2012年9月10日月曜日

逆利回り革命【週間金融財政事情マーケットを読む】


マーケットを読む (株式市場)
国債利回りと株式配当利回りの逆転現象

日本の株式市場では1998年と2003年に10年国債利回りが一時的に株式配当利回りを下回る事態が出現した。これは通常は起こらないことであったから、株式が割安であることを示すインディケーターとして機能し、このタイミングで株を買えば上昇相場に乗ることができた。
 
 
 
ところが、08年のリーマン・ショック時に3度目の配当・国債利回りの逆転現象が起こり、それ以降は株式配当利回りが国債利回りよりも高いことが常態化してしまった。そして、最近では日本の後を追うかのように、米国株式市場でも同様の現象がみられる。
 
 
 
 
債券とは債務者がいつ元本を返済するか、利息を支払うかを特定化した契約である。一方、株式の配当は取締役会の議決により、配当金の支払い義務すらない。その意味で、債権者に比べて株主の権利は弱く、株式は債券よりも高い利回りを提供する必要があるともいえる。


 
こうした考え方は、近代的株式市場が誕生して以来、1950年代までは極めて一般的なものだった。安全な国債よりも危険な株の配当利回りの方が低いということは受け入れがたい話だったのである。
 
ところが、1959年に国債利回りが株式配当利回りを上回ると、それ以降は元に戻らなくなってしまった。この歴史的な利回りの逆転現象は「利回り革命」と呼ばれた。当時の日本市場も米国に追随してこの革命を経験した。そして、現在は「逆利回り革命」が起こっている。
 
図表からも分かるように、今回は国債利回りの一方的な低下が逆転の主要因である。このため、人為的な低金利政策が「金融抑圧」とセットで語られることも多い。これに対し、「利回り革命」当時は配当よりもキャピタル・ゲインを重視する傾向が現れ、株式のバリュエーションに変化が生じた。歴史的にみても例外的な株式ブームだったのである。
 
当時の株式ブームを彩る一つめの特徴は機関化である。50年代はグラス・スティーガル法など30年代の制度改革を受け、有力な個人の銀行が支配する構造から機関化現象が進行していた。ミューチュアル・ファンド、年金基金、保険、財団等の信託が保有する株式は49年末の95億ドルから58年末には440億ドル、60年末には705億ドルに急成長した。とくにミューチュアル・ファンドは50年の25億ドルから60年には170億ドルに達し、ファンド保有者は350万人を越えた。月決め定額10ドル払いの積み立て型のファンドも登場し、「大衆資本主義」と呼ばれたのである。
 

二つめは「人口ボーナス」である。60年度の米国人口ピラミッドは35歳から40歳が最も多く、世代別のピークを形成していた。彼らは後のベビー・ブーマーの親である。最も人口の多い塊が40歳にさしかかると家を建て、大型家庭用品を揃えるために、大量の消費をするといわれており、当時の人口構成は株式市場が盛り上がる要件を満たしていた。
 
三つめは「成長株投資」である。57年10月にソビエトが人工衛星を地球周回軌道に乗せると「宇宙戦争」が米国政府公認となり、同年年末相場は「スプートニク相場」といわれ、防衛関連の航空や電子株の買いを呼んだ。この動きはやがて成長株投資となり、ゴーゴーファンドや70年代初頭のニフティ・フィフティ銘柄に結びつく。米国株式PERはその逆数である益回りの制約を解かれ、100倍の値も容易にとるようになった。
 
四つめは「インフレ懸念」である。ガガーリンが61年に有人宇宙飛行を達成するに及んで米ソ間の緊張が増し、連邦政府の防衛支出は経済成長を超える勢いで加速し、市場はインフレ懸念を持つに至った。60年以降、CPI(消費者物価指数)が趨勢的に上昇局面に入り、同時に国債利回りも80年代前半のピークに向けて上昇を始める。インフレ懸念は元本や利払いが固定化された債券よりも、持分資産を表象し、将来キャッシュ・フローのインフレ調整が可能な株式に有利となったのである。
 
さて、第一の「投資の機関化」と第二の「人口ボーナス」に関して、現在の状況は当時と逆である。先進国の高齢化は、機関投資家(年金基金や投資信託で蓄えられた老後の貯蓄)の換金売りを増加させる。したがって、PERの逆数である益利回りも配当利回りと同様に上昇するだろう。
 
一方、インフレによって政府債務返済圧力を和らげる政策(金融抑圧)が各国によって本当に採用されるならば、インフレ懸念は配当金額がフレキシブルな株式に有利に働くかもしれない。ただし、極端で破壊的なインフレは不況と企業の倒産を招き、株式投資にも打撃となろう。
 
「利回り革命」は回帰性、つまり極端に振れたものが元に戻ることを前提とした投資手法の妥当性に疑問を投げかけた。50年代以前は株式配当利回りのほうが国債利回りよりも高くて当然であり、逆転した状況はいつか再び元に戻ると強く信じられていた(延長類推バイアス)。しかし、時として通常の状態自体が変化することもあるのである。




この記事は「週間金融財政事情2012年8月27日号」に掲載された記事です。掲載後3週間が経過しましたので出版社のご好意でここに転載させていただいてます。

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