2013年2月19日火曜日

【ビジネスアイコラム】政治家はリアリストであるべき


2月15日のビジネスアイに掲載されたコラムです。

「アベノミクス」もしくは「アベノミクスへの期待」は、11月16日の衆議院解散以降の円安と株高を演出しているのみならず、金融市場の改善を受けて今では実際の各種経済指標も上向きの傾向にある。ただし、おおげさに喧伝(けんでん)されるほど日本の株高が世界で突出しているわけではない。(フジサンケイビジネスアイ

 

11月16日を100とした場合の2月8日のMSCI株価指数(世界の主要市場のドル建て株価指数)は、日本112.28、米国111.81、英国を除く欧州116.43、日本を除く東アジア114.42である。ここまでのアベノミクス効果は世界市場の回復を味方につけたものであったことは、認識しておく必要がある。

一方、現時点までのアベノミクスは政策宣言だけであり、いわばアナウンスメント効果だけの成果であって、実際に円安効果が企業収益などに影響し始めるのはこれからだろう。また「三本の矢」といわれる(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)民間の投資を引き出す成長戦略-などが実際に発動されるのもこれからなのである。

安倍新政権の経済ブレーンであるエール大学名誉教授、浜田宏一氏の著書「アメリカは日本経済の復活を知っている」が、発売1カ月で20万部を売り切り、さらに増刷が続いている。本の売れないこの時代に、経済書としては異例のベストセラーとなっている

今回の経済政策を主導するのは、これまでリフレーション政策を主張してきたリフレ派と呼ばれる経済学者たちである。金融政策が中心であるが、その後の財政政策が必須であると考えるのか、政府関与を高めるために日銀法改正がマストであると考えるのか、あるいは消費増税は絶対反対なのか、さまざまな立場に分かれている。しかし共通項はリフレ策にあり、政府はデフレから脱却するまでマネーをつぎ込むという政策意思を明確にすること(レジーム転換)によってインフレ期待を引き出し、実質金利を下げ、不況から脱却しようという金融政策である。

 
 一方で、吉川洋・東京大大学院教授が「デフレーション―“日本の慢性病"の全貌を解明する 」という本を出版し、売れている。こちらはリフレ派の金融政策に正面から反論する本である。両者のもっとも大きな隔たりは、リフレ派は「デフレ」が不況の原因であるとするのに対して、吉川氏は「デフレ」は不況の結果であり、金融政策によってインフレ期待を作り出すことは困難だとしている点にある。

 先進国で日本だけが長期間にわたってデフレ状態にある原因は名目賃金の低下にあり、その原因としてはさまざまな労働規制や、賃金よりも雇用確保を優先する慣行、非正規社員の増加などを挙げている。

吉川氏の処方箋は労働規制の緩和などで、これらは現実には既得権もからみあって政策的に対応が極めて困難な、いわば「わかっちゃいるけどできない」課題といえる。

 
 これは、今やどちらが正しいと問うよりもむしろ、どちらが実行可能か、と考えるべき問題ではないだろうか。

だとするならば、政治家は夢想家ではなく現実を見据えたリアリストでなければならない。つまり多少のインフレの危険を伴おうとも、手のつけやすいリフレ策に賭けてみるのは当然なのだ。説得力の高い吉川氏の本を読んでみて、皮肉にもそんな思いが去来するのだ。
 
(作家・板谷敏彦)
 
 

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