2016年6月26日日曜日

イギリスのEU離脱


「個人が狂うことはあまりないが集団はだいたい狂っている」(ニーチェ)

これはモルガンスタンレーの名物ストラテジストだった、故バートン・ビッグスがニーチェの言葉として引用したものだ。しかし実際の原典はニーチェの『善悪の彼岸』(1886年)で、「狂気は個人にあっては稀有なことである.しかし,集団・党派・民族・時代にあっては通例である.――」がオリジナルである。

バートン・ビッグスが引用するくらいで、これは金融界では相場格言としてよく使われてきたフレーズである。株式市場における極端な楽観や悲観は集団ヒステリーみたいなものなので、そういう時には落ち着いて自分の頭で考えようよというものだ。

一方で、今私が週刊エコノミストに連載している第1次世界大戦を語る時には、このフレーズは開戦へと世論を動かす各国の大衆の狂気として扱われる。

拙著『日露戦争と資金調達』を読まれた方はよくおわかりだと思うが、ポーツマス会議後の日比谷焼打ち事件。もしもあの時、日本が国民投票でロシアと「継戦か否か」を決していたら、日本がどうなったかは言うまでもないだろう。集団は狂うのである。

ニーチェとは別に、1895年にフランスの社会学者ギュスターヴ・ル・ボンは『群集心理』の中で、「集団になったとき、人がいかに予想だにしない非合理な行動をとるか」をアカデミックに明らかにし、「今われわれが歩み入ろうとしている時代は、群衆の時代である」とした。これは産業革命後のモノを言う大衆=民主主義の発展を見据えてのものだ。

第2次世界大戦も、言論統制をやり過ぎたせいで、世論が一方通行になっていた。当時の新聞の論調は、国民投票などせずとも、開戦一色だった。

今回の自民党憲法改正案の孕む問題点は、現実的に変えなければいけない9条よりもむしろ、世論形成をコントロールしやするための、国民の基本的人権に対する制約的な傾向にあるのではないか。

野党の戦争反対のアピールは本質をとらえることなく、空回りしているような気がする。

イギリスの国民投票によるEU離脱を見ていて、実はそれを一番思った。


0 件のコメント: