2018年4月4日水曜日

【高論卓説】民主主義は衆愚政治ではない


【高論卓説】民主主義は衆愚政治ではない 混沌時、政権与党の職責全うを 2018.4.3

「いかなる英雄も最後にはうんざりさせられる」(ラルフ・ワルド・エマーソン)

 ウラジミール・プーチン氏は2000年のロシア第2代大統領就任から2期8年間大統領の地位にあった。ロシア大統領は3選連続が禁止されている。08年に腹心のメドヴェージェフ氏を大統領に据えると自身は首相となり、次の大統領からの任期をプーチン氏自身のために6年間に延長した。12年に再び大統領に当選すると、今度はメドヴェージェフ氏を首相に据え、2期12年、プーチン氏が72歳になる24年までの大統領の地位を確保した。

 00年の大統領就任直後は原油価格の高騰もあって崩壊寸前だったロシア経済は見事に回復を遂げた、プーチン氏は年金や公務員の給料を大幅にアップし国民の人気を不動のものとしたのだった。しかし長期政権下で国営セクターが肥大化し経済構造は硬直化、そのため12年以降ロシア経済は低成長に陥る。

 かくして以前のように国民にお金を配布できなくなった以上、国民感情を鼓舞する「大国主義」をとるようになった。14年のクリミア併合、シリア空爆など中東問題への強引な関与などである。ナショナリズムを喚起して国内問題を外交問題でごまかすやりかたは、19世紀に多くの国民国家が誕生して以来の古くさいがとても効果的なものだ。

 直近のイギリスにおけるロシアの元情報部員、セルゲイ・スクリパリ氏神経剤攻撃問題もプーチン政権は否定こそするが、隠そうともしない。政権に逆らう者への見せしめであり、いいがかりをつけてくるイギリスへのプーチン氏の堂々たる挑戦は国民に向けた強いリーダーの証でもあるのだ。

 国是として「偉大なる民族の復興」を標榜(ひょうぼう)する中国の国家主席の任期はこれまで最長で2期10年だった。文化大革命の混乱と痛みの反省から、1982年に憲法を改正して安定した権力交代の循環を作るはずの仕組みだった。しかし3月の全国人民代表大会でこの制限は撤廃され、習近平政権の半永久化が可能になった。

 さらに今回の憲法改正では、「科学的発展観」とともに、「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」が前文に書き加えられ、国家の指導思想に格上げされた。最高指導者が自身の名を冠する思想体系を加えるのは、毛沢東氏以来となる。習氏は共産党総書記と人民解放軍最高司令官も兼任しているので、遠慮がちに見ても中国には終身化された独裁者が誕生したと言えるだろう。

 独裁は支配者の側から見れば国家や民族の非常時における必要な緊急対策であり、これによって国民の財産、安全、名誉を守れるのだと説明する。しかしながら個々人の自由を希求する側の国民からみれば、寛容さや多様性、法の支配などを軽視したシステムでしかない。独裁者はいうだろう、民主主義は衆愚政治であり、わが民族には今こそ強い指導者が必要であると。

 周辺国が独裁化を強め、大国主義を標榜する安全保障上の危機の中、わが国の政局は混沌(こんとん)としている。安倍晋三政権のこれまでの実績は誰しも認めることであるが、だからといっていつまでも彼しかいないという考え方に固執することには賛同しかねる。野党には政権能力はない。与党はこうした局面でこそ政権与党としての職責を果たさねばなるまい。われわれの民主主義は決して衆愚政治ではないと証明するためにも。

作家 板谷敏彦

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