2012年12月13日木曜日

【ビジネスアイコラム】高橋財政と先人の戒め


【ビジネスアイコラム】高橋財政と先人の戒め 12月12日掲載


高橋是清は昭和7年から10年にかけて蔵相として日本国債の日銀引き受けを行った。高橋は昭和恐慌から日本経済を脱出させた手腕が称賛される一方で、日銀引き受けという安易なマネタイズの手法を考えついたことが、戦後のハイパー・インフレにつながったと非難されることもある。

高橋の日銀引き受けを振り返ると、昭和8年に12億100万円の国債を発行し、その92%を日銀に引き受けさせたが、一方で日銀はその引き受け額の71%を年内に市中で売却している。この比率は翌年には前年の積み残しも含めて128%にまで高まり、最終的には4年間の引受分27億6700万円のうち85%を期間内に市場で売却してしまっている。決して日銀に国債を引き受けさせ輪転機で紙幣をどんどん刷ったというわけではなかった。

高橋は日銀副総裁の深井英五と相談し、「生産力と通貨との均衡を主たる目標として通貨の運営を按配(あんばい)すべし」と、通貨の発行量に細心の注意を払った。単なる日銀引受によるシニョリッジ(通貨発行益)を容認してはいなかった。市場での大量の国債販売が困難であったため一度日銀が引き受け、後に市場に売却していったのだ。

ところがこの手法は、よほどの人物が運用しなければ歯止めがきかなくなる。増税に頼らず簡単に財政資金が調達できるように見えるからだ。後に実際に安易な日銀引き受けによるマネタイズがなされ、納税者は厳しいインフレで税を支払うことになった。そして後世への戒めとして昭和22年に財政法第5条ができて日銀引き受けが禁止されたのである。

今話題になっている「国債を日銀に買ってもらう」という話は、「日銀引き受け」なのかあるいは「買いオペ」なのかが問題なのではない。たとえば国債を発行し、直接誰かに買ってもらって一晩保有してもらう。それを翌日に多少の手数料を上乗せして日銀が買えば、「日銀引き受け」にはならないとの解釈も可能である。が、財政法第5条は趣旨としてマネタイズを禁じているのであって、言葉遊びをすべきではない。日銀に余分に紙幣を発行してもらうということは、先人の知恵である財政法の趣旨を乗り越えるということなのである。

もっとも、何も過去の因習にとらわれることはない。今は過去に例のないデフレ状態が続いている。マネタイズによってインフレを誘発するような政策が必ずしも否定されるわけではない。何もしないよりはよほどよいだろう。しかしその運用には細心の注意が要求されることは間違いない。軽々しく語るべき問題ではないのだ。

東日本大震災で、先人の戒めを軽んじたことが悔やまれた。三陸海岸大津波記念碑にはこう書かれている。「高き住居は児孫に和楽/想え惨禍の大津波/此処より下に家を建てるな」。教えを守った石碑の地元は救われた。

2 件のコメント:

Latour さんのコメント...

安部総裁に関し浜田宏一氏重用の噂や、実質的な財政ファイナンス、マネタイゼーション志向の政策意向の表明など。
危機突破の為には地雷原も正面突破と、勇ましいというか玉砕も辞さずというか、安部さんは相当腹の据わった方なのでしょうか。
官僚機構のオッフセット機能も働くとは思いますが。
長期金利の想定外の上昇、制御不能のインフレ、通貨の下落、これらが近未来日本で起これるとすれば、経済や国民生活への影響はどのようなものでしょうか。

Porco さんのコメント...

Latourさん、コメントの公開が遅れてすみません。25日の時点では安倍首相も当初の過激さは随分後退しているようで何よりです。