2012年7月13日金曜日

【ビジネスアイコラム】鰻について考える


ビジネスアイ・コラム 

 幼いころ、父親に長野県の伊那谷で名物のうな丼を食べさせてもらったことがある。海で生まれた鰻がはるばる天竜川をさかのぼってこんな山奥に到達するストーリーに驚かされたものだった。昔は鰻も決して特別な食材ではなかった。浜松をはじめ、鰻を名物としている場所は全国にたくさんある。

池波正太郎の「鬼平犯科帳」は天明、寛政年間が舞台である。「子供のころはうなぎもぶつ切りを串に刺し山椒味噌等で焼いて屋台で供するもので、とても侍が食べるものではなかったが、最近はどうして」というシーンがあるから、かば焼きの調理法が普及したのは18世紀後半ということになる。

産業革命期のロンドンでも、鰻は労働者階級の安くて貴重なたんぱく源だった。高橋是清が日露戦争中に資金調達でロンドンに滞在していたころ、公使館で鰻のかば焼きを作ってもらったと自伝に書いてある。高橋はうな丼を12人前ペロリと食べた記録を残しているほどの鰻好きであった。イギリス人は鰻をパイにして食べるが、日本と同じように今では貴重品である。

27日の土用の丑(うし)の日を前に鰻の価格が高騰している。もう少し正確にいうならば、高騰を予見し鰻が高くなり過ぎたため、需要が減退し価格はむしろ少し下がってしまったぐらいなのだ。原因は養殖用の稚魚が獲れないことにあった。稚魚がなければ養殖はできないのである。

3月下旬のニューヨーク・タイムズに「小さな鰻が大きな利益を生む」という記事が掲載された。米国東海岸のメーン州では4月5月は鰻の稚魚の漁で大忙しとなる。もちろん日本向けである。ただし漁獲のライセンスを持った漁師は400人ほどに限られ、ポンド当たり2200ドル(昨年は900ドル)の価格は羨望(せんぼう)の的だそうである。一晩で3万や4万ドルを稼ぐ漁師もいるらしい。米国ではメーン州とサウスカロライナ州以外は鰻の稚魚は漁獲禁止であるため当地は密猟者も含めゴールドラッシュさながらの騒ぎになっているという。

一方でアメリカ魚類野生動物庁では成魚のアメリカ鰻を絶滅危惧種に指定しようとしている。アメリカ産の稚魚も供給の限界が近づいているのだろう。日本人はマグロに続いて世界中の鰻を食べつくしてしまうのだろうか。

小売りや専門店は鰻価格高騰による「消費者離れ」に腐心しているという。書き入れ時の丑の日に向けて、自らの利益を減らし、包装などを工夫して、資源の枯渇が心配される鰻を何とか販売しようと努力する。こうして鰻は不足し価格は再び上昇していく。

今度の丑の日は日本人が資源について、あるいは希少価値を市場がどう扱うべきかについて、考える日としてもいいかもしれない。それは私がいつまでも鰻を食べたいと考えるからだ。




1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

これからは、アフリカ産らしいですよ。