2015年9月28日月曜日

「日本人のための第1次世界大戦史」中盤予告。



週刊エコノミストに連載中の「日本人のための第1次世界大戦史」。読者の方から編集部を通じてお手紙を頂戴したりします。

昔は読者からの便りというものが多かったのだそうですが、SNSの発達した現代、こうしたお便りは珍しいものなのだそうです。

本連載は電子記事化していないので、直接の反応はありませんが、却って落ち着いて書けるのではないかと、僕はメリットの点だけを考えております。

今週は第15話。いよいよ近代的戦艦の登場です。戦艦ロイヤル・ソヴリン。ものすごく高価な兵器です。

16話からは日露戦争関係の話に入ります。

16話はマハンの『海上権力史論』、17話では日露戦争直前に行われたマッキンダーの講演に触れます。イギリスでは地理学がやっと大学の学問の仲間入りをしたところで、まだ地政学は確立されていませんでした。

18話が日露戦争と鉄道の関係。実はこのテーマに絞って書かれた本は外国の学者による英語の文献だけです。"Railways and the Russo-Japanese War-Transporting war" Felix Patrikeeff(Oxford) and Harold Shukman(University of Adelaid),Routledge military studies,2007.この戦争を一言で表現すると、Transporting warという見方もあるということです。

19話が無線機の発明、日露戦争の直前でした。アイリッシュ・ウィスキーのジェイムソンが登場します。20話がイギリス海軍による黄海海戦、日本海海戦からの技術的フィードバック。破壊されたロシア戦艦を徹底的に分析します。そして新しい究極の戦艦が登場します。これが戦艦ドレッドノート。21話がそれを受けての各国予算に占める建艦予算の比率。国家予算はまさに戦艦建造のためにありました。

22話が日露戦争がいかに欧州列強国の同盟関係に影響を与えたか。ロシア陸軍は半壊してしまいます。ウィスキーのヘイグも登場します。そしてその結果生まれたのが有名な23話シュリーフェン・プラン。歴史的に東西両面の敵に苦慮してきたドイツが出した攻略作戦。フランスを先ずはたたき、出足の遅いロシアはその後で倒せばよし。鉄道があればこその作戦です。日露戦争奉天会戦の結果ひねり出されたものです。そして第1次世界大戦の幕開けは、この作戦で始まりました。(異論も多いのですが)

お楽しみに。

2015年9月21日月曜日

第14回「イギリス海軍の危機」‐『日本人のための第1次世界大戦史』


週刊エコノミスト連載『日本人のための第1次世界大戦史』第14回は「イギリス海軍の危機」です。

ナポレオン戦争後、仮想敵国をあいかわらずフランスと定めたイギリス海軍も、1870年~71年の普仏戦争によってフランスがドイツに敗れ、フランスの人口増加率の低下=経済成長の低下が顕著になると、徐々にライバルとしての緊張感を喪失していきます。

貴族的な階級意識の残る体制下で、古い身分制度に固執し、新しい技術革新の取り入れには消極的でした。 折から産業革命が花開き、有限責任の株式会社が資金調達を容易にすると、万国博覧会などを通じて民間企業の勃興が顕著になります。平民出身の水兵は一生水兵のままで、兵科士官と機関科士官の身分が違うままでは、兵として優秀な人材や技術者は必ずしも海軍で働こうとは思わなくなります。

古今東西、どこの組織でも同じことですが、こうした弛緩したモラールの中では若い士官達の間で「これではだめだ」という意識が芽生えていきます。その筆頭がイギリス海軍のフィッシャー大佐でした。彼は海軍予算の確保に民意を煽ることを始めます。時代は普通選挙の拡大による大衆の時代に入ろうとしていました。民意を煽って予算を獲得する。民意を煽る一番簡単な方法は、近隣の国からの侵略の危険性を煽ることです。過去にその国に対して酷いことをしていればしているほど、仕返しに対する恐怖も芽生えます。

官僚的権益拡大としての海軍拡張計画が現実に戦争への助走路になった最初の例がこの「イギリス海軍の危機」でしょう。

「ジューヌ・エコール」は日本ではあまり知られていませんが、日本海軍にも大きな影響を与えています。一般に読まれる帝国海軍史はどうしても華やかな山本権兵衛、東郷平八郎から始まってしまいがちです。それ以前はあまり書かれていないのと、作家が興味を持たないのか、技術史の側面、財政に絡む予算制約の観点が非常に手薄だと普段から思っていました。

この辺りの海軍の参考書としては、先週も紹介した『ロイヤル・ネイヴィーとパクス・ブリタニカ』、福井静夫全集、『シーパワーの世界史』青木栄一、『海軍創設史』篠原宏、砲術関係では戦前は多分充実していたのでしょうが、現在入手可能な和書はあまり残っていないと思います。イギリスの図鑑類、"GUNS AT SEA"Peter Padfieldに頼るところが多かったです。

戦艦レゾリュ―ション(ロイヤル・ソヴリン級)

来週はいよいよ近代的戦艦の誕生です。近代的戦艦とは1889年イギリス海軍計画におけるHMS「ロイヤル・ソヴリン」のことです。戦艦富士や三笠の原型的存在です。

2015年9月16日水曜日

『日本人のための第1次世界大戦史』第13回「兵器産業の国際化」


週刊エコノミスト連載『日本人のための第1次世界大戦史』は第13回「兵器産業の国際化」

職人芸で製作されていた銃器が、アメリカ発のフライス盤でオートメーションでパーツ毎に製作されるようになりました。万国博覧会第1回は1851年のロンドンです。数多くの兵器が産業機械に混じって展示されました。その後も万博はアームストロング社やヴィッカース社、ドイツのクルップ社など兵器産業にとって重要な商談の場となりました。

日本は何故戦艦三笠(1898年発注)のような当時世界最新鋭の戦艦を買うことができたのか?という設問で日英同盟(1902年)があったからとか、頓珍漢な答えが見受けられますが、ひとつにはイギリス海軍が一時期兵器の発注を官営のウリッジ工廠だけに絞って、民間企業は自力で市場を開拓していった経緯があったからです。あまりに高性能な巡洋艦を外国に販売して問題となったこともありましたが、政府にそれを止める力はありませんでした。もちろん第1次世界大戦が近づくにつれてそうした自由は制限されていきますが。

銃や大砲の砲身内のライフリング。アメリカンフットボールのボールは回転することによって飛距離を稼ぎ正確性を保てているわけですが、大砲の弾も同じことです。ライフリングによって椎の実型の砲弾に回転をかけて発射できるようになりました。これは銃も同じです。ライフリングの写真ですが、本連載ではwikiの画像は使用しないで、自力で発掘すると決めていたのですが、この写真はあまりにも素晴らしいので、メールを送って使用させていただきました。返事はきていませんが。日本人の方で世界中のライフリングのページで使用されています。

wiki ライフリングより


参考図書ですが、『ロイヤル・ネイヴィーとパクス・ブリタニカ』田所昌幸編、有斐閣、2006年、『世界戦艦物語』福井静夫、光人社、2009年版、マイケル・ハワードなどのいつもの常連、そしてウィリアム・マンチェスターの『クルップの歴史』上下、フジ出版社。これは入手困難本ですが非常に面白かった。また国立国会図書館の博覧会のページは楽しめますよ。

http://www.ndl.go.jp/exposition/s2/10.html


来週14回はフランス海軍の新戦略ジュヌ・エコールとイギリス海軍の危機についてです。いよいよ戦争の影が見えてきます。


高いボラティリティ下での投資は危険か?


朝からボラティリティの話が出ていたのでちょっと計算してみた。
SP500は既にデータがあるが今回は日経225でも見てみよう。


データは1984年1月4日の、日本のバブル発生以前から、2015年9月15日まで。なるほど20日ボラティティが30%を越えるのはあまりないが、ここでの投資が危険かどうかはわからない。

そこでボラティリティの水準別にそれぞれの、翌日のリターンと、翌日引けから半年後(125日後)のリターンを調べてみよう。


全7790日のうちボラティリティが30%を超えたのは905日。125日後の収益率のデータで日数が少ないのは125日分のデータを採取するため減ってしまうから。

データからはボラティティ30%越えで日経225に投資すると半年後のリターンは過去平均で‐15.3%。高ボラで一発勝負にかける投機家は、失敗したら直ぐに手じまわないとずるずると損をすることになる。インデックス投資家は30%越えでの投資を控えただけで、インデックスをアウトパフォームできたはずだ。

尚、計算に疑問があれば是非自分でやって下さい。また計算間違いに関しては私は何等の責任も負いません。投資判断は自己責任でどうぞ。

ちなみにバブル崩壊時期をはずして、2000年以降だけで計算しても、結果にあまり違いはありません。




2015年9月9日水曜日

「日本人のための第1次世界大戦史」第12回「グローバリゼーション」


週刊エコノミストに連載中の「日本人のための第1次世界大戦史」は第12回「グローバリゼーション」です。

どうしてこういう経済史の項目を設けたのかというと、先ず穀物法や、その廃止と英仏協商条約であるコブデン=シュバリエ条約、英国の自国船舶優先の航海法の廃止は高校の世界史の教科書には登場してきません。19世紀中ごろの自由を希求する経済制度的な動きは扱われていないのです。例えば1855年には英国で会社法の改正があり、現在のように登記だけで有限責任の会社設立が可能になったりもしていますがそうした話は載っていません。

第1次世界大戦勃発原因は、1873年の不況を原因とする各国の保護貿易志向が、各国を帝国主義に走らせやがて国家間の軋轢へと繋がってくというように教えられているのではないでしょうか。実際にはこうした立場をとっている一般教養人(?)向けの歴史書は現代では殆どありません。また英国のケープタウン→カイロ→カルカッタを結ぶ3C政策とドイツのベルリン→ビザンティウム(イスタンブール)→バグダットを結ぶ3B政策が交差して軋轢を生んだかのように教科書では書かれますが、これは当時のメディアがわかりやすく両国の愛国心を煽る記事のトピックとして取り上げたもので、よく考えればわかりますが、2つの政策は全く交差しないし、ドイツが建設しようとしていたバクダット鉄道はロンドン市場でファィナンスされる予定でした。従って現代ではこれが戦争の原因だとは考えられていません。こうしたことはロイド・キャメロンの『概説世界経済史①②』(東洋経済)あたりを読めば普通に書いてあります。

後半で紹介した小野塚知二著『第1次世界大戦開戦原因の再検討』(岩波書店)ですが、政治経済学・経済史学会2014年春季総合研究会「第1次世界大戦開戦原因の謎‐国際分業が破壊されるとき‐」の時の論文はネットで読むことが出来ます。興味のある方は検索してください。

次回第13回はこのグローバリゼーションを前提として、兵器産業がいかにして国際化されたのかがテーマです。鉄道で数十万という兵員を輸送できるようになっても、彼らに支給する銃の生産はどうしたのかという問題もあります。1840年頃のプロイセンのドライゼ銃の生産能力は年産1万丁。鉄道以前はこれで充分だったのですが、これでは新式銃をプロイセン兵士35万人に支給するには35年もかかってしまうことになります。来週号を楽しみにしてください。

2015年9月2日水曜日

『日本人のための第1次世界大戦史』 第11回は「メディア史」です


週刊エコノミスト連載『日本人のための第1次世界大戦史』
今週号、第11回は「メディア史」です。

このシリーズの原稿を一番最初にエコノミストの編集部に見せた時の反応には面白いものがありました。例えば第2回で登場したペリー来日にかかわる情報をオランダ領事館が事前に連絡をくれていたという『別段オランダ風説書』の話。

一般の編集部員からは、エコノミストの読者であっても少し難易度が高い話なのではないかとの意見が出ました。ところがとある編集者はたまたまこの話に詳しくて、この部分は面白いし西洋との関わり合いの中で幕府も充分に情報を持っていたという意味で重要なのだから、もう少し掘り下げて書いてみてはどうだという意見を頂戴したのです。

前半は当初の原稿では「戦艦の歴史」のような体裁をしていましたので、団塊世代の世代最終のお年頃の戦記物ファンには大受け、ところが平均的な若い編集者には退屈。艦コレマニアには再び大うけというような状況でした。読者ニーズは実に多様。
誰しも自分の詳しい分野には興味深々というわけです。

そうした意味で今回のメディア史はおしなべて編出者達が興味を持った話でした。何しろ彼らの産業ですから。ひとこと言い添えたいことも多々あったようです。

識字率が上昇して本や新聞の読者が増えると言っても、印刷技術の発達や紙の低価格化、人口の都市への集中、鉄道による配達網の整備、石油ランプや電燈の発明などさまざまな技術的な進歩がなければ、なかなか一般大衆が印刷物に接することは出来なかったはずです。
そうした中で特に面白いのが印刷機の進化。グーテンベルクから話すとあと50ページは必要なのでやめておきました。

画は国会図書館のWEB博覧会、「近代技術の展示場」から、ホー型10方給紙輪転機。10人の職人がタイミングよく印刷用の紙を挿入していく。凄い光景です。この後で本文にあるロール紙を使ったウォルター輪転機が登場して、大量印刷の画期となります。ロール紙の発明がいかに偉大なものだったか思いしらされます。

http://ndl.go.jp/exposition/s2/8.html

メディアの参考本はなかなか絞り切るのは難しいところです。ですが大学のテキストでもある「現代メディア史」佐藤卓巳、岩波テキストブックスは、一度は読んでおきたい本です。テキストだとは思えないほど興味深く読めます。

よく批判の対象となる朝日新聞とアジア・太平洋戦争とのかかわりあいですが、朝日新聞自身が『新聞と戦争 上下』朝日新聞取材班、を出版しています。一度読んでおくと良いでしょう。右寄りの人は朝日を攻撃するし、朝日も雑な仕事をするし、官僚的だし、決して褒められたものではないですが、朝日や毎日が政府に迎合するようになったら多分御仕舞でしょうね。そうした意味でDISられてなんぼ。

第1次世界大戦はメディアとプロパガンダが大きな影響力を発揮した戦争でした。40話前後でプロパガンダ合戦の典型的な事例としてルーヴァンの図書館炎上を扱いたいと思います。
映画ではオーソン・ウェルズの『市民ケーン』は新聞王ウィリアム・ハーストが題材。米西戦争の戦争発起の原因となったセンセーショナリズムというものを知ることができます。時間があればご覧ください。フツーに面白いです。

来週は19世紀後半の「グローバリゼーション」。穀物法の廃止から話を初めています。