2014年1月11日土曜日

【ビジネスアイコラム】思い切った留学制度の充実を


【ビジネスアイコラム】思い切った留学制度の充実を
2014.1.10

 明治時代の政治家である井上毅が文部大臣の頃だというから1893年あたりだろうか、日清戦争の1年前と随分と昔の話である。当時の日本も学生の語学力低下が大きな問題となっていたようだ。「高等学校では国語3に対して語学5の比率にもかかわらず語学の成績は、はなはだ不良である、さらに時とともに悪くなっていくというのが一般の定評である」とある。これに対して井上大臣は日本人教師による授業を減らし外国人教師を採用することで生の外国語と接する機会を増やす一方で教授法についても改善していくという対策をとった。

 さらに時代をすすめて1919年の第一次世界大戦のパリ講和会議。日本は戦勝国として五大国の一角に昇格し戦後処理と国際秩序の再構築に大国としての責務を負いながら、語学力のあるスタッフの人材不足から自国の権益以外の問題にはほとんど発言することができず、パリでは「サイレント・パートナー」と呼ばれてしまった。議論の輪に入れない日本人である。ここでも語学力不足は国家としての威信にかかわる問題として意識されることになった。日本人は昔から語学に課題があるのだ。

 さて、翻って現代の日本である。2010年のTOEFLの国別ランキングで日本は163カ国中135位であった。これはマレーシアやフィリピンはもちろん韓国、中国、モンゴルよりも下位にある。受験者の層の問題もあるのだろうが、言い訳の通用するような順位ではない。

 昨年4月には自民党の教育再生実行本部が英語教育に対して抜本的改革が必要だとして、英語教員自身の英語力の都道府県別公表や英語授業増などを提言。これに応えて12月に文部科学省は「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を発表した。ここでは小学校英語教育の早期化や中学における「英語による授業」などを基本とする対策を提案している。どこかで聞いたような対策である。

 実は冒頭の話は外務、文部大臣を歴任した牧野伸顕の『回顧録』からの部分引用だが、その中で牧野は傾聴すべき意見を述べている。彼がいうには学生全員が実用的な語学を必要としているわけではない。ある者は卒業後には語学とは全く縁がなくなるであろうし、ある者は語学の知識を必要とするだろう。勉強に対する身の入り方が違うのだ。同じ教育を施し全体での実績をあげようとすることが困難の原因である。語学力のすべての出発点は彼我の個人間の接触に始まるのであり、国際間の交渉にしてもあくまで個人的な信用がその基礎となる。そうした国民と国民の直接の交渉が語学の必要性を生み出すのだというのである。つまり授業法の改善も大事だが、語学は手段であり、語学を必要とする人材を増やすことが肝要なのである。

 学問に限定せず、スポーツや音楽、美術、調理などでも結構だ。単純に国費留学生を大量に増やしてはどうだろうか。意思のある若者にはどんどん留学の機会を提供することが他言語とのコミュニケーションの必要性を生み出し、それが真剣な語学学習者を増やすことにつながるのだと思う。

(作家 板谷敏彦)

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