2016年12月13日火曜日

週刊エコノミスト連載「日本人のための第1次世界大戦史」


週刊エコノミスト連載「日本人のための第1次世界大戦史」、12月20日号は連載75回目の最終回「日本は何を学んだのか?」です。

第2次世界大戦における日本の商船の船乗り(海員)の死亡率は実に43%。主力艦隊がほぼ全滅し、生還を期さない特攻攻撃を繰り返した帝国海軍の死亡率ですら16%ですから、その常軌を逸した数値レベルはわかりやすいかと思います。

第1次世界大戦では、英国海軍によるドイツの経済封鎖が連合国勝利の重要な要因のひとつにあげられます。一方でドイツのUボートによるシーレーン攻撃は、連合国側を敗戦一歩手前まで押しやりました。シーレーンの確保という大きな教訓を得ながらも、何故日本帝国海軍は第2次世界大戦においてこれをほぼ無視したのでしょうか?

第2次世界大戦後の海軍参謀による「海軍反省会」の録音テープでは、第1次世界大戦中や直後には、シーレーンに関するレポートが良く出回っていたけれど、次第にみかけなくなってしまったという発言がありました。「事実」が少しずつ自分たちの組織に都合がよいように曲げられていったのでしょう。

輸送船よりも戦艦・空母を狙えという帝国海軍の組織としての考え方は、海軍の戦功査定基準に明確に表れています。輸送船をいくら沈めても出世はできません。防御は攻撃の裏返し、味方の民間船舶の護衛は軽視されました。それが致命傷になったという第1次世界大戦の壮大な戦史がありながらです。

1年半、3000字x75回=225,000字、今後、製本化にむけて書き直しをすすめていきたいと思います。長い間のご愛読ありがとうございました。

板谷敏彦

2016年11月25日金曜日

トランプ相場の実相



米国株式はトランプ当選を予見していた。
トランプ相場はドル建て日経平均に注意

フジサンケイ・ビジネスアイ 【高論卓説】 2016/11/25

■日本株、世界基軸通貨のドル建ては低調

 注目されていた米国大統領選挙は大方の予想を裏切り、僅差ながらもトランプ氏の勝利に終わった。しかし事後講釈になるが、ニューヨーク(NY)ダウなど米国株式の動向をみると、株式市場は当選結果を先取りして、すでに開票日前に上昇し始めていたことがわかる。

 トランプ氏の主張は「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン」とカタカナ英語でも理解できるほど単純だ。だがその一方で次にくるスローガンは「アメリカ・ファースト」で、これは世界に施しをする前にアメリカ人に利益をという意味で保護貿易を意味する。

 選挙運動中は構造的な不況業種で働く白人労働者層を意識して、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を否定し、メキシコや日本、中国を、不平等な貿易で得をしている国として名指しで攻撃していたように、トランプ氏といえば反自由貿易主義者だった。保護主義は世界経済の成長を損なうというのが今日の常識である。株式市場の大勢はこうした長期的な弱気材料を懸念していたのだ。

 そもそも世界市場を支配する先端企業アップル、マイクロソフト、FANG(フェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル)などがアメリカ発の企業であるように、おいしい産業は全てアメリカである。低賃金の産業は海外に出して高付加価値の産業を取り込む。実は最も自由貿易の恩恵に浴してきたのはアメリカのはずなのである。

ではなぜ株式はトランプ大統領就任を祝うかのように上昇しているのだろうか。具体像も見えにくい長期的な懸念材料に対して、トランプ氏には目先に現実的な政策があった。例えば減税政策である。法人税の減税、所得税の見直しによる高額所得者への減税、相続税の廃止などで、白人労働者というトランプ氏本来の主要支持層ではなく富裕層向けの政策だが、株式市場全体には大きな支援材料である。また業種別にみると公共投資や製造業回帰によって工業株の復活が見込めそうだ。そして目立たないが、「ドッド・フランク法」廃止など銀行業規制に対する規制緩和が予想されるために銀行株が上昇して市場を牽引(けんいん)したのである。



 グラフは11月1日の価格を100として各指標を比較しやすいように指数化したものである。NYダウ(工業株指数)は、主に工業株と銀行株など30種で構成されている。SP500種は、ほぼ時価総額順に銘柄選択されている。両者の差はトランプ相場の初期は工業株と銀行株が相場をリードしたことを示している。

 トランプ相場はもう一つの側面を持っている。民主党的、共和党的なものの両者のいいとこ取りをした公共投資と大減税という本来なら相反する政策が予想されることである。選挙前から、米連邦準備制度理事会(FRB)による12月の利上げが予想されるような金利環境の中で、この2つの政策はどちらもインフレ要因であり財政規律を乱すと解釈され、長期債を下落させて長期金利を上昇させている。

このためドルの魅力が増して、投資資金が新興国から米国に戻り、ドル高を演出しているのである。ドル高は円安をも意味するので、日本株にも有利に働く。かくして日本株も米国株に劣らずに大盛況となっている。しかしそれは内向きの円建ての日経平均株価の話であって、グローバル投資の観点で見た場合のドル建て日経平均では、実は下落していることに注意が必要だ。ドル高の間、日本株も上がるが実はアメリカ・ファーストなのである。

板谷敏彦

2016年11月16日水曜日

早稲田大学社会人向け講座でお話します。


早稲田大学の社会人向け講座で、世界から見た日露戦争というテーマでお話します。全4回、2月からです。場所は中野です。

クリックすれば早稲田のサイトを見れます。

機会があれば是非。



2016年11月4日金曜日

FROGGY:お金の常識をカエル


証券関係者から、「お前何者?」と聞かれたら、今でも元日興と答える自分がいます。

わたくしの古巣。SMBC日興証券のWEBサイト「FROGGY:お金の常識をカエル」からお呼びがかかったので。これは喜んで引き受けました。





インタヴュー形式ですが、先のインベスターZ副読本とはインタヴュアーも別です。質問者の視点がちょっと違います。


2016年10月26日水曜日

インベスターZ、16歳のお金の教科書


ダイヤモンド社から、人気漫画『インベスターZ』の公式副読本として『16歳のお金の教科書』が出版されました。専門家6名に対するインタビューで構成されていますが、私が歴史の部分を担当しました。読みやすい本です。




宜しく。

2016年10月17日月曜日

チャートから見るブレグジット


【高論卓説】英株価が示すEU離脱の正当性 「悪くない決断」欧州人の考えに変化 ビジネスアイ 10月12日号

10月2日、イギリスのメイ首相は、欧州連合(EU)への「離脱通知」を2017年3月末までに行うと表明した。会見時のメイ首相の晴れやかな表情が印象に残った。その際、移民をいかに制限するかは自分たちで決めるが、対欧州貿易についても最善をつくしたいと付した。その後、英ポンドは対ドルで売られているが、株式市場の方は年初来の高値を更新中である。英国はEUによる、あたかも一つの国のような単一市場の実現は評価したが、EUの決める「人の移動の自由」によって、野放図に移民を受け入れることを嫌ったのである。そして結果として株式市場はそれを評価している。

英国のEU離脱を決める国民投票は6月23日に実施された。2つの世界大戦での悲惨な経験を経て、EUという欧州の統合は平和のための崇高な理念だった。国境という障壁を取り除いた自由貿易の経済的なメリットは、どの国際経済学のテキストにも出てくる基本常識である。また中国の台頭により、米中という大国と渡り合うためにはEUとして統合する必要があったのは自明である。

事前の予想では、国民の一部には移民の流入を嫌う、不合理で反知性的な右翼的民族主義者が存在しても、まさか英国国民は「EU離脱」を選択しないだろうというものだった。

ロンドン証取の主要株式で構成されるFT100種の動きをみると、国民投票の行われる以前の数カ月は、市場は警戒色が強く様子見で推移していることがわかる。直前のブックメーカー(賭け屋)の予想が非離脱を暗示していたこともあり、株式は投票日の23日にかけて上昇したが、国民投票の結果が「離脱」と決まった翌日は、ショックで下落したのである。そしてその後は持ち直し、現在に至っている。

離脱は決まったものの、EUのルールでは、離脱時期表明のタイミングは英国政府が握っていた。離脱に対する制裁的な処置を考えたEU側は英国に対して早期の離脱を促し、離脱への準備期間を必要とする英国は先延ばしをするかに見えたが、意外に早い時期の離脱表明だったといえるだろう。


当然長期の影響も考慮せねばならないだろうが、当面の株価の推移から判断する限り、「英EU離脱=ブレグジット」は、英国にとって、どうも悪くなかったようだ。少なくともEU内で不満を持つほかの国の大勢の欧州人はそう考え始めているだろう。

現在EUは、15年だけで100万人を超える移民(半数はシリアから)と、結果として彼らの引き起こしたテロや多くの単純な暴力事件を前に、崇高な理念の実現に対するコストについて考えさせられている。国民にとって国家とはいかなるものか、国民の安全を十分に保障できるのか、政治的正当性の是非を問われ揺れ動いている。

19世紀、産業革命や識字率の向上とともに欧州で広く認識された国民国家意識が、今再び復活の様相を呈しているかのようだ。第一次世界大戦では、ロシア、ハプスブルク、オスマンなどの帝国の崩壊から内包されていた諸民族が解き放たれて独立した。

もしかしたらEUの統合は、その崇高な理念とは裏腹にドイツなど強国主導の帝国と化していなかったか。自分たちのことは自分で決めたい。株価チャートはそう訴えているようにも見えるのだ。



2016年10月10日月曜日

時の函数


連載中の「日本人のための第1次世界大戦史」も1918年11月11日にドイツが休戦条約にサインして戦闘が終結するところまですでに書き終えています。戦闘が終わったのはあくまで西部戦線の話ですけれど。

それで昨日から、それ以降を書くために、アルフレッド・W・クロスビーの書いたスペイン風邪の本、『史上最悪のインフルエンザ』を読み直していたのですが、その中に日本語版への序文があって、その末尾では寺田寅彦の言葉が引用されていました。

「ものを怖がらなすぎたり、怖がり過ぎるのはやさしいが、正当に怖がることはなかなかむつかしい。」 まるで日本の防衛問題じゃありまあせんか。

これは、まさに意を得たりと思い、寺田寅彦の随筆集をパラパラとめくると、数ある中でもアインシュタインに関するエッセーがすこぶる面白い。実は、この時点で私の仕事は完全に脱線しています。雑学は増えるけれども、そのうちに締め切りがせまって、いつも苦しむことになる。でも面白いのだから仕方がないでしょう。

アインシュタインが一般相対理論を発表したのはベルリンのプロイセン科学アカデミーに在籍していた1916年のこと。第1次世界大戦の真っただ中。この理論には星の重力により光が曲げられるという予言も含まれていた。

でも、これを立証するためには、皆既日食が必要です。当時、皆既日食はクリミア半島で見られそうだったのですが、ドイツから見て敵地のロシア領だったので、ここはアメリカ人の友人ウィリアム・キャンベルに依頼して観測してもらったのです。電話も自動車もヘリも無い当時、これは現在のシリアに行くよりよほど危険な行為です。でも、結局曇天で観測は失敗したうえに、キャンベルはスパイ容疑でロシア軍に逮捕されてしまった。ちなみにこのキャンベル先生は後にカリフォルニア大学バークリー校の学長になります。若い学生から見たら、インディージョーンズみたいな凄い先生ですよね。

終戦後の1919年にはイギリスで皆既日食があり、ケンブリッジ天文台で観測され、なんでもかんでもドイツ憎しの中で、アインシュタインは世界的に有名になった。

とある偉い先生が、学会で、「アインシュタイン君、もし実際にそんな重力の『場』があるなら、何かもっと見やすい現象をしょうじそうなものではないか。」と非難すると、

「見やすいとか、見やすくないとかいう事は時代とともに変わるもので、云わば時の函数であります。ガリレーの時代の人には彼の力学はよほど見やすくないものだったでしょう。いわゆる見やすい観念などと称するものは、例の『常識』『健全な理知』と同様にずいぶん穴だらけなものかと思います。」とアインシュタインは淡々と答え、会場では聴衆から失笑が漏れた。

1918年から1920年にかけてのインフルエンザ・パンデミックは、時代とともに忘れさられていた。実はインフルエンザ・ウィルスは小さすぎて当時の光学顕微鏡では見えず、事態をきちんと把握できていたわけではなかったのだ。まさに、これも時の函数。

2016年8月29日月曜日

「日本人のための第1次世界大戦史」第60回航空戦


週刊エコノミストに連載中、「日本人のための第1次世界大戦史」
今週9月6日号は第60回「航空戦と撃墜王」です。

目次 2016年9月6日号

「総力戦」という言葉は、ドイツの元参謀次長ルーデンドルフ将軍が戦後の1935年に書いた著書”Der totale Krieg”からきています。航空機そのものの技術水準(質)と生産力(量)はまさにその象徴と言えるでしょう。大戦中にドイツは4万6千機を生産、イギリスが5万5千機、フランスが5万2千機、アメリカが1万4千機です。大量生産の時代でしょ。アメリカのフォードは第1次世界大戦中の1917年に早くも年産50万台の自動車を製造しています。

実は古い戦記では、WW1の制空権をあまり重要視していないものも散見されますが、陸上の会戦でも、偵察や着弾観測に空の影響力が大きいのは当然です。

第1次世界大戦の空中戦を扱った映画では、
『ブルー・マックス』(原題:The Blue Max)イギリス、1966年
『レッド・バロン』(原題:Von Richthofen and Brown)、アメリカ1971年
『フライボーイズ』(原題:Flyboys)、アメリカ、2006年
『レッド・バロン』(原題: Der rote Baron)、ドイツ、2008年
などが今でもDVDで見ることが出来ます。2008年のレッド・バロンはエンジン・マニアにはお奨めです。

日本映画では、加山雄三主演の『青島要塞爆撃命令』東宝、1963年が見れます。歌と踊りありの戦争娯楽映画。ドイツ軍のタウベが登場しますが、時代考証には目くじらを立てずに観ましょう。

変わったところでは、デカプリオ主演でハワード・ヒューズの人生を描いた『アビエイター』2004年、ヒューズの映画『地獄の天使』の製作場面でドイツの大型爆撃機ゴータなどが登場します。

また「レッド・バロン」ことリヒトフォーフェンは伝記『撃墜王リヒトフォーフェン』(1980年、朝日ソノラマ、航空戦史シリーズ)が古本で手にはいります。これはドイツ騎兵のベルギーでの民間人に対する態度など、色々と驚かされる本です。悪い意味でね。

次回はUボートの話。ロイド・ジョージの護送船団方式ばかりが注目されますが、爆雷やソナーなど対潜兵器の開発時期も重要です。


2016年8月25日木曜日

【高論卓説】日銀による株式購入 市場安定のはずが攪乱要因に


【高論卓説】日銀による株式“爆買い”の行く末は 市場安定のはずが攪乱要因に

8月23日の東京株式市場の後場寄り、前場の軟調な展開を受けて、市場では日銀が上場投資信託(ETF)を購入するのではないかとの思惑でしっかりと寄った。最近の市場では「市場を動かす一番大きな要因」として日銀の動向がスポットライトを浴びている。“ETF”と名称こそは特殊な金融商品のように聞こえるが、中身は株式そのものである。中央銀行が株式を買う行為はあまり聞かない。買い手不在の大暴落時や、持ち合い株式解消のような特定目的であれば、金融市場の安定化のために中央銀行が救済に入ることもあるだろう。しかし先進資本主義国家が、平時において日常的に株式を大量に購入して、市場関係者がその買いに対して思惑を張るというのは、その情景だけを捉えれば金融史上の珍事である。

 7月28、29日開催の日本銀行「金融政策決定会合における主な意見」によると、「ETF買い入れ額の倍増により、民間経済主体の前向きな経済活動をサポートすることが適切である」「海外発の不確実性(BREXITなど)が企業・家計の心理悪化に波及することを何としても防がなければならない。最も有効な手段はETFの買い入れであり、思い切って倍増すべきだ」「海外発の不確実性が企業や家計のコンフィデンスに影響しているため、ETF買い入れを年間6兆円に倍増するといった資産価格に働きかける緩和策が有効である」など、株式市場の水準を実体経済以上にかさ上げすることによって企業や家計マインドを向上させようというのが狙いのようだ。

これまでETFの買い付けにどのような効果があったのかはいまひとつ明らかではない。国家(中央銀行)による株式買い付けは効果もあれば副作用もある。それらを明示するために企業や家計、市場関係者などに対して心理状況(投資マインド)のモニターをすべきである。考えてみれば日銀によるETF買い付けは、2010年10月、年額4500億円で始まった。13年4月に黒田日銀の下でこれが1兆円に増額、14年10月には3兆円にまで膨らんだ。同年12月には、これに付加して投資に積極的な企業を集めたETFに1日12億円の買い付けを始めている。そして今回7月29日の6兆円への増額である。3兆円と6兆円の違いの根拠は感覚なのか? あるいは巷間(こうかん)に広まる日銀の金融政策限界説への単なる抵抗なのか。

 既に日銀は日経平均企業の9割で大株主となっている。日経平均株価指数の構造上の問題から銘柄によっては浮動株の半数以上を抑えてしまい、市場の攪乱(かくらん)要因にさえなっている。このままのペースで次回の10%増税予定の19年10月まで買い付けを続けると、日銀のETF残高は30兆円近くになり、現在の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と並んでしまうのだそうだ。株式市場から見るこの政策の問題点は、株式市場の流動性の阻害である。株式市場が流動性を失うと、価格発見能力が低下し、緊急時の価格維持能力を損なうことになる。すると皮肉なことに株式資産の不確実性は増すのである。日銀が市場を買い支えている間は、まともな長期投資家からみた投資対象としての日本株のプライオリティーは低いままだろう。当初の目的である海外発の不確実性に備えるつもりが、中央銀行自身が不確実性の源になりはしないか、次回9月20、21日の金融政策決定会合で行われる予定の、13年4月以降の政策効果についての「総括的な検証」が待たれる。


2016年8月17日水曜日

日銀は日経平均をいくら吊り上げているのか?


日銀は7月29日の会合で、ETFの保有残高を年間約3兆3000億円から約6兆円増やすペースで買い入れることを決定した。この結果、従来枠のETF買い入れは、会合直前の1回当たり336億円から8月に入り707億円へ倍増した。このため、円高にもかかわらず株価が下がりにくくなっていると指摘する市場関係者は多い。

では日銀はどの程度日経平均株価を持ち上げているのだろうか。

SP500(^GSPC)とドル円(USDJPY)による日経平均簡易重回帰分析を使用して推定してみる。
このモデルの式は以下、
R2=0.89, STDEV=536
Nikkei=^GSPC*9.34+USDJPY*207.00-25231
本日実績値=16597
推計値=15839

両者の顕著なスプレッドの拡大は、グラフにあるように7月29日から始まっている。日銀の決定が影響しているとみて間違いないだろう。結果、日経平均は700円ほど持ち上げられている可能性が高い。


大株主「日銀」、17年末に日経平均4分の1で筆頭-ETF増功罪

ETFという名前で糊塗されているが、現実は国(中央銀行との統合政府)が民間企業の株式を買っていることに違いは無い。

「8月初旬時点で日経平均株価を構成する225銘柄のうち、75%で日銀が大株主上位10位以内に入っており、(中略)、2017年末には日銀が筆頭株主である銘柄は55銘柄まで増加する見通しだ。日経平均の指数寄与度が大きいファーストリテイリングの浮動株比率は25%だが、野村証券の試算ではそのうち半分を日銀が保有し、年末までには63%まで上昇する見込みという。」

「SMBC日興証券の伊藤桂一チーフクオンツアナリストは、「浮動株を吸収し尽くしていくことが今後問題になる可能性はある」と指摘。」上記記事より、

過去に日本株は持ち合い株式が多く、インデックス(時価総額)を計算する際には、持ち合い分を除外して計算せねばならなかった。国の株式吸収によって市場の流動性に懸念が出るようであれば、再度インデックスの計算方法が課題となる可能性もあるだろう。国別のGDPと株式時価総額の関係では、資本主義の発展段階が時価総額の大きさに反映する。その発展段階の尺度とは国の市場に対する関与が低いことである。日本の株式市場は長期成長の芽を自ら摘んでしまったようだ。

買った株はいつか売らねばならない。本当は賞味期限があるケチャップを買った方がよほどマシだったのだ。



2016年7月25日月曜日

日米長期株式リターン


【高論卓説】株式長期リターン、日米で大差 市場は冷徹、構造改革の遅れ直結 フジサンケイ・ビジネスアイ

「72の法則」をご存知だろうか。単利の金利に年数をかけて72になれば、資産は約2倍になるというものである。たとえば100万円の元本で年利6%を12年間貯金すれば、利子収入は6%×12年で72万円のはずだが、利子もまた利子を得るので、100万円×(1+0.36)の12乗と複利計算によって利子収入は約100万円になり、結果資産は倍になるというものだ。必ずしもどのケースでも正確という訳ではないが、10%なら7年で倍、7%なら10年で倍という具合に、暗算する時には役にたつ。

 この複利計算というものは恐ろしいもので、わずかな成長率の差が、時間の経過とともにとてつもなく大きくなる。例えば隣国中国が年率実質7%で10年成長し、我が国の成長率が0%であるならば、GDPで図る中国の国力はその間に倍になる。20年あれば4倍になるのだ。

 当然のことだが、投資の世界でもこの複利の差の影響は大きい。表は日米の長期株式リターン(投資収益)を比較したものである。米国はウィルシャー社の5000銘柄から構成される包括的な株式指数を、本邦はデータを取得しやすい日興リサーチセンターの株式パフォーマンスインデックス総合2という指数を使っている。こうした聞きなれない指数を使用する理由は、配当を再投資した基準で計算されているからである。配当利回り2%の差は35年で倍の差になるので長期では無視できない。

表は横軸が投資開始時期で、縦軸が投資終了時期を示している。%の数字は年率のトータル・リターン(配当込収益率)である。例えば米国の横軸、1980年の列を縦に見ると、1990年までに12.6%の年率複利投資収益があったことがわかる。この間1980年末を100とした場合の指数は326と10年間で3倍以上になっている。2000年までの20年間は2000年がITブームだったこともあり年率15.2%、2010年までの30年間は年率10.6%、こうして2016年まで10%以上の投資収益を継続した結果、36年前の株式指数は実に37倍になったのである。

 では本邦はどうだろうか。1980年に市場全体のインデックス・ファンドを買った人がいたとして、36年間で4.2%の収益で約4倍。これはバブル相場も込みである。バブルほぼ頂点の1990年末で指数を買った人は26年かけて年率0.3%の収益。このほんどが2012年以降の収益である。

これまで日米の差は大きかったが、これからも同じ傾向が続くと決まったわけではない。しかし人口減に加えて、アベノミクスの第3の矢未達、東芝問題に代表されるコーポレート・ガバナンスの質、国際機関から指摘される労働市場の構造問題、女性の社会進出など、立ち遅れた部分に修正が入らないのであれば、それはこれまでと同じだということだ。金融市場の価格付けは言い訳なしで冷徹なのである。

2016年7月11日月曜日

訃報:永六輔さん83歳


第1次世界大戦史を書くにあたって、たくさんの映画を見たが、その中に『第七天国』という開戦時のパリを舞台にした恋愛映画がある。アメリカの無声映画であり、これは第1回アカデミー賞を受賞した映画だ。

第七天国とはパリのアパルトメントの7階のことで、若い2人はそこで愛を育む。エレベーターが普及するまで、アパートの高層階は家賃が安かった。今の高層マンションとは逆だったのだ。この部屋は隣のアパルトメントへ、簡単な板を渡しただけの橋がかけられていて、便利に友人の部屋に行き来ができるのだけれども、若い彼女は最初は怖くて渡れない。その時に彼は「上を向いてあるけば大丈夫だよ」というのだね。

さて、この映画の日本版DVDには淀川長治さんの映画解説がおまけについていて、彼はパリが舞台のこの映画をすっかりイタリア映画だと勘違いして解説しているのだけれども、その録画をそのままおまけにつけているのも珍しいが、この解説の中に試写会を見に来た坊主頭の子供の頃の永六輔さんの逸話が出てくる。映画が終わった後で、子供の永さんは、淀川氏に向かってこう言ったのだそうだ。

「おじさん、上を向いてあるけば大丈夫だよね。」

淀川氏はこの映画のおかげで坂本九の世界的大ヒット「上を向いて歩こう」の歌詞ができたのだと主張している。

本当かな? 真偽がわからぬまま、永さんは御逝去された。ご冥福を祈ります。


訃報:永六輔さん83歳=放送作家、ラジオタレント






2016年6月30日木曜日

ロンドン金融市場はどうなる? 


経緯

これまでEUによる制約と国民世論との狭間にあったキャメロンは、必ずしもEUを素晴らしいモノだと主張してきたわけでは無かった。そうした状況下でキャメロンが国民投票という手段を選択した意図は、保守党内部での政治抗争を終わらせて、ナショナリストのイギリス独立党の台頭を抑え込むことにあった。また国民が離脱しないを選択した場合、今後のイギリスとEUの諸政策の取組みをやりやすくしようという意図もあった。先進国では、どの国でもナショナリストが台頭しつつあるが、まさかイギリスでこのような結果になるとは、キャメロンは想定していなかった。結果として「安直な賭け」になってしまった。

しかし国民投票はもっぱら諮問でしかない。英国が本当にEUから離脱するのであれば、英国議会がリスボン条約の50条に基づき脱退プロセスの始動を宣言する必要がある。一部社説などでは、この事を強調して必ずしも離脱の必要が無いことを主張するが、キャメロンが辞意を表明し、同時に国民の総意は尊重されるべきだとしたこと、EU側が投票の結果にショックを受けて、早く手続きを始めるように促していることから可能性は高くはない。リスボン条約の規定ではイギリスは議会が脱退の宣言をしてから2年間の交渉期間が認められる。この間何も交渉の進展が無ければ、イギリスは欧州共同体に参加した1973年以前のステータスに戻ることになる。(現実にはそれがどのようなものか想定できないらしいが)

金融の中心地ロンドンはどうなる?

イギリスは金融関連ビジネスで国内総生産(GDP)の約1割を稼ぎ出す金融立国である。
非ユーロ圏でありながらユーロ建て社債の発行などは、ほとんどがロンドンで実行されているが、今後はEUの金融当局が統一通貨ユーロ建て金融取引の決済地の変更を市場参加者に求めることになるだろう。決済地の変更はバック・オフィスの移動を伴うので、単純にロンドンの金融人口は減るだろう。すると当然、ロンドン外為市場も、発行市場も縮小する可能性が高い。

話題になっている「パスポート制度」とは、 EU内の金融機関は、EUの一つの国で免許を得れば他国でも金融業を営めるこの制度である。このためEU全域の業務をロンドンで一括管理する金融機関が多い。ロンドンはリーガルやコンプライアンスなど金融インフラが整い、人材も豊富だからだ。

イギリスで離脱キャンペーンの指導者を務めたマシュー・エリオットは、「いかなる離脱合意でも、パスポーティング・ライトは温存される」と主張していた。その根拠として、ノルウェーのケースを引いている。ノルウェーはEUでの投票権はないが、単一市場へのアクセスとパスポーティングの特権を認められている。しかしそれはロンドンとは享受する利益の規模が違い過ぎる。温存される必然性はほとんどない。

<フランス銀行の総裁で欧州中央銀行(ECB)の役員会のメンバーであるフランソワ・ ビルロワドガローは、イギリスで活動する外国金融機関が、EU市場にアクセスすることを認める「パスポーティング・ライトをイギリスから取り上げる」と強硬な態度を示している。>(フォーリンアフェアー8月号)

ロンドンは永遠か?

ロンドンは19世紀以来、今日までずっと世界の金融の中心地であるかのようなイメージがあるが、資産運用ビジネスを除けば、第2次世界大戦終了後のブレトンウッズ体制によって為替がドル中心に固定化されて以降は、ひとつの有力なローカル市場でしかなかったことを想起すべきだ。ロンドンが国際市場として復活したのは、1971年のニクソン・ショックによる金・ドル兌換停止、ユーロドルの創設以降である。さらに米ウォール街は2001年の911同時テロ以降、米国外の人材が職を得にくくなった一方で、ロンドンは人材の受け入れに開放的だったため、バンカース・トラスト解体後のデリバティブス関連の多様な人材を中心にシティーの活力が増したのである。従ってこの逆のプロセスは意外に簡単に起きる。確かにロンドンには資産運用ビジネスは残るだろうし、それに関連して生き残りの一環として脱法的な金融ストラクチャー商品も残るだろう。しかしそれは広瀬さんがMarket Hack(世の中の仕組みを知らない「下流」が英国のEU離脱を主張 離脱すれば英国における格差は拡大し、ロンドンの金融街シティはパナマ化する)で指摘していたように、メイン・ストリートからの逸脱の途でしかない。ロンドンは過去にも決して永遠では無かったし、これからも永遠ではないのだ。

<債券売買やデリバティブ(金融派生商品)は金融工学に強い人材が多いパリ。ユーロなどの決済業務は欧州中央銀行(ECB)があるフランクフルト。金融取引の記録や管理など後方支援業務は英語圏という強みを持つアイルランドの首都ダブリン――。欧米の複数の金融機関の見方を総合すると、こんな姿が浮かび上がる。
JPモルガン・チェースのダイモンCEOは今月、EU離脱となった場合「ビジネスモデルを変えざるを得ない」と言明。「英国の人員は減り、(ほかの)欧州の人員を増やすことになるだろう」>(FA8月号)

今後、きっと、他のEUの指導者は国民投票という手段を回避するようになるだろうし、イギリスの(悲惨な)先行事例がEUのありがたさに気付かせてくれるかもしれない。EUの存在意義では平和目的ばかりが強調されるが、そもそも新興国の勃興に対抗して、国際社会におけるヨーロッパの発言力を維持するために経済圏として団結していることも忘れてはいけないだろう。




2016年6月26日日曜日

イギリスのEU離脱


「個人が狂うことはあまりないが集団はだいたい狂っている」(ニーチェ)

これはモルガンスタンレーの名物ストラテジストだった、故バートン・ビッグスがニーチェの言葉として引用したものだ。しかし実際の原典はニーチェの『善悪の彼岸』(1886年)で、「狂気は個人にあっては稀有なことである.しかし,集団・党派・民族・時代にあっては通例である.――」がオリジナルである。

バートン・ビッグスが引用するくらいで、これは金融界では相場格言としてよく使われてきたフレーズである。株式市場における極端な楽観や悲観は集団ヒステリーみたいなものなので、そういう時には落ち着いて自分の頭で考えようよというものだ。

一方で、今私が週刊エコノミストに連載している第1次世界大戦を語る時には、このフレーズは開戦へと世論を動かす各国の大衆の狂気として扱われる。

拙著『日露戦争と資金調達』を読まれた方はよくおわかりだと思うが、ポーツマス会議後の日比谷焼打ち事件。もしもあの時、日本が国民投票でロシアと「継戦か否か」を決していたら、日本がどうなったかは言うまでもないだろう。集団は狂うのである。

ニーチェとは別に、1895年にフランスの社会学者ギュスターヴ・ル・ボンは『群集心理』の中で、「集団になったとき、人がいかに予想だにしない非合理な行動をとるか」をアカデミックに明らかにし、「今われわれが歩み入ろうとしている時代は、群衆の時代である」とした。これは産業革命後のモノを言う大衆=民主主義の発展を見据えてのものだ。

第2次世界大戦も、言論統制をやり過ぎたせいで、世論が一方通行になっていた。当時の新聞の論調は、国民投票などせずとも、開戦一色だった。

今回の自民党憲法改正案の孕む問題点は、現実的に変えなければいけない9条よりもむしろ、世論形成をコントロールしやするための、国民の基本的人権に対する制約的な傾向にあるのではないか。

野党の戦争反対のアピールは本質をとらえることなく、空回りしているような気がする。

イギリスの国民投票によるEU離脱を見ていて、実はそれを一番思った。


2016年6月15日水曜日

「本当は無かった国の借金」というトリビア

「本当は無かった国の借金」というトリビア

フジサンケイ・ビジネスアイ 高論卓説 2016年6月15日号

最近投資家の方から以下のような質問を良く受ける。日銀は国債を大量に買って保有しているが、国家の借金を子会社である日銀が保有しているのであれば、結局貸し借りが相殺されて、実際には日本の借金は少ないのではないか。というものだ。本誌の読者は経営層が多いので、この手に騙されることは無いと思うが、ベテランの市場関係者でも惑わされることもあるので、ここで整理しておこう。

日本銀行ホームページから今年5月末の営業毎旬報告(バランスシート)を読むと、資産の部が426兆円、このうち約371兆円が国債に投資されている。これは日本の公債発行残高の約3分の1強である。一方で負債の部では、合計額はもちろん資産側と一致してバランスするが、主な項目は日銀券発行残高が95兆円で、日銀が市中銀行から資金を預かる当座預金が287兆円となっている。よく日銀はお札をどんどん印刷して国債を買っているという人がいるが、そうでは無い。グラフにあるように日銀券の発行残高は安定している。日銀でも国債を買えば売り手に代金を支払う。日銀が市場から国債を買うと、その購入代金は他に使い途の無い銀行が日銀に預ける当座預金になって負債側に積まれているのである。


日銀は政府の子会社であるから、日銀の資産は政府の資産だというロジックで、あたかも国の負債である国債が日銀保有分の国債と相殺できてプラスマイナス0、国の借金は無いという主張はバランスシートを見れば一目瞭然だろう。戦前も国の負債は国民の資産であるとばかりに国債発行による軍備増強を煽る軍人もいたが、結局全く間違っていた。

国債は国による民間債務である。日銀が市場から国債を買い上げることによって、今度は政府の子会社である日銀の民間債務(=当座預金)に変化しただけである。子会社のロジックで言うならば、借金は親会社が責任を持たねばならないから国に債務が残っていることに変わりはない。これは例えばとあるA社が、B銀行を買収して子会社にしても、B銀行の預金者のお金がA社のものにならないのと同じである。預金者のお金はあくまで預金者のものなのだ。預金者が銀行に預けてある預金は、企業や不動産に融資され、国債など有価証券となり、一部は日銀の当座預金に預けられている。それが帳消しにされるのであれば民間の財産権の侵害であり大事件である。従って「本当は無かった国の借金」という最近流行のトリビアは単なる誤解であることがわかるだろう。

作家・板谷敏彦

2016年5月10日火曜日

バリュー株の復活なるか 



フジサンケイ・ビジネスアイ 高論卓説 2016年5月10日号

最近の米国市場ではバリュー株の復活が話題になっている。本稿ではバリュー株投資の概要を振り返り、今後の投資の見通しについて考えてみよう。

バリュー株投資とは割安株投資である。「割安株」とは本来の会社の持つ価値に較べて株式市場では安い株価が付けられているという意味である。しかし割安であるから必ずしもいつも儲かるというわけではない。割安には割安に放置されている理由もあるからだ。一般には株価純資産倍率やP/Eレシオと呼ばれる株価収益率などで倍率の低いものが割安とされバリュー株と定義される。

バリュー株の反対側に対置されるのがグロース株である。グロース株は「成長株」とよばれるぐらいだからいかにも儲かりそうだが、ここでいう「成長」とは、これまで成長してきたという意味で、今後も成長するのかはわからないし、これまでの成長に見合う高い株価がすでにつけられている可能性が高いので、これも必ずしもいつも儲かるというわけではない。成長株を選ぶ基準は、高い売上高伸び率や、高い収益成長率などであるが、こうした基準を満たす銘柄は、バリュー株を選ぶ際の基準であるブックバリューやP/Eレシオの高いものが多く、結果としてバリュー株の反対側に対置されることになる。一般にグロース株が上昇する時にはバリュー株は下落しやすく、この反対もしかりである。

元来、株式投資における銘柄選択は、一銘柄ずつ財務諸表をにらんで精査することによって、割安や、今後成長しそうな銘柄の発掘が行われてきた。しかしコンピュータの発達によって、財務諸表や株価のデータベースが作成され、大量の銘柄群に対して簡単にスクリーニングが実行できるようになると新しい手法が加わった。アカデミックな世界でも、投資工学が発展し、株価純資産倍率や配当利回りのような指標ひとつひとつをファクター(要素)と呼んで、過去にさかのぼって、それぞれの投資成果に対する効果を測定できるようになった。そうした研究の成果のひとつとして、ノーベル賞を受賞したユージン・ファマなどによって長期で安定して収益を稼げるファクターとして発見されたのが「バリュー効果」だった。



しかし発見された後にわかった事は、こうした傾向にも無視できない波があるということである。グラフは2000年のITバブル以降のスタンダード・アンド・プアーズ社のバリュー株指数をグロース株指数で割った倍率を示している。2000年のITバブル崩壊によってハイテク株が売られたことによって当初はバリュー株が強かったが、リーマン・ショック以降は一貫してグロース株が強かったことがわかるだろう。ここへきてその傾向に少し変調が見られるというのが米国市場でバリュー株の復活が話題となった理由である。ちなみにバリュー株の構成銘柄は、規制強化と金利低下に苦しんできた銀行株と、原油価格の低下に苦しんできたエネルギー株が主体である。仮に市場が期待するようにバリュー株の復活があるとすれば、大きな経済上のトレンドの転換を意味することになるだろう。

板谷敏彦

2016年3月15日火曜日

『日本人のための第1次世界大戦史』途中経過


現在、週刊エコノミストに連載中の『日本人のための第1次世界大戦史』も今週号で38回、再来週で40回になります。

1回3000字なので、すでに原稿用紙で300枚ですが、まだまだ日本が参戦したばかり、ここから戦後のパリ講和会議までをカバーする予定です。

参考までに、ここまでの目次を。


第1章 戦艦と鉄道
1 まえがき
2 黒船来航‐アヘン戦争と汽走砲艦
3 蒸気船と炸裂弾
4 スクリューと装甲軍艦
5 鉄道の発達
6 電信の発明
7 ドイツ統一戦争(1)
8 ドイツ統一戦争(2)

第2章 国民国家意識の醸成
9 徴兵制度
 10 識字率
11 メディア
12 グローバリゼーション
 13 兵器産業の国際化
14 イギリス海軍の危機
15 近代的戦艦の登場

第3章 第0次世界大戦
16 マハンの『海上権力史論』
17 パクス・ブリタニカの黄昏
 18 日露戦争と鉄道
19 無線の発明と日本海軍
20 フィッシャー改革とドレッドノート
21 高騰する各国海軍予算
22 三国協商体制
23 シュリーフェン・プラン

第4章 20世紀の新しい産業
24 石油産業の勃興
25 イギリス海軍の石油への燃料転換
26 自動車-内燃機関
27 潜水艦-ディーゼルとモーター
28 航空機の発達

第5章 戦争勃発
29 アガディール事件
30 東方問題と世界大戦
31 宣戦布告
32 1914年の幻想
33 西部戦線攻撃開始
34 東部戦線タンネンベルク
35 マルヌの奇跡
36 ルーヴァン図書館炎上

第6章 日本参戦
37 日本参戦
38 青島要塞攻略および南洋諸島占領
39 清から中国へ
40 対華二十一カ条要求

宜しく。


2016年2月17日水曜日

SP500とドル円による推定日経平均


エクセルの統計関数がパンパンと思い出せなくなっていたので、トレーニング代わりにSP500とドル円の重回帰分析による日経平均の推計値を計算してみた。計算上は本日の日経は15600円で、400円から500円の誤差はグラフを見てもわかるようによくあること。(今16000円で推移)


実はこのやり方はこうした日経平均のピンポイントの予測には向くわけもないが、中長期のシナリオ予測ではシナリオの矛盾をあぶりだすことができる。例えばドル円と日経平均の関係の中で、為替予想が横這いなのに、PERの拡大によって日経平均2万円を予測する人がいたとしたらシナリオの蓋然性は低い。どうして為替が横ばいの中でそうしたことが起こるのかの説明を注視しなければいけない。

こうした手法は1990年代初頭にウォール街で流行した。拙著『金融の世界史』にも顛末を書こうかと思ったのだけれど、あまりに専門性が高いのでやめた経緯がある。当時はリーマン・ブラザース・アメリカン・エクスプレスのエレイン・ガザレリやブルーデンシャル・ベーチェのメリッサ・ブラウン、ゴールドマン・サックスのアビー・コーエン(何故か女性ばかり)などが主導して、IPや自動車販売台数、マネーサプライ、金利など、様々な経済指標やそれ以外の社会現象なども数値化して回帰分析を行って株式の水準を予測した。ちょうどコンピュスタッドの財務データベースと、データストリームのマクロ指標がPCで使用できるようになった頃で、エクセルのマクロ関数の進化とともに誰でも結構お手軽に分析できるようになっていた。但しインターネットじゃなくて、直通回線かフロッピー・ベース。

しかしこれも結局テクニカルと同様に占いみたいなもんだと思われるようになって、廃れていった。それに誰にでもできるようになったというのもある。ゴールドマンのアビー・コーエンは元々しっかりとしていて占い師的要素が少なく、シナリオ作成に有効利用してストーリー・テラーのストラテジストとして大成功をおさめたわけだ。

90年にNYから東京に出張して、日興証券の株式部で若手社員を集めてこの話をした。長期金利、ドル円、M2変化率(マネーサプライ)の3つで簡単なモデルを作って日経平均を予測したら、予測値は16000円。半分になるという予測だった。

皆が大笑いする中で「お前は昔から小難しい事を言う割に馬鹿じゃないかと疑っていたんだが、本当に馬鹿だったんだな」と可愛がってくれていた某役員にいわれて、僕は「でへへへへ」と媚びるように頭をかいた。もちろん僕も信じてはいなかった。

楽器演奏やランニングと一緒で、エクセルはやっていないと再開するのが大変だ。

ご存知だと思うけれど、金融市場の統計処理の手法も随分と進化して、今の日本では大和證券の吉野さん(高校の後輩)が実践的で面白い分析をたくさんしていて大人気ですよ。




2016年2月7日日曜日

罫線【チャート】の発明


今週の日経ヴェリタス「ヴェリ―に聞く」というコーナーでは「投資の大家に学ぶ 13 本間宗久」について書いてあった。サブ・タイトルには『チャート分析「酒田五法」を編み出しました』とある。

これは、きわめて通俗的な誤解であり。間違いだ。ネットをグルット見たが、残念ながらほとんどが間違っている。だから通俗的なのだが。

要するに、誰か本間宗久の書いた罫線を見たことある? あるいは江戸時代の罫線を見たことある? もしも誰かの蔵から出てきたら大騒ぎです。僕は事実を前にすれば決して否定はしないけれど。

『宗久翁秘録』の中には罫線用語が出てこないし、古い罫線自体が発見されていない。罫線(ローソク足)の発明はおそらく明治三〇年頃と推察されている。罫線案内本を出す時に権威づけに宗久の名を騙ったというのが現在の理解である。(参考:『日本罫線史』日本テクニカル・アナリスト協会編、昭和五三年、日本経済新聞社)

わが国相場道の源と呼ばれる明治二四年出版の『八木三猿金泉秘録』は国立国会図書館の近代デジタル・ライブラリーで見ることができるが、足取りはあっても罫線はない。拙著『金融の世界史』238ページにもちゃんと書いてあるのでよく見ておいて下さい。







2016年1月19日火曜日

【高論卓説】年初からの株安ショック ゆっくり待つのも手


【高論卓説】年初からの株安ショック 中国変調どこまで、ゆっくり待つのも手

フジサンケイ・ビジネスアイ 2016年1月19日号 コラム

年初から、世界の株式市場が大きく下げている。昨年末の各種経済メディアは国際的な資源価格の低迷にもかかわらず、米国の堅調な雇用回復が消費を拡大するであろうとの見通しの下に、増益予想を根拠にして相場回復を予想するものが多かった。個人投資家もここ数年の高値憶(おぼ)えで、大きく下げるたびに今年最後の買い場とばかりに飛びつく向きも多かったようだから、ショックも大きいだろう。今回の下げでは米国のNYダウも昨年8月の水準にまで下落した。 

 これは世界の経済が、いまだに当時の中国の株式市場に端を発した下落フェーズの最中にあることを再確認させたものだと考える。つまり、労働人口の増加や工業化、都市化の進展によって長く続いた中国の高度成長期が、「新常態」と呼ばれる新しい時代に入り、世界の経済がその影響を吸収している段階だということである。

 これまでは高成長が大量の資源を消費することから商品価格を引き上げ、新興国の中でも資源産出国を中心に活況を呈してきたわけだが、今、そうした時代は変わり目にある。そのことを一番示しているバロメーターが石油価格である。

サウジが増産を続け、イランの国際原油市場への復帰も近づいている。イランの復帰を材料出尽くしと考えることもできようが、当たるも八卦(はっけ)である。在庫も積もりに積もり、今買う理由は「下げ過ぎ」以外に見つけにくいだろう。

 中国を含む新興国の資源に対する需要低迷で資源価格が下落し、この下落が今度は新興国の購買力を奪ってしまう負のスパイラルに入っている。


 グラフはNYダウとNY運輸株指数である。NYダウは国内消費関連を中心に昨年8月の中国株ショック時の水準を何とか値を保ち続けていたが、物流の体温計である運輸株指数の方は一貫して下落し、現在は同8月の水準を大きく下回ってしまっている。

 また国際金融市場では、米国の信用の低い会社の社債であるジャンク債の指標が注目されているが、米国債とのスプレッドも運輸株指数の下落と同じように広がり続けている(ジャンク債の利回りが上昇し続けている)。資源株を中心に資金繰りに問題が出始めているのが実情だろう。

 株式は安いところで買うのが一番だが、どこが安いところなのか判断は難しい。今は以前の高値から安い水準であることは間違いないが、世界経済の状況が大きく変わろうとしている時期である。せめて石油価格が底を打ち、ジャンク債市場の方向性に説得的な材料が出るまでは、ゆっくりと待つのも投資だと思う。

板谷敏彦