2012年11月10日土曜日

マッカーシズムと映画


ビジネスアイに連載中の【投資家のための金融史】は、当初あまり肩の凝らない話にして、ちょっとばかり楽をしようと考えて書き始めたのだが、どうしても参考にする書籍を読みなおしたり、あるいは少し記憶が曖昧になった関連する映画などを見直したりしているうちに、本来の目的を離れて別件で深みにはまってしまうことがよく起こる。こうして連載を続けていると、現実にはそういった無駄とも思える調査に時間の多くをとられているのが実情で、その為に悶え苦しむ時も多いのだ

Audrey_Hepburn_Roman_Holiday_cropped.jpg
オードリー・ヘップバーンの「ローマの休日」はハリウッドのマッカーシズム(赤狩り)と関係していることで有名だ。本来の脚本はダルトン・トランボなのだけれど、彼はこの脚本を仕上げた直後に赤狩りでハリウッドを追われてしまうので、当初の映画のエンドロールの脚本のところにはイアン・マクラーレン・ハンターが名前を貸してくれてトランボは原稿料だけをもらった。そしてこれが真実のトランボに書き換えられるのは50年後の2003年の映画「ローマの休日」50周年記念の時だったのだ。僕の持っているデジタル・エディットのDVDはトランボになっている。
 

この話を聞いた時には、「名前を貸す」程度の話は大したことだとは思わなかったのだけれども、ハリウッドのマッカーシズムをテーマに取り上げた映画を観た後では、この考えが変わった。
 
映画とは、ひとつはロバート・デ・ニーロの「真実の瞬間:原題Guilty by suspicion 1991年」だ。これはマーティン・スコセッシが俳優として友情出演しているのだが、この映画に映しだされる当時の赤狩りの厳しいこと。自らが共産党員ではないことを宣誓して、それを証明するためには誰か友達を当局に売らなければ証明ができない。「奴は共産党員ですぜ」とね。不快なシーンがえんえんと続く。
 
またもうひとつの映画はジョージ・クルーニーの「グッドナイト&グッドラック:2005年」だ。これは赤狩りの張本人であるマッカーシー議員の非道をCBSの報道番組が追い詰めていく話だけれども、これも局と番組に対する政府筋からの圧力は半端じゃない。もうとにかく奴は共産党員だといえばすべてOKみたいな話なのだ。
 
「あなたは12年前にソ連に衣料品や缶詰などを援助物資として送る会合に参加していましたね?」
「ええ、当時はソ連は我々の味方だったはずだ」
「その時会合に参加していたお知り合いの名前を挙げて下さい」
とこんな感じなのだ。会合に参加していたら共産党員なのである。

つまり「名前を貸す」という行為そのものがバレたりすると大変なことになったに違いない、懲役刑にでもなりそうなことなのである。イアン・マクラーレン・ハンターの行為は非常に勇気のあることだったわけだ。

そして実は「ローマの休日」のクレジットには何の目的なのか変わった文言が挿入されている。

『この映画はすべてイタリア・ローマで撮影され、録音された』

これは監督のジャン・ハーマー・ワイラーが赤狩りのブラックリストにのっていたプロデュサーのレスター・コーニックを使うために、ハリウッドでは何かと横槍が入るので、干渉を避けようとローマ・ロケを敢行したからということになっている。

 
さて、何故僕がこんな長い話をダラダラと書いているのかというと、今朝読んだ本に関連している。それは猪木武徳さんの「戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書) 」だ。この中にマーシャル・プラン(欧州復興計画)の記述があって、そこにはこう書いてある。
 
「アメリカの提供した米国では使えないドル(凍結ドル)があったために『ローマの休日』はパラマウントがこの資金を使って製作した映画である。従ってオープニングの字幕には『この映画はすべてイタリア・ローマで撮影され、録音された』と書いてあるのだ」

どっちの記述が正しいかではなく、どちらも正しいのだと思う。パラマウントは凍結資金を使って製作して欲しかったし、ワイラー監督にとっては、赤狩りの犠牲となってハリウッドを追われる仲間を金銭的に援助するためのチャンスとして渡りに船だったのだろう。かくしてローマ・ロケの名作が生まれ、美しくも正しい大女優、オードリー・ヘップバーンが誕生したわけだ。

では何故マッカーシズムを調べていたかというと、それはブレトン・ウッズ協定だ。ブレトン・ウッズ協定はそれ以前の予備折衝の段階から英国はケインズを送り込み、アメリカはハリー・デクスター・ホワイトというニューディーラーの官僚を折衝に当たらせた。
 
ケインズはその当時すでに大変な権威であり、デクスターなどは弟子みたいなものなのだが、いかんせん第2次世界大戦で英国は疲弊し発言権がなくなっていたので米国主導でまとめられてしまった。というのがブレトン・ウッズ協定だ。

このハリー・デクスター・ホワイトが後にマッカーシズムによってソ連のスパイ嫌疑をかけられることになるのでデクスターを調べていたところ、マッカーシズムをよく知るために映画を2本観ることになってしまったという、長い割に内容の薄い話でした。どちらの映画も秀作ですが「ローマの休日」なら何度観てもOKです。


 

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

恐縮ですが、記事のフォントを変えてもらえませんか?前から思っていたのですがちょっと見難いです。どうかご一考をお願いします。

Porco さんのコメント...

Bloggerのデフォルト・フォントに変えてみましたが、多分文字の大きさの問題でしょうか?

匿名 さんのコメント...

読みやすくなりました。ありがとうございます!