2014年11月29日土曜日

お酒は温めの燗が良い


若い頃からよく行っている銀座の割烹は前にミシュランに載ったこともあって、最近は外人客も多い。

以前は大物財界人がプライベートでおばあさんみたいなホステスと同伴していたりしたものだが、今では随分と物故者が出たり、色々と事件もあったりして、そういう人達もあまり見かけなくなった。企業の接待も減ってしまったのだろうと思う。何人かの作家は今でもよく打ち合わせに使ったりしているが、全体として顧客の高齢化は否めない。口の悪い亭主はたまに僕を「作家先生」と呼ぶこともあるがこれは単にからかっているだけだ。

僕はカウンターの端っこで一品料理を2つ3つ頼んで、目の前で燗付けしてくれる日本酒をいつも三合ほど飲む。これ以上飲むと酔ってしまってその後のウヰスキーが楽しめなくなるから気を付けている。最近では晩御飯の打ち合わせでもノンアルコールを注文して、原則週に一度しか飲まないようにしている。煙草も止めたし、何だか酔っていない僕は、実につまらない奴で、人生を生き抜く迫力みたいなものに欠けるのではないかと自覚している。もともと酔わないとうまく自己表現ができない奴なのだ。昔の森繁の社長繁盛記の頃やバブル期向けのスペックなのかもしれないし、もしかすると迫力が落ちているのは単に齢をとってしまったからなのかもしれない。

昨日は四人掛けのテーブル席に無理やり五人ですわっている若い中国人達(中国語を話していた)がいて、いつもは静かな割烹に似合わずに大きい声で会話している。うち一人はとても美しい女性だかとにかく騒々しいこと。携帯の待ち受け音もまるで新幹線でも発車しそうな変な調子で、それもひんぱんに鳴っていて落ち着かない。女将の情報によるとダイヤをちりばめたロレックスを筆頭に皆すごい時計をしているようで、服装からしても金持ちであることは間違いない。それと全員英語も話す。きっと僕の『金融の世界史』の中国語版でも読みそうな人たちだね。まだ見本が届かないけれど。

しばらくするとこっちばかり見てごそごそと何やら話しているので、「どうした(ホワッツアップ)?」と聞くと、5人ともこっちを向いて、カウンターの端に座っている奴は常連だからきっとうまいものを知っているだろうから何を食べているか見ているのだという。ならばちゃんと聞けば宜しい。ということでフライド・ブローフィッシュと昨日は隠れメニューで香箱蟹だったのだけれど英語名はわからないのでスモール・クラブとだけ教えてやった。

すると「ほら、こういう店ではメニューにないものをたべるのだよ」と大騒ぎだ。何だか昔ニューヨークのステーキ屋で僕らもおなじことをしていたような記憶が頭をよぎった。僕らは引っ込み思案で彼らほど陽気では無かったけれど。連中は騒々しいけれど気づかいもキチンとしていて店の雰囲気を壊すようなことは無かった。逆に割烹のそうしたものを楽しみにきているようだった。

しばらくするとカウンターに一人。今度はフランス人(フランスなまりの英語)だった。いつ「ケセクセ」と聞くのかなと身構えていたけれど、日本語も上手だった。お酒はやっぱり温めの燗が良いですよね。


2014年11月23日日曜日

高倉健の追悼映画と食事のシーン


高倉健さんの追悼番組として今は映画がたくさん放映されている。一昨日はDVDで「幸せの黄色いハンカチ」を観て、自分で勝手に追悼させてもらった。昨日は溜まっていた未読の本を整理しようと思っていたら新聞の番組欄にBS‐TBS「駅 STATION」があるのを見つけてしまいやっぱり観てしまった。

芝山不動尊近くの力せんべい 左が堅焼き、右薄焼き

ちなみに本日はBSジャパンで午後2時から「冬の華」がある。DVDを持っているのだからわざわざTVで観る必要もなさそうだが、やっぱりちょっと違う。途中で止めたり戻したりできないところがいいのかな。DVDだとついつい途中で止めてしまうことが多い。それはもう何度も観ているからだと思う。

映画に食事のシーンはつきものだし、だいたいどの監督も大事にする。山田洋次の「黄色いハンカチ」では、網走を出所したての健さんが駅前の食堂でビールを頼み、醤油ラーメンとかつ丼を食べるシーンが有名だ。刑務所では出ないシャバのメニューだ。むさぼるように食べる。健さんは2日間絶食してこの撮影にのぞんだのだそうだ。

降旗の「冬の華」ではやはり出所したての健さんが、組が用意してくれていたマンションに入り、家具の無い殺風景な部屋の中で、一人でトースターで食パンを焼きジャムを塗る。大きな牛乳瓶があり、一度塗ったジャムに、少し躊躇してやっぱりもう一度上からたっぷりと塗りなおす。バターナイフとトーストのすれる音が大事だ。もうひとつ印象に残っているのは、組同士の抗争の最中にカレーの出前を大量に注文するシーンだ。昔よくあった長方形の深皿にご飯とルーが半分ずつ、端に福神漬けが盛られている。それを小林亜星や組員達があわただしくほうばる。

同じく昨日TVで放映していた降旗の「駅 STATION」では、張り込み中の刑事が出前でとったラーメンをものすごい勢いで「すする」というか「かき込む」シーンがある。若き日の小林稔侍だ。出前のラーメンは冷めてすっかりのびてしまって、麺ばかりでスープが無い様子がよくわかる印象に残るシーンである。

この頃だろうか、プライベートで小林が引っ越しを決めると、健さんが2百万ほどのご祝儀をくれて、さすがに小林がそれを断ると翌日健さんは作業服を着て引っ越しの手伝いに現れたというエピソードを残している。貰っておかないと大変なことになるという話だ。ある意味非常識でもある。そんな2人も歳を重ね「鉄道員」では同僚の役を演じることになる。

また射撃部が警察の食堂で昼飯を食べるシーンも脳裏に焼き付く。クリーム色のプラスチックの食器は貧乏くさくてなつかしい。

昨日のTV番組「リーガルハイ・特別編」ではいつもの食事+フライド・チキンをぱりぱりとを音をさせて食べるシーンがあった。香ばしさとともに不健康を暗示する音でもある。要するに昨日は「駅 STATION」を観て続いて「リーガルハイ」も観てしまった。TV漬けだ。今日は溜まった本を整理しないと。書評の締切があったのにまた無駄な文章を書いてしまった。「冬の華」だけはは観ないようにしないと。でもトーストのシーンまでは観るか。

それよりも成田空港近くの芝山仁王尊の参道に今でも律儀に天日干しをしている煎餅屋があるそうだ。長駆そこまでせんべいを買いにいけば「冬の華」を観ないですむが、溜まった本の整理もかなわない。


2014年11月21日金曜日

【ビジネスアイコラム】株価水準と経済規模の関係


【ビジネスアイコラム】株価水準と経済規模の関係 



 11月17日に2014年度第3四半期(7~9月期)の国内総生産(GDP)速報値がマイナス1.6%と発表されると、株式市場は大きく下落し日経平均は517円安となった。事前のアナリスト予想がプラス2%程度だったことからこのマイナス値は大きなサプライズで、さらに第2四半期(4~6月期)に続く2四半期連続のマイナスは、日本はリセッション(景気後退)にあることを意味したからである。アベノミクスの成果として様々な物語を通じて喧伝(けんでん)される好景気とは大きなギャップがあった。しかしながら消費税再増税延期が発表されると翌日の株価は切り返した。

 GDPと株価の関係は更新頻度が四半期と少ないことからトレーディングや中短期の投資では指標として使い物にならないといわれている。

 一方で世界銀行のHPでは世界各国の上場株式時価総額を名目GDP値で割った値を公表している。経済規模に比較して資本市場が発達しているのかどうかを比較するためだ。例えばこの比率が世界で一番高い香港では421%になる。米国が114%で以下2012年末のデータでイギリス122%、フランス69%、中国が44%、ロシア43%である。意外なのはドイツの44%であろうか。この値はそれぞれの経済構造に依存する。 



日本の東証1部時価総額を名目GDP値で割った値を戦後から直近のデータまでグラフ化したのが上の図である。

 著名投資家のウォーレン・バフェット氏が同様の指標を好むことはよく知られている。農林水産業の比率の高かった戦後から次第に2次、3次産業を中心とする上場企業の比率が大きくなっていったことが読みとれるだろう。そしてバブルでピークを打ったのである。

 18日の時価総額が504兆円、17日発表の名目GDPが483兆円であるから現在の比率は104%である。89年のバブルの年には時価総額591兆円、GDPは416兆円で142%あった。またリーマン・ショック直前の2006年には時価総額538兆円、GDP509兆円で106%ある。視覚的に理解できるようにここからの株式市場の上昇にはGDPそのものの成長が欠かせない。また株価だけの上昇は常に急落の危険もはらんでいることに注意しなければならないだろう。

 日銀によるETF等の購入、GPIFによる株式組み入れ比率の上昇など株価対策らしきものが目白押しで、考えようによっては株価の上昇を通じて景気の引き上げを目論んでいるようにも映るが、この水準での株式組み入れはいかに危険なものかは理解できるだろう。投資家は慎重な対応が求められる。


(作家 板谷敏彦)

2014年11月17日月曜日

金融家というお菓子


昨日は、日興証券時代の先輩である岡本和久さんのI-Oウェルス・アドバイザーで講師をやらせて頂いた。テーマは相変わらず「日露戦争とロンドン金融市場」だったが、今回の内容は「日露戦争と映画」というべきもので、時代考証の難しさと金融市場で付けられる市場価格の歴史的事件発見機能についてお話した。

旅順要塞攻略戦線に関して戦後に撮影された映画では、おしなべて黒い軍服が用いられている。これは瀬島龍三なども含む旧軍関係者のアドバイスも入れながら考証されたものだが、近年の研究では軍服は実際にはカーキ色だったことがわかってきた。そのためにNHK「坂の上の雲」では制服がカーキ色にあらためられていたのだ。これまでの映画はすべて軍服の色が間違っていたことになる。(実際にはすべての部隊にカーキ色がいきわたったわけではなく黒服もあった)

しかしそのテレビ「坂の上の雲」でさえ、クーン・ローブ商会ヤコブ・シフを紹介するシーンでは「金融家ヤコブ・シフ」とテロップが出ている。

「金融家?」

僕が使用しているカシオ製EX-wordは最高最新機種で辞書等は180コンテンツ。日本語大辞典、日本史大辞典、オクスフォードからブリタニカ、バロンズ金融辞典、日経経済用語辞典などなどこれ以上は無理というぐらい本格的な辞書がそろっていて複数辞書検索が可能なのだ。しかし「金融家」というボキャブラリーは無い。

もしもこれが中世のユダヤ人の金貸しという意味で使用しているのならば、差し出がましいが「financier」という英単語が思いつく。


面白いことにこの言葉をカタカナに直して「フィナンシエ」と複数辞書検索すると、広辞苑で「卵白・砂糖・粉末アーモンド・小麦粉・焦がしバターを混ぜ、長方形の浅い型に入れて焼いた小さな菓子」とでてくる。また「世界の料理・メニュー辞典ではフランス語フィナンシエールとして「銀行家風」と登場する。

このお菓子は長方形で金塊に形が似ていることから「金融家」と呼ばれたという説がある。また菓子舗アンリ・シャルパンティエの解説では『フランス語で「金融家」という名前を持つ焼き菓子。約120年前、パリの証券取引所近くの通りで店を構えた菓子職人が、背広を汚さず、すばやく食べられるようにと考案したとの説が有力だとか。』とある。

面白いでしょ。こうした単語を見るたびに日本人は本当にユダヤ人陰謀説に弱いのだなあと思ってしまいます。




2014年11月13日木曜日

印西市木下 手焼きせんべい


これは先週末に買った千葉県印西市木下(いんざいしきおろし)の煎餅たち。煎餅好きの僕は成田線木下駅前にある川村商店のことをネットで最初に知った。(写真左上)創業87年。まごうかたなき老舗中の老舗。全国トップクラス。実に美味しい。



ところが木下にはほかにも煎餅屋が多数ある。手焼き煎餅屋集積地帯であることが判明した。シリコンバレーみたいなものだ。

下は岩崎米菓店のおせんべい。これもJR木下駅前。「最近では店頭に出してもすぐに売り切れてしまうため、のれんを外してしまったとか。」グーグルのストリートビューでは見つからない。一軒家のように見えるが煎餅屋。インターフォンを押せばおじさんが出てくる。醤油一度塗り。薄味でお米の香りが秀逸。


右上は浦部せんべい。実に香ばしい煎餅。丁寧な作業がしのばれる。問題は駐車場。田舎道を高速で走行中に突如現れるふつうの家の駐車場みたいなバックで入れる駐車場。何度か通り過ぎてしまった。


もう一軒、関口米菓店にも寄ろうとしたが、駐車場を通過してしまい断念。今度トライするつもり。


印西市手焼きせんべいマップ
http://www.city.inzai.lg.jp/0000001760.html

2014年11月9日日曜日

烏賊と小芋の葛煮


僕がよく行く京割烹には「烏賊と小芋の葛煮」というメニューがあります。京都らしくないメニューですが日本酒と相性がよいし、あまりに美味しいので、函館のするめ烏賊も里芋もどちらも旬の11月頃には真似をして家でもたまに料理します。里芋の旬は9月以降春まで、するめ烏賊は日本では通年どこかしらで捕れます。

今関東地方の店頭に出ている烏賊は冬期発生系群で、昨年の冬に東シナ海から九州北部で生まれて黒潮にのってオホーツクまで旅をする群れなのだそうです。一度冬の1月に函館へ行って烏賊をたべようかと思ったら12月いっぱいで烏賊漁は終わりだと聞きました。その後は日本海側に漁場が移動するのだそうです。

恥ずかしながら僕は何故里芋を小芋と呼ぶのか最近まで知りませんでした。最近の子供はものを知らないなんて言えませんね。たしかに僕も最近までは「最近の子供」でした。店頭で親芋を見て質問して初めてそうなんだと理解した次第です。また所謂(いわゆる)「きぬかつぎ」は里芋ですが、関西地区の「石川早生」だと茹でると皮がつるりと剥けるのですが、関東地方の「土垂」ではそうはいかないようです。昨日はデパートで「たけのこいも」を見かけましたし、京割烹では「えびいも」は常連です。「セレベス」などというのも売っていました。

さて、本題の「烏賊と小芋の葛煮」は作るのに難しいことは何もないのですが、とにかく面倒くさい。烏賊をばらして、芋を剥いてぬめりを取る。それだけです。材料費は500円もあれば十分な量が作れますが、お惣菜コーナーではとても高価な料理になります。僕はキッコーマンのHPのレシピに葛をたして作っています。葛はいらないといえばいらない。写真をとろうかと思いましたが、夜日本酒を飲んだ時に残り物全部食べちゃいました。

http://www.tamaeiga.org/2012/program/008.html


降旗康男監督、高倉健主演の映画「駅 STATION」(1981)では北海道の増毛の雪に埋もれたカウンターだけの小さな居酒屋が登場します。ヒロインの倍賞千恵子がやっている店です。大晦日の夜に行き場のない四十がらみの男女が二人きり。小さなテレビには紅白歌合戦。八代亜紀が『舟唄』をうたっています。

お酒はぬるめの 燗がいい、肴はあぶった イカでいい

この場合のイカはするめではなくて、一夜干しなんでしょうね。生姜とお醤油で。

倍賞千恵子が「(私)イカ(を)煮たの。食べる?」と聞きます。醤油色に薄く染まった烏賊をみるたびにこのシーンを思い出してしまいます。じゃがいもとも相性はいいようです。


P.S.もう一度観ました。「イカ、食べる?」と聞くのですが、「煮たの」ではなくて、「炊いたの」でした。

2014年11月7日金曜日

英雄たちの選択 NHKBSプレミアム


昨晩はNHKBSプレミアム「英雄たちの選択」小村寿太郎編に少しだけ解説役で出演したが、拙著『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち (新潮選書) 』の読者には物足りなかったであろうから、少し補足しておかなければならないだろう。

番組は「賠償金に固執した小村の判断は正しかったのだろうか?」というテーゼだった。私の本ではこの本国からの賞金獲得は優先しないという指示にもかかわらず小村が賞金獲得に固執した部分は省略してある。またニコライ2世が「一寸の土地も1コペイカの金も払う意思はない」と語ったにもかかわらず、ぎりぎりの段階で日本が樺太の南半分を手に入れた経緯(幣原喜重郎の『外交50年 (中公文庫) 』に書かれている英国公使からの忠告)も省略してある。

そのかわりに日本国として賞金獲得を断念したことは正しかったのか?という疑問に対する答えは資本市場の論理である証券価格、この場合はロンドン市場の日露両国の公債価格によって示したつもりである。

グラフは日露戦争の2年目である1905年。公債価格に影響を与えた4つの大きな転機となる事件をプライスチャートに書きくわえている。


① 1月22日 血の日曜日事件。日本公債は買われることになる。ロシア国債の価格があまり下落しないのは、本の中でも説明したとおりロシア公債の主要市場であるパリ市場で買い支えられているからと考えている。

② 3月10日 日本軍奉天占領。当時世界史上最大規模の会戦であった奉天会戦に勝利したものの、戦略目的であった「包囲殲滅」が達成できなかったことにより日本軍の継戦能力に疑問符がついたために日本公債は売られてしまった。

③ 5月27日 日本海海戦。これは予想外の日本海軍の圧勝に日本公債がジャンプした。ロシア海軍の損害が大きすぎることから終戦が近づいたとの判断が働いたと思われる。

④ 8月29日 ポーツマス会議において日本側が賠償金要求を取り下げたことが判明した。

ロシア公債は暴騰。つまり市場は1)ロシアはいくばくかの賠償金を支払うと考えていた。2)ニコライ2世の専制国家では黄色人種に対する負けを認めないのではないかという思惑が市場にあったが、予想外に認めた。同時に革命の激化も避けられるという思惑が働いた。

そして肝心なのは日本公債であるが、賠償金を断念したにもかかわらずロシア公債ほどではないにしろこちらも買われたのである。市場は戦争継続による戦費の浪費を懸念していたことになる。ポーツマス会議が破たんしていれば両国の公債はどちらも売られたに違いない。

従って証券価格面からだけで判断すると日本政府の妥協による終戦の決断は正しかったといえるのだ。そしてロンドンのジャーナリズムからは実際にそうした評価を受けている。9月9日の英国「スタチスト」誌(当時は「エコノミスト」と並ぶ経済専門誌だった)の論評は本の364ページに引用しておいた。