2014年11月7日金曜日

英雄たちの選択 NHKBSプレミアム


昨晩はNHKBSプレミアム「英雄たちの選択」小村寿太郎編に少しだけ解説役で出演したが、拙著『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち (新潮選書) 』の読者には物足りなかったであろうから、少し補足しておかなければならないだろう。

番組は「賠償金に固執した小村の判断は正しかったのだろうか?」というテーゼだった。私の本ではこの本国からの賞金獲得は優先しないという指示にもかかわらず小村が賞金獲得に固執した部分は省略してある。またニコライ2世が「一寸の土地も1コペイカの金も払う意思はない」と語ったにもかかわらず、ぎりぎりの段階で日本が樺太の南半分を手に入れた経緯(幣原喜重郎の『外交50年 (中公文庫) 』に書かれている英国公使からの忠告)も省略してある。

そのかわりに日本国として賞金獲得を断念したことは正しかったのか?という疑問に対する答えは資本市場の論理である証券価格、この場合はロンドン市場の日露両国の公債価格によって示したつもりである。

グラフは日露戦争の2年目である1905年。公債価格に影響を与えた4つの大きな転機となる事件をプライスチャートに書きくわえている。


① 1月22日 血の日曜日事件。日本公債は買われることになる。ロシア国債の価格があまり下落しないのは、本の中でも説明したとおりロシア公債の主要市場であるパリ市場で買い支えられているからと考えている。

② 3月10日 日本軍奉天占領。当時世界史上最大規模の会戦であった奉天会戦に勝利したものの、戦略目的であった「包囲殲滅」が達成できなかったことにより日本軍の継戦能力に疑問符がついたために日本公債は売られてしまった。

③ 5月27日 日本海海戦。これは予想外の日本海軍の圧勝に日本公債がジャンプした。ロシア海軍の損害が大きすぎることから終戦が近づいたとの判断が働いたと思われる。

④ 8月29日 ポーツマス会議において日本側が賠償金要求を取り下げたことが判明した。

ロシア公債は暴騰。つまり市場は1)ロシアはいくばくかの賠償金を支払うと考えていた。2)ニコライ2世の専制国家では黄色人種に対する負けを認めないのではないかという思惑が市場にあったが、予想外に認めた。同時に革命の激化も避けられるという思惑が働いた。

そして肝心なのは日本公債であるが、賠償金を断念したにもかかわらずロシア公債ほどではないにしろこちらも買われたのである。市場は戦争継続による戦費の浪費を懸念していたことになる。ポーツマス会議が破たんしていれば両国の公債はどちらも売られたに違いない。

従って証券価格面からだけで判断すると日本政府の妥協による終戦の決断は正しかったといえるのだ。そしてロンドンのジャーナリズムからは実際にそうした評価を受けている。9月9日の英国「スタチスト」誌(当時は「エコノミスト」と並ぶ経済専門誌だった)の論評は本の364ページに引用しておいた。





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