2013年5月11日土曜日

『坂の上の雲』と拙著との相違点―2


NHKのスペシャルドラマの資金調達関連のシーンを見てみましょう。大事なことはこのドラマは歴史ドキュメンタリーやノンフィクションのジャンルではなく、あくまで「小説」が元になっているということです。しかし小説であっても、この話に限っては史実に忠実であろうとする司馬氏、また徹底した時代考証もふくめて完全な番組造りを目指したTVドラマ製作者の情熱から、視聴者はついつい小説であることを忘れがちです。

しかし一方でドラマのwikiを見てみると軍事や馬術から琵琶や義太夫のアドバイサーまでいるのに、何故か金融面のアドバイサーはいなかったようです。せめて日本銀行に聞いていればもうすこし違ったものになったのだろうと思います。

さて、小説の本文のほうにはありませんが、高橋是清はドラマの最初のほうで秋山真之達が通う大学予備門の先生として、またその後もお見合いの話か何かでちらっと登場します。予備門の先生はわかりますが、秋山真之のお見合いにどう絡んでいたのか、何を論拠としているのかは私にはわかりませんせした。

第1回募集

資金調達関連では第10話「旅順総攻撃」の4分を経過したあたりで本格的に登場します。西田敏行です。シティの風景が映されますが、その中で固有名詞の銀行が2行画面に登場します。「GRAMPIAN BANK」と「CAVENDISH BANK」です。この両行は現在存在していませんからビルディングに埋め込まれた「銘」を頼りに撮影されたものでしょう。歴史や統計データに登場するような銀行でもありません。GRAMPIANはスコットランドの一地方の地名、CAVENDISHはロンドンの広場とそれに連なる通りの名前です。適当にそれらしい看板として撮影されたものだと推察します。あるいは高橋是清は中小銀行まで訪問したというメッセージであったならば、それは間違いです。戦費調達のための公債発行に小さい街の銀行を訪問しても仕方がないからです。

ドラマの中ではアメリカ人のシフが公債発行を引き受けたという情報をパーズ銀行のシャンドから電話でしらされたことになっていますが、実際にはシャンドが訪問して伝えています。シャンドは完全に日本の味方で、是清達とともに苦労していたでしょうから、喜びを分かち合ったのだと思います。現代なら間違いなくハイ・タッチしているところです。何故トーンダウンして電話にしたのかはわかりません。

それと、これは僕の知識不足かもしれませんが、高橋是清が秘書役の深井英五に足の手入れをさせているシーン。深井も頼まれればやったに相違ないとは思いますが、深井も彼自身の著書で述べているとおり、僕のイメージとしては高橋は自分のことは自分でやる人。またどんな立場の人にも敬意を表する人。ましてや足の手入れを同行の秘書役(現代の秘書ではない、官房長官のようなもの)にさせたりはしないと思います。このシーンはちょっと是清さんのイメージにそぐいませんでした。もちろんどこかに深井が是清さんの足の手入れをしていたと記録があるのかもしれませんが。残念ながら僕は知りません。

第2回募集

同じく第10話「旅順総攻撃」の1時間30秒経過あたりでいよいよシフが登場します。もうこの辺りはつっこみどころ満載。あらためて見るとかなり問題が多い。原作では司馬氏が自分がよくわからないことを認識して、あたりさわりのないように書いて、せっかく明白な間違いを上手に避けているのに、ドラマ化の脚色で完全に間違ってしまいました。

先ず間違いの前に、シフを演ずる俳優が貧相すぎる。モルガンと張り合っている精力的な米国ナンバー2の投資銀行家にはとてもじゃないが見えないでしょう。シフの写真ぐらいWEBでもあるいは本でも見れるだろうに、この配役は暗躍するユダヤ人金融家というイメージを追ったとしか思えません。だとすればこれが一番の間違い。シフは行くところ行くところ新聞記者が群がる米国金融表舞台のトップ・スターでした。



さて、シフは是清さんに、第2回の募集でアメリカへいくのか?と聞いています。一体アメリカの誰に会いにいくというのでしょう。

間違い1.遼陽会戦の時期にシフはロンドンにいない。とっくにアメリカに帰っている。

間違い2.アメリカ人のシフがアメリカに行くのか?とは聞かない。どうやら番組はシフのことをロンドン在住のユダヤ人金融家と勘違いしている。

間違い3.遼陽会戦で公債価格が下がったとしている。これは小説原文のまま採用した情報だ。

このドラマは非常によくできている。ドラマとしても広瀬とアズアリーナの場面なんかは何度見ても素晴らしい。また考証面でも児玉源太郎が遼陽から旅順出張時にのる貨車は、小説原文のロシア製という間違いを修正してわざと車幅の狭い日本製の貨車をイメージさせている。また陸軍の制服も映画「203高地」にみられるような従来の肋骨服からカーキに修正している。実に細やかな配慮がそこここになされている。連合艦隊のCGも凄い。

ところが金融のところは大きな間違いを残してしまった。原文小説よりも傷口を広げてしまったといえるでしょう。他分野が完璧なだけに惜しまれるところです。

題名を相違点としながら一方的な批判となってしまいました。もちろん私も当時の状況を100%知っているわけでもない。ご批判、反論があれば是非お願いします。

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