2013年11月28日木曜日

PEACEMAKERS MACMILLAN


マーガレット・マクミランの『ピースメイカーズ〈上〉―1919年パリ講話会議の群像  上下』を読んだ。原著"Peace Makers-Six Months That Changes The World"は2002年の英国ノンフィクションの最高の賞といわれるサミュエル・ジョンソン賞を受賞している。品質は折り紙付きと言えるだろう。

さて、ピースメーカーズとは第1次世界大戦の決着をつけるパリ講和会議に結集した五大国である米英仏伊日の代表者達の話なのだが、残念ながら日本代表は自国の利権以外にはあまりかかわらず、従って戦乱の欧州と距離のあった我が国はあまり発言する機会がなかった。そこでいつしか会議に呼ばれなくなり4カ国となるも、イタリア代表もあまり英語を解せず次第に阻害されていく。ジョークがわからないのだ。最後は米国ウィルソン大統領、英国ロイド・ジョージ首相、仏国クレマンソー首相の三名で戦後の欧州や中近東、バルカン半島などの国境線が確定されていくことになったのである。民族や宗教の塊を不自然に切り離していった。またフランスによる執拗な懲罰はドイツの底深い恨みを買うことになった。彼らは果たして本当にピースメーカーズだったのだろうか?

読後の感想は一言「疲れた」。上下650ページほどだが近来希にみる疲労感。文章がどうのでは無く、内容自体が人を疲れさすのだ。誤解に自信過剰。そのくせに面白いのでやめられない。途中で気になる箇所が増えたので原書も購入。翻訳は丁寧にされていることもわかった。

トルコ代表のイスメスト・イメニュ。彼がお酒を飲んでいるシーン。下巻229ページ。
「夕方、トルコ人イスメストは緑色のシャルトルーズ酒を飲んでくつろいでいた。愚かにもアメリカ人の一人が彼に近づき、何を勘違いしたか生涯酒を飲まないと誓ったのである」

シャルトルーズはブランデーに何種類も薬草を足して再蒸留を繰り返した甘ったるいリキュール。アメリカ人やイギリス人、日本人もカクテルの材料以外では直接飲んだりしないが、欧州ではグランマエや甘ったるいリキュールは食後酒としてそのままちびちびと飲む人が多い。しかしこの翻訳では意味がわからない。

原文Paperback版464Page、
"In the evening the Turk took solace in his favourite green chartreuse;one of Americans who unwisely joined him swore off the drink for life."

これは真珠湾攻撃時の在日米国大使ジョセフ・C・グルーの自伝からの引用だ。彼も若手外交官として参加していた。残念ながらこっちの原文も意味がよくわからない。若いアメリカ人はお茶と間違えたような気もするが。

よく見ると日本語訳の方には後に「酒を飲んでいるとは思わなかったのだ」と補足をたしこんでくれている。良い翻訳だと思うがそれでも意味がよくわからない。なるほど、外国人との意思疎通はいかに困難であるか、外国人とは一体誰なのか、居住する地域なのか宗教か言語か?も含めてこの本は示唆するものが多い。すすめたいところだが読むのは大変だと思う。日本人にはね。

日本はこの時「Racial Equality」を平和の条文に入れようとしてウィルソン大統領に却下されている。知っていました? 南部出身のウィルソン大統領としては「黒人の召使達との良い思い出はたくさんもっていたが、だからといって同じ人間だとは思っていなかった」、「君らは五大国のひとつとしてこうして会議に出席できているのだからもう十分ではないか」、西海岸では日本人移民を排斥しようとしていた頃、こんな文言を入れては自国の選挙で勝てなくなってしまう。これはカナダ、オーストラリア代表も同じこと。




2013年11月21日木曜日

忘れられた戦争『第一次世界大戦』


ここのところ満州事変、日中戦争、太平洋戦争と戦間期の本を読み資料集めをしてきたが、やはりどうしてもその起点たる第一次世界大戦の部分が気になってしまう。日本の人物や事件だけを追いかけていると、戦場から離れていた分だけどうしてもこの部分が手薄になってしまう。日本はこの戦争で「総力戦」に目覚めて「石原莞爾の発想」というような流れだ。

日本は独軍の山東半島青島要塞を攻略し、その時始めて航空機を兵器として使った。この辺りは東宝が昔、加山雄三を使って映画化しているので知っている人も多いが、Uボート対策で駆逐艦隊を地中海に派遣したことはあまり知られていないだろう。知っていたからどうということも無いのだが、実はこの派遣の対価として日本とイギリス、フランスとの間には裏取引がなされていた。

第一次世界大戦 忘れられた戦争 (講談社学術文庫) 山上正太郎著 を読んだ

第1次世界大戦で何か良い本は無いかと尋ねられれば、定番の「リデル・ハート」とか「八月の砲声」とか、日本を中心に論じた山室信一氏の「複合戦争と総力戦の断層―日本にとっての第一次世界大戦 (レクチャー第一次世界大戦を考える) 」とかいわずに日本人にはこの本が一番いいと思う。少し赤っぽいが(共産主義にページを割いているのは書かれた時代を反映しているのだろうか)、面白いことに戦闘場面が一切ない戦争の本である。理知的で知りたいことをうまく整理してくれている。今という時代が歴史を織り成す数々の糸を束ねた断片であるとするならば、それらの同じような糸が過去に似たような文様を描いたことがある。日本人はもう少しこの戦争を知るべきだと思う。