2016年8月29日月曜日

「日本人のための第1次世界大戦史」第60回航空戦


週刊エコノミストに連載中、「日本人のための第1次世界大戦史」
今週9月6日号は第60回「航空戦と撃墜王」です。

目次 2016年9月6日号

「総力戦」という言葉は、ドイツの元参謀次長ルーデンドルフ将軍が戦後の1935年に書いた著書”Der totale Krieg”からきています。航空機そのものの技術水準(質)と生産力(量)はまさにその象徴と言えるでしょう。大戦中にドイツは4万6千機を生産、イギリスが5万5千機、フランスが5万2千機、アメリカが1万4千機です。大量生産の時代でしょ。アメリカのフォードは第1次世界大戦中の1917年に早くも年産50万台の自動車を製造しています。

実は古い戦記では、WW1の制空権をあまり重要視していないものも散見されますが、陸上の会戦でも、偵察や着弾観測に空の影響力が大きいのは当然です。

第1次世界大戦の空中戦を扱った映画では、
『ブルー・マックス』(原題:The Blue Max)イギリス、1966年
『レッド・バロン』(原題:Von Richthofen and Brown)、アメリカ1971年
『フライボーイズ』(原題:Flyboys)、アメリカ、2006年
『レッド・バロン』(原題: Der rote Baron)、ドイツ、2008年
などが今でもDVDで見ることが出来ます。2008年のレッド・バロンはエンジン・マニアにはお奨めです。

日本映画では、加山雄三主演の『青島要塞爆撃命令』東宝、1963年が見れます。歌と踊りありの戦争娯楽映画。ドイツ軍のタウベが登場しますが、時代考証には目くじらを立てずに観ましょう。

変わったところでは、デカプリオ主演でハワード・ヒューズの人生を描いた『アビエイター』2004年、ヒューズの映画『地獄の天使』の製作場面でドイツの大型爆撃機ゴータなどが登場します。

また「レッド・バロン」ことリヒトフォーフェンは伝記『撃墜王リヒトフォーフェン』(1980年、朝日ソノラマ、航空戦史シリーズ)が古本で手にはいります。これはドイツ騎兵のベルギーでの民間人に対する態度など、色々と驚かされる本です。悪い意味でね。

次回はUボートの話。ロイド・ジョージの護送船団方式ばかりが注目されますが、爆雷やソナーなど対潜兵器の開発時期も重要です。


2016年8月25日木曜日

【高論卓説】日銀による株式購入 市場安定のはずが攪乱要因に


【高論卓説】日銀による株式“爆買い”の行く末は 市場安定のはずが攪乱要因に

8月23日の東京株式市場の後場寄り、前場の軟調な展開を受けて、市場では日銀が上場投資信託(ETF)を購入するのではないかとの思惑でしっかりと寄った。最近の市場では「市場を動かす一番大きな要因」として日銀の動向がスポットライトを浴びている。“ETF”と名称こそは特殊な金融商品のように聞こえるが、中身は株式そのものである。中央銀行が株式を買う行為はあまり聞かない。買い手不在の大暴落時や、持ち合い株式解消のような特定目的であれば、金融市場の安定化のために中央銀行が救済に入ることもあるだろう。しかし先進資本主義国家が、平時において日常的に株式を大量に購入して、市場関係者がその買いに対して思惑を張るというのは、その情景だけを捉えれば金融史上の珍事である。

 7月28、29日開催の日本銀行「金融政策決定会合における主な意見」によると、「ETF買い入れ額の倍増により、民間経済主体の前向きな経済活動をサポートすることが適切である」「海外発の不確実性(BREXITなど)が企業・家計の心理悪化に波及することを何としても防がなければならない。最も有効な手段はETFの買い入れであり、思い切って倍増すべきだ」「海外発の不確実性が企業や家計のコンフィデンスに影響しているため、ETF買い入れを年間6兆円に倍増するといった資産価格に働きかける緩和策が有効である」など、株式市場の水準を実体経済以上にかさ上げすることによって企業や家計マインドを向上させようというのが狙いのようだ。

これまでETFの買い付けにどのような効果があったのかはいまひとつ明らかではない。国家(中央銀行)による株式買い付けは効果もあれば副作用もある。それらを明示するために企業や家計、市場関係者などに対して心理状況(投資マインド)のモニターをすべきである。考えてみれば日銀によるETF買い付けは、2010年10月、年額4500億円で始まった。13年4月に黒田日銀の下でこれが1兆円に増額、14年10月には3兆円にまで膨らんだ。同年12月には、これに付加して投資に積極的な企業を集めたETFに1日12億円の買い付けを始めている。そして今回7月29日の6兆円への増額である。3兆円と6兆円の違いの根拠は感覚なのか? あるいは巷間(こうかん)に広まる日銀の金融政策限界説への単なる抵抗なのか。

 既に日銀は日経平均企業の9割で大株主となっている。日経平均株価指数の構造上の問題から銘柄によっては浮動株の半数以上を抑えてしまい、市場の攪乱(かくらん)要因にさえなっている。このままのペースで次回の10%増税予定の19年10月まで買い付けを続けると、日銀のETF残高は30兆円近くになり、現在の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と並んでしまうのだそうだ。株式市場から見るこの政策の問題点は、株式市場の流動性の阻害である。株式市場が流動性を失うと、価格発見能力が低下し、緊急時の価格維持能力を損なうことになる。すると皮肉なことに株式資産の不確実性は増すのである。日銀が市場を買い支えている間は、まともな長期投資家からみた投資対象としての日本株のプライオリティーは低いままだろう。当初の目的である海外発の不確実性に備えるつもりが、中央銀行自身が不確実性の源になりはしないか、次回9月20、21日の金融政策決定会合で行われる予定の、13年4月以降の政策効果についての「総括的な検証」が待たれる。


2016年8月17日水曜日

日銀は日経平均をいくら吊り上げているのか?


日銀は7月29日の会合で、ETFの保有残高を年間約3兆3000億円から約6兆円増やすペースで買い入れることを決定した。この結果、従来枠のETF買い入れは、会合直前の1回当たり336億円から8月に入り707億円へ倍増した。このため、円高にもかかわらず株価が下がりにくくなっていると指摘する市場関係者は多い。

では日銀はどの程度日経平均株価を持ち上げているのだろうか。

SP500(^GSPC)とドル円(USDJPY)による日経平均簡易重回帰分析を使用して推定してみる。
このモデルの式は以下、
R2=0.89, STDEV=536
Nikkei=^GSPC*9.34+USDJPY*207.00-25231
本日実績値=16597
推計値=15839

両者の顕著なスプレッドの拡大は、グラフにあるように7月29日から始まっている。日銀の決定が影響しているとみて間違いないだろう。結果、日経平均は700円ほど持ち上げられている可能性が高い。


大株主「日銀」、17年末に日経平均4分の1で筆頭-ETF増功罪

ETFという名前で糊塗されているが、現実は国(中央銀行との統合政府)が民間企業の株式を買っていることに違いは無い。

「8月初旬時点で日経平均株価を構成する225銘柄のうち、75%で日銀が大株主上位10位以内に入っており、(中略)、2017年末には日銀が筆頭株主である銘柄は55銘柄まで増加する見通しだ。日経平均の指数寄与度が大きいファーストリテイリングの浮動株比率は25%だが、野村証券の試算ではそのうち半分を日銀が保有し、年末までには63%まで上昇する見込みという。」

「SMBC日興証券の伊藤桂一チーフクオンツアナリストは、「浮動株を吸収し尽くしていくことが今後問題になる可能性はある」と指摘。」上記記事より、

過去に日本株は持ち合い株式が多く、インデックス(時価総額)を計算する際には、持ち合い分を除外して計算せねばならなかった。国の株式吸収によって市場の流動性に懸念が出るようであれば、再度インデックスの計算方法が課題となる可能性もあるだろう。国別のGDPと株式時価総額の関係では、資本主義の発展段階が時価総額の大きさに反映する。その発展段階の尺度とは国の市場に対する関与が低いことである。日本の株式市場は長期成長の芽を自ら摘んでしまったようだ。

買った株はいつか売らねばならない。本当は賞味期限があるケチャップを買った方がよほどマシだったのだ。