2016年6月30日木曜日

ロンドン金融市場はどうなる? 


経緯

これまでEUによる制約と国民世論との狭間にあったキャメロンは、必ずしもEUを素晴らしいモノだと主張してきたわけでは無かった。そうした状況下でキャメロンが国民投票という手段を選択した意図は、保守党内部での政治抗争を終わらせて、ナショナリストのイギリス独立党の台頭を抑え込むことにあった。また国民が離脱しないを選択した場合、今後のイギリスとEUの諸政策の取組みをやりやすくしようという意図もあった。先進国では、どの国でもナショナリストが台頭しつつあるが、まさかイギリスでこのような結果になるとは、キャメロンは想定していなかった。結果として「安直な賭け」になってしまった。

しかし国民投票はもっぱら諮問でしかない。英国が本当にEUから離脱するのであれば、英国議会がリスボン条約の50条に基づき脱退プロセスの始動を宣言する必要がある。一部社説などでは、この事を強調して必ずしも離脱の必要が無いことを主張するが、キャメロンが辞意を表明し、同時に国民の総意は尊重されるべきだとしたこと、EU側が投票の結果にショックを受けて、早く手続きを始めるように促していることから可能性は高くはない。リスボン条約の規定ではイギリスは議会が脱退の宣言をしてから2年間の交渉期間が認められる。この間何も交渉の進展が無ければ、イギリスは欧州共同体に参加した1973年以前のステータスに戻ることになる。(現実にはそれがどのようなものか想定できないらしいが)

金融の中心地ロンドンはどうなる?

イギリスは金融関連ビジネスで国内総生産(GDP)の約1割を稼ぎ出す金融立国である。
非ユーロ圏でありながらユーロ建て社債の発行などは、ほとんどがロンドンで実行されているが、今後はEUの金融当局が統一通貨ユーロ建て金融取引の決済地の変更を市場参加者に求めることになるだろう。決済地の変更はバック・オフィスの移動を伴うので、単純にロンドンの金融人口は減るだろう。すると当然、ロンドン外為市場も、発行市場も縮小する可能性が高い。

話題になっている「パスポート制度」とは、 EU内の金融機関は、EUの一つの国で免許を得れば他国でも金融業を営めるこの制度である。このためEU全域の業務をロンドンで一括管理する金融機関が多い。ロンドンはリーガルやコンプライアンスなど金融インフラが整い、人材も豊富だからだ。

イギリスで離脱キャンペーンの指導者を務めたマシュー・エリオットは、「いかなる離脱合意でも、パスポーティング・ライトは温存される」と主張していた。その根拠として、ノルウェーのケースを引いている。ノルウェーはEUでの投票権はないが、単一市場へのアクセスとパスポーティングの特権を認められている。しかしそれはロンドンとは享受する利益の規模が違い過ぎる。温存される必然性はほとんどない。

<フランス銀行の総裁で欧州中央銀行(ECB)の役員会のメンバーであるフランソワ・ ビルロワドガローは、イギリスで活動する外国金融機関が、EU市場にアクセスすることを認める「パスポーティング・ライトをイギリスから取り上げる」と強硬な態度を示している。>(フォーリンアフェアー8月号)

ロンドンは永遠か?

ロンドンは19世紀以来、今日までずっと世界の金融の中心地であるかのようなイメージがあるが、資産運用ビジネスを除けば、第2次世界大戦終了後のブレトンウッズ体制によって為替がドル中心に固定化されて以降は、ひとつの有力なローカル市場でしかなかったことを想起すべきだ。ロンドンが国際市場として復活したのは、1971年のニクソン・ショックによる金・ドル兌換停止、ユーロドルの創設以降である。さらに米ウォール街は2001年の911同時テロ以降、米国外の人材が職を得にくくなった一方で、ロンドンは人材の受け入れに開放的だったため、バンカース・トラスト解体後のデリバティブス関連の多様な人材を中心にシティーの活力が増したのである。従ってこの逆のプロセスは意外に簡単に起きる。確かにロンドンには資産運用ビジネスは残るだろうし、それに関連して生き残りの一環として脱法的な金融ストラクチャー商品も残るだろう。しかしそれは広瀬さんがMarket Hack(世の中の仕組みを知らない「下流」が英国のEU離脱を主張 離脱すれば英国における格差は拡大し、ロンドンの金融街シティはパナマ化する)で指摘していたように、メイン・ストリートからの逸脱の途でしかない。ロンドンは過去にも決して永遠では無かったし、これからも永遠ではないのだ。

<債券売買やデリバティブ(金融派生商品)は金融工学に強い人材が多いパリ。ユーロなどの決済業務は欧州中央銀行(ECB)があるフランクフルト。金融取引の記録や管理など後方支援業務は英語圏という強みを持つアイルランドの首都ダブリン――。欧米の複数の金融機関の見方を総合すると、こんな姿が浮かび上がる。
JPモルガン・チェースのダイモンCEOは今月、EU離脱となった場合「ビジネスモデルを変えざるを得ない」と言明。「英国の人員は減り、(ほかの)欧州の人員を増やすことになるだろう」>(FA8月号)

今後、きっと、他のEUの指導者は国民投票という手段を回避するようになるだろうし、イギリスの(悲惨な)先行事例がEUのありがたさに気付かせてくれるかもしれない。EUの存在意義では平和目的ばかりが強調されるが、そもそも新興国の勃興に対抗して、国際社会におけるヨーロッパの発言力を維持するために経済圏として団結していることも忘れてはいけないだろう。




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