2013年9月26日木曜日

『金融リスク管理を変えた 10大事件』


本の写真と価格だけを見ると、一見ヘビーで面倒臭そうなテーマの本に見えるかもしれないが、内容は学者の筆では無く、優秀な社内報告書のようにコンパクトで読み易い。

金融リスク管理を変えた10大事件 』藤井健司

私もここに扱われている10大事件にはかかわったり、あるいは振り回されたりした口だが、こうしてリスク管理者の目線から整理してもらって過去の事件を振り帰ってみると、「わかっていたつもりでいた」ことが改めて知見として身につくように感じられる。

特に最初は与信リスクだけだった銀行業務のリスクが、Market risk, Credit risk、Country risk, Credit concentration risk,Value at risk, Counter Party risk, Operational risk, Reputation risk, Systemic risk, Market liquidity risk, Wrong-way risk、Regal risk, Settlement riskと規制緩和や事件がある度に業務に関するリスクが増えてきた経緯は圧巻である。

目次をきんざいのWEBからコピーしておく、
●主要目次●   
序 章 「10大事件」と本書の構成   
1 伝統的な金融リスク管理/2 金融自由化と「現代」金融リスク管理/3 10大事件の発生と金融リスク管理─本書の構成   

第1章 ブラックマンデー【1987年】   
1 「ウォール街の10月の大虐殺」/2 事件の「犯人」─プログラム・トレーディングとポートフォリオ・インシュアランス/3 10月19日─「暗黒の月曜日」/4 事態の収拾─恐慌からの脱出/5 事件後の経緯/6 金融リスク管理への影響   

第2章 G30レポートとVaR革命【1993年】   
1 ニューヨーク連銀総裁の警告/2 デリバティブ取引市場の拡大/3 G30レポート/4 バーゼル委員会のデリバティブ管理ガイドライン/5 JPモルガンの「リスクメトリクス(R)」/6 BIS規制と市場リスク規制の導入/7 自己資本比率規制における「メニュー方式」/8 「VaR革命」と金融リスク管理への影響 
  
第3章 FRBショックとデリバティブ損失【1994年】   
1 「FRBショック」/2 金利上昇とデリバティブ損失/3 デリバティブ仕組取引/4 リスク経営の先駆者/5 デリバティブ損失とバンカーズ・トラスト銀行/6 レピュテーショナルリスク/7 米国カリフォルニア州オレンジ郡/8 金融リスク管理への影響──販売適合性とレピュテーショナルリスク  
 
第4章 ベアリングズ銀行と不正トレーダー【1995年】   
1 1995年2月最後の日曜日/2 シンガポール子会社の「裁定取引」/3 事件の発覚と「女王陛下の投資銀行」の破綻/4 事件の影響とイングランド銀行/5 民間金融機関の対応とさらなる不正トレーダー/6 「不正トレーダー」が金融リスク管理に与えた影響/7 その後の「不正トレーダー」たち  
 
第5章 ヘッジファンドLTCM破綻【1998年】   
1 1998年9月23日、ニューヨーク連銀/2 ロケット・ヘッジファンド/3 アジア通貨危機とファンドの転落/4 LTCMのデリバティブ・ポジション/5 「デリバティブの中央銀行」と市場流動性/6 LTCM後の金融市場とポジション処理/7 官民の対応/8 LTCM破綻が金融リスク管理に与えた影響 
  
第6章 バーゼルIIとオペレーショナルリスク【2001~2007年】   
1 バーゼルIIへの道のり/2 バーゼルIIの枠組み/3 バーゼルIIの内容─第一の柱/4 バーゼルIIの内容─第二の柱/5 バーゼルIIの内容─第三の柱/6 オペレーショナルリスク/7 金融リスク管理への影響 
  
第7章 NY同時多発テロとBCP【2001年】   
1 9月11日午前8時46分/2 ライフラインへの影響/3 金融市場への影響/4 金融機関の対応/5 金融リスク管理への影響─業務継続と災害復旧/6 BCPの策定/7 その後の危機事象とBCP 
  
第8章 サブプライムローン問題と証券化商品【2007年】   
1 パリバ・ショック/2 米国サブプライムローン/3 サブプライムローンと証券化商品/4 CDOからSIVへ─証券化仕組商品/5 「オリジネート・トゥ・ディストリビュート」ビジネスモデル/6 市場の反転と証券化仕組商品の崩落/7 資金調達市場への影響と金融危機への懸念/8 ノーザンロック銀行─140年ぶりの「取付け騒ぎ」/9 当局の対応/10 金融機関の損失とソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)/11 サブプライムローン問題─金融リスク管理への影響  
 
第9章 リーマンショックと金融危機からバーゼルIIIへ【2008年~】   
1 金融機関の流動性危機とベア・スターンズ証券/2 2008年秋の陣(1)─米GSE問題/3 2008年秋の陣(2)─リーマン・ブラザーズ証券破綻/4 2008年秋の陣(3)─AIG破綻とCDS取引/5 事態の収拾と公的資金注入/6 金融危機と実体経済への影響/7 国際政治での金融規制の潮流/8 バーゼルIII/9 各国規制と「逆グローバル化」/10 金融業界の対応/11 金融リスク管理への影響   

第10章 アルゴリズム取引と「フラッシュ・クラッシュ」【2010年】   
1 「フラッシュ・クラッシュ」/2 アルゴリズム取引/3 2010年5月6日/4 スタブ・クオート/5 市場の対応/6 フラッシュ・クラッシュが金融リスク管理に与える影響


『愛国・革命・民主』三谷博を読んで


我々日本人はいわゆる「日本人論」が大好きだ。ウィハブクワイトディファレントカルチャーコンペア―ウィズウェスタンカントリーズ、アズユーノウ。確かに中国という巨大な防波堤を対岸に持ち、地球の東の端で育まれた文明や文化には世界的に見て極めて特殊なものがあるに違いない。歴史学者アンドリュー・ゴードンの『日本の二〇〇年』には市場開放に対する抵抗にもこうした「特殊性」の言い訳が使われてきたとある。有名なところではスキー用具の関税撤廃が議論となった際に、「湿度の高い日本の雪は特殊だから外国のスキー板は日本には適さない」と説明した時にも発揮された。

我々はイエに縛られた「たこつぼの住人説」はすでに聞き飽きたが、日本のたどってきた歴史、例えば明治維新も実は世界に向けて普遍化できるのではないだろうか。

三谷博氏の『愛国・革命・民主:日本史から世界を考える (筑摩選書) 』を読んだ。サブタイトルには「近代日本史を補助線にして、世界と東アジアを理解する」とある。

愛国・革命・民主の3つのテーマを追求し我々の隣国との関係について考察していく中で、マルクス史観の再検討や社会科学の中での予測可能性について、あるいは直近の金融論のテーマである、経済はグローバルな相互依存がすすんでいるのに、政治的決定は国々が行い、これを批判する人々の想像力も国民国家に閉じ込めらていることについて話が及んでいく。これほど知的好奇心を喚起する書物は久しぶりだった。統治システムと外交問題にひとことある人にはおすすめ。何より面白い。