2014年4月24日木曜日

【ビジネスアイコラム】敗者復活 「国家の尊厳回復」図る時代


【ビジネスアイコラム】敗者復活 「国家の尊厳回復」図る時代

2014.4.24
 米ソが冷戦のただ中にあった1957年に、ソ連は米国に先立って世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げた。人工衛星は大陸間ミサイルの技術に直結するので、これは「スプートニク・ショック」と呼ばれ、ウォール街もパニックに陥った。ソ連は威信に満ち、西側資本主義諸国にとっては危機だった。翌年米航空宇宙局(NASA)が設立され、やがてアポロ計画につながり、69年になってアポロ11号が月に初めて人間を送り込んだことでようやくこの問題に決着がついた。

 80年代頃のウォール街では、融通の効かない人物や性格の悪い人物がいると「コミュニスト!(共産主義者め)」と罵声を浴びせた。ハリウッド映画を見るまでもなくソ連は米国の不倶戴天の敵役であり「正義」に対する「悪」であった。

 さらにその頃から東側の経済は共産主義の非効率が露呈して、単に「悪」であるだけでなく西側の繁栄に対する「貧しさ」というレッテルも貼られることになった。

 ウクライナ問題ではヌーランド米国国務次官補とパイアット在ウクライナ米国大使との通話記録(「ファックEU」発言)が動画投稿サイト「ユーチューブ」で暴露されたが、米国が欧州連合(EU)の頭ごなしにウクライナの内政にまで関与していることが問題だった。少なくとも現地の民主的な選挙で選ばれたヤヌコビッチ元大統領を追い出したのだ。さらにその後の暫定政権の一角を占める極右勢力はロシア語を公用語からはずそうとさえした。民主主義の観点からも「ロシア=悪役」ではなかったのである。

 さらに国際通貨基金(IMF)によるウクライナ政府への財政支援が入ると、財政再建のためにウクライナの公務員の給与や退職者の年金は削減されるという。ソ連解体時にたまたまウクライナにいたロシア人(言語的な意味で)にしてみればたまったものではない。ここでも「東側=貧しい」の関係ではなかったのだ。

 ロシアではクリミア併合以降、欧米の本格的な経済制裁が発動される前に、民間資本の逃避からルーブルが下落し株式市場も暴落している。既に景気に影響が予想されリセッションの懸念さえ出始めている。経済合理性から考えればクリミア併合やその後の行動は価値のないものだ。しかしプーチン大統領は今後も引く構えをみせず、「ロシアの尊厳を回復する」と述べている。これを支持する国民も同じ考えではないだろうか。ロシアの強硬姿勢をプーチン氏の性格に帰するのは早計だ。

 さて、われわれの隣国中国もアヘン戦争以降の西欧諸国や日本に踏みにじられてきたかつての「大国の尊厳」を回復したいと考えているようだ。それはロシアと同じように少々の経済的デメリットがあっても構わないということだ。なんとも扱いにくい相手である。しかし、かくいうわれわれ日本も、気がつけば世界から右傾化を警戒されるなかで少々の経済的メリットを犠牲にしても、占領政策の否定や押し付けられた憲法の改正を志向して国家の尊厳を回復しようとしているのではないだろうか。つまり今は過去の敗者復活による「尊厳の回復の時代」なのかもしれない。米国による一極覇権の崩壊であり、各国は経済合理性では行動しなくなる。もちろんこれは危険な時代の到来である。

(作家 板谷敏彦)

2014年4月2日水曜日

『イギリス繁栄のあとさき』


イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)
 川北稔著

ポスト・アメリカの次の世界はどのような世界なのだろうか。例えば中国にヘゲモニー国の交代があるのだろうか。あるいは中核地域全体が欧米からアジアに移動するのか、はたまた現状の国際分業体制である「近代世界システム」全体が崩壊するのだろうか?

後進国がかならずしも段階を追って先進国に発展するわけではない。また世の中はすべからく経済合理的に行動する「ホモ・エコノミクス」ばかりではない。ウォーラーステインの「世界システム論」や「ジェントルマン資本主義」をわかりやすく解説しつつイギリスの繁栄のあとさきに思考を巡らせる経済史エッセイが文庫本化。もちろん今の日本を考えるヒントが溢れている。

川北稔先生の本は高校生向けに書かれた『砂糖の歴史』はじめどれもとても読み易い。ぶっちぎりお奨め。