改革を伴うタフな交渉に臨まなければならない。ギリシャ国民にすれば相当に国辱的である上に、だからといって危機が解決する可能性ももはや薄い。だから左派急進派が「すべてが終わった後が出番だ」と考えてもおかしくない。

新民主主義党と連立を組むはずの全ギリシャ社会主義運動も選挙のたびに議席数を著しく勢力を落としており、このまま連立政権を組むことは党の存続にもかかわる。従って連立が組めず、もう一度選挙が行われる可能性も排除できない。

スペイン問題は、銀行支援に使われる資金の流れにある。ユーロの中央銀行である欧州中央銀行(ECB)から直接支援があればスペイン国債の利回りとは本来関係が薄いはずなのだが、資金はいったんスペイン政府が借り入れる形となった。このため、本来は累積債務が多くはないスペインなのだが返済能力に疑問符がつくことになった。しかしこれも予見可能だった。ECBを通じて金融政策だけを共通としながら、財政統合を果たしていない以上、スペインの銀行システムはスペイン政府の責任となるからだ。

ギリシャはたぶんもう終わっているが、スペインにはわずかな希望が残っている。

二つの問題が同根というのはこのことだ。ギリシャ問題も、ユーロの財政統合がなされていれば単純に救済されていたはずなのだ。ユーロ問題が始まって以来指摘され続けているこの問題は、あいかわらずドイツという負担を迫られる側の国民の出方次第なのである。

その意味で注目は28、29日のEU首脳会議だが、メルケル首相に対する過度な期待は禁物だ。ギリシャはたぶんもう終わっているが、スペインにはわずかながら希望が残されている。

2012年6月20日 ビジネスアイ一面コラムより、


2012年6月12日火曜日

プラートの商人


「歴史家は昔話の鬼に似ている。人間の肉の匂いを嗅ぎ付けると、そこに獲物があると知るのだ」 ブロック 『歴史家の仕事』

プラートの商人―中世イタリアの日常生活 」は以前から是非読みたいと思っていた本だが、なにぶんボリュームが多い。これまで延ばし延ばしにしてきて、本屋でたまに見かけたりすると何か会ってはならない人とばったりと出くわしたように気まずい思いをしていた本だ。今回機会があってというか、機が熟したというか、要するに思い切って読んだ。

これは「ダティーニ文書」と呼ばれるもので、フィレンツェ近郊のプラートに14世紀と15世紀をまたいで活躍したフランチェスコ・ディ・マルコ・ダティーニという商人がいたのだが、この人がものすごく几帳面で物持ちがよくビジネスを含め様々な書類を保存しておいたのである。

その数が15万通、1870年に発見され、1880年にはチェーザレ・グワスティによって部分的に出版された。その後資料をまとめなおしてイリス・オリーゴによって1957年に出版されたのが「プラートの商人」である。日本語版は1997年に白水社から出版された。

何が面白いかというと、商売の記録が殆ど残されているのである。何を何処の誰に売ったか、船便は何を使ったか、保険はあったのか、あったとすればどういう仕組みなのか?手形はあったのか、銀行業は?簿記は?そろばんは?などなど。

読んでいて一番の違和感(自分の想像力との乖離)は奴隷の存在だろう。貿易商品の中や、保険の対象に奴隷が入っている。主に黒海地方から、目の吊り上ったタタール人、たまに美しい女性も混じるスラブ人(まさにスレーブだ)、それにやはり異教徒の地中海西部のムーア人など。

興味深いのはイタリア人もムーア人に捕らえられて先方(イスラム)の市場で売られてしまった者もいることだ。ムーア人の女奴隷を買ったはいいが、尻に敷かれて結局乗っ取られた商人もいるし、人間が商品だったことがよくわかる。また道中、航海は非常に危険だが、それにも拘わらず活発な交易がなされていたことにも驚かされてしまう。

イタリア・ワインのキャンティの名前が史上初めて登場するのもこの本だそうである。また食べ物の記述も細かい。コロンブスがアメリカ大陸を発見する前だから、今ではイタリア料理を代表する食材のトマトは無いしじゃがいもも無い。また牛肉はかなり高価である。安くなるのは冷凍船ができてアルゼンチンから安い肉が輸出されるようになってからだ。だから豚、チキン、うさぎ、鹿、きじばと。

金曜日午後から土曜日は精進日(ユダヤと同じ)なので肉を食べられないために魚をよく食べる。マグロやニシン、ニシンは樽で買うとあるから塩漬けだろうか、強壮剤みたいな役割をしていたようだ。またうなぎ、香辛料とワインに漬けるとある。19世紀のロンドン名物ウナギパイもイタリアからの伝来か。シティのロンバード街はロンバルディア地方出身者がつけた名前だ。ちなみにロンバルトは中世後期には高利貸しと同じ意味だったそうだ。白トリュフにチーズ、様々なメニューが出てくるが、なるほど、トマトがなくても充分にイタリアンである。

お酒はワインにスプマンテ、友達にワイン・マニアがいてキャンティのお膝元のくせにはるばる遠いところからワインを取り寄せている。ということで大変面白かった。金融関係は別の機会に。