2013年2月21日木曜日

飛ばし


おはようございます。「投資家のための金融史」の出版に向けての見直しは50/72話(30年代の大暴落あたり)まで進んでいます。後もう少しなのですが、実は書くときも50話までは何らの迷いもなくエピソードを決めて、ただひたすら書いていたのですが、このあたりからが大変だったのです。

ドイツのハイパーインフレの話は挿入すべきなのか? 日本の昭和金融恐慌と昭和恐慌はどう扱うか? 金本位制崩壊と不況レジームの話はこれが教科書であればマストですが、「投資家のための」であれば必要なのかどうか? 高橋是清の是清レシピはどうするか? 英国の金本位復活をめぐるケインズとチャーチルのやりとりは? 1933年のロンドン会議(個人的には一番興味がある)はどうするか? フリードマンとアンナ・シュワルツの大恐慌に対するマネタリスト的分析はどうするのか? リフレ派の好きなアイケングリーン=サックスはどうか?
 
実は上に列挙したアイテムはどれも金融史の中には書きませんでした。戦前の株価指数と為替だけを説明して、話は第2次世界大戦に飛んでしまっています。ロンド・キャメロンの「概説世界経済史」を見なおしてもこのあたりの記述は実にあっさりとしたもの。大事なことはアウタルキー(自立経済圏、ナチスが目指して、日本も南洋の石油を取り込むことで目指した)とファシズムの成立?

実は皮肉なことに、この部分を書き終えてから、週刊「エコノミスト」にハイパーインフレの話を書いたし、ビジネスアイのコラムで是清レシピについて書いたのでコンテンツは揃っています。ただ問題はこうしたアイテムを挿入すると全体が長くなってしまいそうなことだけです。

締め切りまであと8日、今日は岡崎哲二教授の「コアテキスト経済史」と「江戸の市場経済 歴史制度分析からみた株仲間」が届く予定です。「制度派」です。そういえば岡崎さんの「経済史の教訓」は面白かったですね。また、高槻泰郎氏の「近世米市場の形成と展開-幕府司法と堂島米会所の発展」も届きます。ということで少なくとも2日間は新しい読書で潰れそうです。

切羽詰まって開き直っている感じですかね。
 
Porco
 
PS 田中周紀氏の「飛ばし 日本企業と外資系金融の共謀 (光文社新書) 」2013年1月20日刊 を頂戴しました。何をいまさら飛ばしの話なの?と思うかもしれませんが、ズバリ! オリンパス事件があったからです。山一、ヤクルト、オリンパスと非常に細かくスキームの分析がなされた本格派です。興味のある人には是非お薦めです。東方の方とか。
 
 

2013年2月19日火曜日

【ビジネスアイコラム】政治家はリアリストであるべき


2月15日のビジネスアイに掲載されたコラムです。

「アベノミクス」もしくは「アベノミクスへの期待」は、11月16日の衆議院解散以降の円安と株高を演出しているのみならず、金融市場の改善を受けて今では実際の各種経済指標も上向きの傾向にある。ただし、おおげさに喧伝(けんでん)されるほど日本の株高が世界で突出しているわけではない。(フジサンケイビジネスアイ

 

11月16日を100とした場合の2月8日のMSCI株価指数(世界の主要市場のドル建て株価指数)は、日本112.28、米国111.81、英国を除く欧州116.43、日本を除く東アジア114.42である。ここまでのアベノミクス効果は世界市場の回復を味方につけたものであったことは、認識しておく必要がある。

一方、現時点までのアベノミクスは政策宣言だけであり、いわばアナウンスメント効果だけの成果であって、実際に円安効果が企業収益などに影響し始めるのはこれからだろう。また「三本の矢」といわれる(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)民間の投資を引き出す成長戦略-などが実際に発動されるのもこれからなのである。

安倍新政権の経済ブレーンであるエール大学名誉教授、浜田宏一氏の著書「アメリカは日本経済の復活を知っている」が、発売1カ月で20万部を売り切り、さらに増刷が続いている。本の売れないこの時代に、経済書としては異例のベストセラーとなっている

今回の経済政策を主導するのは、これまでリフレーション政策を主張してきたリフレ派と呼ばれる経済学者たちである。金融政策が中心であるが、その後の財政政策が必須であると考えるのか、政府関与を高めるために日銀法改正がマストであると考えるのか、あるいは消費増税は絶対反対なのか、さまざまな立場に分かれている。しかし共通項はリフレ策にあり、政府はデフレから脱却するまでマネーをつぎ込むという政策意思を明確にすること(レジーム転換)によってインフレ期待を引き出し、実質金利を下げ、不況から脱却しようという金融政策である。

 
 一方で、吉川洋・東京大大学院教授が「デフレーション―“日本の慢性病"の全貌を解明する 」という本を出版し、売れている。こちらはリフレ派の金融政策に正面から反論する本である。両者のもっとも大きな隔たりは、リフレ派は「デフレ」が不況の原因であるとするのに対して、吉川氏は「デフレ」は不況の結果であり、金融政策によってインフレ期待を作り出すことは困難だとしている点にある。

 先進国で日本だけが長期間にわたってデフレ状態にある原因は名目賃金の低下にあり、その原因としてはさまざまな労働規制や、賃金よりも雇用確保を優先する慣行、非正規社員の増加などを挙げている。

吉川氏の処方箋は労働規制の緩和などで、これらは現実には既得権もからみあって政策的に対応が極めて困難な、いわば「わかっちゃいるけどできない」課題といえる。

 
 これは、今やどちらが正しいと問うよりもむしろ、どちらが実行可能か、と考えるべき問題ではないだろうか。

だとするならば、政治家は夢想家ではなく現実を見据えたリアリストでなければならない。つまり多少のインフレの危険を伴おうとも、手のつけやすいリフレ策に賭けてみるのは当然なのだ。説得力の高い吉川氏の本を読んでみて、皮肉にもそんな思いが去来するのだ。
 
(作家・板谷敏彦)
 
 

2013年2月8日金曜日

【投資家のための金融史】 「超安定化」とリーマン・ショック


ビジネスアイ 【投資家のための金融史】

「超安定化」とリーマン・ショック

ここでの 「SP500実質値」は、SP500株価指数を消費者物価指数で現在から過去に遡(さかのぼ)ってインフレ調整した実質株価指数である。縦軸が対数グラフになっていることに注意が必要だ。



             
 (1)の1930年初頭からの大暴落の後、ニューディール政策、ブレトン・ウッズ体制が構築され、(2)ケインズ的な財政政策によって経済が安定した50年代、60年代に実質株価は大きく上昇した。
 その黄金の60年代が過ぎ、(3)70年代には、ニクソン・ショックと2度のオイルショックによってインフレにみまわれ実質株価は大きく調整した。(4)ボルカーFRB議長が金融政策でインフレに打ち勝った80年代からは、ケインズ主義に代わりレーガン大統領による大胆な規制緩和の新自由主義の政策がとられた。
 87年にFRB議長がボルカーからグリーンスパンに代わると、2006年までの間はGDP成長率や物価指数の変動が安定したために、1970年代の「グレート・リセッション」に対して「グレート・モデレーション(超安定化)」と呼ばれるようになった。この期間は米国のみならず、先進諸国全般においてこうした現象が見られた。

 いろいろと議論はあるが、超安定化の原因は、▽ボルカー議長以来の金融政策手段の発達▽IT(情報技術)の発達による生産管理技術の進展▽規制緩和による企業の自由度の進展-などが挙げられる。

 この時期を拡大して、SP500株価指数と実質株価指数の両方を書き込んだのが「グレート・モデレーションとリーマン・ショック」である。縦軸は通常に戻してある。
米国株式市場では2000年にかけてドットコム・バブルが発生し、SP500実質値はグレート・モデレーションの終了に先行してすでにピークを打っていた。連銀はドットコム・バブル崩壊に対して大胆な金融緩和で対処し、07年に向けての住宅バブルを発生させることになった。その結果が無理な与信の住宅ローンといわれたサブプライム・ローンであり、信用構造に無理のあった米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)など政府系金融機関の破綻だった。


 株式市場へのインパクトとしてはリーマン・ショックに注目せざるを得ないが、インフレ調整された実質株価指数では、株式市場の調整は2000年の時点からすでに始まっていたのである。
               

 日々のニュースで米国株式の高値更新が近いという報道を聞くが、物価を調整すると、実は12年末においてもまだ2000年のピークから約30%も調整している状態にある。SP500株価指数そのものを見ているだけなら高値圏内にいるように見えるが、実質値の形は違うのである。

 では、何が実質株価を抑制しているのだろうか? それは世界中の解決されていない問題が原因だろう。民間債務を政府債務に肩代わりさせたアメリカ。南欧問題を抱えるユーロ諸国。バブル崩壊以降の度重なる財政政策と高齢化による社会福祉費負担の増大にあえぐ日本。現在の先進諸国政府は、いずれも政府債務残高が積み上がった状態にある。どこかでデレバレッジが必要である。

 今後景気回復による税収増がこれを打ち消すのか、あるいは1ドラクマ・コインを2ドラクマに打ちなおしたギリシャ文明のディオニュシオスのように、政府債務はインフレーションによって返済されるのか。今後の市場が、これまでもそうであったように、予断を許さない状況にあることだけは確かなようだ。

Porco

2013年2月1日金曜日

NHKマネー革命シリーズ


今週は出版社と打ち合わせをしてきました。帰りには3色のカラーマーカーに見事なまでに彩られた私の原稿を手にしていました。できれば万人にも読めるように、編集の方が引っかかった専門用語や人物名に印がつけてあります。
 
あとは言い回し。ついついわかっていると思って簡単に流してしまう癖。今後はこの原稿を修正していく作業に入ります。但し現在連載中の分はだいぶ前に書き終わっていますが、思いつけばいまだに大幅に修正を入れたりもしています。

 
書評を依頼されていたロンド・キャメロンの概説 世界経済史〈1〉 は未だ読み終わりません。その間にNHKスペシャル マネー革命〈第2巻〉金融工学の旗手たち (NHKライブラリー) (2巻が面白い)を割りこませて読みました。どうすればNHKスペシャルの視聴者に金融工学をわかってもらえるのか、スタッフの懸命の努力はなかなか読ませます。
 
最後にクルーは伊藤のレンマの伊藤清先生を訪問しますが、素人にうまく説明できない伊藤先生の方が頭を抱え込んでしまうのには感動しました。なんて素晴らしい人なのでしょう、この数学の天才は、わからない人が悪いとは思考の中にないのですね。自分の説明が悪い。伊藤のレンマはBSモデルでは無く、マートンがBSモデルの証明に使った定理です。そしてここでは少し気になることが。
 
というのは、ピーター・バーンスタインによると、1900年の時点でワラント価格の式を考えついていたフランス人パシュリエの論文は60年代に英語に翻訳されたことになっているのですが、伊藤先生の話では第2次世界大戦以前に既に日本でレポートをご覧になっていたとおっしゃっている。もちろん金融ではなく数学として。そんなことまで金融史には書けないけれど、ちょっと後ろ髪をひかれる思いです。

そして伊藤先生の論文は第2次世界大戦中にガリ版刷りの学会誌で発表されているのですね。しかも伊藤先生は、学会は誰か事務の人を雇って出版の作業をしていると思っていたら、実は予算がないので当時の大御所である大阪大学の清水教授が自分でガリ版を削っていたというのに再度感動しました。240ページもあったそうです。

 
 
あとはポランニーの「経済の文明史 (ちくま学芸文庫) 」とヒックスの「経済史の理論 (講談社学術文庫) 」を読みました。読んでどうなるというわけでも無いのでしょうが、最終稿を作る前に是非読んでおきたいと考えました。ポランニーはメソポタミアとアリストテレスに言及しています。今はこれらも読み終わって、今日から再び世界経済史に戻っています。これが終わればいよいよ原稿に集中しようと思っています。そう言えば津上さんの「中国台頭の終焉 」も読みました。前作も読んでいたのでわかりやすい。お薦めします。

 

最近はお陰様でいろいろと依頼も増えて、こなせば自分自身にも力がつくと思って「えいや」と引き受けたりしています。 それでも、何かとお答えしたいとは思うのですが、やっぱり無理なものは無理。もはや積読状態の本がごろごろ。隣で犬がごろごろ。
 
Porco