2014年5月30日金曜日

【ビジネスアイコラム】高頻度取引の功罪


 今朝のビジネスアイのコラムはHFTについて書いておきました。数日前の日経のコラムを読んで触発されました。HFT業者全体の稼いだ利益は09年に約50億ドルあったものが12年では10億ドルほどにまで減少しています。競争の激化によるシステム投資負担、スプレッドの縮小。一方投資家にとってメリットである米国株の売り買いスプレッドの縮小は気配値ベースで80年代前半が25bps、PTSの始まった後半が17bps。2000年で14~18bps、HFTが取引を始めた2006年には3.6bpsまで急落しています。本当は個人投資家はものすごく恩恵を受けているのですが、あまり理解されていません。


【ビジネスアイコラム】高頻度取引の功罪

 2001年改正以前のNY株式市場では株価の呼び値は8分の1ドル単位だった。平均的な株価である40ドルで計算すれば売りと買いのスプレッドは0.3%あったことになる。この8分の1という単位は古くから米国で使用されてきたメキシコ銀貨をペンチで半分に切って使用した名残である。2分の1を半分にすれば4分の1になり、そのまた半分は8分の1になる。NY市場における「もう一声」は8分の1の銀貨の切片だったのである。投資家は永らく株式売買時の執行コストとして無意識に一部これを負担していた。一方で値付け業者からみればこれはさや抜きの源泉でもあった。今ではこれが1セント単位になり改善されているが、金額が外枠の手数料とくらべてこうしたコストは捉えにくい。

 3月末にマイケル・ルイス氏が高速で売買を繰り返す高頻度取引(HFT)を題材とした「フラッシュ・ボーイ」を執筆して、発売日にTV出演で派手にアピールしたこともあって、投資家はHFT業者によって株式売買取引から上前をハネられて随分と「損」をしているとの認識が広まっているように見受ける。しかしこうした直感に訴える損得だけではなく、実は株式市場にはさまざまなコスト要因が存在していることには気が付きにくい。

 米国市場のように漸次HFT取引が拡大した状況に比べ、日本では10年に東証のアローヘッドが稼働を開始しようやく本格的な高速取引が可能となったためにそれ以前の市場との比較が容易になっている。そうした条件を基に本年1月の日銀レビューが「株式市場における高速・高頻度取引の影響」を分析している。それによるとHFT取引開始によって流動性供給効果(=売買を容易にして執行コストを低減する効果)、ボラティリティー抑制効果(市場の振幅を小さくする効果)などが観察されている。もちろん10年5月に米国で発生した「フラッシュ・クラッシュ」のような事件やプログラミングのエラーなどHFTの先進性が内包する独自の問題への対処は欠かせないが、情報がオープンにされた市場でのテクノロジーの発達による投資家の受けるメリットは大きい。

 一方で「フラッシュ・ボーイ」の中ではHFTに影響されない独自の取引網として登場する「ダーク・プール」という問題もある。これはテクノロジーの進歩とは別に、例えば米国では証券会社内クロスのように昔から存在するものだが、簡単に言えば取引所を介さない取引所外取引のことである。

 ロイターによると6年前には全取引の16%であった市場外取引が現在は40%にも達しているという。こうした売り買いを外部に見せない閉鎖的な取引には価格情報を集約し公平な価格形成が期待される取引所の価格発見機能を損なう可能性が指摘されている。

 大口注文の処理の観点からすべてがオープンであるべきだと主張する気はないが、適正価格を提示できない取引所は、結局は市場参加者の余分な負担となる。つまりこの場合も誰かに上前をハネられるということで、HFTだけを悪者と指差すことには同意できない。だいいちHFTは既にもうあまりもうからなくなっているそうだ。

(作家 板谷敏彦)