2013年12月24日火曜日

FRB誕生100年


ポール・ウォーバーグ
日露戦争のファイナンスの講演会をしていていると、最後の質問コーナーで必ずといっていいほど登場してくるのが、ユダヤ人金融家ヤコブ・シフを巡るユダヤ人陰謀説である。金融史を少しかじった人であれば19世紀に欧州でおおいに繁栄したロスチャイルドが衰退した原因は、米国進出に出遅れたためであるというのはほとんど常識の世界なのだけれど、なまじ米国にロスチャイルドという名前の金融機関の名前が見当たらないので適当なユダヤ名を「ロスチャイルドの手先」としてしまう強引な主張はよくおみかけする。

日露戦争のファイナンスで活躍したクーン・ローブ商会のシフもそうで、「ロスチャイルドの手先ですよね、家も隣り合わせだったみたいだし」という質問を頂戴することになる。質問主は講習会の参加者の前でご本人の重厚な歴史知識をご披露したいらしい。拙著を読めばロスチャイルドの出した手紙の中に進境著しいウォーバーグやシフに対するやっかみ(とても手先だとは思えない)が書かれていたことを紹介してあるのだけれども、どうも赤い盾の影響が大きいのかもしれない。僕としては笑うわけにもいかないし、講習会がきまずい雰囲気にならないように苦労が絶えない。

第1次世界大戦のドイツの賠償案のひとつである「ドーズ案」、これはドイツの負担を軽減する処置だったのだけれども、当時台頭し始めたナチスは、米国からの借款が計画に含まれていたためにこれはゲルマン人を奴隷化する「ユダヤ金融資本の陰謀」だとした。しかしこの借款の主幹事はユダヤ嫌いで有名なモルガン銀行だったのでナチスは話の筋が通らなくなってしまった。そこで主張したのが「JPモルガンはもとの姓をモルゲンスターンというユダヤ人だった!」というものだ。癇癪持ちのジョン・ピアポント・モルガンがこれを聞いたらどうしたか、生きていなくて本当に良かった。

今朝の日経は「FRB誕生100年、メルツアー教授に聞く」。FRB創設の立役者はハンブルグのユダヤ系マーチャント・バンクであるウォーバーグ兄弟の中のポール・ウォーバーグ(ドイツ名パウル)である。FRB設立直前までドイツ国籍だったし、今も残っているけれど、ウォール・ストリートのすぐ近く、パインとウィリアム・ストリートの角にある22階建てのビルのクーン・ローブ商会で働いていた。彼の教育はドイツで受けたもので、英語のレポートもあまり得意では無かった。

因みにポールはハンブルグのウォーバーグ商会のパートナーも兼ねていたし、バルチモア&オハイオ鉄道、ウェスチングハウス、ウェルス・ファーゴの取締役もしていたがFRBに移って公務員になるためにこうした実入りの良い仕事を全部辞めた。年収は50万ドルから1万2千ドルに下がってしまったそうだ。ポールはそこまでしてアメリカには中央銀行が必要だと信念を持っていたのだ。しかし問題はFRB誕生の1913年はドイツが世界を撹乱する第1次世界大戦勃発の前年だったことにあった。皮肉にもポールはユダヤ人であることよりも、ドイツ人であることが問題とされたのだ。

さて、今朝ポール・ウォーバーグをネットで検索してみると、あるわあるわユダヤ陰謀論。彼がロスチャイルドの手先ですと。どこまでロスチャイルドやねん。日本人は本当に「陰謀論」が好きですね。

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