2017年1月11日水曜日

映画『この世界の片隅に』



よくある戦争映画のように、勇ましいゼロ戦パイロットや海軍の英雄、あるいは正反対に飢えに苦しむ陸軍兵ではなく、主人公は日常をつましく生きる一人の若い女性である。広島からひと山越えた、呉市の知らないお家(うち)に嫁いできただけの、本来であればごくごく普通の人生を歩んであろう女性である。しかし、山の中腹にある嫁ぎ先の家の近くからは呉の海軍基地が一望できた。そこには戦艦大和があり、重巡洋艦青葉があった。これが彼女を待つ現実の予兆である。

一庶民が経験した戦争の非日常は、ドキュメンタリーだけでなく、これまで多くの文学や映画作品、テレビドラマなどが伝えようと努力してきたし、僕は、これまでそうした作品を数多く見てきたはずだった。しかしこれほど胸にしみいる作品が、アニメであったことに少なからぬ衝撃を受けた。アニメでなければできないことがある。

大型爆撃機B29による爆撃の激しさ、一瞬の殺戮、音響の効果には思わず背筋を伸ばしてしまう。裏山から港へ侵入するグラマンF6FやF4Uコルセアなどの米軍艦載機、日本製の2000馬力エンジンの音も登場するが、これは紫電改に搭載された誉21型エンジンのことだろう。戦艦大和や重巡洋艦青葉の描写も精密で、繰り返される呉への空襲が実際のデータに裏付けられた現実であることを、マニアックな観衆にも担保する。単純なアニメ画の作品にリアリズムが宿り、前半ですでに主人公に感情移入を果たしていた観衆は、いやがおうでも主人公が経験する残酷な世界に引き込まれていく。

でもね、救いは用意されている。それはきっと、あなたにも用意されている。すっかり涙腺の弱くなった初老の僕は涙あふれるが、それがどこから出ているのか、正確にはよくわからないまま映画館から出た。でも人には、是非経験して欲しい感動だ。だから、僕も口コミで、あなたにも是非観て欲しいと云おう。




映画『この世界の片隅に』


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