2016年6月15日水曜日

「本当は無かった国の借金」というトリビア

「本当は無かった国の借金」というトリビア

フジサンケイ・ビジネスアイ 高論卓説 2016年6月15日号

最近投資家の方から以下のような質問を良く受ける。日銀は国債を大量に買って保有しているが、国家の借金を子会社である日銀が保有しているのであれば、結局貸し借りが相殺されて、実際には日本の借金は少ないのではないか。というものだ。本誌の読者は経営層が多いので、この手に騙されることは無いと思うが、ベテランの市場関係者でも惑わされることもあるので、ここで整理しておこう。

日本銀行ホームページから今年5月末の営業毎旬報告(バランスシート)を読むと、資産の部が426兆円、このうち約371兆円が国債に投資されている。これは日本の公債発行残高の約3分の1強である。一方で負債の部では、合計額はもちろん資産側と一致してバランスするが、主な項目は日銀券発行残高が95兆円で、日銀が市中銀行から資金を預かる当座預金が287兆円となっている。よく日銀はお札をどんどん印刷して国債を買っているという人がいるが、そうでは無い。グラフにあるように日銀券の発行残高は安定している。日銀でも国債を買えば売り手に代金を支払う。日銀が市場から国債を買うと、その購入代金は他に使い途の無い銀行が日銀に預ける当座預金になって負債側に積まれているのである。


日銀は政府の子会社であるから、日銀の資産は政府の資産だというロジックで、あたかも国の負債である国債が日銀保有分の国債と相殺できてプラスマイナス0、国の借金は無いという主張はバランスシートを見れば一目瞭然だろう。戦前も国の負債は国民の資産であるとばかりに国債発行による軍備増強を煽る軍人もいたが、結局全く間違っていた。

国債は国による民間債務である。日銀が市場から国債を買い上げることによって、今度は政府の子会社である日銀の民間債務(=当座預金)に変化しただけである。子会社のロジックで言うならば、借金は親会社が責任を持たねばならないから国に債務が残っていることに変わりはない。これは例えばとあるA社が、B銀行を買収して子会社にしても、B銀行の預金者のお金がA社のものにならないのと同じである。預金者のお金はあくまで預金者のものなのだ。預金者が銀行に預けてある預金は、企業や不動産に融資され、国債など有価証券となり、一部は日銀の当座預金に預けられている。それが帳消しにされるのであれば民間の財産権の侵害であり大事件である。従って「本当は無かった国の借金」という最近流行のトリビアは単なる誤解であることがわかるだろう。

作家・板谷敏彦

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