2012年10月3日水曜日

【ビジネスアイコラム】市場は尖閣の先を見通しているのか


【ビジネスアイコラム】市場は尖閣の先を見通しているのか

英誌エコノミスト9月22日号の表紙はいささかショッキングだった。紺碧の東シナ海に浮かぶ尖閣諸島を真ん中に「こんなちっぽけな島のためにアジアは本当に戦争をするのだろうか?」と問いかけている。当の英国は30年ほど前に大西洋上のちっぽけなフォークランド諸島のために現実に軍を動員し、1000人を超える死傷者を出しながら勝利しているのだから、軽いたとえ話と切り捨てることはできない。

多数の市場参加者たちによる予想や思惑が凝縮された株式市場の価格形成には、将来を予見する不思議な力があると、一部では信じられている。株価は景気に先行して動き、実体経済はその1年後に追随する。確かに株価が上昇して投資家の可処分所得が増加し消費が刺激され景気が回復するというプロセスはある。あるいは企業業績がピークを打つ前に既に株価は高値を形成して下落していたということもままある。現代でもこうした市場観測をするアナリストもいる。株価がすべてを知っているという考え方だ。

経済学者のポール・サミュエルソンは株価の予見性をこう評した。「株式市場は過去5回の不況を9回も予測した」。つまりまるっきり外れるわけではないが、信頼できるインディケーターでもないのである。

7月に他界した元モルガン・スタンレーの著名ストラテジスト、バートン・ビッグス氏は2008年に出版した「富・戦争・叡知 」(日本経済新聞出版社)の中で株式市場の持つ予見性について、第二次世界大戦を題材に分析している。イギリスの株価は、ドイツ軍の勢力がまだ圧倒的だったフランスの降伏やダンケルクの撤退時点で底を打ち、その後の戦勝を予見している。またニューヨーク・ダウもミッドウェーの前の珊瑚海海戦時点で底を打っていた。

一方、第一次世界大戦については1910年出版のノーマン・エンジェル「大いなる幻想」が「戦争は廃れて過去のものになり、支配下民族の搾取ではなく貿易と産業が国の繁栄の鍵になる。軍事侵略の莫大なコストから得られるものはなにもない。人類はこの現実を理解し始めていてナショナリズムの情念は急速に弱まってきている」と述べた。100年前も誰もまともな国が経済的に引き合わない戦争などをはじめるとは考えもしなかったのである。

ニューヨーク・ダウ指数も戦争をまったく予見していなかった。フェルディナント大公夫妻がサラエボでセルビア人の青年によって暗殺されたのが1914年7月28日火曜日。ダウは29日に値を保ったものの7月30日に突然7%下落すると翌日からは休場となり、12月に再開されたときにはさらに21%も下落していた。投資家はサラエボ事件が世界大戦になるとは考えなかったのだ。

相場格言にニーチェの言葉がある。「個人が狂うことはあまりないが、集団はだいたい狂っている」(作家 板谷敏彦)

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