2013年6月26日水曜日

中国版シャドーバンキング


わからないという怖さ。

【ビジネスアイコラム】中国版シャドーバンキング懸念
MSNニュース】懸念深まる中国版シャドーバンキング「いよいよツケを払う番が来た」

米連邦準備制度理事会(FRB)による金融緩和策の縮小懸念が広がる中、世界の金融市場は大きく動揺している。しかしここでまた、もう一つの大きなリスクに警戒する動きも見られる。

週末のアメリカの投資週刊誌『バロンズ』の表紙は「浮かび上がる中国の信用危機」と題して、霧の中から登場する全長48キロの北京特大橋で飾られている。中国政府と地方政府は今まで工場、鉄道、橋などインフラを作るため金を借りすぎた。いよいよツケを払う番が来たというのだ。

中国の株式指標である上海株式指数は、リーマン・ショック以前の2007年10月16日に史上最高値6092.06をつけて以来、先進国の株式指標と比べてもパフォーマンスは悪く、6月21日現在でも2073.09とピークの34%程度の水準でしかない。

リーマン・ショック直後には、財政難に直面する先進諸国を尻目に「4兆元投資」を敢行し、世界経済を牽引(けんいん)したことは記憶に新しい。しかしどうやら製造業も不動産も、その他インフラ関連への投資も、結果として投資需要の先食いとなり、さらにこうした資産がリターンを産まず、なまじ投資財源の多くを有利子負債に依存した結果、大量の不良債権を産み出す危惧があるというのだ。

 今月20日には中国の翌日物インターバンク・レートであるSHIBOR(上海銀行間取引金利)が急騰し一部では25%にも達した。このインターバンク・レート急騰の直接の原因は、民間に形を変えた地方政府によるシャドーバンキング・システムだといわれている。

政府系である大手銀行が地方政府の不動産開発に対する融資を絞る中、地方としては融資資金を自前で調達する必要が生じた。地方政府にとって不動産開発は重要な資金源である。

そこで、一部ではリーマン・ショックの際に問題となったSPV(特別目的会社)と同様に、本体と財務的に隔離された中小金融機関を通し、そこがWMPと呼ばれる利回りの良い商品を富裕層に対して販売し資金を調達してきた。

これが中国版シャドーバンキングである。今では投資の不採算から利子支払いのための資金調達に窮するところも多くこれが四半期末のSHIBOR急騰の原因であるといわれている。

WMPの返却原資は地方政府による不動産開発の利益に依存し、魅力的な高利回りは高いリスクを反映している。しかしそもそも政府系金融機関が融資を絞ったような案件群である、ちょっとした経済の変調が金融危機につながる可能性は否定できない。

その際の問題点は、現状ただでさえ成長率の鈍化が予想される中国経済に大きな影響を及ぼさないかということである。米国FRBの問題は景気が良いからこそ縮小へ向かうのであって金融市場は多少もたつくかもしれないが、悪いことにはなりにくい。

一方で中国の信用問題は、中国経済停滞の世界経済への影響も含めてよくわからないところが多いのである。(作家 板谷敏彦)


金融の世界史がAmazonで買えない件について


金融の世界史: バブルと戦争と株式市場 (新潮選書) 』は月曜日からAmazonなどで買えない状態が続いてご迷惑をおかけしております。現在出版社を通じて問い合わせています。

丸善&ジュンク堂ネット・ストア紀伊国屋書店など、実物書店関係の通販では買えるようですので宜しくお願いします。


追記:
週刊東洋経済6月15日号
週刊エコノミスト7月2日号
両誌で『金融の世界史』の書評が掲載されました。

日本経済新聞日曜版 6月30日号 書評ページ
日経ヴェリタス 7月1日号 読者カフェ 経済を読み解~く この1冊
で紹介されました。



2013年6月23日日曜日

『Great Negotiations』書評



1776年、アメリカ独立戦争。欧州でも科学者として既に有名だったアメリカ人(まだ13州の集合で大陸会議というのだが)ベンジャミン・フランクリンは、イギリス軍優勢な中で、フランスの参戦を乞うためにパリに渡り滞在した。彼の執拗な駆け引きにフランス皇帝ルイ16世は、とうとうイギリスに向かって宣戦布告することになる。フランスのおかげでアメリカは独立することができた。しかしこの時の戦費はフランス国家予算の3倍にも達し、債務返済のための増税が市民の不満を呼びフランス革命を惹起し、ルイ16世は断頭台の露と消える。

もうじき読了だけど、フレドリック・スタントンの最新刊『歴史を変えた外交交渉 (原題:Great Negotiations)』原書房はなかなか面白い。

扱っているNegotiationは、
アメリカ独立
ルイジアナ買収
ウィーン会議
ポーツマス条約
パリ講和会議
エジプト・イスラエル休戦協定
キューバ・ミサイル危機
レイキャビック首脳会談

ポーツマス条約は僕も『日露戦争、資金調達の戦い』執筆時に相当調べたけれども、この本はとても品質が高いと思う。

気に入った表現がひとつ。
当時のフランス外務大臣ヴェルジェンヌは、フランクリンとの接触を心配するイギリスの駐フランス大使ストーモン子爵にこう告げた。
「ご心配は無用です」
なぜならば、
「大臣の邸宅は教会のようなものです。誰でも入れますが、望みがかなえられる保証はありません」と。


2013年6月20日木曜日

誤解多い「知っているつもりの」日露戦争


以下はアゴラへの投稿記事です。少し校正しました。

誤解多い「知っているつもりの」日露戦争

アゴラの掲載記事「『坂の下の谷』借金を踏み倒す国家」において新清士氏が、拙著『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮選書)をご紹介してくださいました。ありがとうございます。

ただ、引用してくださったのが「戦後、国債の支払いに相当苦労したことが紹介されている。」ということで、拙著で言えばエピローグの部分だけであって、ページ数でみても全体に対して一番最後の部分のわずか1%にしか過ぎません。

すでに拙著も発売から一年半、もはや売らんがための宣伝にはならないだろう、ということで、ここにあらためて紹介させていただければと思います。

日露戦争の資金調達関連の話で身近なところではNHKの『坂の上の雲』で西田敏行が高橋是清を演じていました。そこにはユダヤ人、ヤコブ・シフが登場していましたが、秘密めいて陰気で守銭奴をイメージさせる俳優が割り当てられていました。さしずめ『ベニスの商人』に登場する悪役でユダヤ人金貸しのシャイロックのイメージといったところでしょう。

この時代の多くの小説の一次資料となっている『高橋是清自伝』では、日本が資金調達に困っていたときに偶然パーティーで隣り合ったユダヤ人ヤコブ・シフが日本公債の半分を引き受けてくれたことになっています。この部分を金融に詳しくない作家や歴史家は、「引き受ける」という言葉を「個人的に金を貸す」ことと同じように誤解してしまいます。あたかも資産家のユダヤ人が個人的に日本にお金を貸した。何故ならロシア国内のユダヤ人迫害に憤慨していたからだと。

ところがヤコブ・シフというのは米国投資銀行クーン・ローブ商会の実質的な社主で、この会社は当時のアメリカでは中央銀行の役割をしていたとまでいわれるJPモルガン商会と米国金融界を二分する超大手投資銀行だったのです。今で言えばゴールドマンみたいなもので、シフはシャイロックとは全く正反対の映画スターのような立派な容姿であって、行く先々でマスコミに追われるような大スターだったのです。

もうこの辺りから、日独伊三国同盟時代に培われたのでしょうけれども、日本人のユダヤ人観というか、誤解がとても多いのです。シフは外国公債の引き受けビジネスをしていたのであって、日本に対して個人的に資金を出したのではありません。これはロンドンやニューヨークにおける日本国債の公募案件なので、投資銀行のプレースメント能力もさることながら欧米諸国の一般大衆に対する日本帝国の人気が日露戦争の軍資金集めのすべてを支配していたのです。

こうしたことを説明するために拙著では全体の25%を当時の金本位制や、各国GDPの比較、そしてアメリカでのモルガン商会とクーン・ローブ商会の戦いである「ノーザン・パシフィック鉄道事件」に費やしています。これはもちろんシフのイメージを変えてもらうためです。

またGDPについては「ロシアは国力で10倍の敵だったが日露戦争では之に勝てた、今回も大丈夫だ」と第二次世界大戦では対米戦の宣伝に使われました。しかし実際はロシアのGDPは3倍であって、極東に派兵できる兵力はその三分の一として日本とほぼ互角だったのです。児玉源太郎始め当時の陸軍は計算していたと思います。

その他にも「血の日曜日事件」以降、ロシアはファイナンスができなくなってしまいます。たとえ現状の利回りが低いからと言って、資金調達の道は突然断たれてしまいます。決してリニアな関係ではないのです。

また、日露戦争中に国民が一方的に国家にだまされていたような分析もありますが、株価をみる限り、国民はしたたかな一面も持っています。その他にも勝ち馬に乗りたがる当時の金融業者、それと結びついた国家など現代へのインプリケーションを満載したつもりです。

これまで講演会に何度か呼ばれましたが、出席者の半分が『坂の上の雲』を読んでいるから大丈夫とお考えになって、拙著を読まずに參加されていました。我田引水になりますが、その時の経験ではこれほど読む、読まない、の差が大きい本も珍しいと思います。何故なら「知らない」のではなく日露戦争に興味のある人は「知っているつもり」だからです。

お酒の席で、酔って『坂の上の雲』の話を延々と語る世代も既に引退されたかと思います。もはや接待芸としては用がなくなった日露戦争豆知識も、金融の仕組みを学ぶ意味では非常に貴重な歴史的事件なのです。是非ご覧になって下さい。


板谷 敏彦
作家 

2013年6月7日金曜日

『天佑なり』


幸田真音さんの新刊『天佑なり 上 高橋是清・百年前の日本国債 上下』角川書店を読みました。高橋自身が「天佑」と呼ぶ時。それは日露戦争時の資金調達、クーン・ローブ商会のシフとの出会いを指します。

幸田さんは参考文献に拙著『日露戦争、資金調達の戦い』も加えて下さっているので、金融的な記述に私のものと大きな違いはありません。

私として一番気になったのは「あとがき」です。帝国ホテルでの「故高橋是清翁追悼会」の記述。実はこの高橋が暗殺されてから1年後に執り行われた追悼会の逸話は私の本のまえがきでも扱っていました。言ってみれば私の本はここから始まります。でも、私は実はこの追悼会の資料を持っていませんでした。私は当時の経済学者『上田貞次郎日記』にその時の簡単な記述を見つけただけでした。幸田さんの話ではご親族により「次第書」が見つかっているとのこと。是非見てみたいものです。

私は高橋の資金調達の逸話を小説化する力量がありませんでしたが、この本は小説で読みたい方にはおすすめです。