2015年9月21日月曜日

第14回「イギリス海軍の危機」‐『日本人のための第1次世界大戦史』


週刊エコノミスト連載『日本人のための第1次世界大戦史』第14回は「イギリス海軍の危機」です。

ナポレオン戦争後、仮想敵国をあいかわらずフランスと定めたイギリス海軍も、1870年~71年の普仏戦争によってフランスがドイツに敗れ、フランスの人口増加率の低下=経済成長の低下が顕著になると、徐々にライバルとしての緊張感を喪失していきます。

貴族的な階級意識の残る体制下で、古い身分制度に固執し、新しい技術革新の取り入れには消極的でした。 折から産業革命が花開き、有限責任の株式会社が資金調達を容易にすると、万国博覧会などを通じて民間企業の勃興が顕著になります。平民出身の水兵は一生水兵のままで、兵科士官と機関科士官の身分が違うままでは、兵として優秀な人材や技術者は必ずしも海軍で働こうとは思わなくなります。

古今東西、どこの組織でも同じことですが、こうした弛緩したモラールの中では若い士官達の間で「これではだめだ」という意識が芽生えていきます。その筆頭がイギリス海軍のフィッシャー大佐でした。彼は海軍予算の確保に民意を煽ることを始めます。時代は普通選挙の拡大による大衆の時代に入ろうとしていました。民意を煽って予算を獲得する。民意を煽る一番簡単な方法は、近隣の国からの侵略の危険性を煽ることです。過去にその国に対して酷いことをしていればしているほど、仕返しに対する恐怖も芽生えます。

官僚的権益拡大としての海軍拡張計画が現実に戦争への助走路になった最初の例がこの「イギリス海軍の危機」でしょう。

「ジューヌ・エコール」は日本ではあまり知られていませんが、日本海軍にも大きな影響を与えています。一般に読まれる帝国海軍史はどうしても華やかな山本権兵衛、東郷平八郎から始まってしまいがちです。それ以前はあまり書かれていないのと、作家が興味を持たないのか、技術史の側面、財政に絡む予算制約の観点が非常に手薄だと普段から思っていました。

この辺りの海軍の参考書としては、先週も紹介した『ロイヤル・ネイヴィーとパクス・ブリタニカ』、福井静夫全集、『シーパワーの世界史』青木栄一、『海軍創設史』篠原宏、砲術関係では戦前は多分充実していたのでしょうが、現在入手可能な和書はあまり残っていないと思います。イギリスの図鑑類、"GUNS AT SEA"Peter Padfieldに頼るところが多かったです。

戦艦レゾリュ―ション(ロイヤル・ソヴリン級)

来週はいよいよ近代的戦艦の誕生です。近代的戦艦とは1889年イギリス海軍計画におけるHMS「ロイヤル・ソヴリン」のことです。戦艦富士や三笠の原型的存在です。

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