2015年7月14日火曜日

『日本人のための第1次世界大戦史』第5回 鉄道の誕生


今週の週刊エコノミスト、『日本人のための第1次世界大戦史』連載第5回は産業革命の中核である鉄道の誕生についてです。

鉄道と戦争の関係では、その機動力から進撃するイメージとともに攻撃兵器としての印象が強いかと思います。兵隊を陸続と輸送する。ところが本文で説明している通り、路線の敷設には時間がかかります。攻める側がどんどん線路を敷設できない以上、進撃には向いていません。むしろ兵站という側面からは、後方に線路が確保された防御側に有利な技術革新であったのです。大量の兵員が輸送され、機関銃や大砲ができて砲弾の使用量(トン数)は激増します。トラックなど自動車が未だ充分に普及しない以上、これこそが第1次世界大戦が塹壕戦になった最大の要因です。どちらも攻撃したとしても数十マイル進むと兵站が続かなかったのです。

一方で緒戦の攻撃部隊の国境配置には鉄道による速やかな動員は欠かせません。この具体的な例がドイツ統一戦争です。次回第6回は鉄道線路に沿って延伸された通信技術の発達の話でその後の7、8回でドイツ統一戦争を解説して鉄道の効用と電信、さらにはそれを活用したドイツ参謀本部の話に入ろうと思います。もちろん戦前日本を揺るがせた統帥権独立問題の根源はここにあります。

また日露戦争についても第18話で鉄道の話に触れることになります。18話でやっと日露戦争かといぶかる読者もいるかと思いますが、それまでに徴兵制と民主主義、兵隊と識字率、メディアの発達、経済のグローバリゼーション、兵器製造の産業化など、扱っておかなければならないテーマが数多くあるのです。鉄道で数十万人の動員が出来ても配る鉄砲が大量生産できなければ仕方がないでしょう。

ジュード・ロウ主演の第2次世界大戦の映画『スターリングラード』では鉄砲は3人一組に1丁の配給、最前線に到達するまでに70%ぐらいは死んでしまうだろうから一人に1丁配る余裕がなかったのです。鉄砲よりも人の命の方が安かった。もちろんこれはよそ事ではありません。

鉄道の軌間(ゲージ)の問題は世界中の問題で各国個別の事情を持っています。特に19世紀にイギリスやドイツからではなくアメリカから技術導入した国や地域で適当なゲージを使った形跡があります。後に都電になる日本の馬車鉄道もそれで、標準軌でもJRのゲージでも何でも無い馬車軌(1372㎜)といわれる今となっては日本独自のものです。

黎明期の首都圏の私鉄は東京市の市街地に最終的に乗り入れるつもりで線路を敷設したので多くはこの馬車軌を採用しました。かつては京成や京急、今でも京王(井の頭線を除く)、東急世田谷線、都電荒川線、函館市電などが採用しています。その中でも都営新宿線は京王電鉄との接続の関係で馬車軌を使用しています。そのために市川市本八幡では京成線と接続できなかったというお話を盛り込んでみました。

また狭軌を採用した軽便鉄道の話なども、北海道や近いところでは千葉県の県営鉄道の歴史なども面白い話がたくさんありますが、本題の趣旨ではありませんので書けませんでした。

鉄道の参考図書としてはジョン・ウェストウッドの『ビジュアル版 世界の鉄道の歴史図鑑―蒸気機関車から超高速列車までの200年』が定番でしょう。日本では青木栄一さんの『鉄道の地理学 』(WAVE出版)が面白い。また日露戦争関連では原田勝正さんの『増補 満鉄 』(日本経済評論社)はおすすめ、軌間変更の改軌の話はとても面白い。イギリスのクリスチャン・ウォルマーが『世界鉄道史』(河出書房)と『鉄道と戦争の世界史』(中央公論出版社)を出していて、いかにもそれらしいけれど、僕との相性はあまりよくないようです。

兵站関係では何といっても名著『補給戦―何が勝敗を決定するのか (中公文庫BIBLIO) 』(マーチン・ファン・クレフェルト、中公文庫)はもうこれだけ読めば十分という充実した内容。補強には『戦争の世界史(上) (中公文庫) 下』(ウィリアム・マクニール、中公文庫)、『ヨーロッパ史における戦争 (中公文庫) 』(マイケルハワード、中公文庫)を読んでおけば充分でしょう。もちろんこの分野には凄いマニアが多くて、玉石混交ながらこれ以外にもムック本など良い本はたくさんあります。


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